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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
動くコダユーリオン
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ユネオスの覚悟

 ユネオス辺境伯はコダユーリオン王国と手を結んだ直後、ヴァンチトーレ帝国軍本拠地へ襲撃を仕掛けた。


 結託したその日の事、ユネオス辺境伯の元へ緊急用の高速伝書鳩が遣わされた。

 その連絡には裏切りが周知されたこと、王家が降伏を決定したこと、交渉が直ぐにでも始まることが細かく記されていた。

 ユネオス辺境伯はこうも早く裏切りが露見したことには少々焦りは有ったが、この事自体は許容できた。しかし、三度の飯より戦好きな、ある意味戦を神聖視している彼には、降伏する事など許容できよう筈がなかった。

 これまで正面切って散っていった者達を薄情にも裏切る行為だ。

 降伏を選んだ王の決断が彼の怒りに火を付けた。


 彼は直ぐに行動に移った。

 正直、降伏自体はコダユーリオンに寝返った彼に直接的な関係はない。が、勇敢にも戦い戦死していった者達の為にも阻止したいと思った。

 幸いにも裏切りがバレてから時間はそれ程経ってはいない。ならば最速を以て転移門を使い交渉を罠に見せかけ奇襲を仕掛ける。

 ユネオス辺境伯は自らの軍を裏切り者の軍だと気付かせないように偽装し、転移門を封じられる前に兵の半数を伴って帝国が陣取る本拠地へと攻め入った。

 転移後直ぐに、優秀な暗殺者数名を組ませ敵の総大将と囚われのスクディア王子の命を狙った。

 総大将が殺されれば、たとえ罠だと気付かれても戦は続く可能性がある。裏切りの責任は王国に有るからだ。スクディアを狙ったのは交渉材料を減らすため。


 結果は惨敗。戻って来た者は標的を討ち漏らしたと報告し、スクディアの暗殺に向かった者達は未だに帰ってこない。

 コレは失敗したと見たユネオス辺境伯は、直ちに兵を退かせた。

 暗殺が失敗した際にインペラートル軍ではない事がバレた可能性がある。

 暗殺者にはヴァンチトーレ軍の鎧を着させ総大将の元へと向かわせた。が、初見で見破られてしまった。

 彼の暗殺王なら偽装する必要もなく暗殺できたかもしれない。この場に居ない者を頼る訳にはいかないと、軍を一時撤退させたが、このまま引き下がる気はサラサラない辺境伯は直ぐにでも次の手を考える。


「直ぐにでも追撃が来るぞ!気を緩めるず警戒を怠るな!おい、誰か先行させ灼熱谷の様子を偵察させよ!灼熱谷で迎え撃つ!総員、コダユーリオンから受け取ったブツを何時でも使えるように調節しておけ!」


 ユネオスは狭い通路を形成する灼熱谷で大軍を迎え撃つ気でいる。


「お待ちください閣下!今灼熱谷は帝国軍の支配下にあります。向かえば挟み撃ちにされ兼ねません!」

「心配するな、あの谷ならコレが有ればどれだけの敵がいようと相手にならぬわ!」


 ユネオスは自らが持つライフル銃を掲げ副官へと見せつける。

 フロリオ軍にはコダユーリオンからライフル銃の提供があり、この場の全員が所持していた。

 ライフルはコダユーリオンが魔封じに対抗するために造られた代物。魔術が封じられている灼熱谷でも問題なく使用できる。地球産のライフルよりも遥かに強力で、巨岩をも一撃で穿つ威力がある。

 そんなライフルを全員が所持している。灼熱谷は逃げ場のない狭い一本道、一斉に放ては逃げる事叶わず、魔封じの領域であるため防ぐも至難の技である。

 コダユーリオンがインペラートルとの戦を念頭に置いて開発した代物だ。


「たとえ帝国軍が灼熱谷を占拠していようと、このライフルが有れば掃討は容易い!逆に我等が占拠すれば敵などいないも同然よ!」

「ですが閣下、弾丸には限りがあります。撃ちきれば我等は数に押され蹂躙されます!」

「抜かりは無い、弾丸の輸送をコダユーリオンへ依頼してある。少々高くついたが、空から輸送してくれる手筈になっているから邪魔される心配もない!古竜騎士団とて、少数では邪魔しきれまい」

「な、なんと、流石閣下です。先見の明がおありで」


 副官にはそれでも不安は拭えなかったが、あまりに自身満々に語るユネオスを見て信じることにした。


「魔封じのないこの場では心許ないが、あの灼熱谷なら無双も夢ではない!帝国兵など恐るるに足りぬわぁ!ハハハッ!」

「ほう、大した自身だな」

「ハハハッ、それはそうだ!このライフルはそれ程の代物よっ!」

「……か、閣下」

「では、それの威力を拝見させてもらおうか」

「ふむ、見せてやりたいが無駄弾は撃てんぞ」

「閣下————!」

「なんだ、煩い奴だな!」

「あ、あれ、あれは————!」

「あん? ……なっ、勇者!」


 視線を移せば彼等のすぐ横に存在する岩に、余裕を持って腰掛けるマーズの姿があった。

 慌てて飛び退く二人の前に護衛の兵が陣を取る。


「ふん、随分と悠長だな。まだこんな所をウロチョロしているとはな」

「何故此処に勇者がっ!総員射撃準備!」


 ユネオスの兵が一斉に銃口をマーズへと向ける。


「いいのか?無駄弾は撃てないのではないのか?」

「この至近距離では躱せまい。放て————!」


 一斉に放たれる弾丸。

 それは音速を優に超える速度で迫る。

 マーズはその場を一歩も動かない。

 着弾!

 の直前、弾道がズレる。

 マーズの眼前の空間が波紋を立てて弾道を逸らしていく。

 全ての弾丸がマーズのを避ける様に避けていった。


「ちぃー、ファランクス陣形!」

「おおおおおぉ」


 兵達はライフルを背負い、空いた両手に盾と槍を持つ。


 ファランクスとは、重装歩兵による盾と槍の密集陣形の一つで会戦にて威力を発揮する。

 右手に槍を左手に盾を持ち、盾を前面に出しつつ攻撃を凌ぎ、右の槍で反撃すると言うものだ。

 機動力や速力を捨て護りに徹し、隙あらば接近し集団での一斉攻撃による力押し。

 前面に対する防御力、攻撃力は高いが、側面や後方からの攻めには弱い弱点を持っている。


 同じく盾持ち歩兵戦術にテストゥドが存在する。所謂亀甲陣形のことだ。

 これは歩兵集団が密集した隊列を組み、大きく防御力の高い盾を前方と上方に掲げ移動する戦術である。攻城戦などに向いている。

 飛び道具に対する防御に長けているが、この隊列には弱点がある。

 白兵戦には向かない、ファランクス同様に機動力がない、隙が大きい、盾の強度に依存する。 

 この弱点の為にユネオスはファランクスを選んだのだ。


 が、ファランクスとて多対多に向いた陣形。本来、只の一人に陣形など使わない。

 しかし、マーズは一騎当千の猛者である。

 ユネオスはマーズ一人を軍団として見たのだ。


「勇者よ、貴公にこの陣を正面から打ち破れるかっ!?」


 側面への攻撃を封じるための挑発。


「貴公の様に名の知れた英雄には、是非とも正々堂々と正面から挑んで来て欲しいものだ!よもや我等がファランクスを怖れ迂回するなどはしますまいな!」


 挑発は続く。


「いやいや、無理せずとも良い。英雄とて怖いものは怖い、いくら勇者と呼び名も高い貴公とてこの陣を見ては腰が引けると言うもの。無理せず側面へ周ると良い」


 先の陣形の説明はあくまでも地球産。ここは異世界、魔法も魔術も存在する世界。

 このファランクスの内部には、魔術師数名、魔法師一人を囲っていた。

 ファランクスの弱点を補うに足りる戦力だ。

 魔法は準備中、魔術は既に術式を展開している。何時でも迎撃可能となっていた。


「ふん、安い挑発に乗ってやろう。正面から行くぞ!」


 マーズは腰掛けていた岩からゆっくりと立ち上がる。


 ユネオスは失念していた。マーズには城壁の破壊者と言う異名があることを。称号からくる城壁破壊が有る事を。

 城壁破壊は、なにも城壁のみに作用するスキルではない。

 高い防御力はそれだけで城壁と見なされ破壊の対象になる。

 この致命的な忘却は高くついた。


 マーズは正直に突進した。

 何一つ工夫も小細工も無く、剣すら抜かずの只の突進、体当たりして来たのだ。

 魔術は突進の速度に間に合わず後方へと流れ、突き出された槍はへし折られ、掲げた盾は押し潰され、兵士達は宙を舞い、陣形中心部へと侵入を許してしまった。


 只の一度の突進、それだけで自慢の陣形が崩されるとはユネオスの頭には無かった。

 その為に指示が遅れてしまった!

 マーズは背負う大剣アッティラソードを素早く抜くと、陣形の中心部に居る魔法師を両断してしまう。

 先の突進で吹き飛ばされたユネオスは、はっと我に返り指示を出す。


「盾持ち、奴を抑えろ!魔術師は外へと移動せぇ!」


 切り札になり得る魔法師を失い、内部に入り込まれた以上銃撃は出来ない。その上魔術師まで殺られてしまえば勝ち目が無くなる。何としても魔術師は護らねばならない。

 が、マーズは無慈悲なる虐殺者でもある。間合いの兵は全て、容赦なく盾ごと真っ二つにされていく。


「ハハッ、正に化け物だな!ライフルに槍、魔術に魔法と揃えて止められんとは」


 この絶望的戦力差の中で唯一人ユネオスだけが笑っていた。

 彼にとって命のやり取りは一つの娯楽、命をチップにしたゲームとでも思っている。

 勝てば相手の命を、負ければ自らの命を差し出す。ただそれだけのことだと割り切っている。

 彼はよくバトルジャンキーと呼ばれるが、実際はギャンブル中毒者なのかもしれない。


「総員散開せよ!固まれば一網打尽にされるぞ。……さて、俺は前へ出る」

「閣下、それは余りにも危険です!閣下はお下がりください!」

「良い。お前は直ちに幾人かを連れフロリオ砦へと戻り残りの兵を纏め上げよ。今ならまだ転移陣を使えよう。時期に地神騎士団(イナンナナイツ)がやって来る、残りの兵だけでは護り切れまい。さあ行け、後は任せる!」


 ユネオスは副官にそう告げた直後に中心部へと走り出した。

 剣を抜き、術式を展開し、盾を構えマーズへと迫る。

 

「小僧!貴様の相手は俺がしてやる。展開『アンチ・マジック・フィールド』!」


 ユネオスは剣をマーズへと振り被りながら魔封じの領域を創り出す。

 魔力を封じる領域を創り出したことで、マーズのみならず自らの軍も魔術やマナを必要とするスキルを封じられてしまう。

 だが、ユネオスには狙いがあった。


「総員狙撃準備!俺が倒れ次第、奴を蜂の巣にしてやれぇ!」


 混戦状態である現状でライフルを討てば味方に当ることは避けられない。

 それでも勇者を仕留めるには致し方なしと割り切る。それが騎士の矜持であり、軍人の誇りであり、兵の意地である。


 休む暇を与えずに剣を振り続けるユネオス。

 その全てを余裕を持って躱すマーズ。


「ほう、自らの命は諦めたか。見事な覚悟ではあるが、降伏すればそれで終いだ、何故抗う?」

「ハンッ!貴様には分かるまい。自らの命のみならず、味方の命すらもチップとして戦うこの快感がっ!」

「……貴様、大した気概だと思っていたが、只の狂い人だったか」

「何とでも言うがいい!貴様が俺を倒した時、その時こそ貴様の最後だ!俺達の命で勇者を倒す!」


 手を止める事無く剣を振るうユネオスだが、マーズには掠る事さえできない。

 勇者の姿を見た時点で命など捨てると覚悟を決めていたユネオスだが、狂った思想に仲間達を巻き込んでいることは悪いと思っている。


「済まんが付き合ってもらうぞお前達!」

「「「はっ、何処までもお供します閣下!」」」


 バトルジャンキーな面さえなければユネオスは優秀な領主と言われる。

 いつ襲い掛かるか分からない隣国や、魔物の侵攻を常に意識しながら皆を護って来た。

 領主としての仕事は確りとこなし、弱き者には手を差し伸べ、貧富の差を少しでも縮めようと政策も確かなものだった。

 たまの休みには魔物狩りと称して森へと入り、食料や素材を持ち帰って来る。

 そんな領主に皆も付いて来てくれていた。

 たとえ命を差し出せと言われようとも従う程に慕われているようだ。

 皆、ユネオスの想いを理解しているために戦闘に割り込もうとはしない。

 今も勇者と打ち合う主君の覚悟を理解し、そして諦めた。

 勇者相手に主君を護り抜くことは不可能だと。何より戦闘を好む彼を勇者から引き離す事は無理なのだと。故に最後の指示は必ず守ると覚悟を決めて銃を構える兵士達。


「意味が分からん?何故そうまでしてあの場に現れた?そのまま砦に籠れば死ぬこともないと言うのに」

「ふん、知れた事よ。馬鹿な王子のせいで何人死んだと思う!?何の為に死んでいった!?勝つ為だ!それを陛下は簡単に降伏を選び侮辱した!そんなものはこの俺が許さん!」

「子供でもあるまいに、国の存続のためにも降伏することは間違ってはいまい」

「それでは死んでいった者が浮かばれん!」


 ユネオスが渾身の力を込めて大上段から剣を振り下ろす。

 マーズは振り下ろされる剣撃を横へと半歩体をずらし躱し、眼前を通り過ぎる剣を大剣で打ち落とす。

 余りの衝撃に剣を手放してしまったユネオスの胸にアッティラソードが突き刺さった!


「グフッ……」

「終わりだ」


 ユネオスは大剣に貫かれた状態から前進しマーズへと抱きつき動きを止める。

 大地を朱に染め、それでもユネオスは笑っていた。


「フフフッ、捕まえたぞ!」


 不敵に笑うユネオスの口元には大量の血が言葉と共に溢れ出る。


「そ、総員てぇ————!!!」

「!!!」


 一斉に射出される弾丸は爆音と共にマーズへと迫る。

 躊躇いなく放たれた銃弾、魔術やスキルを封じた領域内に居るマーズに防ぐ手段はない。

 

「見事だ!『軍神よ!』」


 マーズの短い言葉、それは彼の最短の神への祈り。

 只の一言には彼の万感の思いが込められている。


「「「なにっ!」」」


 そして驚愕するフロリオの全兵士!

 勇者に風穴を開ける筈の弾丸が、その全ての狂気が、マーズへと届くことなく空中で静止している。


「ば、ばかな……」

「まさか勇者に魔法が使えないとでも思ったのか?」


 魔術と違い魔法に必要な物は魔力であるマナではない。

 魔法は神から直接神気を受け取り行使するもの。故に魔封じは通用しないのだ。


「ぐ……む、無…念である……」


 ドサリと倒れ込むユネオス。

 それを見ても兵士達はライフルを撃つ手を止めなかった。





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