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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
動くコダユーリオン
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捕縛

 エナスはティデス率いる地神騎士団(イナンナナイツ)と共に魔馬を駆り北上していた。

 変異した黒騎士ジャックから逃れるために転移した拠点、そこから仲間達を追って北上しているのだ。


「ちっ、まさか化け物が化け物に憑りつかれるとは思いもしなかったぞ!」


 これはエナスの言。ジャックが欠片に憑りつかれたことを言っている。


「エナスよ、一体アレは何だったのだ?我等の攻撃など何も効きはしなかった」

「アレが何なのかは分からん。が、黒騎士ジャックに得体の知れない“何か”が憑りついたのは確かだ」


 言わずもがなテュポーンの欠片の事である。

 エナスはジャックに欠片が憑りつく瞬間を目撃している。しかし、アレが神の力の一欠片だと分からなかった。

 知れば歩を止めるであろうが、幸いか彼等にその情報を得る機会が訪れる前に、欠片は黄泉津大神の手により呆気なく敗れた去った。


「分からんものは仕方がないが、お前が使った数々の魔道具の説明はしてくれるだろうな。流石に転移は見逃せんぞ。さっきのアレは転移門に匹敵するものだった」


 ジャックから逃れる為にエナスが使用した転移の魔道具。地下牢にてフヅキより渡されたものだ。

 それは既に使い切り手元にはないが、あればこの戦は早急に方が付いただろう。


 エナスはティデスに牢で出会った隣人の話をした。

 牢に入れられているというのに余裕を崩さず、明るくふざけた性格をした隣人。何故かプロセルピナ王女に気に入られて付き纏われていた。

 そして、牢の中で魔道具をせっせと創作し、別れ際に渡された。その中に転移の魔道具があったとエナスは話す。


「ほう、それは確かに凄いな。長距離大規模転移など、コダユーリオンの魔道具ですら未だに成功していないと聴く。俄には信じられんが、事実として使って見せたのだ、信じざるを得ないか。……その御仁、捕まっているのなら我等の陣営に取り込めないものか?」

「無理だろうな。あ奴はプロセルピナ殿下と婚約したようだからな。奴は彼女を護るためにも王国側につくだろう」

「はあ、何を言っている。罪人の元へ王女を嫁がせるなど、聞いたことがない!ユピテルの奴は何を考えているのだか」

「いや、牢に入れられてはいても、奴は罪人ではない。それどころか強狂怖では古竜騎士団を助け、王城ではユピテル陛下を助けている。罪人どころか恩人と言っていいだろうな」


 事実フヅキは、ミネルヴァ達を助けテュポーンの欠片を倒し、ユピテルを助けジュピターを退け、ユーノに憑りついていたクロノスを開放ている。インペラートルにとっては大恩人と言えるだろう。


 元々、フヅキが牢へ入れられたのは、燿子という魔物を抱いていたからだ。


「何だ?どういう事だ?この国では恩人を牢へ捕えるのか!?」

「奴が現れた時に一体の魔物を抱いていたのだ。Sランクの馬鹿じみた力を持った魔物をな」


 当初は魔物の力を知らなかったが、牢の中でフヅキが言っていたのだ。


「な、なっ、Sランクだとっ!それが本当だとしたら厄介なことこの上ないぞ!そもそも何故ソイツはそんな危険な魔物を連れ歩いているんだ!」

「俺も詳しくは知らない。が、奴自身が言っていたことだ。ハッタリかも知れんが、本当だとしたら脅威だ。急ぎ先行部隊に知らせねばならんだろう」


 燿子の存在一つで戦況がひっくり返るという情報を、ミーレスへ辿り着く前に伝えなくてはならない。

 知らずに燿子と出くわせば混乱を極める事になり、無意味に犠牲者を増やすことになる。事前に対策を講じなければならない相手だ。


 エナスは燿子やフヅキの容姿について詳しくティデスに伝える。

 そうこうする間に一行は灼熱谷へと辿り着いた。

 灼熱谷の入口には二人の騎士と大勢の兵士達が見えた。

 彼等は皇帝ジュピターから派遣された新たな騎士達だ。この局面で派遣された以上、並みの騎士達とは比ぶべくもなく強者だ。


「はははっ、遅かったなティデスくん」


 一人は槍を持ち、孔雀の羽で拵えた陣羽織を羽織った金髪の派手な男だ。名をネッダ・デッハと言う。

 彼は軽率そうな雰囲気を醸し出してはいるが、決してそれだけの男ではない。

 仲間意識が強く、困っている者が居るといつの間にか手を貸しているような男だ。この場に馳せ参じたのも旧知の仲であるティデスに手を貸すためだ。


「だはははははっ、よもやワシまで駆り出されるとは思ッとらんかったぞ」


 もう一人は無手、全身を分厚い鎧に包まれたずんぐりむっくりとした体形のドワーフ。名をダンと言う。

 彼は豪快な性格で、細かな事は全て部下達に押し付けては文句を言われている。だが、彼は決して部下達から嫌われている訳ではない。何故なら彼もネッダ同様面倒見が良く、その身を犠牲にしてでも仲間を護る信念を持った男だからだ。


「なっ、お前達がどうして此処に!?」


 本来彼等は居残り組の騎士だ。

 ティデスにとって仲間の為に命を投げ出すことを厭わない彼等には、この戦に出来れば参加して欲しくはなかった。

 彼等は強者であるが不死身ではない。足手纏いになり得る雑兵を抱えたこの戦場では、彼等の献身的な戦い方は好ましくなかった。それはSランクの存在を聴いたティデスが、彼等を死なせたくないと本心から思っているからだ。


「何故来た!敵側には天災級の魔物が居るんだぞ!」

「陛下から命を受けて来たんだよ。ティデスくん達だけではキツいだろ?」

「馬鹿みたいに強い奴が居ると聴いてはいたが、天災級だったとはな。対峙する時が楽しみじゃわい。ガハハッ!」


 ダンは豪快に笑うが、それどころではない。

 ネッダは騎馬隊、ダンは重騎士隊の隊長を務めている。数百名と人数こそ少ないが、両隊共に精鋭揃いの猛者達だ。

 本来なら心配すること自体が失礼な程の強さを誇る隊だが、相手が悪すぎる。しかし、彼等の力を借りなければSランクを出し抜くことすら難しいのも事実だ。

 Sランクは決して倒せない相手ではない。が、それはこの場の誰か、或は全員を犠牲にして成り立つものなのだ。


 更にネッダが爆弾発言をねじ込んでくる。


「そうそう、天災級と言えば、この先に二体の蜘蛛の魔物が出たらしいんだけど……。二体ともSランク相当だったて話だよ」

「おうおう、そんな報告がきっとったわ。ガハハハッ、早よ行かねば全滅だぞい!」

「笑い事ではないわ。皆急ぐぞ!ネッダにダン、俺の副官のロックサムを置いていく。事情は彼から聴いてくれ!お前達は後から付いて来い」


 ティデスがネッダとダンに先に行くことを知らせ、副官であるロックサムを残し急ぎ地神騎士団を走らせる。

 当のネッダとダンは顔を見合わせ、「あらら」「つれねぇ奴だの」と声を漏らしている。

 ティデスは魔馬を走らせながら、隣に追走するエナスに話しかける。


「おい、エナス!お前の言っていた魔物とは蜘蛛型の魔蟲なのか!?」

「違う!獣型、狐の魔獣だ。蜘蛛共は恐らくはヴェルエムロードの森に住みつく魔物だろう。そんな化け物の存在が報告されている」

「くそっ、短期に簡単に終わる戦だった筈なのに!」


 ヴァンチトーレとインペラートルでは、その戦力の差は十数倍と言われている。戦になれば帝国が王国を呑み込むなど容易いと考えていた。

 しかし結果は違った。確かに致命的と言えるダメージを与えてはいるが降伏させるには足りない。

 王族の一人でも捕えれば話は変わるが、ミッシーナ、イクテュス、灼熱谷と追撃戦での戦場全てで逃げられている。

 更に天災級の魔物が三体も確認されているとなると事は大事だ。


「希望はある!天災級などといった超強力な魔物を完全に操る事など不可能だ。そこに付け入る隙がある!」


 エナスが言う。彼自身、燿子は完全にフヅキに従っていたように見えたが、蜘蛛の魔物は違う筈だと考える。

 実際にはギルティアラは自らの意志でインペラートルに味方したが、そのことはエナスとて知らない。


「本来、Sランクをテイムすることなど不可能、燿子、狐の魔物は何かしらの信頼関係が結ばれているだろう。だが、蜘蛛の魔物に関しては信頼関係を結ぶ時間など無かった。狙いとしては共倒れに持ち込む事だろう。奴等に蜘蛛の魔物をけしかける他あるまい」

「ああ、それしかないだろうな」


 うんざりとした表情で言うティデスに、部下の一人が近付き報告する。


「ティデス様、前方に魔術騎士団(エンキナイツ)の最後尾が見えてきました」

「ああ、お前、ロックサムの妹のロックサーナか。ロックサーナ、お前は数名を連れて先行し、アポロ達に王国には天災級の魔物が居る事を伝えよ。俺達は残りを連れて西のフロリオ砦を落とす!」

「で、ですが、蜘蛛の魔物はどうされるのですか?」

「ネッダとダンが直に合流する、アポロとディアナ、ネッダとダンが協力するなら時間稼ぎは可能な筈だ。その時間でアルテミシアに援軍を頼み対処する。あの女は蜘蛛とは相性がいい。お前はアポロに状況を伝えた後、南下しアルテミシアに事の次第を伝えよ!」

「はっ!……しかし、フロリオ砦ですか?」


 この戦の目的はヴァンチトーレ帝国皇女ウェヌスの奪還であるが、それは表向きの理由だ。

 実際にはこの国を欲しての事であり、皇女を攫わせたのは皇帝ジュピターの陰謀と言える。

 この国を奪う為には国王たるユピテルを打ち取るか屈服させる必要があり、ユピテル自身は王都の護りを固めている。

 その為、目的を果たすためには王都を落とす必要があり、現在の帝国兵なら確実に落とせる戦力を保っている。今更通方から兵を出したところで間に合わず、わざわざ遠回りをして砦を落とす必要性がない。

 この局面で砦を落とす意味がロックサーナには分からなかった。

 確かにコダユーリオンが動けばフロリオ砦で抑える必要がある。が、それを帝国兵がやる必要があるだろうか?

 仮にコダユーリオンが動いたとしても、同盟国でもないのだから進軍と見なされフロリオの常駐兵が止めてくれる。今更双方が手を組むとは考えにくい。

 ロックサーナには、無駄に兵力を割くよりも一点突破で王都を落とした方が被害も少なく良いと思える。何故なら王都を落とした時点でフロリオも自軍に取り込める可能性があるからだ。無駄な犠牲が出ずに済む。

 しかし、彼女の上司は違う考えを持っていた。


「コダユーリオンとフロリオが手を組むかもしれん。そうなれば、ミーレスを攻める帝国は挟み撃ちにされ兼ねん」

「今更手を組むのですか?インペラートルからしたら渡りに船ですが、コダユーリオンからしたら足手纏いになるのではないでしょうか?」


 傷ついた者を抱えるのは負担が大きい。

 コダユーリオンとしてはフロリオ砦を落とし拠点とするのが良策だろう。手を組むには遅すぎたのだ。


「フロリオの兵は未だ無傷、更にフロリオを治めるユネオス辺境伯は戦を好み、自身の現状、砦から動けない現状に不満を抱いている筈だ。コダユーリオンはインペラートルと手を組むのではなく、フロリオのユネオス辺境伯個人と手を組むことを考えるだろう。ユネオスは美味い餌でもチラつかせれば訳もなく喰いつく男だ。そこで、我々はコダユーリオンより先に奴を取り込む」


 ティデスの言葉にエナスが頷く。


「確かにそれは良案かもしれん。フロリオのユネオス辺境伯は、ユピテル陛下の事なかれ主義に反感を持っていた人物。頑固で融通が利かないが、やりようによっては此方側に寝返るやも知れん!」


 ユネオス辺境伯は、一言で言えばバトルジャンキーな人物。

 帝国との戦の最中、コダユーリオンの牽制の為に戦場に出られずに不満を募らせていることだろう。

 定期的な強者との戦を提供してやれば寝返る可能性は大いに有る。

 領地を広げ続けている帝国にとってバトルジャンキーの存在は渡りに船でもある。


「よし皆、全力で駆け抜けるぞ!遅れる事は許さん、死力を尽くして付いて来い!」

「「「おおおっ!」」」


 コダユーリオンよりも先にフロリオ砦へ辿り着かなくてはならない。

 ティデス達は全力で疾走し北西へと向かった。


 一方、アポロ、ディアナ率いる魔術騎士団(エンキナイツ)の元にロックサーナが到着した。


「アポロ様、ディアナ様、我が主ティデスからの伝言が御座います」

「え、ティデス君から。なになに?」

「はっ、インペラートルには天災級の狐の魔物を使役する者が居るとのことです。このまま無策に進めば手痛い反撃を受けるやもしれません。そして、地神騎士団はこのまま北西のフロリオ砦を落としに向かいます」


 天災級と言う言葉に周りの魔術師達がざわつき出す。が、アポロとディアナはそうではなかった。


「へぇ、天災級かぁ、インペラートルのくせに生意気だね。前の古竜達もそうだけど、あの国は魔物を使役するのが好きなのかな?」

「お兄ちゃん、天災級が出てくるなら気を引き締めて掛からないと良くないよ」

「うん、分かってるよディアナ。相変わらずディアナは心配性だなぁ」


 天災級の恐ろしさを知らないのか余裕なのかは分からないが、彼等の態度が幾分周りを和ませていた。

 ロックサーナとしては、些か緊張感に欠ける気もするが、他の騎士団に口を挟む事はしない。


「この後、アポロ様達魔術騎士団の方々はどのように動かれるのですか?」

「ぼく達エンキはこのまま北上してマルス君を捕まえるつもりだよ。どうもこの先に蜘蛛の魔物が邪魔してるみたいだけど、より大きな気配に倒されたのか今は気配探知に引っかからないね」

「恐らくその魔物もSランクだった筈。……それより大きな気配ですか?」

「うん、急に現れて暴れてたみたいだけど、これも今は気配が無くなってるよ」


 アポロの話を引き継ぎ、ディアナが話し出す。


「魔物よりも大きな気配だったけど、消えちゃったよ。もしかしたら、蜘蛛の魔物達と相打ちしたのかも?他にも、多分だけど古竜騎士団が数名居たみたい」


 ここでロックサーナは、コダユーリオンで会った黒騎士の事を思い出す。何かに憑りつかれた様に暴れ出した男は禍々しく大きな気配を放っていた。彼女はアポロ達にアルカーヌムでの出来事を伝えることにした。


「うん、その場で見た兵士達の姿と一致するね。へぇ、黒騎士かぁ。コダユーリオンも面白い人材を飼ってたもんだな」

「でも、Sランクと単騎で戦えちゃうなんて……」

「まぁ、考えてても仕方ないし、このまま進んじゃおう!」

「お兄ちゃん、対策は?」

「進みながら考えるよ。君はティデス君の所に向かうの?」

「いえ、蜘蛛の魔物が居ないとは言え、アルテミシア様に報告する必要があります。私は南下しアルテミシア様に報告に参ります」


 それじゃあと別れ、アポロはロックサーナを見送り歩を進める。


「お兄ちゃん、どうするの?」

「マルス君を捕まえる積もりだったけど、間に合わないかもね。ティデス君のイナンナなら分からないけど今は居ないしなぁ。……そうなるとマーズ君の城壁破壊かぁ」

「でも、そうなるとミーレスの防壁は無傷で手に入らないよ」

「そうなんだよねぇ。あの防壁は強力だって話だから無傷で手に入れたいよね。……よし、決めた!防壁は通れる者に解除してもらおう!」

「え?」

「ほら、エナス君は防壁を潜れるでしょ?エナス君も抜けてるよねぇ、王都に居る間に結界解除してくれればいいのに」

「……出来ないんじゃないかな?あの結界は防壁その物が術式になってるって聞いたよ。エナスさん一人じゃ解除できないと思う」

「うぅん、無理かなぁ?結界解除の魔術教えておけば良かったかな?それでも無理か、エナス君は不器用だしね。仕方ないや、防壁はマーズ君に任せて、ぼく達は天災級の魔物を仕留める方法を考えようか?」

「狐の魔物って言ってたね。どうしようか……?」


 アポロとディアナは北進しながら燿子の対策を考えるのだった。


 そして、アポロと別れミッシーナ海へと向かって突き進むロックサーナだが、……ばったりとスクディアと鉢合わせる事となった。


「ちぃ、帝国兵か!」

「なっ、第二王子のスクディアかっ!」


 不運と嘆くスクディア。彼は帝国軍はマルスを追い北上し、別動隊などわざわざ組むことなど無いと踏んでいた。完全な油断だ。


 ロックサーナが連れている兵は五人の一班兵、対してスクディアは一人。数では不利だが実力で勝っている。しかし、騎獣は魔馬グリファトに対し、名馬とはいえ只の馬。逃げる事は不可能で、実力の差を覆されない。

 スクディアにとっては最大のピンチであり、帝国にとっては最大のチャンスである。


「ちっ、ここで捕まる訳にはいかん!」


 逃げ切れないとは分かっているが、それでも逃げるしかないと馬を奔らせるスクディア。


「なっ、捕えなさい!決して逃してはなりませんよ!」


 スクディアは、王国兵の本陣に合流するために進路を進めていた。

 そのままミーレスを目指せば良かったのだが、逃げ遂せたのか気になり進路を変えてしまったのだ。

 捕まればマルスの代わりに交渉材料にされる。王太子であるマルスとは比較にならないが、それでも一国の王子であるスクディアには捕虜としての価値が高い。

 ここは何としても逃げ延びなければならない。


「くっ、運の無い!『アース・ジャベリン』!」


 兎に角、追手の脚を止めなければ捕まる。

 馬上から振り向きもせずに、追手の手前に大地の槍を生やす。少しでも相手の速度を落とさせる為に放った魔術故に当てる気はサラサラなかった。が、当たり前のように避けられ、何事もなく追ってくる敵兵を見て思わず愚痴がこぼれる。


「くそっ、追われてばかりだな。わざわざ俺などに構わずマルスを追えばいいものを!」

「待ちなさい第二王子!」


 スクディアは、追い付かれるのは時間の問題だと悟り馬を反転させ反撃にでる。

 剣を抜き、バレない様にコッソリと魔術の術式を展開する。


「諦めたのですか?ならば大人しく捕まりなさい!」

「生憎と俺は往生際が悪くてなっ!」


 愚直にも突進してくる敵兵を見てしめしめとほくそ笑むスクディア。

 直後にロックサーナの乗るグリファトの足元で爆発が起こる。先程バレない様に『グランド・マイン』の魔術を仕掛け、それが発動したのだ。

 スクディアは躊躇わず爆炎へと駆けて行く。


「罠も見抜けぬ愚か者が!自らの愚かさを悔いて死ね!」


 爆炎の中、体勢を崩し魔馬から転がり落ちるロックサーナの姿が映る。

 剣を振りかざすスクディアには勝機がハッキリと見えていた。が、


「愚かなのは貴方の方です。【束縛の茨園】!」


 『グランド・マイン』の爆炎を巻き込んでの炎を纏った茨が、無数に地面から飛び出しスクディアを拘束しようと伸びてくる。

 茨はロックサーナを中心として無数に伸び、範囲内に侵入したもの全てを絡め捕る。ロックサーナのスキルの一つだ。本来なら炎を纏うことなどないのだが、『グランド・マイン』によって燃えている。

 ロックサーナは【束縛の茨園】の範囲内に誘い出す為に敢て落馬して見せたのだ。


「小賢しい!」


 スクディアの一喝により、スクディアを捕えようと迫りくる茨の蔓が弾き飛ばされる。

 スキル【覇気】の上位種の一つ【覇気纏い】————、本来威圧などの精神的に作用されるスキルが、物理的にも作用するように進化したスキル、更に精神異常をも弾いてくれる優れたスキルだ。


 しかし、スクディアが茨を弾く傍から次々と茨が襲い掛かる。その全てを弾き飛ばすが、遂にはスクディアの乗る馬の脚に燃える茨が絡みついてしまった。

 爆炎は既に収まっているが、燃えた茨から燃え移っているようだ。


「しまっ!」


 馬が倒され飛び退くスクディア。馬はみるみる内に茨に絡め捕られ、姿が見えない程に埋もれていく。


「くそっ、王国の名馬なんだぞ」


 ぼそりと呟くが後の祭りだ。スクディアに馬を救う術はなかった。何故ならいつの間にか兵に周りを囲まれていたからだ。

 この馬はインペラートルで有名な名馬として知られるスクディアの相棒だ。その相棒を助ける事が出来ない不甲斐ない自分に嫌気がさしてくる思いを抱きながら敵を見据え隙を伺う。


「さあ、ここまでです、大人しく捕縛されなさい第二王子。我々は貴方に人道的な扱いを約束します。貴方を捕える事でこの戦を終わらせることが出来るのですから」


 ロックサーナから見るとスクディアの捕虜としての価値は高い。

 それは王族であることも勿論だが、スクディアの行動力はこの国には無くてはならないものだからだ。

 この国ではスクディアは隣国の商隊を襲う愚か者だと言われ王位継承権から外れている。が、しかし、事実は違う。

 誰よりも早くコダユーリオンの思惑に気づき、危険極まる極悪魔道具の製造をたった独りで阻止する為の行動を起こした人物、それがインペラートル第二王子スクディアなのだ。

 この国の者、特に国の上層部の人間は、その事実に気づいていない、いや、気づきながらも気づいていないフリをしているのだ。

 事なかれ主義のユピテル。……成程、スクディアを王位継承権から外し罰し、少なくない金を隣国に渡す事で戦を回避した英雄王。国民から見たらそのように映る。

 スクディア独りを悪役にして戦争を回避したことになる。

 スクディアは自ら汚名を被ることも厭わずに行動できた人物で、決断の速さは王太子たるマルスの比ではない。

 この国に必要な人物は他国の皇女を誘拐する王太子よりも、自ら汚名を被れる第二王子であるとロックサーナは考えている。


「ほざけ!この戦に勝利した後、貴様等は何をする。王族は皆斬首、戦があればこの国の民を盾とし、兵達はいたずらに民を殺す。皇帝は父の玉座に座り国を睥睨し我等が国土を跋扈するだろう。更に、帝国兵が多く入り込めば食料を根こそぎ奪い取られ民達は貧窮する。そんなものが認められる筈がないだろう!」

「それは誤解————」

「ウェヌス皇女を取り戻しに来た?はっ、そんなものは口実に過ぎん。貴様達はこの国の防壁、延いてはコダユーリオンの鉱山を奪う腹積もりだ!」

「誤解です!帝国はそんな非道を致しません。傘下に降した国とて必要以上の干渉はしていないのです!」


 スクディアとて本気で言っている訳ではない。皇帝ジュピターは傘下に降した国を手厚く扱っている。おそらくインペラートルとてそうだろう。

 もしかすると、ジュピターは父ユピテルより上手く、より良い統治をするかもしれない。ましてお坊ちゃんなマルスよりも断然良いだろうとスクディアは思っている。

 王族としての誇りさえ捨ててしまえば、それはそれで良いのかもしれない。

 だが、今更それは出来ない。

 今までに何人死んだのか?より良い交渉が出来ねば死んでいった者も浮かばれない。

 勝てなくても、少しでもマシな条件を引き出さなければならない。王や王子達の首だけで済めば良しと考える。

 気がかりはジュピターが女好きで有名だと言う事だ。大陸一の美女と謳われる母、ユーノが只で済むとは思えない。


「貴方とて、このような戦は早く終わらせたいのでしょう!」

「どうだかな。だが、今は死ぬ訳にはいかん。ここは大人しく捕まるとしようか」


 馬を失い、多勢に無勢なこの状況では逃げ延びるのは不可能。ならば、機を見て逃げる算段を立てる方が健全と考え敢て捕縛されることを選ぶスクディア。

 最悪この戦に敗れることとなったとしても、家族のことはフヅキに頼んである。

 あの男の事を考えると、不思議と大丈夫なのではないか?と思えてくる。故に残された家族の事も何とかなるだろうと。

 母ユーノ、妹ディスコルディアことディディ、第二王妃ケレース、プロセルピナことセフィーの四名は絶対に護ってくれるだろう。


「有難うございます。では、申し訳ありませんが拘束させて貰います」


 ロックサーナに拘束されるスクディア。

 魔術を封じる魔封じの拘束故に魔法や魔道具では逃げ出せない。逃げるには自力で拘束を解く必要がある。


 後は頼むぞ!と小声で呟きながらロックサーナの魔馬に乗せられるスクディアだった。




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