盗み見
コダユーリオンの会議を盗み見みてしまったセフィーは、父王ユピテルへと報告しに走ってった。
今は牢屋に俺一人、少し寂しくもあるが気が楽でもある。
俺は一人でせっせと魔道具を造りながら、先程盗み見た事を思い出す。
まず俺が不安視するのは帝国の全兵数だ。帝国が本土に残す戦力が気になる。
恐らく現段階での帝国の領土は、地球でいうアメリカや中国を抜いている。ロシアに迫るかそれ以上だろう。
それだけの広大な土地を有しているのならば、当然兵数も多いと予測される。
俺が地球に居た時、最大の兵を抱えていた国の兵数は300万を少々切る位だった筈、非戦闘時での人数でだ。戦闘時になれば徴兵され数は格段に増えるんじゃないかな。
第二次世界大戦終戦時の、大日本帝国の軍人はその数を優に超えている。無論、徴兵された民間人を含めての話だが。
自衛隊になると予備を含めて30万そこそこと国民に対して比率は少ない。
俺の予想では帝国の兵士の数は300万を優に超えていると見ている。徴兵すれば更に……。
尤もこの世界に徴兵制度があるかどうかは知らないが、されればこの国は数の暴力に押されてお終いだろう。
今現在この国で徴兵はされていない。罪人や奴隷、冒険者を含む志願兵を投入してはいるが、数は微々たるものだ。
国同士での戦争なら、確実に帝国が勝つだろう。
だが、いまの状況では分からない。俺やキララが積極的に動けば結果は違うんだろう。
ゼウスは俺に動くなとは言わなかった。クロノスには参戦するなと念を押していたが、俺はハンデだと言っていた。それだけの自信が奴にはあったのだろう。
勇者以外の切り札が有るのかもしれない。それに対抗できうる俺達の動きが、今後の戦局を左右するだろう。
次に不安なのはコダユーリオンが参戦を決めるに至った理由だ。
奴等は傍観していても良くはないが、被害は抑えられる筈だ。わざわざ国を滅ぼされ兼ねない戦争に身を投じる必要はない。
帝国の支配下に置かれたとしても、それ程今の暮らしと差が出る訳ではない。帝国の政策はそれ程悪い訳ではない。ゼウスが仕切ってる訳だからな。テュポーンの件からしえもゼウスが傍に居た方が安心だ。尤も、封印の事を知らないだろうがね。
コダユーリオンには、勇者や竜騎士などの世界に名を馳せた英雄が居ない。……ああ、暗殺王ジャックことアンバーがそうなのかも知れないが、アレは戦争には向かない。何故なら、この魔法や魔術、スキルの存在する世界で要人を暗殺するのは困難を極めるからだ。
ヴィクトリアが守護するユピテル、更にセフィーの幸運も彼を護る。
自身が神であるジュピター、アレは俺でも暗殺は不可能だ。
セフィーのスキルやジュピターの正体は知らないだろうが、容易ではない事は彼等も分かっている筈だ。
いくら帝国が疲弊し数を減らしたとしても、コダユーリオンやインペラートルといった単一国家では歯が立たない。やるなら手を組むしか道はなかったんだ。
それなのにコダユーリオンは単独で動いた。両国を相手取る気だ。先の会議では話題にもならなかった何らかの秘策があるんだろうな。俺はそれが知りたい。
更に、天候を操る魔道具だ。
雨を降らせ帝国軍の脚を止めると言っていたな。
雨を降らせた程度で魔術が存在するこの世界で足を止める事が可能だろうか?
雨と言うよりも嵐を起こせば可能かもしれない。まさか、そこまでやるつもりだろうか?
……う~ん、謎だ?
まあ、足止めしてくれるってんなら此方としては有難い。
あとは転移門。マルス達はもう直に転移門に辿り着くだろう。
帝国軍から間に合うかどうかは微妙なところ。帝国軍の脚を止めなくとも、間に合う可能性はある。が、相手が転移つっぅ手段を持ってなければの話だが。
……転移門か、これ程危険な物はないよな。
もし術式を読み解かれ利用されようものなら、この結界に護られた王都内部に敵の軍団が瞬時に現れることになるんだから。
これは門を破壊するのが手っ取り早いが、マルス達が帰ってからでないと奴等の命運は尽きる。
あと、アルテミシアの動向な。彼女が動けば可成りの難敵になるだろう。見たところアルテミシアの能力は高く、マルスやスクディアで相手するのはキツイだろう。
マーズくん、勇者は何処かへ行ってしまったが、戻ってくるのだろうか?
彼が居なくてはこの王都の結界を破るのはなかなかヘビーだぞ。
「……ああ、もうぅやめやめ!考えんのが面倒になってきた」
考えている最中でも魔道具造りの手は止めない。
人間、同時に脳内処理できる数は7つ。ラッキーセブンの語源と言う説もある。その為、複数の事を同時に進行する事が可能な訳だ。
うっし、出来た!
「たらららったら~、なんじゃこりゃ~」
説明しよう、これは使用者のマナを消費せず、大気に漂うマナを吸収して作動する気象制御装置である!名前はまだない!
まんまコダユーリオンの大魔道具とやらのパチリである。が、魔術師のマナを大量に消費する奴等の大魔道具とやらより使い勝手は良い。
相手が雨を降らせるなら、コッチもって考えて造ってみた。
魔道具造りもひと段落ついたかな。あくまでも趣味で作ったもんだから、役に立つ物もあればガラクタ同然の物まである。
例えば、牢屋の隅に置いてある芳香剤。こんな地下にある牢屋の中がほのかにフローラルの香り。
例えばこの枕、これを使えばどんな興奮状態であろうと心地よい眠りを誘う。
更に布団、どんな場所だろうと安全に暖かくして眠れる結界付き。
そしてこの天候制御装置。如何なる天候だろうと操作できる代物だが、使用は一回きりの限定品。だって、危ないからね。
正直こんな天候制御の魔道具を造ったはいいが、役に立つかは微妙だったりする。日照りが続いてる訳でも雨が止まない訳でもないんだから。コダユーリオンが天候を操るかなんて分からんし、下手に自然現象に手を加えるのは宜しくない。
『主様、コダユーリオンの面々が動き出したようですよ』
突如、俺の頭の中でトキミの声が響いた。
盗撮画面を見てみるとワラワラ軍隊が動いとる。転移門に向かっているようだな。
まず、軍を率いてちびっ子スヌレムスがライフルっぽい物を担いで東にある門へ移動。魔銃騎士団とやらか。
その上空を空飛ぶバイクらしきものが飛んでいる。アルフィア率いる空挺騎士団だろう。
更にアンバー率いる黒騎士団が南東へ進む。
パッと見各軍2万編成、計6万ってとこか。
妙だな、数が少なすぎる。防壁を超えないといけない奴等にとって、この数は少なすぎる。
途中の都市で拾ってくるのだろうか?後から転移門を使って増員するってことも考えられる。
『妙だな主よ。奴等、三人しか将を出さない気か?』
こんどはリュルフだ。
確かに陣頭指揮を取る将が少なすぎるな。コダユーリオンの兵数はインペラートルと同等だと聴く。つまり30万はいる筈だ。それに見合った人数の指揮官が居る筈なのだ。なのに10万にも満たない数、三軍で攻めるのはおかしい。
確かに全軍が王都に常駐することはない。が、他の都市でも動きは見られない。
「後から増やす気か?」
都市に寄りつつ兵を増やす?
『転移門が存在する以上否定は出来ぬが、それでは後手に回りかねない。奴等の作戦はタイミングが命だ』
『ですが、これ以上は動いていませんね』
まさか、既に配置済み?
『どうだろうか?まさか盗み見ていることを知り、兵数を誤魔化すための罠だという見方も出来る』
『罠ですかお兄様?』
『ああ、女王は気付かれずにと言った。が、あれだけの人数を一度に動かせば気付く者もいよう。もう少しやり用はあった筈だ』
「罠と見た方が良いな。じゃあ、本当はどれ程の数になるかだが……。全軍を出せば30万か?」
コダユーリオンは未だに黒騎士以外無傷だからな。
『主様、砦の方の映像は?』
「それが、砦だけあって虫一匹入れないんだ。結界か何かか?カメラが一機も忍び込めない」
『城には入れてそれはおかしい。間違いなく罠だと見ていいだろう』
だが、それではコダユーリオンが動くと言う事実は知られてしまう。帝国に警戒される事になるんじゃないのか?
「帝国はどうするのかな?」
『只の防衛と見るか、侵攻してくると見るか?』
帝国軍は今現在北上しているが、コダユーリオンの動きを知れば軍を別けるだろうか?
「いや、構わず北上しそうだな。真っ先にマルスを捕まえなくちゃならんからな。先ずはこの国って感じか。防壁を無傷で奪えれば帝国は可成り有利な立ち位置になる」
『ふむ、彼の国は無視か。この国の王太子を捕縛出来るかどうかで命運が別れる故か』
『問題は王太子殿下を捕縛出来なかった場合ですね』
そう、帝国がマルスを交渉材料に出来なかった場合、もしくはユピテルが交渉に乗らなかった場合、間違いなく防壁を破壊するためにマーズが来る。
それを阻止するためにも、この国は兵を出さざるを得なくなる。
『キララの嬢ちゃん一人でも何とか出来そうではあるがな』
『ですが、あの娘はまだまだ甘い所がありますから……。どうなのでしょう』
「う~ん。そこまで人間に関わっても良い物かどうか?ゼウスが良いって言ってたから良いのかな?」
俺達の力でパワーバランスが大きく崩れることになる。それに、あまり深く関わると際限なく関わりそうでヤなんだよな。
だが、恐れくはゼウスの隠し玉が存在する。これには俺達でしか対処出来ないだろう。
正直俺としては、この国はとっとと帝国に白旗を上げて戦争を終わらせた方が良いと思っている。
先にも言ったが、帝国の下に付いたとしても悪い事はそう多くはない。
帝国のあるゴンドーナ大陸まで人を連れていかれる心配もない。何故ならゼウスが此方に居を移すからだ。勿論封印を見張るため。
じゃぁ、何でこの国は戦ってるか?それはゼウスに喧嘩売っちゃったからだ。
マルスがやらかした。ゼウスの娘さんウェヌス皇女を攫ってきてしまった。攻めてくるから応戦しているって感じだ。
では、ウェヌスを返せばいい?そんな訳ないよ。だって、ゼウスはこの地が欲しくてわざと攫わせたんだからな。
つまりゼウスは、この地さえ手に入れば他かは割かしどうでも良いんだ。よって、降伏してもあまり問題はない。
精々がユピテルの嫁さんを取られるぐらいか?いや、クロノスが阻止しそうだな。
ゼウスはエロいからな。美人さんの多いこの国では見境が無くなりそうだ。無論、ミネルヴァ達には手を出させんがね!
「ユピテルは、皇帝ジュピターが天王ゼウスだと知っているから降伏する可能性が高いんだよな」
ユピテルは、ゼウスが攻めて来た時にその事実を知っている。
神が相手だと分かっている以上、戦争を続けるとは思えないんだけど?
逆に、礼儀として戦い続けるか?これまでに散っていった兵士の数も多い。無条件での降伏はしないか?
今、降伏すれば家臣が黙っていないだろうからな。家臣の皆さんはゼウスの事は知らない筈だし。
ユピテルが話していれば別だが、恐らくそれはない。戦争時に混乱を来すからね。
徹底抗戦派と即時降伏派で別れてグダグダと言い合いしてそう。
仮に戦争を続けた場合、相手側にゼウスがいる以上セフィーの幸運スキルは通用しない可能性がある。
戦えばどうしたってこの国は敗れる。
「しゃあない。今回はとことん力を貸してやるか」
『よく言う。今までも随分と手を貸してるではないか』
「いやいや、エナスくんにも力を貸してやっただろ」
『あの小僧か』
小僧といってもおっさんだがね。
「そのエナスくんは、今なにしてんのかな?」
どれどれ、大陸中にばら撒いたカメラで見てみよう。




