助太刀
鑑定し終え辺りが月の光に照らされ始め、疲れたのもありテントを張って休むことにした。
小箱ちゃんに取り出す意思を示せばニュルっと飛び出す大型テント。一家族が余裕で寝泊まり出来るんじゃないか?って位デカいテントだな。組立てる必要もなく完成された姿で出てきたテントに感謝する。
広い空間には余計な物は一切なく只、隅に置かれた宝箱のような入れ物に数人分の携帯食と飲料水、それと寝袋が入れられているだけだ。寝る分には十分と言える。
「はぁ~、つかれたぁ~」
俺は中央で大の字に横になりそのまま、考える事を放棄して寝入ってしまう。
…………
コケコッコーと起こしてくれる鶏もなく、自然と目が覚めるまで寝続けた俺の朝は遅く、外に出ればお日様が真上まで来ていた。
「寝すぎじゃね?」
流石に薄暗くなった辺りから昼間までの間、寝続けるのは寝すぎだと思う。
『『『おはよー』』』
「おう、おはよう諸君。今日も張り切っていこうじゃないか!」
元気のいい挨拶に、こちらも元気よく挨拶を返す。朝の挨拶が有ると無いとではやる気に差が出るな。
さて、朝飯でも食うか。昨日貰って小箱ちゃんの中に入れておいた果実を食べてしまおう。
小箱ちゃんから取り出した赤へ青へ黄色へと色が代わる代わる変化する果実にそのまま齧りつく。
この果実の名は賢樹の実と言い、精神安定と魔術操作向上、更に魔力回復効果があると鑑定結果が出ている。因みにレーヴァテイン(笑)の樹木だ。
味は甘いの一言に尽きる。脳には糖分が必要だからだろうか?
確かに今はリラックス出来ている。挨拶効果と合わさってやる気が漲っている状態だ。
うっしっ、飯を食ったら移動を開始しよう。何時までも立ち止まっていては森の外には出れないからな。
準備を整えた俺は植物達にサヨナラの挨拶を交わしてからその場を後にした。植物達は寂しがり、少々後ろ髪を引かれたが仕方がない。
それから暫く歩き続けると視界の先、木々の向こう側に開けた場所を見つけた。甲高い剣戟の音と怒号の様な叫び声とがその先から聞こえてくる。
「おいおい、どうなってるんだ?誰かが戦っているのか?」
ポツリとつぶやいた独り言に返ってくる返事があった。
『魔物の群れが人間の群れを襲ってるのん。人間には可成り不利な状態だのん。ざっと見ても魔物の数は人間の10倍は下らないのん』
一際高く聳え立つ一本の老木だった。返事が返ってくるのには慣れたが、10倍の魔物の数にはビックリしたわ!
「なっ、そんなにか!人間の人数は何人なんだ?」
『40程だのん』
「10倍、400もいるのかよ大丈夫なのかソレ!」
一人頭10体の化け物を倒さなければならない状態だ。可成りキツイんじゃなかろうか?コソコソと茂みに隠れて様子を窺う。
人間側は全員女性の様だ。戦士?冒険者?軽めの鎧を身に纏っている彼女達だが、キチンと統率が取れている所を見ると騎士様だろうか?今のところ危な気ないように見えるが……。
『今は体力が持っとるけど時間の問題だのんっ。ほい、危ないで君は早く逃げりんよ』
「ありがとよ、だが、アレを見て逃げるのは無理があるな。俺はそれ程薄情にはなれないんだよ。何とか助ける方法はないだろうか?」
俺は一体誰に相談してるんだろうか?……老木です。それはいいや。
『ないのん。人間達に頑張ってもらうしかないのん。アレがコッチに来たら、いやったいからのん』
確かにあんなのが群れで来たら嫌だわ。だが、放っとけないだろ?俺が一人行ったところで何も変わらないのは分かっているが、性分なんだからしょうがないよな!
「俺行くよ」
『そうだのん。早く行かんと追いつかれるで、はよ行きんよ』
「そうじゃなく、コッチ!」
俺は腰の燭台切光忠を抜き戦場目掛けて駆け出した。
『待つのん!』
が、老木からツタのようなものが伸びてきてレーヴァテイン(笑)を持つ左手に絡みつき動きを止められてしまった。
『君が行くならあの人間は助かるのかもしれんのん。ほい、この実を持ってくといいのん。あげるのん』
老木が渡してくれたのは銀色に鈍く光る金属で出来たような自身に実った小さな木の実だった。
「ありがとう。これは?」
『ワシに実った木の実だのん。傷ついた身体を癒してくれるのん。持っていくといいのん』
老木から伸びた蔓から大量の木の実を手渡される。小さな実を両手一杯に貰ってしまった。
「こんなにいいのか?子孫を残すのに必要な物じゃないのか?」
『心配ないのん。ほんの一部だのん。ソレはこれから先も君には必要になるものだのん。大事に使ってほしいのん』
「ああ、ありがとう。大切に使わせてもらうよ。感謝するよ爺さん!」
『ほぅだら、じゃぁ気を付けて行くといいのん』
それじゃあと別れを告げて、いざ戦場へ……。
って、なっ、すげー!
目の前で繰り広げられる魔法の応酬。地球生まれの俺には正にファンタジーな訳で、少々興奮気味に見つめてしまった。
広間を覆いつくす程の化け物の群れ、少女騎士(?)達は懸命に包囲網を破ろうと魔法らしきものを放っている。
火炎放射に氷の槍、雷撃に風撃と多彩な魔法が飛び交っている。炎が化け物を焼き尽くし、氷の槍が貫き、雷撃が動きを止め、風が切り裂く。が、化け物達も黙って殺られている訳ではない。
半透明なシールドの様なものを作り出し、少女達の魔法を防いだり逆に魔法を放つ奴までいる。
飛び交う言葉に耳を傾けると、
「ザラ、そっちにアルミラージ行ったよ!」
「ちょ、止めといてよチェスカ!」
「私に任せて!」
「助かる、アルパ!」
鑑定宝珠によれば、一角兎とは、凡俗級から脅威級の兎型の魔獣種で、例えBランクが相手取ったとしても速力で劣っていれば倒すのは難しい相手なんだそうだ。
ちょこまかと大型犬位の大きさの兎が少女達を翻弄している。大丈夫だろうか。
また、少し離れた場所でも戦闘は行われている。
「結界早く!保たないよ。エルザとイザベラは中心へ!結界の張り直しをお願い!皆二人を守るよ!」
「邪妖精の群れだー!結界急いで————!」
「数が多すぎますわ!数を減らさないと結界が張れませんわよ!」
「ヤ、ヤクラさん!き、来ましたよ!」
ワラワラと増えていく敵の数、現れたのは額に1本、又は2本の角が生えた二足歩行の化け物。
鋭い鉤爪にはどす黒い鎖を持ち、犬や熊に似た頭をした2~3m位のガッチリした体格の化け物だ。
ガサガサッ
っ、バックを取られた!
振り向きざまにレーヴァテイン(笑)を薙ぐと、何かに当たったらしいチョットした手応えを感じた。
…………、、、
ぎゃー、何か肉片が血溜まりに浮かんでるんですけどぉ~!挽肉にしちゃったよぉ~!
よく見たら獣の様な部位が見えるから人ではなかった!よかった、人殺しにはならなかったようだ。
「だ、だれ!」
「また新手ぇ」
しまった。もたもたしてたから警戒されてるな。仕方がないこのまま出てしまおう。
「助太刀する!」
「こんな森になんで人が、貴様何者だ!」
ザラと呼ばれていた少女が訝しっている。
「助かります!お願いします。力を貸して下さい」
アルパと呼ばれた少女は素直だな。
「助力感謝します。結界を張るまで持ちこたえてください!」
「了解した!」
チェスカに短く応え、手近な邪妖精と呼ばれた化け物に突進する。
邪妖精達は反射的に両手に持つ太い鎖をこちらに向かって投げつけてくる。何かの力が働いているのか鎖は不規則な動きをして俺に集中し向かってくる。
「遅い!その程度当たるかよ!」
豚将軍の動きと比べるとてんで遅い。無数に交差する鎖を難なく搔い潜り、レーヴァテイン(笑)を頭上から叩き付ける。
触れた瞬間に邪妖精は爆散し、血の海へと姿を変えた。勢い良く地面を血に染める仲間に一瞬の硬直時間が邪妖精達に生まれた。
チャンスとばかりに近場の奴から始末していく。
よし、俺は戦えている。いや、寧ろ俺は少女達より、あの化け物達よりも動けている。これならいける!
「————嘘だろ!何で棒切れで邪妖精を倒せるんだ⁉」
「何でだろう?敵に対して同情しちゃってるよ、私」
「は、速い!一角兎が翻弄されてるよ!」
「うそっ、堅甲妖亀が一撃って⁉」
「どうなってますの?わたくしの常識が崩れていきますわ!」
少女達の驚きは当然のこと、まだ若いとはいえ訓練を受けた騎士たちが揃って苦戦していた相手をいとも簡単に、それも只の一撃のもとに下しているのだから。
しかし、騎士達の驚きは更なる驚愕へと変わる。Bランクを彷彿とさせる強敵、半巨人すら一撃で倒してしまったからだ。
って、おいおい、コッチを気にしてる場合じゃないだろ!
「動き続けろ!囲まれるぞ!」
こちらを気にしすぎて動きが緩慢になっている少女達に一言声を掛けておく。
正直戦闘に慣れていない俺は、彼女達を気にしながらは戦えない。そっちはそっちで何とかしてくれると助かる。
化け物達もバカではない、動きの鈍った者に狙いを定め襲い掛かっているようだ。何とかカバー出来れば良いが、敵の数が多いので手が回らない。俺には魔法の様な広範囲攻撃がないからな。
「す、すみません。皆、ミネルヴァ様達が戻るまでに片付けるよ!」
「「「おおっ!」」」
よし、皆の動きが戻ったな。
俺は少女達の敷く陣を抜け出し、化け物共の真っ只中に飛び込んでいく。
ワラワラと多種多様な化け物達。やたらと背の高い馬、デカい角を持つ鹿、陰に紛れて移動する狼、やたらと硬い甲羅を持つ亀に長い舌を使い捕食しようとするデカい蛙。昆虫を模った者もいる。総じて言えるのは、皆恐竜かって位デカい!デカいだけで厄介な存在になるというのにな。巨人みたいのもいたな。
更に厄介なのは、先程から空を飛び回り俺達の周り一帯に火炎や氷撃のブレスを吐きまくっている竜の様な化け物だ。地上に降りてくることはなく、明後日の方向に向けてブレスを吐いている。火事にならないのが不思議なくらいだ。老木は大丈夫だろうか?
『大丈夫だのん』、何て声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
上空の竜を警戒していたら少女達から声が掛かった。
「彼らは敵ではありません。我々の仲間です。敵の増援を抑えてくれているのです!攻撃しないでください」
「な、仲間!分かった、竜には手を出さないよ」
どうやらいい奴等らしいから放っておこう。
先ずは目の前の敵に集中しよう。
目に映る化け物達を片っ端から潰していく。左手のレーヴァテイン(笑)でミンチにし、右手の燭台切光忠でなます切りにしていく。
流石レーヴァテイン(笑)の破壊力に光忠の切れ味だ、苦戦することなく敵はその数を減らしていく。
不意に飛んできた火球を反射的にレーヴァテイン(笑)で薙ぎ払ういと呆気なく霧散した。続いて迫りくる大蟷螂の鎌を光忠で受け止める。
俺よりも遥かに上空から振り下ろされる鎌は、スピードがあり重さも十分あったが上手く受け止めることに成功していた。
「ちっ、邪魔だ!」
光忠に力を込め鎌を払い退け、レーヴァテイン(笑)で続く大鎌を打ち据える。
ギシッっと鈍い音と共に砕けたのは化け物の大鎌の方だった。粉砕され、己が肉体の一部が飛散するのを目の当たりにした大蟷螂は一瞬の間、動きを止めてしっまっていた。
チャンスとばかりに間合いに入り、飛び上がり光忠で蟷螂の細い首を斬り飛ばす。呆気なく勝負は着いた。
ホッと一息つく暇すらなく背後から殺気を感じ真横に飛び退く。すると先程立っていた場所にバチバチッと紫電が走り、余波を受けた蟷螂の遺骸を爆散させていた。
「あ、あっぶね」
驚き振り向くと片手をこちらに向けて立つ豚人の姿が見えた。
成る程な、豚将軍とは比べ物にならない程貧弱だ。豚将軍をAランクとするならば、豚人はⅮランクと言ったところだろう。
そう瞬間的に判断し脅威はないと考え、一気に近付こうと足に力を込める。次の瞬間に横から何者かの突撃を受け吹き飛ばされてしまった。
慌てて相手を確認すると、……只の羊だった。
あれ?おかしい、只の羊に見える。何で只の羊がこんな場所で戦闘に参加してんだ?
いや、確かに羊の頭突きは牛に脳震盪を起こさせる時がある程強力らしいけど、……なんだかなぁ。
と、思ってたら、羊がクワッと口を開いた。
「危ない!」
「へ?」
次の瞬間、凄まじい閃光がスパークし俺を襲う。
「うわっ!」
直撃を受けた。恐らく雷撃の類の魔法か何かだろう。直撃を受けピリピリとするがダメージすらない。
ビックリしたなぁ、もぉー!
俺は羊に向かい一陣の風となり肉薄し、光忠で眉間を貫いた。
「ふぇ、雷光羊の電撃を無視ったよ!」
「噓でしょ!難なく魔力障壁を破る威力があるんだよ!」
周りの言葉は無視して、棒立ちしている先程の豚人を続けて斬り裂く。
くそっ、数は減ってはきているが、まだまだいるな。やはり魔法の殲滅力が欲しいところだ。
少女達も頑張ってはいるようだ。怪我人はいるが死者は出ていない。
しかし、このままでは犠牲者が出かねない。そもそもこいつ等はなんで襲ってきてんだよ!こう種族がバラバラだと誰かが纏め上げ指揮しているんじゃないのか?
そう思い辺りを見渡すと、いたっ!一際強い気を放つ個体を見つけた。
そいつは身長2m位の筋骨隆々としたゴツイ身体、浅黒い肌には鎧を着けておらず、腰にボロキレを巻き、大きな幅広の大剣を持っている。そして額を突き抜け天を仰ぐ鋭く尖った二本の角。鬼だろうか?
今までの相手とは一線を画する存在感、それだけで人を殺せそうな殺気を放っている。豚将軍を彷彿とさせる存在だが、それ以上のプレッシャーを感じている。
それでいて存在を今の今まで気付かせない隠匿術は見事の一言だ。
「な、いつの間に鬼悪魔がっ!」
「そんなっ、最低でもA級の厄災級、下手したら天災級に届いてても不思議じゃない相手だよ!」
「不味い、私達も加勢しないと!」
強敵の出現により浮足立つ騎士達、その隙を突こうと突撃を繰り返す魔物達に苦戦を強いられる。
目の前の敵に落ち着いて対応出来れば問題なく対処できる相手だ。そんな相手に苦戦する己を恥じ入り歯噛みする少女達。
「やれやれ、仕方がない。こっちは俺一人で十分だ。君達は目の前の敵に集中してくれ!」
「で、でもぉ」
「コイツは任された!」
有無を言わさず少女達を黙らせ眼前の敵に向かって駆け出す。
「鬼悪魔と言ったか、鬼なのか悪魔なのか知らないが、ここでキッチリ殺してやるよ!」
「フッ、威勢の良い小僧だ。来るが良い、少し揉んでやる」
ここは俺の持つ最強の武器であるレーヴァテイン(笑)で一気に方を付けてやる。
俺の間合いに入り、レーヴァテイン(笑)を振り抜くと、鬼悪魔は大剣を盾にして防御の体勢を取る。
ガシッと鈍い音がして俺の攻撃は呆気なく受け止められてしまった。
嘘だろ!攻撃+12000のレーヴァテイン(笑)が受け止められただと!
「おい小僧、まさかその程度ではあるまいな。本気で来るが良い、さもなくば遊ぶ価値すらないぞ」
「ちっ!」
慌てて飛び退く。まさか勢いの乗ったレーヴァテイン(笑)が防がれるとは思っていなかった。が、そんなこともあるさ。
めげずに攻めていこう。奴に攻撃させてはならないと直感が働いている。
右に左に、上から下へとレーヴァテイン(笑)と光忠の二刀で攻撃を繰り返す。
奴の大剣に悉く遮られるが、それでも手数を減らさない。正面から突き、背後に回り薙ぐ。それでも防がれ、やけっぱちで左足に回し蹴りを叩き込んだ。
「ぬぅう」
あれ?蹴りが効いたようだ。
って、今がチャンス!
レーヴァテイン(笑)を持ち上げ奴の脳天目掛け唐竹割り。
確りと防がれたが奴に片膝を突かせることに成功した。
奴の頸が目の前に!
一気に光忠を使い右薙で頸を狙う。
「小賢しい『ヴァィアラント・フューリー!』、吹き飛べ小僧!」
な、魔法!(後で聞いた話だが、今までのは魔法ではなく魔術、化け物ではなく魔物と言うらしい)
奴の言葉に応じて魔術が放たれる。
凄まじい悪寒が全身を駆け巡る。が、対応が遅れることはなかった。
光忠のスキル【反射速度向上】が働いているのかもしれない。
俺は嫌な予感に突き動かされ、咄嗟に距離を取り玉龍鬣の外套を羽織り身を屈め丸くなる。
刹那、荒れ狂う暴風が辺りを襲う。
地面を砕き舞い上がらせ、更に破壊し粉砕していく。
同時に、仲間の筈の魔物達まで巻き上げ、吹き飛ばし、また引き千切り、辺りに血の霧を生成していく。が、その血霧すらも暴風により吹き飛ばされていく。
「きゃあ!」
「皆、魔力障壁を全力で張って!」
「早く!間に合わないよ」
遠くで少女達の叫び声が聞こえた。可成り広範囲に渡って魔術が効果を発揮しているらしい。
俺にはレーヴァテイン(笑)と玉龍鬣の外套がある。
この二つには高い魔力抵抗が備わっている為、傷一つなく難を逃れることが出来た。
少女達の方を見れば、半透明なドームに包まれ難を逃れたようだ。ふぅ、一安心だ。
「ほぉ、耐えたか。では、これではどうだ?『インフェルノ・ディストラクション!』」
ちっ、術式構築が矢鱈と早い!
今度は奴を中心に、荒れ狂う炎が破壊をもたらす。
今度は炎かよ!って、熱くないな。きっと、魔力抵抗に加え玉龍鬣の【体温調節】が働いているのだろう。これまた無傷だった。
先程の魔術よりも範囲は短いが、威力は大きいようだ。少女達とは多少距離が在る為、直撃を免れている。
鬼悪魔は俺には魔術が効かないことを悟ったようで、大剣を構えこちらに向かって駆けてきた。
奴の速度は豚将軍を上回る。
一瞬で肉薄され振るわれる大剣を、今度は俺がレーヴァテイン(笑)で受け止めた。
「ほう、これすら受け止めるか。では、『フレイム・エンチャント!』」
突如大剣が炎に包まれ、腕に掛かる重圧が一気に跳ね上がった。
「な、何だよそれ、反則だろ!」
「甘いことを言う、勝負とはそう言うものだよ!」
「がはっ」
鍔迫り合いに持ち込み競っていると、奴は不意に蹴りを放ってきやがった。
腹部に伝わる衝撃、後方に大きく後退する。
大した痛みは感じないが、肺に溜まった酸素を吐き出し僅かな硬直時間を作ってしまった。
その僅かな時間を無駄にするような相手ではない。
気付けば奴の大剣が眼前に迫っていた。
「!!!」
やべっ!避けられない!
少しでもダメージを小さくする為に可能な限り身をよじる。
————ボフッ!!!
よじった身体の左肩に、奴の大剣が直撃する……、瞬間に赤い爆発が鬼悪魔の顔面を捉えていた。
気を逸らせる為だけの軽い爆発、しかし鬼悪魔の大剣から逃れるには十分な時間を与えてくれた。
少女達の方を振り返れば、チェスカの片腕がこちらに向かって掲げられていた。
周りの魔物達が鬼悪魔の魔術により一掃された為、こちらを気遣う余裕が生まれ、低威力ではあるが速射可能な魔術で援護をしてくれたようだ。
「助かった!礼を言う!」
「いえ、お気になさらず!」
一声かけ、光忠を納刀し鬼悪魔に向かって大きく跳躍、頭上をとる。
……そんなつもりはなかったんだが、想像以上に高く跳び上がってしまった。その高さ凡そ5m。しまったな、こんな高く跳べば隙がデカすぎるだろ!
案の定、鬼悪魔はニヤリと嫌な笑みを浮かべると『ファイアボール』と一言唱えた。
打ち出された火球は人を呑み込む程大きい。それ程の規模の火球、空中では上手く躱せない。
が、今の俺の魔力抵抗値はレーヴァテイン(笑)の+12000と玉龍鬣の+4700の計+16700もあるのだ。
さっきの魔術も無傷だったんだ、先の魔術よりこの火球が高威力とは思えない。大丈夫だろう。
……コレは油断だったのだろうか?
ファイアボールを無視し、レーヴァテイン(笑)を振り上げ自由落下に任せ、そのまま突っ込み振り下ろす。それだけの筈だったんだが……。
「————————————————!!!」
「きゃああああぁぁぁぁ!!!」
気付けば俺の脇腹は大きく抉られ大量出血。ファイアボールの陰に隠れて大剣が飛来してきたのだ。
気付かず突っ込んだ間抜けな俺は、まともに大剣を脇腹に喰らってしまった訳だ。
鬼悪魔の全力の投擲だったようで奴も肩で息をしている。
この世界に来て初めての明確な痛みを感じている。これまでダメージらしいダメージを受けてこなかったんだ。
心臓が爆ぜている。指を動かすだけでも生命力が奪われていくのが分かる。生きていくのに必要不可欠な何かが、一切合切零れ落ちていく。
このまま死んでしまうのだろうか?そんな想いが頭を掠めた時。
何もすることも出来ずにドサリと地面に落下し動けずにいる俺を、鬼悪魔はニヤニヤしながら眺める姿が視界に映ったのだ。
あの面見てるだだけでムカついてくる!腹を抉られたのはこの際仕方がない。戦場で油断した俺のミスだ。だが、敵とはいえ傷つき倒れる者をニヤニヤ見つめる奴は許せない。
怒りの感情に突き動かされ、意識が吹き飛びそうな痛みを堪え、俺は収納環に仕舞っておいた老木の爺さんから貰った銀色の木の実を一つ取り出し口に放り込んだ。
「こんなものか?もう少しやれる奴だと思ったが……。小僧、思ったよりも面白くなかっ————!っな、き、貴様ぁ!何をした!!!」
老木の爺さんから貰った大量の実の正体は《覚醒の実》と言い、食した瞬間に遺伝子を読み解き、肉体のピーク時に再構築し直し、更に眠っている筈の潜在能力を一時的にではあるが目覚めさせるという反則的な魔法の実だった。
覚醒の実を食した今の俺には一切怪我は無く、力が漲っている状態だ。
力を漲らせ勢い良く立ち上がる俺に、鬼悪魔が驚愕の表情をみせる。
ふん、さっきのニヤケ面がもう崩れてるぜ!
「ば、バカな!それは————!き、貴様何者だ!何故神気を纏っている!!!貴様ぁ、何をした!!!」
「は?何言ってんだお前。訳の分からんこと言ってないで第二ラウンドといこうぜ」
「貴様こそ何をいっている!自分が何者かも分からんのか!!!神気を纏うということは————」
「うっせぇ、行くぞオラー!」
ちょいと自が出たが構うものか!
落下の際に手放してしまったレーヴァテイン(笑)の代わりに、再び燭台切光忠を抜く。
光忠には【悪鬼撃滅】のスキルが在る為奴を倒すにはちょうどいい。
悪鬼撃滅を意識して正眼の構えをとると、光忠が力強く光り輝き出した。
その光は敵の目を焼き、奴の動きを完全に止めてくれた。
うっし、これならいける!と、接近する。
よく小説なんかでは、速さを表す時に一陣の風と表現することがあるが、そんなものではなかった。
俺は光の速度、すなわち秒速29万9792.458㎞を凌駕する速度で奴の前に立っていた。
傍から見たら瞬間移動したように見えただろう。気付けば光忠を右薙に振るっていた。
あれ?空ぶった?って思う程手応えがなかった。
手応えはなかったが、鬼悪魔は無言のままその場で崩れ落ちていった。
「やった——!」「すごい!倒しちゃったよ——!」「終わったぁ——!」
なんて黄色い声が耳に届いてきた。
取り敢えず、少女達は放っておいて鬼悪魔を観察してみる。
遺体は上半身と下半身に別れ完全に事切れていることを確認する。もう、コイツからは生気を感じない。これで漸く戦いは終わったんだ。
手放してしまったレーヴァテイン(笑)を拾い、小箱ちゃんに仕舞っておく。
「ふぅ、何とかなったか。他の化け物も、もういないな」
俺の独り言に応える声があった。
「お疲れ様です。お陰様で誰一人欠くことなく終わらせることが出来ました。本当にありがとうございました」
いつの間にか少女達が俺の周りに集まって来てワイワイと騒いでいる。
「いや、通りがかっただけだから気にしないでくれ。それより死者が出なかったのは何よりだよ。怪我人はいるのか?回復用の木の実が有るけど、幾つほしい?」
「いえ、そこまでして貰う訳にはいきません。自前の回復薬が有りますので、どうか気になさらず。さて、立ち話も何ですので我々の天幕で一休みしながら話をしませんか?皆も話をしたくてウズウズしているようですし……」
「ああ、構わないよ。案内してくれるかい」
「はい!」
って訳で漸く休めるな。実は俺は覚醒の実の影響で全く疲れていないんだけど、彼女達をこのまま立たしておくのは忍びない。話があるなら天幕で休みながらがいいだろう。
そんなこんなで俺達はしばしの休憩をとることになったのだ。




