思わぬ助っ人
「アポロ様の所まで急げ!間に合うか!間に合ってくれぇ―!」
ギルティアラから逃れる帝国軍は、アポロの元まで急いでいた。
真後ろでは蜘蛛にやられる兵士達の悲鳴が木霊している。
「くそっ、あと少しだというのに!どうしてこうなった!?」
「た、隊長!蜘蛛の化け物共がてっ、撤退していきます!」
帝国軍を追っていた蜘蛛の魔物ギルティアラが突如として方向転換し、元の場所へと戻っていく。
これはギルティアラがジャックの存在に気付き、より脅威となる存在へと向きを変えたためである。が、
「何だとっ!どうなっている?奴等の目的はなんだったんだ?縄張りを護った?いや、あそこが奴等の縄張りだとしたら王国軍も狙われる筈だ。一体何だったのだ?」
「報告します!先程の場所にて、より巨大な生体反応を感知しました!」
「はぁあぁ、より巨大な生体反応だと?それに反応して向きを変えたのか?」
「どうされますか?もしかするとマーズ様なのかも知れません。態勢を整えて追いますか?」
「……いや、このままアポロ様と合流する。マーズ様とてSランクより巨大な生体反応は感知されまい。たとえそうであったとしても我々が加わったところで足を引っ張るだけだ。あれはどうにもならん」
事実を知る由もない帝国兵には疑問に思うばかりだった。取り敢えず騎士の下した判断は正解だったと言えるだろう。
一方その頃、王国軍は無謀にもジャックに群がり薙ぎ倒されていた。
「ちっ、近付けもしないのですか!」
陣頭指揮を取る第四兵団団長ヘルロスは焦る。兵団長の力をもってしても槍が届く間合いにすら入ることが出来ない。
ジャックが振るう剣圧、それだけで近付く者が薙ぎ倒されるからだ。
只の一振りが数十名の味方の命を奪っていく。それでいて、ジャックは本気を出していないのだと分かる程に手を抜いていた。
「くっ、魔術師部隊、放てぇ————!」
号令と共に無数のファイアボールがジャック目掛けて放たれる。
それは次々にジャックの身体に着弾し、爆発を引き起こしていく。
爆炎が巻き起こり舞い上がる黒煙が一時的に視界を遮る。
だが、その爆炎の中ジャックから放たれるプレッシャーは微塵も衰えることなく、寧ろ増していくようだった。
その事実に気付いたヘルロスの精神はガシガシと削り取られていく。
「この爆炎の中で、奴は無事だと言うのですか!?こんな化け物をどうしろと言うのです!」
このままでは勝てないと分かってはいるが、攻撃の手をを緩めるという考えには至らない。
恐るべきはジャックの宿す加護【獸王之憤怒】だ。この期に及んですら撤退を考えられない。
魔術の連弾が終わり、視界が晴れていくに連れて背筋に嫌な汗をかいていく。
突如、薄らいできた黒煙に由る視界が、キラリと輝る光と共に綺麗に開ける。
同時に最前に立つ兵士達が爆散した。悲鳴を上げる暇すらなく血肉を撒き散らす。
一瞬輝る剣の輝き、————それだけで多くの兵士の命が散ることとなる。
それが何度も、何度も……。
「なっ!なっ!何故です!何故それ程の力が我等に向かってくるのです!?」
気付けばヘルロスの前には誰一人味方の兵士が居なくなっていた。
手も足も出ない相手を前に呼吸すら困難になるが、それでも歯を食いしばり相手を睨みつける。
相も変わらずジャックの兜の面は笑っているように見える。それを見たヘルロスは絶望を予感する。
絶望に膝を落とすヘルロス。そのヘルロスに向かってジャックが一歩踏み出した時だった。
「————させないよ!」
ヘルロスの目の前に、一人の女性が舞い降りて来た!
ショートボブの黒髪、酷く肌が白く華奢な低身長の、女性と言うには幼さが残る少女キララだ。
彼女は元は高校生だったが、異世界召喚によりこの世界に呼ばれて来た。この世界では高校生は成人とされ、歴としたレデェーだ。
「なっ、レ、レディー、私の前に立つのは危険です。下がりなさい!」
「黒いのの相手は私がするよ。貴方達は殿下を連れて逃げて下さい」
「何を馬鹿な事をっ!アレがどの様な存在なのか分かっているのですか!?」
そこへ遅れてやってきたセシャトが説明する。
「ヘルロス様、彼女は我々の仲間です。彼女の実力は保証します。私達が時間を稼いでいる間に殿下を連れて撤退してください!殿下が逃げおおせれば、私達も撤退します。王都の結界なら奴の攻めも防げましょう」
「しかし……、アレを倒さない事には国の存亡が……」
「このまま全滅となれば、この戦に勝ったところで立ち行かなくなります。どうか、ここは退いてください!殿下をこのまま死なせる訳にはいきません!」
「くつ、女性に後を任せるのは気が引けますが、致し方ありませんね。出来れば貴女方に殿下をお任せしたくありますが、我々では奴の足止めは不可能、此処は貴女方に望みを託します。どうか無事で————!」
そう言ってヘルロスは部下達を連れてマルスの居る後方へと下がっていった。
キララが近くに居るために、ジャックの加護の威力が衰え、思考もハッキリとした結果だった。
セシャトの隣にマァートとルナが降り立ちため息交じりに言う。
「ふぅ、素直に行ってくれたな。このまま居座られたら足手纏いになるからな。エペウス様なら確実に残ってたよな」
「ええ、そうね。ヘルロス様一人なら力にもなりますけど、一般兵では足手纏いですから素直に退いてくれて助かります」
「ええー、でもでも、アレの相手は多い方が良くない~?」
「それは有りません。規格外の相手に雑兵では盾の役割も出来ません。私達は兵を護ることに手を取られ思う様に動きが取れなくなるでしょう」
「う~ん、そうだよねぇ。無駄に死なせられないよね」
そんな会話をしている最中にキララが動いた。
人知を超える速度で一直線にジャックに向かう。
握る剣に冷気を纏わせた一撃を横一文字に薙ぐ。
しかし、ジャックの放った蹴りが剣の軌道を掻い潜りキララの腹部に突き刺さる。
呻き声を漏らし吹き飛ばされるキララだが、両足で大地を掴み長く伸びる二本の線を引きながら止まる。
「流石に一筋縄じゃいかないかな?」
「お前からはあの男の匂いがするぞ!」
キララにとって大したダメージではなかったが、仕留めるつもりで放った攻撃は見事に躱され反撃までされてしまった。
そこに龍から降りたトモエがジャック目掛けて魔術を放つ。
「援護します。『ダークネス・フィア』!」
人を丸呑みにする程の大きさの、漆黒に染まった球体がジャックを襲う。と、同時に別方向からピートゥリアの雷咆が後を追う。
ジャックは黒球目掛けて剣を振り、見事に分断する。続く雷撃をその身に受けるが何事もないようにキララに向かって突進した。
黒球は二つに別れジャックの後方へ、雷撃はバチバチと身体に帯電し、やがて消えた。
「邪魔をするな————!あの男の痕跡を全て消し去ってやるー!」
吠えるジャックをキララが迎え撃つ。
お互い間合いの外、何も無い空間で剣を振るう。
双方が振るう剣筋から尋常ならざる剣圧が生まれ、それは互いに向かい合いそして衝突する。
凄まじい衝撃波を伴い相殺し合う剣圧だが、打ち勝ったのはジャックの放った剣圧だった。
相殺しきれなかた剣圧がキララを舞い上げる様に吹き飛ばす。
「「「キララさん!」」」
吹き飛ばされるキララを見て悲鳴が上がる。
その時動いたのはマァートだった。
「ちっ、これでも喰らいやがれぇー!『タワー・オブ・ザ・サン』!」
先にジャックがエナスから受けたナパーム弾とは桁違いの、4800度の超高温で創り上げられる太陽の塔。
しかし、崩狐すら倒せなかった魔術が今のジャックに効く筈もなく、一瞬の煌きの後に霧散してしまう。
「『ダーク・ジャベリン』!」
「『ウィンド・カッター』!」
「『ハール・ギロティナ』!」
マァートの魔術が破られた瞬間、透かさずトモエ、ルナ、セシャトが無防備となったキララとマァートの隙を埋めるかのように闇の槍、風の刃、死神の鎌を生み出しジャックを攻撃する。
ジャックは先ず、闇の槍を同じく闇の槍で相殺、続く風の刃を素早く躱し、最後に幻視する死神の鎌を剣で迎え撃った。
鎌と剣は激しくぶつかり合い、消魂しい音を響かせ互いの武器を破壊した。
古竜騎士団の面々はこれを好機と捉え一斉にジャックに向けて跳びかかる。
「ダメッ!」
キララが鋭く叫ぶ。
ジャックには、否、テュポーンの欠片には神魂器が存在する。手持ちの武器が無くなれば当然神魂器を使用するだろう。
嘗てフヅキが倒してはいるが、神魂器は不滅だ。神魂器を出されれば勝ち目は無い。キララの使い手であるフヅキがこの場に居るなら話は別だが、今はいない。
キララの静止は間に合わない。
セシャト、マァート、ルナ、トモエの四人が跳びかかった瞬間の不自然な体勢でピタリと動かなくなった。まるで彫像のように固まってしまったのだ。
「くっ、これは……、まさか魔法!」
「ちぃ、こいつは魔法まで使うのかよっ!くそっ、動けない!動けっ、動けってよっ!」
「ダ、ダメッ!動けないよ!」
運が良かったと言えるだろう。ジャックは神魂器を使うのではなく魔法を使い動きを封じただけだった。
「ま、まさか、何の祈りもなく魔法を行使するとは……」
人が魔法を使う際には信仰する神へ祈りを捧げ神気を受け取ることになる。だが、ジャックには一切祈りの気配がなかった。ジャックは祈ることすらなく、タイムラグなしに魔法を行使できることになる。
完全に動きを封じられ無防備となった古竜騎士団に向かって、再び魔法を使おうと右手を待ちあげるジャック。
————そして放たれる破壊の波動。
純粋に破壊だけを求めた波動は、如何なる防御も突き破り対象を破壊する。
放たれれば最後、狙われたものは逃げる事も出来ずに全てが終わる無慈悲なる力、そのように決められた力。
「————主よ、護り給え!」
キララの短い祈り。
それは彼女自らが仕える冥神プルートへの、仲間の命を救う為の願い。
願いはフヅキではなく、本体の冥界へと流れ力を分け与えてくれる。
膨大な神気がキララに流れ込み彼女の願いが形となる。
それは神が確約した破壊に対抗し得る絶対的な護りの力。
破壊が約束された力に、如何なる攻撃も防ぎきる力。
不可視の力は、同じく不可視の力とぶつかり合いその場に巨大な力場を生み出した。
冥神プルートの護りの力と、獣神テュポーンの欠片が創り出した破壊の力が拮抗し、消える事無く巨大な力場となったのだ。爆ぜれば最後、ジャックを含めこの場の誰にも耐えられない程の力の塊と化していた。
「おいおい、大丈夫なのかよこれっ!?」
「だ、大丈夫じゃないと思うぅ~」
「自由が戻りました!皆、退避しますよ!」
身体の自由を取り戻した古竜騎士団が一斉に動き出す。
だが、そこでトモエがピタリと止まり後ろを振り返り言う。
「皆さんは急ぎ避難して下さい!あの力場は魔法を使える者でしか処理出来ません。アレが弾けた時の衝撃は想像を絶するでしょう。私が殿を務めアレを出来る限り抑えます。その間に出来るだけ遠くへ距離を取って下さい!」
二柱が造り出した力場は並みの魔法では止められない。
その力場を造り出した二人は、今は接近戦に持ち込んでいる。キララが皆を逃すための時間稼ぎをしているのだ。
ジャックの両手には既にメリケンサックが握られていた。
トモエにはメリケンサックの性能が分らなかったが、不気味な気配だけは感じ取れていた。
急がねば、と皆を急かす。
「さあ、今の内に早く!」
「分かりました。でも、トモエも早く来てくださいね」
セシャトがトモエを心配して声を掛ける。一つ間違えれば、間違いなく死へと直結する力場の処理を任せることになる。
「トモエ、死ぬなよ!この件が終わったら一杯奢らせてくれよな!」
「ええ、楽しみにしています」
「でも、でもぉ、トモエとキララだけを残して行けないよぉ~」
「私達は大丈夫です、ルナ。直ぐに後を追いますから。さあ、早く行って下さい、時間は余り有りません」
「う、うん、でも、後で必ず来てよ!」
「勿論です!」
三人を見送るトモエが力場へと視線を移す。その近くでは今も激しく剣を振り、冷気を撒くキララの姿が視界に映る。
このまま力場が爆ぜることになればキララとて只では済まないだろう。
そうはさせない、と信仰する神へと祈りを捧げるトモエ。
並みの神を経由した魔法ではあの力場は処理できない。しかし、トモエが信仰する神は名の知られた上位に位置する神の一柱だ。
————天神地祇の名の元、死して尚統べる王
トモエの信仰は黄泉津大神、プルートと同じく冥神の一柱。
元を糺せば国産み、神産みの神、伊邪那美命。
彼女は伊邪那岐命と共に天の浮き橋から天沼鉾を使い日本を形造ったと言われている。
————魔魅祓う鉾、その鋒に触れし混沌を御し
莫大なエネルギーがトモエの内部に入り込んでくる。トモエが扱えるキャパを優に超える程の神気を制御しきれなければならない。もし、制御に失敗しようものなら、トモエは肉体はおろか魂の一片も残さず消滅することになるだろう。
トモエの根源内部で凄まじい力が暴れ回り、その力は肉体にまで影響を及ぼし始める。
身体の彼方此方の皮膚が裂け血が滲み、口の内部に鉄の味を感じる。
————不形なるものに形を与え、我が前の脅威を退け給え
既に空間を歪める程の影響を力場は生んでいた。
トモエが力場に向い血に塗れた両手を持ち上げる。
トモエの祈りの終わりと共に前方に単調だが美しい、鉾が宙に浮かび現れる。
鉾の切先はピタリと力場を捉え、
————天魔返戈!
最後の真名と共に射出された。
その速度は刹那を優に上回り速く、光と化して力場に突き刺さった。
鉾は力場へと侵入すると同時に力場に形を与え始める。
それは眩い光を放ちながら形を変えていく。それは一匹の小さな子猫、三柱の神の力を元にして産れた子猫だった。
「はぁはぁ、な、なんとかせ、成功しましたか……」
力を使い果たしたトモエがその場に膝を突く。
先程産れた子猫に視線を移すが、子猫はピクリとも動くことなくその場に横たわっている。
トモエの力では形を創る事は出来ても、命を産み出す事が出来なかったのだ。
それでもその場に放って置く事が出来ず、子猫の場所へと移動しようと脚に力を入れる。
「トモエさん、助かったよ。今の凄い魔法だったね。でも、トモエさんも早く皆の所へ避難してっ!」
「あ、あの子を連れて行きたいのです。私が産み落とした様なものですから……」
心配したキララがトモエの元まで駆けつけて来た。
ジャックには疑似生命体とも言える光球を魔法で創り出し相手をさせていた。
退避を促すが、そうもいかないようだ。
「分かった。私が黒いのの相手をしている間に子猫を連れてピートゥリアと逃げて。でも長くは持たないかも知れないから出来るだけ早くお願いね」
そう言ってキララは再びジャックの元まで駆けだした。
創り出した光球は既に無く、ラードーンでの猛攻を何とか凌ぐが、無数に繰り出される拳を剣で受け止め、又受け流す度に剣を砕かれ、その都度新たな剣を創り出すこととなった。
「ですがキララさんは!」
「私は大丈夫だから早くぅっ!」
ギリギリの攻防、そこへ第三者が介入すればどうなるか分からない。
今はまだ欠片の力が不完全のため何とかなっているに過ぎない。
「くぅ————!」
「キララさん!」
曲がりなりにも持ちこたえているのが奇跡だと言える程にキララは劣勢だった。
トモエは逡巡する。このまま退けばキララの命は確実に奪われるだろう。しかし、今のトモエが加わったところで事態が好転するとも思えなかった。
いっそこのままピートゥリアに乗せて逃げようか?とも考えたが、恐らくは無理だろう。せめてミネルヴァが居ればとも考えるが、今は居ない。
どん詰まりの八方塞り。どうすれば良いのか分からず動けずにいるトモエだったが、そこへ予期せぬ援軍が現れた!
ワラワラと現れた黒き一群、蜘蛛の魔物ギルティアラが戻って来たのだ。
ボール大の子蜘蛛達が一塊となってジャックの身体に纏わりつく。
「アレは先程の蜘蛛の魔物ではないですか!」
「何で私達の見方をしてくれているの?」
キララは一度ジャックから距離を取り、様子を窺いながら疑問を口にする。
なんの理由もなく魔物が人の味方をするとは考えにくい。生活圏の違う蜘蛛の魔物にとって、人とは関わり合いの無い存在。
エルフの様に森で共存する関係なら分からなくもないが、街や村で生活する人との関わり合いは皆無に等しい。そんな魔物がインペラートル王国軍に味方する理由が分からなかった。
「ですが、今が好機ですね!」
トモエはピートゥリアを呼び寄せその背に乗ると、一直線に子猫の場所へと飛翔した。
「がぁ————!邪魔をするなあぁ————!!!」
吠えるジャックが強烈な衝撃波を放出し、自らの身体に纏わりつく蜘蛛を一瞬で消し去ってしまった。
鬱陶しくもじゃれ付く蜘蛛を追い払ったジャックの視界に、空を翔けるヒョロヒョロと長細い物体が映る。
ジャックは視界の端に映るその物体、ピートゥリアを排除しようとラードーンを向ける。
「させないよ!」
構えられた拳をキララが斬り上げる。
甲高い金属音を奏で腕が跳ね上がるが、その余波はピートゥリアの元まで届いてしまっていた。
直撃ではないにしろ神魂器に由る一撃、一人と一体は悲鳴を上げ地上へと地響きを立て落下した。
そこへ巨体を誇る二体のギルティアラが駆けつけジャックを拘束しようと糸を飛ばす。
黒の巨体のギルティアラが放つ糸は【腐食】のスキルを宿し、対して白の巨体の方は【凍結】のスキルが宿している。この二つが調和し一つとなり、絡め捕ったモノを凍らせ同時に腐食させる【腐食凍糸】という名のユニークスキルへと変化していた。
何本もの蜘蛛の糸がジャックの身体に絡みつき、徐々に凍結し腐食ダメージを加えていく。
絡め捕られ動きを封じられたジャックに、これぞ幸いとキララが渾身の一撃を放つ。
「神様ぁー、私に力を!————デスサイズ!!!」
死神の鎌の名を冠し、命を刈り取る願いを込めた魔法を剣に宿しジャックを斬りつける。
効果は絶大、ジャックの黒い鎧に深々とした傷を付ける事に成功した。これが只の人なら致命傷になっていただろう。
続け様に何度も繰り返し斬り刻むように剣を振るうキララ。ここで終わらせなければと力を振り絞る。
その間にギルティアラがブレスの予備動作に移っていた。
「ぐがあぁぁぁ————!あの男の力で俺に何をしたあぁ————————!!!」
傷のダメージを気にしていないのか、憤怒するジャックが暴れ出す。
既にジャック本人の意志は薄れているのか、彼の内部はフヅキに対する怒りで満ちていた。
蜘蛛の糸は既にキララの攻撃で斬られている。
自由になった両腕でラードーンを振り回すジャック。
そこへギルティアラのブレスが炸裂する。
元は只の人間だったギルティアラだが、今は歴としたSランクモンスター。
今は神の力の欠片をその身に宿すジャックだが、強者だったとはゆえ元は只の人間。
ブレスに曝され、徐々に鎧が削られていく。
「ぐうがぁああぁぁぁぁ————————————!!!」
肉体を削られる痛みに堪らずに絶叫するジャックだが、
「あああぁぁぁぁ————ぅぅうおおおぉぉぉぉぉぉ————————————!!!」
絶叫は何時しか気合と変わり、ブレスを弾き飛ばしてしまった。
「この身に宿る怒りの炎を、貴様等の命で消してくれる!」
ジャックが両腕に力を籠め、神気を増幅させていく。
「先ずは貴様からだっ!」
ジャックが狙ったのは白蜘蛛のギルティアラだった。
迫るジャックの前に、白蜘蛛を庇う様に黒蜘蛛が割って入った。蜘蛛は懸命に蜘蛛糸を飛ばすが、ジャックが放出する神気によって消し飛ばされてしまう。
ジャックの拳が黒蜘蛛に向かって振るわれるが、その間に白い腕が差し出された。
「これ以上は誰も死なせない!」
その腕に握られた純白の柄に白銀の刃を持つ剣。その美しい剣はラードーンとぶつかり合うと、凄まじい衝撃を生んだ。
衝撃によりその場に居た全ての者が巻き込まれ吹き飛ばされることとなった。
いつの間にか子蜘蛛は居なくなっていた。親蜘蛛によって退避させられていた。
その親蜘蛛二体は衝撃により後方へと飛ばされ、残りの二人は衝撃の中で激しく渡り合っている。
劣勢なのはキララだ。
彼女は身体の至る所に傷を負いながらも、右へ左へと剣を振るい何とか持ち堪えていた。が、ついには殴られ吹き飛ばされる。
地面をゴロゴロと転がりながら地面を赤く染めることとなった。
力なく倒れるキララに、トドメとばかりに力をタメ、渾身の一撃を繰り出そうと拳を振り上げるジャック。
しかし、結果的に拳は振るわれる事はなかった。
何故ならジャックの眉間に、蒼き神槍が深々と突き刺ささることとなるからだ。




