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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
ヴァンチトーレ帝国の脅威
40/66

隣国へ

 ここは王都より南西、灼熱谷より北に位置する余りにも広大すぎる荒野のど真ん中。

 ここで、王国と帝国との激しい戦いが繰り広げられていた。

 荒ぶる兵士達の怒号が飛び交い、と同時に悲鳴が響き渡る。

 剣戟の音、踏み鳴らす足音、魔術の轟音がそれらを上回る音量で戦地を駆け巡る。

 大地は血と死肉で覆われ足の踏み場に困る程、見渡す限りが地獄絵図の様相。気の弱い者が見たら即座に気を失う事だろう。


 現在この場に集まる王国兵の人数は、第三、第四、第五、第六の四兵団にもなるが、既にその人数は十万を割っていた。対して帝国兵は次々と増援され、今では30万を優に超えている。

 王国軍には勝ち目は無く、このままでは全滅すら視野に入れなくてはならない状況。

 逸早く撤退するべきだが、この様な状態でマルス率いる第一、第二兵団が加わった。人数が増えた為に小回りが利かずに撤退出来ないでいたのだ。


 第一、第二兵団の数は数万、それだけの数が加われば通常の戦でなら大いに助かる。が、今回はそうではなかった。

 この戦いで数万の兵士が増えたところで情勢は変わらない。寧ろ、被害が拡大するだけとも言える。

 更に、これ以上の援軍は見込まれない事を知る兵士達から絶望する気配すら漂ってくる。


 この戦いは撤退が前提にある。逸早く撤退しなくてはならない状況下でスクディアもマルスも撤退の指示を出さないでいた。

 撤退にはベストなタイミングを見計らう必要がある。早すぎれば背後を取られ、遅ければ敵兵を釣る事は出来ないだろう。故にタイミングが重要なのだ。


 僅かな時間でも帝国兵を足止め出来れば撤退命令を指示できるが現状では難しい。

 帝国兵は王国兵より大規模にも関わらず連携が取れていた。一人一人の動きが洗練された動きを見せている。

 王国の軍には、それ程の熟練した動きが出来ない。今まで敵となり得る国は隣国のコダユーリオン王国しか想定されていなかった。コダユーリオン王国の戦力はインペラートル王国とほぼ互角、その為にそこまでの練度を必要とされなかったのだ。

 決して訓練を怠った訳ではなく、同レベルの敵を想定していた為により大国である帝国に対抗策が見いだせないでいるのだ。

 ぶっつけ本番での大国との戦だ、命令のタイミングが取れないのは頷けるものだった。

 それでも、大地に横たわる者達の数には大差がない。敵の数を考慮すると頂けないが、それでも互角にやり合っているのはこの作戦を失敗したら後がない事を皆が理解しているからだろう。


「左翼前進!敵を囲い込めぇー!」

「本陣一歩後退!敵を誘い込めっ!」

「距離を取れ!魔術師部隊は後方を蹴散らせ!イナンナの奴等の足を止めろ!」

「魔術師を護れ!敵を近付けさせるなよ!」


 各隊長クラスの騎士達から指示が飛ぶ、まだまだ戦は終わらない。


 突然だが、この世界には魔術が存在する。実質、戦を方向付けるのは魔術師達だと言っても過言ではない。その為に魔術師の動向が勝敗の鍵となる。

 魔術師の攻撃魔術、それを敵に中てる為の搦め手としての魔術、それを防ぐ為の魔術、攻撃を防ぐ護りの魔術。互角の戦力ならば、先に魔術を受けた方が戦局を悪くする。だがこの戦、端から勝敗の視えている程の戦力差がある。魔術師云々の話では無くなっているのだ。


 しかし、その状況を覆せる可能性を秘めた者達が空に居たのだ。そう、古竜騎士団だ。

 彼女達は極めて機敏に事に当たった。

 彼女達は真っ先に魔術師達に攻撃を仕掛けていった。

 魔術師達の魔術は軒並み防がれた。それは彼女達が高い魔力抵抗を持ち、更に飛竜達には風除けの加護が有る。その身体は炎の効きにくい硬い鱗で覆わた天然の魔力障壁の様な物で、並みの魔術では飛竜の身体を傷付けられない。

 古竜騎士達はある程度魔術師を完全に封殺すると、次に足の速い騎馬隊を狙った。イナンナ・ナイツだ。

 彼等の足は速く飛竜の速度を以てしても容易には捉えさせてはくれなかった。

 彼等は巧みに空からの攻撃を躱し、本陣から付かず離れずの位置を押さえ続けていた。


「流石は帝国の英雄が率いる兵団ですね。統率された良い動きです」


 言ったのはトモエだ。彼女は逸早く自軍の退路の確保に動いていた。


「でも、勇者が居ないね?まだ来てないのかな?この状態で勇者が参戦すると、ちょっとヤバイかも」


 今度はトモエの背後に乗るキララが勇者不在に気付き指摘する。


「勇者のレベルにもよるけど、もし大きくレベルを上げてたら一気に崩されるかも?撤退どころか全滅も有り得るよ」

「はい、勇者殿が来る前に撤退させないといけません。……仕方が有りません、私達で前線を崩しましょう」

「ああ、うん。でも、私一人で事足りるから、トモエは上空から危ない所を援護してくれれば良いよ」


 言うや早いかキララはそのまま龍の背から飛び降りてしまった。


「え?ま、待ってください!……って、行ってしまいましたね」


 キララが飛び降りた場所は帝国軍のど真ん中、四面楚歌の状況に陥る。

 上空から視ているトモエはヒヤヒヤだが、当の本人は狙って降りたのだ、問題はない。

 逆に友軍が傍にいると大技が使えずにやり難いとさえ思っている。


「さあ、君達は暇でしょ?私と遊ぼうか!」


 暇な訳がない、今は戦の最中なのだから。しかし、突如として天から舞い降りた可憐な少女を只訝しるだけの帝国兵ではない。即座に反応を示し、総攻撃を仕掛ける。


 キララは慌てない。彼女の眼前に光が収束し、姿を現す一振りの細身の剣。それは、キララが神魂器として武器化した時と全く同じ細身の剣。鞘を左手に持ち、束を右手に持ち瞳を閉じる。

 全方位から迫る帝国兵、一斉に剣や槍を振りかざす。

 と、同時にキララが抜剣する。


「無謀に突っ込むのは良くないよ!スキル【氷虎の咆撃】!」


 キララがスキルを放つ。彼女を中心として凍てつく衝撃波がドーム状に駆け巡る。

 兵の振り上げた武器はたちまち凍り付き、同時に衝撃波により破砕された。更にその持ち主をも凍り付かせ砕け散る。尚も衝撃波は広がって行く。キララを中心にして血を流すことなくその場に撒かれた兵士達の残骸。これでキララの周りには誰一人いなくなった。


「あれ?もう終わり?」

「なっ、なんだアイツは!一瞬、……たったの一撃で百を超える兵士を……。ば、化け物かアイツは!」

「女の子に向かって化け物は無いと思うんだけどな」


 効果範囲から逃れていた帝国兵がキララの一撃を見て驚愕する。

 帝国兵が驚くのも無理はない。キララのランクはS、帝国の誇る勇者マーズをも軽く上回る実力者。同じスキルを使用したとしても、AランクとSランクとでは雲泥の差が出るものだ。

 帝国兵が動きを止める。キララ一人にその動きを止められたのだ。


「い、今だ!撤退しろ!全力で走り抜けぇ!!!」


 王国兵の待ちに待ったマルスからの撤退命令。全兵が一斉に後退を始める。


「第一騎馬隊は俺に続けぇ!このまま目的を果たすぞ!」


 スクディアがこれまで温存しておいた騎馬隊を出動させる。

 この騎馬隊を以て一当てした後にコダユーリオンの領土に侵入を果たす予定だ。

 スクディアは全軍の殿を務め追い付きそうな敵兵を叩いていく。しかし、全軍と同速度では一緒に後退するだけで意味がない。その為に少しずつ速度を緩め距離を取っていった。

 自軍との距離が少しずつ開き、その隙間を埋める様に地神騎兵団(イナンナ・ナイツ)が入り込んできた。

 スクディアの思惑通りに事が運んでいる。丁度良くコダユーリオンへの道が開いている為、西に進路を変える。


「総員全力疾走!撤退しろぉー!」


 イナンナ・ナイツは速力が売りの騎馬兵団、元々の総員数は5万と桁外れの人数を誇る。それも、騎獣は只の馬ではない。魔馬グリファト、魔物化した馬でその脚は馬よりも速く、スタミナ値も遥かに高い。

 この戦場に投入された人数が3万、しかしこれまでの戦いで2万弱に減っていた。

 対してスクディアの駆る馬は名馬でこそあれ、只の馬だ。グリファトには直ぐに追いつかれる事だろう。

 故に足止めとして罠を仕掛けてある。通る道筋に予め仕掛けておいたものだ。

 トラバサミやアマッポと呼ばれる自動発射式毒矢、単純だが落とし穴まで用意した。

 しかし、それらは本命ではない。本命は地雷式魔術、『グランド・マイン』である。

 この魔術は、予め地中に術式を埋め込み、踏んだ者のマナを吸い取り爆発を起こすものだ。

 相手のマナを利用する為、術式そのものにはマナが込められていない。マナを感じられないが故に見破られる事もないのだ。

 誤爆を防ぐ為に後で処理しなくてはならないが、追跡の脚を止めるには丁度良い罠となる。


「全員罠の位置は把握しているな、遅れるなよ!」


 スクディアの隊だけは北西へと向けて走る。コダユーリオンとの国境付近までビッシリと罠を張り巡らせている。

 これで少しは帝国兵の脚を遅らせれば成果は上々だろうと考えている。何故なら付いて来て貰わねばならないからだ。

 案の定、スクディアの騎馬隊はイナンナ・ナイツに追いつかれそうになるが、罠に掛かった者達が倒れ込み後続の足止めになっている。


「よし、狙い通りに事が運んでいる。このまま一番近い都市アルカーヌムまで決して止まるなよ!」


 スクディアの率いる騎馬隊の遥か後方で『グランド・マイン』の爆発音が響くのが聞こえてくる。

 敵の姿は既に見えなくなっているが、追いかけて来ているのは確実だ。爆発音に混じり兵士達の悲鳴も微かに聞こえてくる。

 少し距離を空けすぎたかと不安にもなるが、相手はあのイナンナ・ナイツだ、油断は出来ない。


「アルカーヌムまであと少しだ。皆、気張れよ!」


 此処まで全力で馬を走らせてきた。

 馬のスタミナが何時までも持つはずがないが、そこは回復魔術を掛けながら走り続けた。


「殿下、国境が見えてきました。あそこを越えればコダユーリオン王国となります」

「ああ、皆遅れてはいないな。突っ切るぞ!」


 そこへ、待ったがかかる。


「お待ちください殿下、いくら回復魔術とて万能では御座いません。追手との距離も離れてきたことですし、ここは速度を緩めては如何でしょう?」


 一言に回復魔術と言っても種類は、傷を治すモノ、状態異常を解除するモノ、記憶を呼び起こすモノ、スタミナを回復させるモノと多彩だ。

 彼等が騎馬に施している魔術はスタミナを回復させるモノである。この魔術を使える騎兵を集めたのがこの第一騎馬隊で、他の騎馬隊と比べると、持久力に特化していると言える。

 だが、魔術といえど限界は存在し使い手のマナにも限りがある。

 潤沢な魔力量を誇るスクディアには気付けなかったが、部下達のマナは底を突きかけている。


「しかし、ここで緩めては追いつかれるぞ。いくら距離を取っていても奴等とて魔術を使えるのだからな」

「ですが殿下、幸いにも国境を無事越えることが出来ました。皆のマナが尽きかけております。このままでは脱落する者も出てもおかしくは有りません」

「くっ、分かった。少し速度を落とす。皆、誰一人として脱落する事は許さん!死力を尽くしてついて来い。皆でコダユーリオンを引っ張り出すぞ!」


 それからどれ程の時間走り続けただろうか?

 皆の疲労はピークを過ぎ、スクディアでさえマナ欠乏を起こし始めていた。

 そんな時、見計らった様に帝国兵の姿が後方から迫って来た。


「殿下、我々は此処までのようです。殿下はこのままお進み下さい。どこまで持つか分かりませんが、我等で敵の脚を止めておきましょう」

「何!何を言っている?このまま全員で駆け抜ければ良いだろう。目的地は直ぐ其処だ!」

「いえ、我らの速度に合わせては、いずれ追いつかれましょう。ならば、我等は捨て駒としてお仕えしたく存じます」

「馬鹿な、死ぬ気か!皆、マナが残ってはいまい。今戦えば死ぬかも知れないんだぞ」

「我々一同、スクディア殿下に仕える事が出来たこと、心より誇りに思っております。この先は殿下一人でも成し遂げることが出来ましょう。どうか生き延びて、そして我等が祖国をお頼み申し上げます!」


 スクディアを除く騎兵の全てが軌道を反転させる。

 そしてイナンナ・ナイツへと足を向ける。


「はははっ、気でも触れたか!疲弊した貴様等がグリファトを駆ける俺達に勝てるつもりでいるのかっ!」


 イナンナ・ナイツの数名が隊列から飛び出し、向かってくる第一騎馬隊を迎え撃つ。


「ここは通さん!我等とて、誇り高きインペラートルの騎士!容易く通れると思うなよ!」

「ま、待て————!くっ、……皆の命、無駄にはしない。あと少しでアルカーヌムだ、それまで持ちこたえてくれ!」


 スクディアはひた走る。部下達のお陰で再びイナンナ・ナイツの姿は見えなくなっていた。

 代わりに、一際大きな城塞都市が視界に入ってきていた。


「アレがコダユーリオンの城塞都市アルカーヌムか。物々しい出で立ちだな」


 アルカーヌムはコダユーリオンが誇る巨大城塞都市。その周囲は漆黒に塗りつぶされた城壁で囲まれており、見る物を威圧する刺々しい雰囲気を醸し出していた。

 城壁には索敵の為の塔が幾つも備わり、同じく大砲が至る所に設置されている。

 城門は重々しく、周りは広い濠で囲われ、その中には見たこともない水棲生物が住み着いているようだ。


 スクディアが近付く頃には城門から大勢の騎士らしき者が出て来て前で隊列を組み始めた。


「私はインペラートル王国が第二王子スクディア・クレー・インペラートル。帝国の騎士に追われて来た!どうか匿って頂きたい!」

「止まられよ、インペラートルの第二王子よ!貴殿が我が国へ行った仕打ちは忘れてはいまいな!」


 一人の騎士が声を張り上げる。

 全身を黒い鎧で覆われ、露出する部分は一切無く、ヘルムですら素肌を覗かせる部分は無く正に全身鎧。

 彼こそがコダユーリオンの英雄の一人、黒騎士と呼ばれる男だ。

 スクディアは黒騎士達から少し離れた位置で馬を止め、現状を報告する。


「現在、我が同胞達が敵の脚を止めている。だが、多勢に無勢、助力を願いたい!私の過去の過ちは詫びよう。だが、過去の清算は済んでいる筈。ここはお互い手を取り合い帝国をこの大陸から追い返さなくてはならない。力を貸して欲しい」


 スクディアは嘗てコダユーリオンの商隊を襲い、積荷を強奪した過去がある。

 これはコダユーリオンが着手する浮遊型殲滅魔道具の製造を阻止するべき行ったことで、自国の安全を危惧してのことだった。

 この魔道具が完成してしまえば、コダユーリオンは安全な場所から遠くの戦場を制圧出来る。効果範囲までは分からないが、隣国としては絶対に阻止しなくてはならない兵器だったのだ。

 スクディアが奪った物は、浮遊型殲滅魔道具の肝心要の核となるべく貴重な巨大魔石。余りにも貴重な魔石の為に代用品すらなく、製造は途中で中止となった。

 インペラートル王国はこの時に多額の賠償金を払い、尚且つ貴重な物品を幾つも渡した。これを以てこの強奪の一件は清算済みと言う事で収まっている。


「国同士の清算はな。しかし我等とて人間、あのような事を仕出かした者の印象は極めて悪い。そんな貴殿を匿えば民達の怒りを買おうと言うもの。貴殿をこの街に入れることは出来ぬし力は貸せぬ!自国へ帰るがいい!」


 友好的な態度でないのは想定内、と言うよりも当たり前。寧ろ問答無用で襲われないだけましと言うもの。

 スクディアにとって問題となるのは彼等を戦場にどうやって引きずり出すかだ。


「だがしかし、このままでは貴国とて他人事ではない筈。帝国は我等を降した後に鉱山を狙ってこの国を攻め滅ぼしに来るのは自明の理。ここは過去のことは一旦置き力を合わせる時ではないのか!」


 スクディアは決して下出にはでず、話しをすることで時間を稼ぎイナンナ・ナイツが来るのを待つ。

 彼等がこの場に到着しさえすれば、好戦的な両者は自ずと戦闘に入るだろう。戦闘さえ始めればこの国は帝国の敵となる。

 その後、インペラートルとの戦も有り得るが、疲弊した両国では戦などやる余力はもう無い。結果として両王国での戦は回避されることとなる。


「黙れよ盗人風情がっ!貴様が我が国の土を踏むことすら許し難いわぁ!とっとと国へ帰るがいい!」


 口悪く怒鳴り散らすのは黒騎士の右隣に立つ体格の厳つい壮年の大男。分厚い鎧を纏い、巨大な戦斧を手に持っている。

 門から出て来た騎士達一同が「帰れ!帰れ!」と連呼する。

 彼等にとっては、国の切り札となり得る魔道具の製造を阻止された形になる。内に秘める怒りは計り知れない。


「私に対する怒りは重々承知している。しかし、帝国への脅威は貴国とて同じであろう。戦うことが恐ろしいか?戦が怖いか!コダユーリオンの騎士には帝国兵を屠れる英雄はいないのか!」

「貴様!我等を嬲るかっ!」


 激怒し顔を極端に赤く染める大男。今にも戦斧を振りかざし前に進みそうになるその男を黒騎士が止める。


「やめろサエビジア、相手に乗せられるな。お前は少し黙っていろ」

「しかし閣下!」

「黙れと言った。私の命が聞けぬか?」

「い、いえ、申し訳ありません……」


 黒騎士に強い口調で嗜まれるサエビジア。今度は左隣に立つひょろ長い痩せた体の男が笑う。彼は丸まった背をして軽鎧を纏い、身の丈程の大きな杖を持っている。


「キヒヒヒッ、黒騎士様ぁ、問答は無用で御座いましょう。礼儀を知らない他国の王子などサッサと片付けてしまいましょうよ」

「お前も黙っていろアンバー。話が進まん」

「キヒヒヒッ、これは失礼しました」


 スクディアは得体の知れない連中に不気味さを感じながらも話を続ける。


「黒騎士殿よ、我等と手を組み帝国兵をこの地から追い返さなくては未来はないぞ!」

「隣国の王子よ。それは都合が良すぎだ!貴殿のしたことは許され難い、それを忘れて今更手を組むなど有り得ぬこと。即刻この地より退散すれば良し、さもなくば……」 


 スラリと剣を抜く黒騎士。


「この場で敵と見なし斬る!」


 黒騎士が冷気を発しているのでは?と疑う程の殺気を放ちスクディアを見据える。 


「黒騎士殿は帝国の兵をコダユーリオン一国で追い返せると言うか!」

「如何にも!我等コダユーリオンの精鋭は帝国などには負けぬ」


 訝しがるスクディア。何故なら帝国兵は決して弱くは無く寧ろ強いからである。その強者を一国だけで退けると豪語するこの国には、切り札の一つや二つ用意されているに違いない。

 その切り札に、浮遊型殲滅魔道具の様な我が国を脅かす様な物が有るのではないだろうかと考えたのだ。


「待たれよ!ここで私を斬ればインペラートルまで敵に回るだろう。三つ巴の戦になるぞ!」

「構わぬ!貴殿をここで斬れば我等の憂さも晴れよう」

「ちぃ」


 身の危険を感じたスクディアが馬を反転させると、割と近くから砂塵が舞っているのが視界に映った。

 待ちに待ったイナンナ・ナイツが漸くここまで来たのだ。

 部下の事を思うと複雑な気持ちではあるが、時間を稼いだ甲斐が有った。

 このままスクディアと黒騎士達が戦闘になったとしても目的は達せられることになる。

 スクディアは意を決して黒騎士達へと向かって馬を走らせた。


「血迷ったかスクディア王子よ!我等全てを敵にして貴殿一人で何が出来ると言うのだ!」

「死など覚悟の上だ!『ファイアウォール!』」


 スクディアは黒騎士達の手前で炎の壁を創り出し視界を奪う。と同時に右へと軌道を変える。


「良かろう。貴公を我が国の敵と見なし排除する!総員構えぇ!」

「「「オォォォ————!」」」


 黒騎士率いるブラック・ナイツが一斉に構えを取る。

 次第に『ファイアウォール』の効果時間が切れ、炎が薄れていく。

 完全に消えるのを待って総攻撃を仕掛ける為にブラック・ナイツが術式を展開し始める。


 そして消え去る炎の壁。


「総員……!」


 黒騎士だけは逸早く気付くことが出来た。


『『『ファイアボール!!!』』』


 だが、部下達はそうではなかった。


「ま、待てっ!」


 慌てて待ったを掛けるが間に合わない。

 気の立っていた部下達は号令を待たずにトリガーを引いてしまう。

 スクディアの気配が遠のき、近付く気配は多数に増えていることに気付けるものは居なかった。


 弾ける火球、広がる爆炎。

 爆煙の中から現れ出るのは隣国の第二王子ではなく……、


「ちっ、謀られたか!」


 現れ出たのはスクディアではなく、帝国が誇る最速の騎馬兵団、イナンナ・ナイツだった。


「やってくれるな、コダユーリオンの黒騎士よ!」

「ふん、お互い狐につままれたようだな」

「なっ、何だ?何で帝国兵が!」


 そこで、一人の男が前へと出て来た。


「漸く見つけたぞ、暗殺王ジャック!今度こそその首を刎ね飛ばしてやる」

「お前は……、インペラートルの、いや、ヴァンチトーレのエナス・ダ・イボコミス!まさか貴様が来ようとはな」


 この場に現れたのはイナンナ・ナイツだけではなく、ミーレス城の牢に収監されている筈のエナスだった。


 ここに、暗殺王と長年ジャックを追っていたエナスとの戦いが始まる!






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