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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
強狂怖大森林
4/66

豚と蛇と鑑定!

 さて、腹も満ちたところで先に進むか。何時までもここに居たい気もするがそれでは森の外には出られないからな。食料を確保しないといけないしな。

 もう一匹の1m級のダツモドキは今も元気に跳ねています。

 コイツどんな生命力しとるんや。小箱ちゃんの中に突っ込んでおこうか?腐ったりしないかな。そん時はそん時だな。

 小箱ちゃんの蓋を開きダツモドキに近付けるとスーと吸い込まれていった。珍妙な!


 準備を整えレーヴァテイン(笑)を片手に再び森の中に入っていく。

 適当に歩いても森の外には出れないかもしれないが、魔除けテントもあるし長期戦を覚悟すれば何とかなるだろう。


 ………………


 かれこれ1時間位は歩いただろうか?ガサガサと背の低い下木を掻き分け前へ進むと、少し拓けた場所に出た。


 ―――はぁ⁉


 そこには豚が一匹いた。何もかも変哲な常識外の豚だった。二足歩行する物々しい武装をした3mはあろうか?そんな巨漢の豚。

 巨岩を連想するゴツイ身体には鉄塊で拵えた全身鎧を纏い、自らの背丈を超える巨大斧を片手に持っている。

 食事中だったのか片手に血の滴る肉の塊を口に運び、ブチリと音を立て嚙み千切り咀嚼している。獲物の方は何なのか判別できない程食い荒らされている。


 俺は異世界を舐めていたのかもしれない。あんなのがこの世界には存在するのか!

 よし、まだ俺には気付いてはいない。

 このまま見つからないようにフェードアウトしよう。見つかったら何をされるのか分からない。下手を打てば俺があの肉塊になりかねない。


 そぉ~とそぉ~と後退する。木々の死角に入るように気配を消して距離を取っていく。

 怖ぇ~、これが異世界なのか。奴が視界に入った途端に総毛立つチキン()肌、日本じゃ味わったことのない言い知れない恐怖を感じ、これが殺気というものかと理解する。

 生存本能からくる警鐘を、生まれて初めて聴いていた。見つかれば、なすすべもなく屠られてしまうだろう。

 細心の注意を払い後退する俺を嘲笑うかのように振り向く豚。ヤバイ見つかった!

 本能のままに一目散にダッシュして距離を稼ぐ。


 アレはヤバイ!

 アレはヤバイ!

 アレはヤバイ!


 先程湖で流したばかりの汗が服を湿らせ肌にまとわりついて走り辛い。

 奴はどうした?振り返り確認したいがその瞬間に殺されそうだ。

 不思議と息が切れない。これは火事場のなんちゃらだろうか。

 いや、雑念は捨てろ!ここで追いつかれたら終わりだ。あのデカすぎる斧で両断され、奴の胃袋に直行することになる。無心で走り続けろ!


 ………………。


 ハァ、ハァ、ハァ……、フゥ―。


 流石に森を全力で、それも長時間走ったら息が続かないか。30分位走ったからな。俺がんばった!


 撒いたかな?安堵して走るのを止め歩き出し息を整える。どうやら豚の腹はアノ肉塊で満たされていたようだ。肌を刺す殺気が無くなった。

 あの豚、よくゲームや小説に出てくるオークだよな。雑魚扱いされることの多い化け物だったと思うんだけど……。実際は出会ったら最後の死神みたいな感じだったな。二度と会わないことを祈るしかない。

 そんな折、


『『『避けてっ!!!』』』


 不思議植物の叫び声が鼓膜を刺す!

 同時に横っ飛びをしてその場から緊急退避。


 ――ブゥオン!


 っぶね!

 正に間一髪!数本の髪の毛を犠牲にして巨大斧の一撃を躱すことが出来た。

 植物が教えてくれなければ今頃真っ二つにされていた。ありがとう!

 急いで立ち上がれば、二度と見たくなかったオークが斧を振り下ろした体勢で存在していた。

 斧の一撃は地面に一直線の亀裂を作り、距離の離れた巨木に傷を付けている。


「なんつー威力だ!勘弁してくれよ。ったく!」


 思わず愚痴がこぼれるがしょうがないだろ。怖えんだからよ。

 が、覚悟を決める。恐怖を打ち消す為に!逃げ切れる相手ではないと分かったから。

 って、しまった!何で俺は燭台切光忠を小箱ちゃんから出しておかなかったんだ!

 光忠は小箱ちゃんの中、小箱ちゃんはジャケットの内ポケだ。取り出すには僅かながら時間が掛かる。

 たった今、俺の目の前で振り下ろされている斧を受け止めるものはレーヴァテイン(笑)しか持っていない。

 再度振り下ろされる斧、反射的に両目を閉じてしまった。

 ガツゥと鈍い音が耳に届き恐る恐る目を開けると、俺は、自分自身でレーヴァテイン(笑)を使い巨大斧の一撃を防いでいた。豚の表情はよく分からんが、心なしか驚いているよう見える。

 どうやら、これまた反射的に防御の構えを取っていたらしい。

 しかし、何でだ?何でただの棒切れが地面を裂く一撃を受け止められたんだ!衝撃すら殆ど感じなかったぞ!

 っと、考えるのは後だ。

 レーヴァテイン(笑)に力を込めて押し返すと、あっけなくオークが飛び退いた。

 どうやらこのレーヴァテイン(笑)なら奴の攻撃を防ぐことが出来るようだ。異世界の枝すげぇ~!


 しかし、逃げ切れないなら()るしかない!


 いくら奴の攻撃を防げても俺の筋力で奴を倒すのは難しいだろう。なら急所を狙い小さな力で何とかするしかない。

 正直俺には奴がオスなのかメスなのか区別がつかない、ので男の大切な箇所は狙わない。分厚い鎧にも弾かれるだろうしな。そうなると脳天、鼻、眉間の真ん中になる。脳天は兜で弾かれてしまうから無理だ。鼻か眉間、眉間が一番殺傷力が強そうだ。


「……ブィ、人間逃げるな」


 一歩一歩近づき豚が言った。


「って、喋れるのかよ!」


 驚きだ。豚が喋ったぞ。いや、小説ではオークが喋るのは普通だったか?


「悪あがきせず潔く次で死ね」

「んな阿保なまね出来るか」

「弱いものは強者に喰われるのが運命(さだめ)。無駄な足掻きをするな」

「はっ、お前は俺より強いと言いたいのか!」


 そりゃそうだ、俺から見てもお前の方が強く見えるぞ。

 でも、しょうがないだろ強気で行かないとマジで動けなくなりそうだからな。


「然り!ここでお前を喰らう。お前はここで強者の糧となれ!」


 オークは助走をつけ一気に加速し接近する。その両腕には握られた巨大な斧が確りと振り上げられていた。


 淡々と物騒なことを言う奴だ!段々と腹が立ってきたな。出会った頃の恐怖は、然程感じなくなっていた。奴の大振りを待って躱し、間合いに入り目に物見せてやる。 


「こうなったら根性見せてやるよぉー」


 男は根性!俺も奴に向かって走り出す。

 奴が振り下ろすより速く懐に飛び込み眉間にレーヴァテイン(笑)の一撃を入れられれば、光忠を取り出す時間が稼げる。


「うおぉぉぉぉ―――!!!」

「ブィィィィィ―――!!!」


 振り下ろされる奴の斧、振り切る前に間合いに入れ!

 一歩を強く踏みしめ更に前へ。

 頭上に迫る巨大な斧。

 まだ遅い!更に速く進め!

 狂気の斧が脳天に降りかかる。

 奴は目の前、恐れずに進め!

 

「おおおぉぉぉぉ――!!!」


 ほんの一瞬、斧を振り下ろすまでの僅かな時間、気付けば奴の斧を躱し懐に入っていた!

 俺は巨大な斧をすり抜け自身の間合いに奴を捉えていたんだ!

 奴は振り下ろした体勢の前屈みになっている。

 間髪入れずに全力をもってレーヴァテイン(笑)を眉間に叩き込む。


 ――パシュ!


 ……ん?あれ?何が起きた?


 レーヴァテイン(笑)の突きを眉間に受けたオークは、あっけない程簡単にその頭部を消失させ絶命していた。


「なっ、何で?」


 気のせいかこの世界に来て、身体能力が爆上がりしてないか俺?

 納得出来ない出来事だが、最良の結果ともいえる。


『『『わ~、おめでとうっ!』』』

「あ、ありがとう」


 自然と植物達にお礼の言葉が出てきた。当然か、声を掛けてくれなければ背後から真っ二つにされていたんだからな。


「おかげで助かったよ。礼をいうよ」

『『『どういたしましてっ!』』』


 頭の無いオークの遺体を見る。何であんなに簡単に倒せたんだ?勝てる可能性など正直に言ってゼロに等しかった筈なのにな。幾ら身体能力が上がっていたとしても限度がある。

 ……不気味だ。一体誰が俺を強化してまでこの世界に送ったんだ?何の目的で?何故俺なんだ?

 疑問は尽きないが考えていても答えは出ない。

 まあいい、現状ではどうしょうもない。不安ではあるが致し方無し、と割り切ろう。


 さて、奴は言った。弱者は強者に喰われるのが運命(さだめ)だと。ならば喰わねばなるまいか?

 なんて、喰うのは勘弁だが、所持品は貰っていってもいいかもしれないな。

 俺には小箱ちゃんという頼もしい味方がいるのだ。

 どれどれ先ずは何が有るのか確認をしよう。


 オークの身体をまさぐってみるが、分厚い鎧のせいで懐が探れない。仕方がない、小箱ちゃんを使い鎧だけを吸い込ませると、奴の身体が露になった。

 岩のような筋肉は今となってはどうでもいい。奴の身に纏っているボロキレを調べても何も出てこない。

 ついでだから斧も小箱ちゃんに仕舞う。そんな折、ふと目に入った物があった。丸太のような太い腕にはまる光るシルバーリングが。

 手に取り観察すると、それはシルバーぽい金属が捻じれて輪になっているシンプルな作りの腕輪だ。

 よし、貰っておこう、小箱ちゃん行きに。そして明かされるそれぞれの名前。


 《巨重戦斧》《巨重鎧》《収納環》


 ん?収納環だって。それって所謂アイテムボックスってやつか?この世界には小箱ちゃんがあるんだ、アイテムボックスがあっても不思議じゃないよな。小箱ちゃんとかぶるけどな!

 何かの役に立つかもしれないから貰っていくのは確定だが、見るからにデカすぎて腕にはまらない。ぶかぶか、試しに輪っかに左腕の上まで通してみても、やはりスカスカする。

 そんな事をしていたら、不意に腕輪が縮みだしキッチリ俺の手首に収まってしまった。


「なっ、嘘だろ、と、取れないぞ!」


 今度は取れなくなった。をいっ!これじゃ呪いのアイテムじゃないか!どうするんだよコレ!

 暫く取ろうと藻掻くがてんで取れない。これは手首を切り落とさないと取れないんじゃないか?

 ハァ、思わず漏れてしまうため息を自分で聞いてしまう。と、そっとリングに触れた瞬間に使用方法と中身が何なのかが頭の中にインストールされた。


 《魔兎(アルミラージ)×13(肉×13、螺旋角×13、純白毛皮×1、茶毛皮×12)》

 《下妖鹿(ロー・ケリュネイア)×2(肉×2、黄金角×2、毛皮×2,青銅の蹄×2)》

 《巨大熊(ビックベアー)×6(肉×6、毛皮×6、爪牙×6)》


 わお、獲物がどっさり入ってたわけね。これは暫くは食肉には困らないな。

 よし、オークも収納環に入れておこう。


 《豚将軍(オーク・ジェネラル)×1》


 うへ、あの豚お偉いさんだったのか。どうりで威圧感が凄いと思ったんだよな。


『気を付けてぇ~、今度は蛇が来たよぉ~』

「なっ、何だと!」


 植物の警告を聴いて、辺りを見渡してみる。折角奇跡的にオークからの危機を乗り越えたのに、一難去ってまた一難だな。

 辺りを見渡しても蛇の姿を捉えることが出来ない。隠れるのが上手な蛇を見つけるのは難しい。って、いたよ。真正面の太い枝に絡まってるじゃないか。


 シャ――!


「ちっ、連戦かよ」


 威嚇してきたな。それにしてもデカい!デカすぎるだろ!

 アナコンダよりも遥かに大きく太い。古代最大の蛇、ティタノボアみたいだ。いや、それよりもデカいんじゃないのか?

 20mクラスの全長に1mを超える太い体躯、黒っぽくテカった鱗を纏い、人間を何人も同時に丸呑み出来るんじゃないかという大口、そこから見える細く長い牙、そして滴る毒液。

 ここは、化け物ばっかだな。どれも地球で出会っていれば死を連想させる。だが、豚将軍と殺り合った俺に恐怖はない。


 奴が飛び掛かってくる前に燭台切光忠をそっと取り出し、腰のベルトに差し抜刀する。

 右手に光忠を、左手にレーヴァテイン(笑)を持って気分は宮本武蔵!二天一流、元の名を円明流と言う。

 通常一刀流は腰に重心があるが、二天一流には両肩に重心が存在する。

 その為、間合いが広がり一刀流に負けない重さが得られると言う。これを一重身と言う。

 両肩に重心がある為に、二匹の別の生物のようにバラバラな動きが可能で、不規則な動きをする蛇にはちょうどいい。


 素人がどこまでやれるか分からないが、命が懸かってんだやれることは全部やらなければならない。

 身体をピンと伸ばし飛び掛かってくる巨大な蛇を軽く躱す。豚将軍よりも動きは速くないのが救いか。

 俺は躱し様に豚将軍の遺体を取り出し、大口を開け突進する蛇の口内に放り込み身代わりとする。奴はそのまま豚将軍を丸呑みにしてしまった。その隙を突き燭台切光忠を奴の頸目掛けて目一杯振り上げそのまま振り下ろす。

 鈍い衝撃が右腕に伝わったが、骨は断てず、斬れたのは鱗数枚とその下の赤白い肉を少々裂いただけっだった。

 蛇の反撃、長い体躯をくねらせ、絡ませにきたがこれは横にダイブして躱す。


「くそ、硬すぎるだろ!」


 燭台切光忠は、燭台の陰に隠れた人物を、燭台ごと斬り伏せたという逸話から「言語に絶した名刀」と呼ばれている。俺の腕が悪いのもあるが、そんな光忠の一撃であの程度の傷で済んでしまうのは非常にヤバイ。

 殺るなら同じ場所を何度も狙う必要が出てくる。或はレーヴァテイン(笑)での撲殺になるだろう。

 この言語に絶する名刀と、豚将軍を一撃のもとに下したレーヴァテイン(笑)、どちらが強力なのだろうか?


 再度飛び掛かる蛇を横目に見ながら躱し、傷口に光忠の一撃を入れる。

 あのデカい豚が腹に入っているためか動きは緩慢、非常に狙いやすい。

 身体をくねらせ痛みに藻掻く蛇から距離を取り観察する。

 確かに動きは緩慢になっているが、それは時間が経てば元に戻ってしまう。今が最大のチャンスということだ。

 しかし、こんな森の中でアレだけ成長しているのなら、それなりの修羅場を潜り抜けた猛者だろう。簡単に倒せるとは思わない。

 近すぎればあの長い身体に絡め捕られる可能性がある。迂闊な真似は出来ない。

 じゃあどうするのか、……こうするんだよ!


 小箱ちゃんの中に、小麦粉が大量に入っていたのを思い出し急いで取り出す。 

 袋に入っている小麦粉25㎏を二袋口を開いて奴に投げつける。すると奴の全身を隠す程に舞い上がり拡散する。

 続いて無限マッチを取り出し火を灯し、奴目掛けて投げつけ素早く後退する。

 舞い上がった粉塵に引火、火は連鎖を繰り返し、それは大規模な爆発となった。粉塵爆発だ。


 しかし、くたばってないのは流石だな。奴は生きている。所々鱗が痛んでいるようだが、五体無事だ。

 だがしかし、小麦粉50㎏分の爆破は結構なもので、一瞬の爆発で奴は目を回して気を失っているようだった。すかさず奴に近づき光忠を傷口目掛け振り下ろす。ガギッと音を立て刃が止まる。


「うおぉぉぉぉ――!」


 構わずレーヴァテイン(笑)を光忠の刀背に叩き付ける。

 巨大な蛇は、身体を半ば地面にめり込ませ首が転がり落ちた。

 ふ~、何とかなったか。


『わ~、すごいねぇ~』『うん、凄い!』『爆発ビックリしたねぇ』『うん、そうだねぇ』


 と、植物達は騒ぎ出したが、取り敢えず放置しておこう。疲れる。既に疲れた、か。

 ふぅ~と、息を吐きその場にへたり込んでしまう。マジ疲れた。

 何気に豚も蛇もあっけなく決着が着いたな。もう、懲り懲りだが、そういうわけにはいかないんんだろう。これからも多くの化け物と戦う事になると思う。

 それを思うと気が滅入る。……よし、進もう。とっととこの森を出てしまえばいいんだ。そうと決まれば早速行動に移すべし!

 先ずは蛇を収納してっと、ん?収納環に入れた物のリストが頭に浮かぶ。


 《劣化大蛇(インフェリア・ユハ)


 ユハか、ユハはシベリア民族の伝説上の生物で、蛇の化け物を意味するんだったけ?


 《溶解されかけた人の遺体》《溶解されかけた豚将軍の遺体》


 何ですとっ!


 《砕かれた勇者の剣》《破損した伝説の鎧》《鑑定宝珠》《銀貨×12、銅貨×31、賤貨×92》


 奴さん豚の前に誰か喰ってた!それも勇者ぽいぞ!

 慌てて融解された人の遺体を取り出す。その名の通り既に溶けかかっている。手足の末端は既に無く、男女の性別すら判別できないくらいになっていた。


『かわいそうぉ~』『うん、かわいそうだね』『お墓作ってあげて』『そう、それがいい』


 なんて植物達に言われたら作るしかない。命の恩人だからな。


「凝った作りの墓ではないぞ?」

『それでいいよ』『うん、それでいいよ』『僕の根元に掘ってあげて』『えぇ、僕の根元に掘ってあげてよ』『どうか私を供えてあげて』『私も供えてあげて』


 というわけで只今、墓穴掘ってます。

 えっちらおっちらと巨木の下を樵斧と素手で掘ってます。その為、それなりに時間が掛かってしまった。


「ふぅ、コレ位でいいかな」『うん、それぐらいでいいよ』


 何とか人一人入る穴を掘り、勇者の遺体を横たえる。

 小箱ちゃんから金貨を二枚取り出し口の中に入れてやる。


「普通は一枚で良いらしいけどカローンはガメツイと言うしな。多くても困ることはないだろう、船賃に使ってくれ」


 カローンとは、冥府の川の渡し守。

 渡し賃用に1オボロス銅貨(古代ギリシャ通貨)を瞼の上に乗せるか、口の中に含ませる風習が古代ギリシャにあったんだ。日本でいう六文銭にあたるね。彼(彼女?)のお金は代わりに貰っておこう。悪く思わないでくれよ。


 なにっ、せこいって言うのか!アホ抜かすなや、こちとら金貨2枚渡しとんねん。これはつまり日本円に換算すると10万円や!

 彼(彼女?)の持ってた硬貨は銀貨12枚、銅貨31枚、賤貨92枚や、つまり……。

 銀貨1枚で5000円や、12枚なら6万円になる。

 銅貨は500円や、つまり31枚で15500円になるな。

 賤貨は1枚30円だから92枚で2760円になるやろ。

 合計して78260円になるやんかぁ。

 ワイはせこくないんや、せこくないんやでぇ~!

 因みに白銀貨1枚500万円、白金貨1枚5億円、とハチャメチャな額になっとるんやでぇ。

 この2種類は一般じゃ余り持たれへんねん。商業向けの硬貨になっとるんやでぇ。


 って、こわっ!何で俺はこの世界の硬貨の価値を知ってんだ!

 さっきは確かに価値が分からなかったのに!

 知り得ない筈の知識が、何故か当たり前のように分かってしまう。

 こわっ、俺こわっ!


 ……まぁいいや、考えても答えは出ないしな。無駄なことは今は考えないようにしよう。気が滅入る。


 墓標の代わりに剣と鎧を置き(勇者やら伝説には興味が湧いたが)、自ら『供えて』とやって来た花や果実をそっと墓前に置いてやる。


「仇は討った。安らかに眠ってくれ」

『やすらかに』『おやすみなさい』『おやすみ』


 さて、今度は気になる鑑定宝珠だ。実はさっきから気になってしょうがなかったんだよな。

 収納環から取り出したのは一つの指輪だった。三本の爪でほんのりと紫がかった宝石を、確りと固定された小さな指輪。小指にも入らない小さな物だった。 

 レーヴァテイン(笑)と指輪をそれぞれ持って、レーヴァテイン(笑)の鑑定をイメージしてみる。


《レーヴァテイン(笑)、A級品、レベル3

 只の賢樹の枝が【名前付与(ネーム・グラント)】により名前を持ち見合った能力を得た。

 更に、【レベル概念付与(レベル・エンチャント)】によってレベルが生じ、経験により成長する不思議な枝となった。

 攻撃+12000、防御+12000、魔力+12000、魔力抵抗+12000

 スキル:【不死殺し】【鳥類殺し】【主人登録(只一人の主)】》


 「はぁ⁉」


 ネーム・グラントやレベル・エンチャントて何だ?成長するの?

 心なしか握り心地が良くなってる気がする!レーヴァテイン(笑)はオリジナルのレーヴァテインに倣った能力を得たってこと?

 +12000って良く分からん。リンゴを斬るのにどれだけの数値がいるんだ?

 数値だけ見れば強そうに見れるけど実際はどうなんだろうか?

 ほ、他を見てみよう。


《燭台切光忠、B級品

 備前生まれの名刀を高度な技術で再現した打刀。

 攻撃+4500、剣速+1200

 スキル:【悪鬼撃滅】【結界切断】【抜刀超加速】【反射速度向上】》


 これでB級品なの?何かがおかしいな突っ込みどころがあるぞ。

 レーヴァテイン(笑)は光忠の倍以上の攻撃力ってどうよ、棒だよ!

 ふぅ~ふぅ~、落ち着け俺、今は慌てている場合ではない。次だ次!


《巨重戦斧、D級品

 並みの膂力では持ち上げることが出来ない程の重量を持った斧。刃の切れ味は悪く、重さで押し潰すように圧して斬る。

 重量300㎏、攻撃+1230》

《巨重鎧、Ⅾ級品

 並みの膂力では装備出来ない程の重量を持つ鋼の塊。厚さで凌ぐ。

 重量500㎏、防御+1600》


 光臣は戦斧の3倍以上の性能だし、どうなってんの?

 300㎏って、普通に持ち上げられたんだけど……。


《サバイバルナイフ、F級品、束の内部に傷薬が内包されている。攻撃+40》

《樵斧、F級品、樵の使う鉄製の斧。攻撃+45》

《ハンマー、F級品、鉄製の金槌。攻撃+38》

《和弓、F級品、竹製の和弓。攻撃+20》

《木矢、F級品、木製の矢。攻撃+18》

《鉄矢、F級品、鉄製の矢。攻撃+22》

《ロープ、F級品、100mの縄。攻撃+3》


 ……


玉龍鬣(ぎょくりゅうりょう)の外套、B級品

 三蔵法師を乗せた馬(竜が変化したもの)の(たてがみ)で編まれた外套。

 非常に軽くて丈夫。魔力に対する抵抗を持ち、尚自己再生能力を備える。

 防御+2800、魔力+300、魔力抵抗+4700

 スキル:【自己修復】【欠損再生】【清浄】【体温調節】【疲労回復】》


 うん、金属の塊より硬い。どうなってんの?


《黒蝶の衣服、C級品

 魔蟲黒蝶の幼虫の作る繭の糸が織り込まれた衣服。高い空間認識能力を持ち、飛行能力を補佐する。

 防御+1740、魔力+680、魔力抵抗+230

 スキル:【空間認識向上】【飛行能力向上】【魔力吸収】》


 飛行スキルが無い、あくまでも補佐なんだな。だが、タラリアブーツは空飛ぶサンダルから名前を取っている。このブーツなら飛行出来る筈だ!


《タラリアブーツ、D級品

 空を飛ぶとゆう人の夢から作らてたブーツ。

 魔鉱ミスリルをふんだんに使われたが夢叶わず。ザンネンブーツ。

 攻撃+280、防御+350、速力+1360、魔力抵抗+60

 スキル:【浮遊】【無音歩法】【清浄】》


 なんでやねん!飛行スキルないんかい!

 ショックを抑えて次に行こう。


《神蝶絹の反物、S級品

 神蝶プシュケーの子供たちの繭から作られた幻の反物。完璧な魔力反射と魔力回復を持つ。

 これを持てば魔力欠乏とは無縁となる。また、自己再生にも長けている。

 売却額は白金貨100以上する超高級品。日本円にして500億はくだらない。

 スキル:【魔力超即回復】【魔力完全反射】【清浄】【自己修復】》


 レーヴァテイン(笑)を超えるS級品来たぁ―!


潤泉葫蘆(じゅんせんころ)、D級品

 尽きることなく水が湧く瓢箪。蓋をしない限り際限なく水が湧く為、災害に繋がる危険を孕んでいる。

 蓋をするか破壊することで水は止まる》


 危険だ、扱いには気を付けよう。


 ……ふぅ、なんだかとても疲れた。


《魔除けテント、B級品

 使用者と使用者が許可を与えたもの以外は近寄れない結界が常時発動している大型テント》


 よし、色々とつかれた。テント張って寝よ。



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