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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
ヴァンチトーレ帝国の脅威
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勇者 VS 竜騎士

 私は今、王都上空にて激しい戦闘を繰り広げています。相手はあの勇者、簡単に決着の着く相手ではありません。スキルや魔術を駆使し縦横無尽に動き回りながらの戦闘となります。現段階では、テルピュネを駆る私が一歩リードする形で進められていますが、体力で勝る勇者です何時逆転を許すか分かりません。


 流石にレベル200を超える勇者です、強い!ですが、強狂怖大森林での経験は私を大きく成長させてくれました。遥か高見の勇者を相手に渡り合えているのですから。

 今の段階では私が圧倒していると言っても良いかもしれません。

 勇者は傷を負い、私は無傷、ひとえにテルピュネのお掛けでしょう。天空を制するは竜、そういう事です。

 もし、これが地上での戦闘ならばこうはならなかったでしょう。

 何の制約も無く放つことが出来るブレスに、飛行を邪魔する建物や樹木も存在しない天空こそがテルピュネの実力を十全に発揮できる竜の領域なのです。


 マーズ殿は地上に降りて戦うべきですが、王都ミーレス全域を覆う結界が邪魔して降りられません。完全に地の利は私にあると言う事です。

 この結界、登録者以外は出入りが出来ません。王都民やその家畜は産れた時点で登録します。行商人等は一度きりの仮登録を門前で行います。

 他国の勇者であるマーズ殿はこの登録がなされてないので出入り出来ない訳です。ですが、私は可能です。つまり、いざとなれば逃げ込める事が出来るのです。

 しかし、私とて騎士、その様な卑怯な真似は致しません。どちらかが倒れるまで結界に入ることは有りません。

 この結界はテルピュネのブレスすら弾く優れものです。このためAランクの攻撃ですら通さない事が証明されています。マーズ殿とて侵入出来ないと言う事です。

 残念ながらSランク以上の存在を防げるか?と言うと、答えは分かりません。

 強狂怖大森林の外ではSランクは非常に珍しく、私が知る限り二体しか確認されておりません。

 灼熱谷の北東に位置する強狂怖ではない別の森、ヴェルエムロードの森の奥にひっそりと暮らす(つが)いの巨大蜘蛛の魔物で、何故か人を襲う事がないのです。人を襲わないので王都の結界を攻撃すること無く、耐得るのかは不明なのです。


 と、話がズレましたね。戦闘に集中しなくてはなりません。相手はあのマーズ殿です、一瞬の気の緩みが命取りになります。

 問題はマーズ殿が授かる加護です。【漸増】マーズ殿が傷つけば傷つく程ステータスが上昇するというものです。彼に回復系のスキルが無いのはそのためかも知れません。

 このままでは逆転されるのも時間の問題、その前に身動き不能な程の致命的ダメージを与える必要があります。


「ふっ、流石は竜騎士と言ったところか。空中戦ではお前に分があるようだ。俺の【飛華落葉】を悉く上回るとは恐れ入った」


 【飛華落葉】は飛翔に特化したマーズ殿のユニークスキルですね。そのユニークスキルを上回るテルピュネと私の騎乗技術を本心から褒めてくれているようです。


「勇者殿に褒められるとは誇らしい。ですが、貴方もその程度ではないでしょう。そろそろ本気を出しては如何です?それともソレが貴方の限界でしょうか?それは失礼、申し訳ない事を言いました」


 ここは隙を作る為にも挑発しておきましょう。私には挑発のスキルがありませんので、どれだけ効果が有るのか分かりませんが。


「ほう、言うなミネルヴァ、勇者の本気が見たいと言うのか?良いだろう、特別にお前には見せてやる。俺の本気を、勇者の本気というものをな!」


 敢て乗ってきますか?

 やはり勇者、あの程度の筈もなく相当な実力を隠し持っているのでしょう。妙だとは思っていたのです。レベル200を超える勇者が私と同格である筈がないのですから。

 勇者は神敵を討つ神兵、高レベルの勇者が一介の騎士と互角では、余りにも御粗末ですから。

 ここで勇者の実力を引き出せれば、たとえ私が敗れたとしてもヴィクトリア、後に続く者が勇者を討ってくれるに違いありません。もしかするとフヅキ殿も力を貸してくれるかも知れませんしね。


「覚悟は良いか?これから先はお前にとって未知の領域だろう。生半可な覚悟で渡り合えると思うなよ!行くぞミネルヴァ————!」

「来なさい、マーズ!」


 それより後、マーズ殿の剣捌き、飛行技術、判断能力等能力が飛躍的に向上しました。

 有利に事を進めていた私は、一転して押されることになったのです。

 ですが彼の言ったよな未知の領域とやらでは有りません。私は既に経験済みなのです、あの森で今の彼以上の脅威を!


「甘い!その程度では未知と言えません!確かに脅威ではありますが、やって殺れない事はありません」

「言うな、では、抗って見せろ!」


 マーズ殿は高速で攻めてきます。先程まではテルピュネの動きに対応が遅れていた彼が、今では私の方が対応出来かねています。


 彼の大剣が正面からテルピュネの脳天に迫ります。

 私は咄嗟に神槍を投げつけこれを牽制、その隙に距離を取る、同時に投げたばかりの神槍を手元に呼び寄せ構えます。

 ですが、その隙に彼は私の背後に回り込み再び大剣を振り下ろす。これを神槍を盾に防ぎ背後に居る彼に向かって風の刃を放ち距離を取ります。……が、距離が開きません!

 マーズ殿は常に私と一定の距離を保ちつつ攻撃を仕掛けてきます。

 主に大剣で、時に魔術を織り交ぜて。


「くっ、やはり速いですね」

「どうした?お前はその程度ではないだろう?そろそろ本気を出したらどうだ?それとも既に限界なのか?それは済まないな。悪いことを言ったようだ」


 言い返されましたね。何とかこの状況を打開しなくてはなりません。


「貴方程の男が、何故今更この様な一方的な戦に参加しているのです!?仮にも勇者なら人を救ってこそでしょう!それを、蹂躙ともいえる戦力差で来るとは!」


 接近するマーズ殿に神槍の刺突の乱舞をお見舞いします。

 常人では同時に何重にも見える刺突ですがマーズ殿は同じく何重にも見える斬撃でこれを防ぎます。


「そもそもが其方の王太子が仕出かした事だろう?奪われたものを取り戻すのに力を貸すのは勇者として当然と言える。俺はヴァンチトーレの勇者だからな」


 お互いに放つ風の魔術がぶつかり合い、その場を起点に爆風が荒れ狂います。テルピュネは上空へ逃れ、マーズ殿はその場で耐えたようです。


「マルス殿下だけが悪いように言いますね。ウェヌス殿下には非が無いと言えますか?逃げられたディアマンには非は有りませんか?そもそも逃げられたのには原因が有るのでしょう!」

「有るのか?」

「貴方という人は!」


 私を見上げる彼が一気に上昇し、再び上空でぶつかり合います。上昇を繰り返しお互いに一撃入れてはすれ違いまた接近、を繰り返しどんどんと上空へと昇っていきます。

 既に地上からでは私達の戦闘を目視することは出来ない程の高さにまで来ています。


「では、ウェヌス殿下が帝国に戻れば戦を終えると言うのですか?」

「それは無いな、受けた恥辱は晴らさねばならない。マルス王子も姫も分かっているからこそ、返さないし、戻らない」


 そうでしょうね。戦になるから返す、では初めから連れては来なかったでしょう。

 更にマーズ殿が続けます。


「戦を終わらせるには、道は二つに一つだ。国を明け渡すか帝国に打ち勝つか。お前達に帝国(俺達)を打ち負かすだけの力があるか!」


 言い終わるや否やマーズ殿の頭上に巨大な黒い球体が浮かび上がります。

 その球体は周りの待機を吸い寄せる力を持っているようです。あれは小型のブラックホールの様な物でしょう。勿論本物程の力は有りません。が、彼の持つユニークスキル【飛華落葉】に重力操作が有り、それに魔法を用い威力を上げているようです。テルピュネでも抗える程度のものですが、逆に言えば古竜をその場に抑え込む程の威力だとも言えます。


「終わりだミネルヴァ!」


 【天剣之才】に【才能強化】を上乗せ、【肉体強化】で地力を上げ【魔力付与】で大剣に魔力を宿します。スキルを開放した渾身の一撃です。

 これに対し私もスキルの力で対抗します。

 【神槍真価】でテア・パラスの真の力を開放、【槍之才】で槍術を、【身体強化】で心身を強化【魔力多重障壁】で障壁を張ります。

 防御は障壁に頼り護りは一切せず、渾身を持って戦女神の劾槍テア・パラスを打ち込みます。

 いくら勇者と言えど、神器の一撃を生身で受ければ一溜まりもない筈です。只の大剣で神槍の一撃を受けきることは出来ないでしょう。

 ですが————


「力を開放せよ!アッティラソード————!!!」

「!!!」


 信じられません!マーズ殿には解放系のスキルは有りませんでした。ですが、今確かにマーズ殿は大剣の力を開放したのです。

 マーズ殿自身にその様なスキルは有りません。そうなるとアレは大剣が備えている能力でしょう。

 アレは只の大剣ではなかったのです。剣の能力を見逃した私のミス、それも致命的な大きなミス。


 私の神槍の一撃とマーズ殿の大剣の一撃が互いに閃光となって交差します。

 マーズ殿の閃光の斬撃は魔力多重障壁を打ち破り、無防備な私の身体に届きます。私の右肩から左脇までを深く斬り裂く大きなダメージ、ですがこの傷で命を落とす事は無いでしょう。しかし、この戦いにおいては致命的なダメージと言えるでしょう。


 一方マーズ殿に迫る神槍の閃光は、未だ彼の頭上に鎮座する黒い球体に引き寄せられ僅かに上へとズレてしまいました。それでもマーズ殿の右肩を貫き大きなダメージを負わせることに成功しました。そう、大きなダメージを負わせてしまったのです!

 彼には漸増の加護が有りダメージ分能力強化され、私はダメージ分だけ弱るのです。

 この一撃で戦局は彼に大いに傾きました。いえ、決まったと言えるかも知れません。私の回復スキルは【治癒強化】であって【自動回復】や【高速再生】などの強力なスキルではないからです。【治癒強化】はあくまで自然治癒力を強化するだけのものなのです。


 今の一撃で終わらせるつもりが、今の一撃で終わらされました。ですが、諦める訳にはいきません!

 私の多重障壁をいとも容易く斬り裂いた事から疑念が湧きます。彼には【城壁破壊】のスキルが称号経由で有りますから、もしもあの大剣が特別仕様であるならば王都を覆う結界を破られる可能性が有ります。

 今の彼は、先程とは比べ物にならない位の力を持っている筈です。流石にSクラスには届きませんが、今の私よりも確実に上の実力を持っているでしょう。

 そう、決して諦める訳にはいかないのです。この下には今も不安を抱きながらも無事に暮らしている人達がいるのですから。

 ふぅふぅ、大丈夫です、痛みは我慢出来ます。後は気力を持たせるだけです。


「ふぅー、流石、ですね。ですが、これで終わりとはいきません!」

「ああ、これで終わりではない。お前の首を刎ねるまでは終われん。だが、褒めてやるぞ、よくぞ俺に傷を負わせた。久々の漸増の力を感じる」

「ガアアァァァ————、オノレヨクモ————!!!」

「「!!!」」


 急にテルピュネが暴れ出します。私を傷つけられたことに怒ってくれているのです。実はテルピュネ喋れます。滅多には喋らないのですが私と二人だけの時は喋るのです。

 そのテルピュネが彼を前にして声を上げたのです。


「テ、テルピュネ、大丈夫です。落ち着きなさいテルピュネ」

「ふん、その竜は少々厄介だな」


 マーズ殿がそう言うと不意に姿が掻き消えます。


「くっ!」


 彼の動きは叡智によって把握できます。ですが、今の私ではその速度に対応できるだけの速度が出せません。

 気付けばマーズ殿はテルピュネの頸目掛けて大剣を振り下ろしています。

 咄嗟に、正に反射的に神槍を持つ腕を伸ばして防ぎます。

 間一髪でした。ただでさえ力負けするマーズ殿の剛剣を、今の私が防ぎ切れたのは神槍の力を開放していたからでしょう。

 そんな私を気に掛けながらもテルピュネは即座に動きました。

 マーズ殿に向かって破壊(ディストラクション)咆哮(ロア)を放ちます。

 相手に向かって一直線に向かう息吹(ブレス)と違い、威力は劣りますが全方位に作用する破壊の咆哮です。

 ロアの破壊は音によるもの、つまり空気の振動で破壊するのです。ここが地上遥か上空だから出来ることです。ですが、マーズ殿の頭上には大気を吸い寄せる黒い球体が浮かんでいます。

 テルピュネの咆哮はまたしてもあの球体に邪魔され威力を削がれ、致命打になりませんでした。ですが、流石古竜の咆哮、完全とはいかないまでもマーズ殿にダメージを負わせることが出来ました。

 マーズ殿は全身から血を吹き出し降下し距離を取ります。

 そのマーズ殿に向かい、今度は分子崩壊の息吹を放つテルピュネ。

 マーズ殿は透かさず大きく右に避けこれを回避、したつもりでしょうがテルピュネのブレスはそれ程甘くは有りません。触れてもいないブレスの威力に左腕が破壊されます。

 これで彼は右肩と左腕を負傷したことになり、完全には使えない筈です。しかし、彼には漸増があります。どれ程あの加護が作用するのでしょうか?

 されどこれは最大の好機と言えるでしょう!


「戦女神よ!今こそ我にその御力を示し、勁敵な者による術から我を護り給え!」


 私は神に祈りを捧げ未だ動けないテルピュネの背からマーズ殿目掛けて飛び降ります。

 テルピュネは巨体故に黒球の影響を受けやすいのでしょう。


「軍神よ!眼前の敵を屠れ!」


 お互いの切り札、魔法を発動させます。私は、今も尚彼の頭上に浮かぶ黒球に吸い寄せられる様に、速度を増しながらマーズ殿へと落下。

 私が祈りにより願ったものは、その黒球の影響を最小限に抑えることです。最小限、無効化するのではなく多少の影響を受けるように調整したのです。その為に、落下速度はみるみるうちに加速していきます。

 対してマーズ殿は私を屠る祈り。傷ついた両腕で掲げる大剣に、神より給われし神気が宿ります。


「「これで終わりです()!」」


 それは互いに今出せる全力のなせる死力の一手!


「「はあぁぁぁあああああああ————————!!!」」


 その刺突は神速の一刺し、全てを置き捨て貫く刺撃!

 その斬撃は極限の一振り、何物をも斬り崩す破壊の斬撃!


 まず、先に届いたのは槍の一撃!その刺撃にて勇者の左半身を吹き飛ばす!

 間を置かずして、続くは勇者の斬撃!その斬撃にて竜騎士の身体を深く斜めに斬り裂いた!

 お互い力の限りを尽くした一撃を放ち、致命的なダメージを受け重力に従って落下を始める。

 この時点で、勇者の作り出した黒球は消え去り、また、勇者の意識も失われていた。


 自由落下に身を委ねる私と彼は互いに死に体。死にゆく私の掠れる視界に映るのは、必死に私に追いつこうと急降下するテルピュネの姿。


 テルピュネは何かを言っているようですが、私の耳にはもうその声をうまく拾う事が出来ません。

 薄れゆく意識の中で私はテルピュネの腕に抱かれ、地面との衝突は免れたのです。

 ですが、これで最後なのでしょう、私には生き残る力がもうありません。生命に欠かさない力、オドが自分の体から止め処なく流れ出していくのが分かります。

 残されていく者達に申し訳なく思います。これからが激しい戦になるでしょうから。私は少し早く、そう、ほんの少し早く逝くようです。

 ですが、皆は生き残って欲しいと願います。この戦に打ち勝ち、出来れば天寿を全うできますように……。

 そして、最高の相棒、私の娘、テルピュネの逞しい腕を一撫でして彼女の顔を見上げます。掠れて視えませんが、きっと泣きそうな顔をしているのでしょう。幻聴でしょうが、鳴き声が悲しげです。

 貴方を置いて逝くことを、……許してくださいね。貴方は長命、ですから、……別れが少し早まっただけ…です。泣か……ないで…下さ………い……。


 そしてこの夜に聞こえた叫びの中で、一際大きな竜の嘆きの咆哮が夜空に響き渡った。




「あれ……!」


 あれは団長さんの古竜の鳴き声、……ヤバッ、団長さんピンチ!


「キュウ!」


 燿子も気付いているようだな。


「二人してどうしたのですか?」

「どうしたフヅキ」

「ちょっと行ってくるは」

「何?何処へ行くのだ?」

「ああ、ちょっとな、団長さんがヤバそうだ。燿子はそのままセフィーと一緒に居てくれよ」

「キュ!」

「えっ、ミネルヴァが!?」

「アイツがやられたか、流石に勇者だな」

「相打ちだな。勇者も戦闘不能だ」


 急いで救出に向かいますか!だが、間に合うかっ!?

 俺はまだ何か言っている二人を置いて牢をでるのだった。


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