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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
ヴァンチトーレ帝国の脅威
33/66

解呪

 気付けば目の前にゼウスがニヤニヤとイラつく笑みを浮かべて立っていた。どうやら奴も過去に飛んだ俺を見ていたらしい。

 過去から現在へと戻り、この場に居るのは俺、ゼウス、ユピテル、クロノスを宿したユーノの四人だ。

 どうやら過去に送られてから、そう時間は経っていないようだ。ユーノが倒れたユピテルを抱きかかえている。


「よう、どうやら原因が判明したようだな。詳しく話せや」

「その前に一ついいか?過去に行く前にお前は絶対神力が使えるかと聞いたが、全く、関係、なかったじゃねぇか!」

「馬鹿かおめぇ、絶対神力があったから無事だったんじゃねぇか!じゃなけりゃ擬体のクロノスが神体のヒュドラに勝つのにもっと、ずーと時間が掛かってたんだよ!お前は無意識だったかも知れんが、ちゃんと力は働いてたぞ。娘がヒュドラを視なかった幸運もそのためだ!自分の力ぐらい把握しとけぇ!」


 え、マジで?

 実は期待していたのに何もなかったからな。

 何も意識しなくても加護って作用されるものなのか?……ん、加護って本来そういうものか。


「いいからとっとと原因話せや!」


 うっさいなぁ、と思いつつ過去の出来事を話す俺。

 除き見していたゼウスは知ってる話、クロノスは自身に呪いが掛けられていることに気付いていない。ユピテルとユーノはチンプンカンプンだろう。


「そんな!私の両目がお父様?それも時神クロノス様だと仰るのですか?」

「いや、それよりユーノが死産する運命だっただと!」


 ユーノは自分の瞼にそっと手をやり、瞳が父であり神でもあることに驚いている。

 そして、ユピテルはユーノの運命に驚愕。


「改めて神に感謝いたします。貴方様のお陰で私はユーノと出会うことが出来ました!そして、まさかヴァンチトーレ帝国ジュピター皇帝が全知全能神様で在らせられたとは……。これまでの無礼、誠に申し訳ありません!」


 ユピテルがユーノの瞳を見て真剣に礼を言い、ゼウスに向き直り深々と頭を下げ、詫びを入れている。

 顔を上げたユピテルが(おもむろ)にズンズンと俺に向かって近づいてくる。


「して、どの様にして呪詛を解くのだ?ユーノは大丈夫なんだろうな?」


 可成り焦ってるんだろうな、俺に詰め寄るユピテルが近い近い!


「待て待て、そう簡単にいく訳ないだろ。小神とは言えヒュドラは神だからな。方法としちゃ、もう一度過去へ行き呪いを防ぐか、この場で超強力な解呪を施すかだろ?そう簡単に解呪は出来ないし、かと言ってまた過去へ行き防ぐには何らかの対策が必要になる。そこを詰めてからじゃないとな。……おい、ゼウスは何か考えないのかよ?」

「あん、俺か?俺を頼るなよ。って言ってもられんか。クロノス自身が過去をやり直すのが一番早いが、その場合、この場のユーノは死ぬかもな。かと言って自身の呪いも解けないプルートが行ったところで意味はない。そろそろ現界だろ?」


 現界?何がだ!


『マ、マスター、ごめんなさい……もう無理……かも』


 はっ、レヴァンすまん!無理をさせてしまったようだ。直ぐにユニークスキル【杯呪解怨(シュヲノミコムモノ)】を解いてくれ!


 俺の体から光の粒子が溢れ出て木刀の形に戻る。レヴァンが俺の中から外へと出て来たんだ。


 レヴァンは過去へ行く直前から呪いを押さえつけてもらっていた。過去へ行っている間ず~とだ。

 有難う、無理をさせてしまってすまなかったな。俺はレヴァンを亜空に送り暫くの間休ませることとした。


「お疲れ様、レヴァン。今はゆっくり休んでくれな」


 さて、また弱体化してしまった。プルートからフヅキに戻ったことになるな。これでは過去へ行っても役立たずだろう。……にしてもゼウスの奴、レヴァンの状態まで分かっていたのか、恐ろしい奴だ!


「ってことで、過去へ行っても無駄だ。じゃぁ、この場で解呪する他ないが、その前にお前等、俺に何を払える?等価交換だ、何を差し出せる?」

「おい、けち臭いこと言うなよ!無償でやってくれてもいいじゃんか」

「おいおい、お前も神なら甘っちょろいこと言ってんじゃねぇよ。神の力を無償で行使してたら人類なんぞ進化どころか退化するぞ。神頼みに固執して自らじゃぁ動かんくなるだろぉが。自分の力じゃあどうにもならん事を神に頼むだけで可能にするんだからよぉ」

「む」


 確かに人とは楽な道を選びがちだ。俺だってそうだったからな。でも、自分で出来ることは自分でやるが、不可能なら他者の力を借りる。決して悪いことではないと思うが……。


「ふん、努力もしないで神を頼るなっつってんの。先ずはテメェで死力を尽くせ。無理なようなら神を頼ればいい。勿論対価を頂くがな」


 ……そういや、古代ギリシャじゃ生贄を捧げてたんだっけか?

 癒しの神と言えばアスクレピオスやパラケイアだろ?

 アスクレピオスは死者すら蘇らせゼウスの雷霆により命を落とした。後に神へと至った蛇遣い座の人物だ。

 パラケイアはそのアスクレピオスの娘さん、癒しの女神。

 彼等の加護持ちはいないのかな?……居ないらしい。


 一人で沈思黙考したところで良いアイデアは浮かばない。

 なんだかんだ言って結局はゼウスの力に頼るしかないかも知れない。


「この国で医療に長けた者がミネルヴァの配下に居るには居るが、彼女に神の呪いを解くことが出来るかと問われれば、無理だと答えよう。パラケイア神の神官達とて同じことだろう」


 ルナのことかな?確かに彼女には荷が重いと言わざるを得んだろうな。

 魔術では論外、魔法でも信仰対象によるだろうし、加護ならとも思ったが居ないなら仕方がない。出来れば神能が望ましいが、クロノスの力は呪いを抑えることに使っている。

 今の俺には扱えないし、ゼウスに頼るしかないんだが、対価を求められている。

 まさか小神のヒュドラが、最上級神のクロノスを呪いで苦しめるとはな。


 なんて考えていると、元気よくユピテルが声を張り上げた。


「そうだ!強狂怖大森林にはどんな怪我も難病も癒すと言う実のなる神木があると聴く。その実を取って来れば解呪すら可能かもしれない!」


 ああ、あの爺さんの覚醒の実のことか。……ふむ、確かにあの実は肉体を再構築するから肉体なら元に戻すことができる、が果たして神に植え付けられた呪いを解呪できるか?

 あの実は潜在能力を一時的に解放することも可能だ。ユーノに食べさせれば肉体を再構築し、潜在能力を開放するが、クロノスの解呪が可能な訳じゃないよな?

 そもそも覚醒の実で解呪が可能なら、クロノス自身の力で解いてるだろうしな。


 ヒュドラの呪詛とは、受けた相手の血縁者をこの世に産み出さないようにするものだ。

 たとえ彼女に覚醒の実を食べさせたところで、その瞬間に覚醒するが、クロノスが離れた瞬間にあの世行だ。呪いはユーノではなく、クロノスが受けているんだからな。


「いや、残念だが、覚醒の実では無理だな」

「な、何故お前にそんなことが分かるっ!試してみなくては分からないではないか!」

「試したからな。アレは食した者に作用するが、食した者に宿る者にまで効果は及ばない」


 食ったことあるから分かるが、アレはそういう物じゃない。


「くっ、ではどうしろと言うのだ……」

「あなた……」


 気力が急激に無くなったのか、ぐったりと項垂れてしまうユピテル、それに寄り添うユーノ。

 仲睦まじいのは良い事だ。何とかしてやりたいな。


 呪いを解く……、パッと思い浮かぶのは、変若水(おちみず)やエリクサー、アムリタにソーマ、賢者の石に火の鳥の血、竜血に仙丹と、……あれ?結構あるな。

 今、この中で持っていたり作り出せるものはないから意味がないけどな。

 ペティ・シオンに戻れば何か役立つ物もあるかもしれない。一度戻るのもアリかな?


「どうすれば、どうすれば良いのだ!」

「あなた、私は大丈夫です。もう十分ですので……、そんなに落ち込まないで下さい。後は、ケレースに任せてありますので」

「お母様がどうかしたのですか?ユーノお母様」

「ええ、私亡き後、陛下のことを頼んであるので……。…………えっ!?」


 なっ、セフィー!

 なんかユーノの横に、燿子を抱きかかえ平然と立つプロセルピナの姿がっ!なんでいんの?

 っていうか、どうやって隔離領域に入り込めたんだ?


「なっ!クロノスの力を持つユーノなら兎も角、何故ガキがこの場に入り込めた!?」


 ほら、ゼウスまで驚いてんじゃん。

 ユピテルも我が子の奇妙な出現に戸惑ってる。そりゃそうだ、ここは神の結界内だからな。


「セ、セフィー、何故ここへ、いや、それよりどうやって来たのだ?」

「お父様、この指輪の力を使いました。えへへ、一度しか使えないとの話でしたが、今使うのが適当だと私は思いました。ですよね、フヅキさん?」

「なっ、貴様ぁ、幼い我が子に指輪を渡したのかぁ!まだ、早いわぁ!貴様に娘はやらんぞぉ」


 ああ、婚約の意味があったんだっけ?


「いや、自衛の為に渡した物なんだが……。一度しか使えないって言ったろ。使っちゃったの?」

「はい、お父様やユーノお母様が困っている気がしたので……、ダメでしたか……?」


 申し訳なさそうに顔を赤らめるセフィーの指に嵌まる指輪を見る。山ほど刻んでおいたルーン文字がほぼほぼ消えてしまっている。

 再び刻み直すよりも、新たに作った方が早いかも知れないな。が、その旨を伝えると、この指輪が良いと言い張り結局刻み直す事にした。


「しゃぁないなぁ、後でルーンを刻みなおしてやるよ。でも、次は簡単に使うなよ」

「はい、有難う御座います!」


 俺とセフィーが話していると、ユピテルとユーノが会話に参加してくる。


「セフィー、貴女は何故このような場所へ来たのですか?」

「そうだ、何故来たセフィー」


 と父と義理の母に詰め寄られるセフィー。

 その親子を少し離れ見ているとゼウスがそっと近づいてきた。


「おい、あの指輪を渡したのはお前か?なんてもん渡してんだ、この変態が!」

「誰が変態だぁ!婚約の意味があるなんて知らなかったんだよ」


 エナスに笑われるまで気付かなかったんだよ!そもそも指輪を渡した程度で即婚約って可笑しいだろうが。


「それに、あの獣はなんだ?ありゃ、神獣になり得る器だぞ。そんなモンがなんで結界外にいんだよ!危ねぇだろうが!」

「燿子か?燿子は大丈夫だ。あの娘は俺の眷属みたいなモンだからな」


 名前が聞こえたのか、キュイっと一鳴きしてセフィーの腕を離れ、俺の胸に飛び込んでくる燿子。


「お~、よしよし、燿子は可愛いのぅ~」

「……。はぁ」


 これ見よがしにため息を吐きよったなゼウス。なんだよ、別にいいだろうが。

 燿子はSクラスの狐の魔物だから戦力としては申し分ない。この戦争の中、セフィーのボディーガードとしては飛び抜けて優秀だ。

 だが、この現状では戦力を必要としていない、必要なのは知恵なんだ。

 知恵と言えば加護【叡智】を持つ団長さんが居ると心強いんだが、無い物はしょうがないよね。

 無い物ねだりをしても仕方がない、三人寄れば文殊の知恵とも言うし、人数も増えたし知恵を振り絞ろうか!


 俺も親子の和に加わり話に参加する。

 どうやらミネルヴァ団長さんがミーレス城に帰ってきているらしい。知恵を借りる話も出たが、この場に入ることが出来ないので無理な話であった。

 団長さんはヴァラカスの遺体を家族の元へと届た後戦場へ戻るとのことらしい。団長さんの力は借りられない。


 実は呪いを解くだけなら方法はいくらでもある。だが、それはユーノの犠牲の下に成り立つものだったりする。

 例えば、クロノスに過去へ行ってもらい過去を改変する方法。また、ゼウスがしたようにクロノスを消失(ロスト)させリセットする方法。

 後は、俺がこの体を捨て、神体の力を使い解呪する方法。これをやれば俺の呪いも解くことが出来る。が、出来ればやりたくない。


 取り敢えず、一人一人の出来ることを洗い出そう。


 まず俺だ。俺は戦闘なら出来るが解呪には向かない。ゼウスも言っていたが自分の呪いも解けていない状態だからな。出来る事と言えば戦闘と物作りくらいかな。


 次にユピテルだ。この国の王様に出来ることは権力を使ってゼウスへの対価を払う事だろう。これは他の者には出来ないことだ。戦闘力は俺より劣るし、神の呪詛を解呪するなど不可能だ。


 ユーノ。彼女と言うよりはクロノスかな。クロノスは彼女から離れられないから戦力にはならない。そもそも彼が呪われているんだから彼をどうするかの話だ。


 セフィー。子供、戦力にはならないし、してはいけない。勿論解呪なんて出来ない。実はこの娘は癒しの魔術が使えるらしいが、焼け石に水だろう。


 燿子。燿子のスキルに【遮断】があるがこれで呪いを遮断できるかと言うと、無理だったりする。俺の呪いを遮断できなかったんだ。


 レヴァンなら神の呪いを抑え込むことが出来る。実際に俺の呪いを抑えてくれていたからな。だが、今は休ませているので無理。


 ……うん、望みがあるのはレヴァンか。【杯呪解怨(シュヲノミコムモノ)】が最後の望みだな。


「うむ、仕方がない。このままではユーノが犠牲になりかねん。ここは国を対価にゼウス神に呪いを解いてもらうしかない!」

「なりません!国を渡すなど何を考えているのですかっ!?」

「ん~、お父様、そんなに深く考えなくても大丈夫ですよ?きっと、フヅキさんが何とかしてくれます」


 はぁ?俺が?何言ってんのセフィー!


「そうでしょ?フヅキさんには名前破壊(ネーム・ブレイカー)があるんですから」


 ————!!!

 なんでこの娘は俺のスキルを知っているんだ!?鑑定スキルでも持ってんのか?


「フヅキさん!お願いします。ユーノお母様を助けて下さい!」

「いやいや、名前破壊は名前を壊して力を削ぐスキルだ。解呪なんて出来ないぞ!」

「え?ちょっと違いますよ。名前破壊は確かに力の象徴たる名前や称号を破壊して弱体化させるスキルです。でも、対象者の不名誉な罪過や状態異常、状態強化のステータスも切り離す事が出来る筈ですよ?」


 な、何ですとぉ————!

 初めて知った新事実!慌てて自動知(ウィズダム・)識収集(コレクション)に意識を集中させ情報を漁ってみると、セフィーの言った通りの能力を持っていた。


「セフィー、よく気付いたな。俺自身気付いてなかったのに」

「はい!愛する夫になる方のことですから……。何でも分かります。へへへっ!」

「セ、セフィー!ぐぬぬぬっ、貴様ぁ」


 うっ、ユピテルがコッチを凄い形相で睨んでくるっす!

 それにしても、この娘はマジで俺と結婚する気なのね。いやいやいや、そのことは今は置いておこう。今はね。


「どうして俺のスキルのことを知ってたんだ?リミット(現界)スキルは個人のもので唯一無二の存在だ。他人がスキルの内容を知っていることは有り得ない筈なんだけど?」


 ゼウスなら分かるが、まさかセフィーに見破られるとわぁ!


「私の加護の能力です。ここでは詳しくは話せませんので、後でコッソリ教えますね」

「いやいや、能力のことは話す必要は無いよ。他人に話せば危険なことだってあるからね」


 ユピテルが居ても立っても居られないのか、俺の両肩を掴み前後に揺らしながら問い掛ける。


「フヅキ殿、出来るのか?ユーノを助けられるのか?やれるんだな!いや、やれっ!」


 最後は脅しじゃねぇか!


「あなた、落ち着いてください」


 そんな俺達の様子を見ていたゼウスが豪快に笑いだしやがった。


「はっはっはっ!まさかガキが最初に気付くとはな。確かに今のお前達に出来る最善策は、プルートの名前破壊を使うのが一番だろうな」


 コイツ!気付いてたなら教えてくれても良いだろうにぃ!


「だが、並みの武器では無理だ。時間が経ち過ぎたヒュドラの呪詛は、クロノスとの癒着が酷いことになってるからな。腰の刀では歯が立たんだろう。さっきの木刀ですら無理だ。やるなら神器乃至(ないし)神魂器が必要になるだろうな」


 マジでかっ!それ程か!

 う、ユピテルもセフィーも期待に満ちた瞳を此方に向けてくるのは止めてほしい。仕方がない、覚悟を決めるしかないか。一つ手の内を明かす事になるが致し方なし。


 俺の持つ神魂器は全部で10にもなる。最上級神の持つ神魂器の数とは比較にもならんが、並みの神が持つ数としては多い方だと思う。

 でだ、神魂器のどの子を遣うかだが、前に述べた万能衛星アリシアは用途が合わないので使えない。

 キララは今、団長さん達の護衛を任せているので呼ぶわけにはいかない。

 俺の持つ神魂器の中で上位に位置する二振りの刀は力が強すぎて今の俺では制御出来ないかも知れないから外す。

 後は、剣の神魂器が三振り、扇が一柄、銃が一丁、宝玉が一個だ。

 使うなら剣の神魂器になる。


 ————蒼剣テレザ、性格は照れ屋で、照れると直ぐ怒り出す可愛い奴だ。能力は炎熱を得意とする。


 ————白剣シーシァ、性格はお淑やかで、テレザとよく一緒にいる姉妹のような関係。得意能力は冷気。


 ————銀狼剣リュルフ、銀狼の魂から成る神魂器。リュルフは燿子同様に人化の力を持つ狼で、得意能力は退魔と超神速。俺の仲間の中で、唯一男性だったりする。彼にはトキミという妹がいて、彼女は宝玉の神魂器となっている。


 出来れば争いに巻き込みたくはなかったが、そうも言ってられないしな。どの子にしようか?

 やっぱり呼ぶなら同じ男であるリュルフだな。よし、君に決めた!


「我、汝の主にして神の名において命ずる!来い、————銀狼リュルフ!」


 声に出して呼ぶと、派手な光の演出と共に、一振りの銀の剣が呼び掛けに応え姿を現した。

 見事な銀細工の施された鞘に収まった白銀の剣で、その正体は銀狼と呼ばれた一匹の神獣なのだ。

 鞘には超一級品と思しき掘りが施され、側面には見事な宝玉が埋め込まれている。実用品と言うよりも観賞用の高級装飾品だと思える出来だ。

 側面の宝玉、実はこれこそが彼の妹たるトキミだったりする。


『やれやれ、久しぶりに呼ばれれば、随分と面倒なことに巻き込まれているな』

『お兄様、主様に失礼です。もう少し言葉遣いを考えて下さい』


 リュルフが俺の頭の中に直接渋くカッコいい声で話しかけてくる。続いてトキミの可愛らしい声が後に続く。

 確かに、修行時代から久々に呼び出したけど、ちょくちょくとペティ・シオンでは構ってただろ?


『ふん、俺達は武器だ。戦場で呼ばれなければ意味がない』

『お兄様……。主様が危険から私達を遠ざけているのは分かってますか?』


 俺の頭の中で兄妹で言い争わないで貰いたいな。この兄妹、仲が良いのにしょっちゅう口喧嘩をしている。だけど、離れることは決してせず、兄は妹を護り、妹は兄を支えて今までやってきたんだ。


 二人の口喧嘩が頭の中で始まり、俺が頭を抱えているとゼウスが声を掛けてきた。


「ほう、流石に質の良い神魂器じゃねぇか。これなら申し分ねぇな、いいかプルート、力の加減を間違えるんじゃねぇぞ。少しでも手元が狂えば女の命もないからな」


 プレッシャーを掛けないでくれ!緊張するだろうがぁ。


「ええい、分かってるよ。ユーノの瞳、それもクロノスと呪いとの僅かな隙間を斬ればいいんだろ!やるぞリュルフ、力を貸してくれ!」

「どうかお願いします。ユーノお母様を救って下さい!」


 セフィーの言葉を背に受け、リュルフの銀狼剣を抜き正眼に構える。

 ぶつけ本番どエライ仕事が舞い込んだものだ。

 リュルフの力を出し過ぎれば呪いごとユーノを両断してしまう。力をセーブする。が、力を抑えすぎても解呪出来ないだろう。

 僅かなズレすら許されない緻密で繊細な作業だ。精神を研ぎ澄ませ、只一点に意識を集中する。

 周りの者も一言も漏らさずに、固唾を呑んで俺の事を見守っている。

 名前破壊(ネーム・ブレイカー)を発動させると、ユーノの体の至る所に歪みの様な線が視え始める。この歪み一本一本が名前やら称号を示すモノなんだ。それに沿ってリュルフで斬れば名前を剥がせる訳だ。

 厄介なのは線が直線ではなく曲線だということ。刀なら曲線でも問題なく斬れる、が真っ直ぐな刃をもつ銀狼剣では不向きな軌跡となる。


 更に瞳だけに意識を集中させる。すると、余計な歪みが消え(クロノス)だけの歪みが視えるようになった。

 ただでさえ小さな的、その的に細い線のような細かい歪みがある。呪いではない歪みを斬ればクロノスに影響が出てしまう。些細なミスでも許されない状況で、呪いの歪みを見極める。


 ————あった!


 ミリにも満たない細い細い歪み、アレが間違いなく呪いを示す歪みだ!


「動くなよ!王妃さん」


 一声かけてからリュルフを斜めに構え直す。

 リュルフを握る手に力を込めると、綺麗な白銀色が闇色へと変化してしまった。俺の力が銀狼剣へ流れた為に起こった現象だろう。

 そして技を放つ!


 ————ネーム


 闇色の銀狼剣を歪み目掛けて振るう。


 ————ブレイカー!


 ここで瞬きでもされたら堪らないので、最速をもって斬り裂く。

 俺の超剣速にリュルフの超神速を上乗せし、光を超える速度で歪みに迫る。

 斬り裂くと同時にガラスが割れるような甲高い音が響き、呪いが砕けた感覚を確かに感じ取った。

 名前破壊はキチンと機能し、ヒュドラの呪詛が霧散していった。


「よっしゃー、成功だ!」


 思わず声を張り上げてしまった。ちょっと恥ずかしい。

 呆然と立ち尽くすユーノにユピテルが心配そうに声を掛けた。


「ユーノ、何ともないか?怪我はしていないな?俺が視えているか?」

「は、はい、大丈夫です。そんなに慌てずとも私は問題ありませんよ」


 よかった。本当に成功したようだ。これで一つ問題が解決した。


「やるじゃねぇか。正直無理だと思ってたが、流石兄貴の眷属だな」

「て、てめぇ、無理だと思ってたんなら、やらせるんじゃねぇよー!」


 コイツは阿呆か!一歩間違えればユーノは死んでいたんだぞ。いや、死ぬと言うより消失することになっていた。

 クロノスがユーノから離れた時点でユーノは死産していたことになり、この場には居ない存在として認識される。

 ユーノが居なければマルスもスクディアも産れないから二人も消滅していただろう。


「方法がそれしかないなら仕方ねぇだろうがっ!俺を責めるんじゃねぇよ」


 ぐぬぬぬ~、そもそもコイツが無償で助けてくれればこんな苦労せずに済んだのにな!


「それよりも、俺の目的は一つ達した。クロノス!出て来い」


 ゼウスの目的は神体のまま存在しているクロノスをどうにかする事だからな。これで、クロノスは神界へ戻ることが出来る。


 ゼウスの言葉に応えクロノスがユーノの瞳から出て姿を現した。

 ユーノの目が光ったと思ったら、ユーノの前に一人の男が立っていたんだ。


「お、お父様なのですか?」

「ああ、初めましてだなユーノ。大きくなった」


 クロノスが離れてもユーノの瞳の色は健在だった。クロノスの力が今も尚宿っているのだろう。

 親子の初対面は、お互い穏やかな笑顔でなされた。よかったな。

 二人は暫くの間、俺やゼウスを無視するように話を交わした。

 娘は気丈にも堪えていた涙が決壊しポロポロと溢れ出していた。


 ゼウスも気を使ってか何も言わずに佇んでいる。

 あれ?今思ったんだけど、クロノスが父親ってことはユーノは半神半人ってことじゃん?まっ、今更どうでもいいか。


「さて、そろそろ良いか?……クロノス、お前の神体は神界へ戻せ。擬体なら構わんが、今起こっている戦には参加することを禁ずる」

「はっ、畏まりました」


 ん?


「まてお前、戦争続ける気かよ!目的果たしたんだからいいじゃんか!」

「はぁあ、馬鹿かよ。俺の目的はこの地を手中に収め、結界を見張る事だっつったろぉがよ」


 そんなことは忘れろや!


「俺自身は手を引いてやるが、俺の軍はこのまま攻め込ませるぞ。プルート、お前は好きにしていいが、クロノス、お前は戦うなよ。二柱も敵に回れば我が軍の勝ち目がないからな」

「俺は良いのかよ!」


 舐められてるのか?


「むしろお前が居ないと相手にならんだろうがぁ。数でも質でも帝国兵が上なんだからよぉ。それにお前は全力が出せないみたいだしな。丁度いいハンデだと思いな」


 なんか呆れた顔して言われたんですけどぉ。

 まぁ、なんにせよ取り敢えずの危機は過ぎた。今度は人間相手かぁ、気が滅入るぜぇ。


 こうしてゼウスは帝国に戻り、クロノスの神体は神界に戻った。が、擬体のクロノスはちゃっかりとユーノの傍に控えていたりする。

 ユピテルは義理の父親に挨拶をして、セフィーが燿子をもしゃっている。俺ももしゃりたいが、今はセフィーに譲るとしよう。

 牢に戻ってリュルフやトキミをもしゃっとこうっと。


 ってことで、俺は戦争に参加する事になってしまった。正直、御免被りたいよ。

 牢に戻ってもしゃりながらエナスと悪巧みでもしてようかな。






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