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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
ヴァンチトーレ帝国の脅威
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脳吸う化け物

 天に灰色の海が広がり光を遮っている。人々は恐怖に怯えて家の中へ引きこもっている。運の悪い者は、屋内から外の様子を窺い、奴の姿を見て消滅すしてしまう。

 フィーノは館の中で大人しくしている。運が良かった!彼女が窓から外を覗けば、そこで消滅してしまうからな。直ちに結界を張っておこう。


 これで直に目にしても大丈夫だろう。可能な限りの範囲で他の家屋にも結界を張っておく。放って置けば致命的なまでに人口が減ってしまうからな。これで一先ずは安心だ。が、油断は出来ない。

 奴が俺の結界を破る前に仕留めなくてはならない。


 このまま放って置けばクロノスは間違いなく来るだろうが、ゼウスまで来てしまうだろう。正直この時代に来てまでゼウスに会いたくはない。ちゃっちゃと終わらせないとな!


「よりにもよって冥神たる俺に会うとは運が無かったなヒュドラ!」


 ヒュドラの灰色の体に浮き沈みしている首は、奴に捕食された者達だ。

 正確に言えば、ヒュドラに囚われた首は死んではいないため冥神の出番ではない。が、本来なら死んでいる者達でもある。


 彼等に安らかな祝福()を与えよう。苦しみの無い世界へと誘おう。


 奴のあの体は神体だ。あれを倒せば自ずと取り込まれた首も解放されるだろう。


女神(おみながみ)流刀術、死出の夜纏い!」


 燭台切光忠を抜刀するとまるで空間を切り抜いたように斬った空間が真の闇に染められていく。闇は更なる闇を呼び広がり、星の無い深夜の如く暗黒に包まれる。

 十分に広がりきった闇は、やがて一点へと収縮を始め全ての標的を道連れにして極限に圧縮され点へと変わり、やがて消滅する。


 流石に一発では神を呑み込めなかったようだが、目に映る図体の、一部分の幾分かは綺麗に消滅させることに成功した。しかし、奴は巨大で再生力も高い。切り取られた端からドロドロと再生が始まり、瞬く間に元通りに復活を果たしてしまう。


「ちっ、デカいだけあってしぶとい!が、まあいい、幾分かの首は解放出来たから良しとしよう。次だ次!」


 今は少しでも犠牲者を開放できた事を喜ぼう。この調子で全てを開放しようじゃないか!


 だが、只やられる筈も無く、再生した部分から、新たな首が現れ同時に触手のようなものが無数に垂れ下がってきた。その触手の全てが俺の首を狩らんと襲い掛かってくる!

 触手を華麗に交わしながら対策を考える。首達は奴の栄養源だ、全ての首を屠れば奴も大人しくなるかも知れない。気の長い話だな、おい!

 あとは、あの灰色の体を余すことなく消し飛ばせば倒せるだろうが、見渡す限りの巨大さ、正に空に広がる灰色の海、そんな巨体を一度に消し去るのは難儀だ。やはり首を狙おう!


 にしても、触手の動きが速い!

 首を狩り取りたいのか頸ばかりを狙って来るから躱しやすくはあるが、何分数が多い。このままでは数に押されそうだ。


 触手を死出の夜纏いを繰り出しながら光忠で迎撃、しかし、直ぐに新たな触手が生まれてくる。キリがない!


「くそっ、体に近付くことが出来ない!」


 奴の産み出す触手は見渡す限りの空間に垂れ下がっている。幾ら技を繰り出し数を減らしても数百、数千と新たな触手が生まれれば流石にうんざりしてくるってもんだ。しかも触手には首が無く消しても解放されない。


「————!!!」


 一際勢いの乗った触手の一撃を喰らい吹き飛ばされてしまう。

 勢い良く吹き飛ばされる俺は、幾つもの家屋を結界ごと薙ぎ倒し、止まった先にはフィーノの館があった!

 やっべっ、複製領域の結界を使っていないから、壊れた物はそのままだ!さっき張った結界は防御用だからな。

 結界を張れば任意の人物を取り込み、そうでない者は結界内には入れない。その為、住人が被害に遭う事はないのだが、今ので何人も死んでしまった!


 まずい、触手の追撃を躱してしまうとフィーノが危ない!急いで空間をコピーしないとっ!


 彼女は泣いているのだろうか?恐怖に呑まれ膝を抱えているのだろうか?考えると胸が痛い。

 俺の不注意で怖い思いをさせてしまった。彼女はまだ17の少女だというのに……。

 俺は、産まれた時から彼女の事を見てきたから、どうも感情移入してしまっているようだ。彼女の事を実の娘の様に感じてしまう。


 複製領域を構築しながら、迫る触手を薙ぎ払う為の技を繰り出す。

 只の一撃で星すら落とす攻撃特化の大技、女神(おみながみ)流刀術、龍星光薙(りゅうせいこうてい)の太刀!

 横一文字に薙ぎ払われた光忠から、超極太の龍を模した斬撃が空へ向かって放たれる。

 触れたもの、否、触れてもいないものまで消し飛ばしていく龍の斬撃が周りの全ての触手を消し飛ばした!遠くから見ればまるで、地上から天へと流れる流れ星の如く見えただろう。

 と、同時に複製領域の結界を展開する。————邪魔が入った!

 何者かが凄まじいエネルギーを伴って侵入してきたのだ。そのエネルギーに押されて結界が解除されてしまった!


「くそっ!————誰だ邪魔する奴は!」


 クロノスだったぁ!

 フィーノが心配で駆けつけて来たようだ。強力な助っ人ではあるが、何も結界をぶち壊す事ないと思う。折角構築した複製が霧散してしまった。


「感謝する。良くぞ私が来るまで持たせてくれた!」


 一言いってやりたいが、今はそれどころではないか。


「ああ、気にすんな。それより今は奴を倒す方法を考えないと」

「奴は私が対処しよう。君はフィーノの護りに専念してくれ給え」


 クロノスの奴、俺の事を何も聞かなかったが分かってんのかな?俺は奴の事を知ってるからいいが、奴からしたら初対面の筈だ。俺がフィーノの護り役って事は、奴は俺を信用していることになる。俺の事を知ってんのか?まあいい、信頼には応えるだけだ。


 クロノスが得意とする神能は“時”だ。“時”の神能でどう倒すのか拝見させてもらおう。俺にも時を操る事は可能だが、時の神が操る神能には敵わない。勉強させてもらおうじゃないか。


 俺は即座にフィーノの居る屋敷の中へと入り結界を強化する。


「なっ、ど、何方で御座いますか?何の御用で御座いましょうか?」


 執事らしき爺さんが言った。


「安心しろ、敵じゃない。クロノに頼まれお嬢さんを護りに来た者だ、彼女は今どこに?」


 クロノとは人間界でのクロノスの名前だ。安直な名前と思わなくもないが、どうでもいいか。


「旦那様のお知り合いで御座いましたか、感謝いたします。奥様は彼方に」


 館の中の使用人達は慌てふためいている。使用人からしたら外の出来事は、主の不在中での大災害のようなものだ、慌てるのも致し方ない。

 だが一人、気丈にもそんな使用人達に指示を出している人物がいた。居た、フィーノだ!

 泣いても、膝を抱えてもいなかったな。そうだったな、気丈な娘だったわ。


「魔術の使えない者は地下へ、使える者は地下の入口で護りを固めなさい!余裕のある者は物資を運んで!貴女、慌てずとも大丈夫です。慌てず、ですが、素早く移動なさい。そこの貴方、貴方は彼女を地下まで送り届なさい」


 彼女は不安になり挙動不審になりつつある使用人一人一人に声を掛け、適切に指示を出していた。彼女自身不安であるだろうに。

 使用人達は徐々に落ち着きを取り戻し、フィーノの指示に従っていく。

 彼女の指示は加護の影響下にある。急速に使用人達の動きが良くなるのは必然か。


「貴方、……貴方はどちら様ですか?どこか懐かしい気配を感じるのですが?」


 そんな彼女が俺に向かって訪ねた。何となく俺の存在に気づいてたのか?

 まさか産まれた時から見ていましたぁ、なんて言えない。それじゃストーカ扱いされてしまう。なんて答えようか?


「奥様、此方のお方は旦那様の使いでいらっしゃった方で御座います。……そう言えば私としたことが、お名前をまだ伺っておりませんでした」

「ああ、俺はフヅキと言う。女神文月(おみながみふづき)だ。アンタらを、お嬢さんを護る様に言われてきた」

「旦那様が————!クロノが来ているのですか!?彼は、彼は今どこに?」

「クロノは今外の化け物退治をしているが、心配する必要はない。あの男は強い!」

「なっ、いくら強いと言っても、あの化け物を相手にするのは無茶というものです!連れ戻さなくては……」


 おいおい、いくら加護持ちだからって無茶が過ぎる。

 クロノスを連れ戻そうと外へ出ようとするフィーノを慌てて止める。結界の外へ出ればたちまち消滅することになる。馬鹿正直に言う訳にもいかない、だって、クロノが外に居るんだもん。


「待て待て、アンタの旦那さんを信用してやってくれ。じゃなきゃ奴が命懸けで戦っている意味が無くなってしまう」

「奥様、危のう御座います!ここは旦那様を信じて待つべきです。奥様に何かあれば、旦那様に合わせる顔が御座いません」

「ですが、相手は見たこともない化け物ではありませんか!化け物の相手は騎士の務めではないのですか!?」


 御尤もだが、騎士では相手取ることは不可能だ。クロノが神のクロノスだと打ち明けるのが最も手っ取り早いがそうもいかない。勝手に正体を明かす訳にはいかんからな。


「大丈夫だ!アイツが、あの程度の相手に負ける訳がない。理由は言えないが、クロノに任せるのが一番良い選択なんだよ」

「そんな……」

「今はクロノの帰りを信じて待っててやって欲しい。この館は俺が護るから安心して待ってろ!」


 落ち込んだ様子だが大人しくなった彼女を他所に、俺は外に出て様子を窺う。

 クロノスの戦い方を一目見て、目を奪われる。彼の戦い方は見事という他なかった。


 クロノスは全ての触手を一瞥しただけで消滅させ、ヒュドラの再生能力を封じ、最小限の動きだけで本体へ攻撃を放っていた。

 再生を封じられたヒュドラは、次第にその面積を減らしていき、堪らず空間を割って逃れようとしていた。

 クロノスは、割れた空間を即座に時を戻し修復し、逃走を阻止する。そして神能“時”の能力を使用し、奴の時間だけを巻き戻し、首の数を減らしていった。首を吸収する前にまで時間を巻き戻し続けているんだ。

 みるみる内に首の数が減ってゆき、そして、最後の一つとなりそれも消えた!奴の補給を断つことになる。

 クロノスは最後に極大の神気を持ってヒュドラの巨体を攻撃し、吹き飛ばして消滅させることに成功した!


 空は晴れ、何事もなかったかのような青空が広がった。

 ————が、俺には見えてしまったんだ、……ヒュドラの最後の足掻きが、奴の断末魔の様な、執念の呪詛を。本人に気付かれない様にコッソリと放たれた呪詛。

 端から用意されていたのか?って位、周到で見事な呪詛だ。

 神であるクロノスに気付かれず、看破されない様に細工され、解呪方法が複雑で分かりづらく、丹念に練られた代物だった。

 現場を見た俺だからこそ分かったことだ。


 クロノスは長年、ユーノの死産の原因を探っていた。フィーノの過去を覗き、時には未来さえ視て原因を暴こうと足掻いていた。しかし、原因は彼女ではなかったんだ。

 いくらフィーノを調べたところで分かる訳がなかった。

 彼女ではなく、クロノスの方に原因があったからだ。クロノスはフィーノの原因ばかりを気にしすぎて、自身の方には目が向かなかったようだ。


 ヒュドラの放った呪詛は、子孫を残せない様にする意地悪なものだった。これがユーノが元気に産れる事の出来ない理由だったんだ。

 クロノスの呪詛を解かない限りユーノが無事に産れる事はないだろう。


 どう解呪しようか考えていると、俺の体が光り出した!

 なんだこれ!と、思う間もなく俺は元の時代に引き戻されるのだった!




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