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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
ヴァンチトーレ帝国の脅威
31/66

過去

 俺は過去へ飛び、上空から地上を俯瞰していた。フィーノの領地は、やたらと小さな地震が多い地域のようだった。

 見る限り、現在のインペラートルよりも若干寂れている街並み。そんな街の一角に立つ侯爵家が保有する立派な館でユーノの母親は生を受けた。

 彼女はフィーノと名付けられ、元気よく成長していった。彼女は健やかに育ち6歳になった。


 この世界では、6歳になると信仰する神殿で聖なる儀式を行うようなのだ。

 早い者ではこの儀式で神と対面し加護を授けられるらしい。それは、極々稀なことのようだったが、フィーノは見事6歳にして加護を得ることに成功する。

 フィーノが授かった加護は【時雨之化(じうのか)】と言った。言うまでもないが、加護を与えた神はクロノス、時の神だ。

 この加護は適切な時に最適な成長を施す能力を持っていた。それは自身のみに留まらず、フィーノが教育したものにも影響を与えた。

 と、もう一つあった。それは適切な時に適度に雨を降らせるというものだった。その為、農事は全盛を極めることとなる。


 時は流れ、彼女は14歳に、その頃には両親が治める領地は彼女の加護の影響で随分と栄えていた。

 ある日のこと、彼女の館に一人の来客が来た。その客人はどうやら異邦人らしく言葉が異国語で上手く要領を得ない。

 俺には何を言っているのか良く分かるが、フィーノの両親には何を言いたいのかイマイチ伝わらなかったようだ。

 来客はこう言ったんだ。


「この地に魔女が居り、本来周りに降らせる筈の雨を奪い、本来この地に降る豪雨を他所へと追いやっている。その為周りの領地の農耕は本来の実りを受けられずにいる」


 続けて言った。「魔女を引き渡せ。でなければ我々は侯爵家に向けて攻撃する用意がある」と。


 両親は要領を得ず、フィーノを客人に引き合わせてしまった。その瞬間、客は変貌した。

 大人しかったその客は、フィーノを見た瞬間に素早く動きフィーノを抱きかかえ、窓をぶち割り逃走を謀ったんだ。

 両親は慌てふためいたが、今は奴を追うことに集中しよう。


 逃走中、これまでにない大きさの地震が起きた。震度5強と言ったところか?人一人抱えて走るには苦労しそうだと思っていたら、フィーノを攫った人物は背に翼を生やし空を飛びはじめた。

 奴は人じゃないことは分かっていた。が、忠告することは出来なかったんだ。忠告すればきっと抵抗し、その場で殺されていたに違いないからだ。それにここは過去だ、俺が干渉していい場所じゃない。


 奴は随分と離れた山裾に建てられた小屋に入っていった。

 俺は小屋の遥か上空に浮かび、中の様子を透過して監視することにした。


 中には貴族と思われる随分と高価な服をきた中年のおっさんが居た。そしてもう一人。

 その人物はローブを目深に被り顔を隠し、年も性別も分からない。が、コイツの放つ気配は陰湿で粘り強く、粘度の高い纏わり付くヘドロの様なものだった。

 フィーノはその人物を目にするや否や気配にあてられて気を失ってしまった。

 誘拐犯共は彼女の手足を拘束し、隣室の寝具へと横たえ部屋を出て行った。

 無防備に思えるが、この部屋には出口になり得る場所は扉一枚しかないようだ。14の少女には自力での脱出は不可能だと判断されたのだろう。


 馬鹿な奴等だ。時雨之化には必要に応じて成長させる能力があるのに監視の一人もつけないとは。

 最も彼女が目覚めていればの話だが……。いざとなれば俺が助ける必要があるかもしれない。


 誘拐犯は三人で相談をしているようだ。

 どうやらこの貴族は西へ二つ程離れた領地を治める伯爵で、ローブの人物は雇われた護衛の様なもの、翼の生えた実行犯はローブの人物と何らかの契約を交わした悪魔族のようだ。

 悪魔は可成りの実力を持っているが、俺が森で倒した鬼悪魔(オーガ・デビル)程ではない。

 コイツ等の狙いはフィーノを自領へ連れて行き加護の恩恵を受ける事らしい。

 今、コイツ等は安全に帰還出来るルートを算出している。

 今更か?と、思わなくないが、この辺は魔物も出るようで随時ルートの変更を余儀なくされるっぽい。


 三人はルートが決まったのかフィーノの眠る部屋へと入っていった。

 下卑た笑みが気持ち悪い貴族が彼女に触れようとした瞬間、————それは起こった。


 室内にけたたましい音が鳴り響き、空間に細かなひび割れを起こしていく。

ひび割れは急速に広がり、空間の欠片となって落下していった。

 ゆで卵の殻のように、バリバリと連なった欠片が床に落ちていき、空いた虚無から人の手が出てくる。誘拐犯共は何やら騒がしく喚いているが、空間の割れる音が激しく、何も聞き取れない。

 貴族とローブの人物は慌てふためく、そんな二人を悪魔が護るかの様に前へと歩み出た。余裕な笑みを浮かべているが、分かっているのか?そこから出てくる人物が誰なのかを。


 虚無から飛び出した手、次に肩、片足へと次第に全容を現わしていく。

 現れたのは言わずもがなクロノスだ。彼は彼女に惚れているからな。ピンチに颯爽と現れた訳だ。

 悪魔は余裕ぶっているが、相手が悪すぎるな。クロノスは作り物の体だが相当な力を持った肉体を使用している。悪魔の勝てる見込みはゼロだ。

 が、相手の実力も理解できない悪魔は、無謀にもクロノスへと襲い掛かった。

 次の瞬間、悪魔は爆ぜるように消えて無くなってしまう。南無~、原子レベルに分解された悪魔に念仏を唱えておこう。

 悪魔を呆気なく倒され慌てる貴族の男だが、ローブの人物は杖を手にマナで魔法陣を描き出した。ふむ、これは召喚魔術か?

 思った通り魔法陣から細かな小さな魔蟲がわんさかと飛び出してきた。蜂の様だが立派な魔物の一種だ。


 召喚魔術が存在するなら、現在で起こっている戦の戦力差を覆せる可能性があるんだけど?その話は終ぞ聞かなかったな。稀な能力なのかも知れない。


 飛び出した魔蟲がクロノスに迫るが呆気なく、触れる事も出来ずに全て消滅。これに腰を抜かす貴族の男とローブの人物だが、クロノスは容赦しなかった!

 クロノスが片手を軽く振ると二人の人物が苦しみだし変貌していった。


 体中から体毛が生えだし、手足が細く伸び、まるで節足動物かのように硬化し先端を尖らせる。

 両脇腹から新たに足が生え、口が裂け巨大な牙が生える。黒く丸い複眼が幾つも増え、尻が異様な程丸く膨張する。肌は黒く硬くなり、最早人の面影は無くなっていった。

 そこに誕生したのは、二匹の人間大の蜘蛛に似た化け物だった。

 え、えぐいっす!クロノスさん容赦の欠片もないっす!


 二匹の巨大な蜘蛛はそそくさと小屋を出て山の中へと消えて行った。自業自得だが、哀れだな。アレ、自我を保ってんのかな?ちょっと同情してしまいそうだ。

 クロノスはフィーノをそっと抱き上げ、スゥ―と消えて行った。その際、奴は俺に一瞥をくれていった気がしたが、……気のせいか?


 可笑しいな?てっきり此処で呪いでも受けたのかと思ったんだが、何もなかったな。ユーノの理由が未だに分からない。


 クロノスはその足で両親の元までフィーノを送り届け、大いに感謝されていた。

 盛大に歓迎され、クロノスは両親からの信頼を勝ち取ったようだ。

 クロノスは過去へと渡り公爵の爵位を手にしている。そしてこの場で両親にフィーノへの想いを打ち明けた。とんとん拍子で婚約が決まり、フィーノが結婚できる15になると即結婚。


 そこからは言葉にするにも憚られる甘々な生活を送る二人だった。

 何処に行くにも二人は寄り添い合い、見ているこっちが恥ずかしくなるような場面が至る所で繰り広げられていった。

 正直勘弁してほしいが、幸せそうで何よりだ。未だにユーノに関する出来事がないのは良い事なのかな?


 だが、そんな二人に悲劇が起きた。結婚後2年の月日が流れ、クロノスが貴族の仕事で領地を離れている隙に、フィーノがとんでもないモノに憑かれてしまったんだ!


 一際大きな地震と共に天に亀裂が走る。デジャヴな光景だな!


 ここの所頻発していた大きな地震は全域総神戦争の余波に由るものだろうと推測していたが、ビンゴだったらしい。

 全宇宙、全次元で、全ての神が争ったと言う戦争だ。この時代にはまだ戦争の真っ只中だったらしい。

 確か後数十年は続く筈だ。終戦は団長さんの成人間近だったと思う。


 天に生じた亀裂は、いつの日だったかクロノスが現れた時の様に砕け、何者かが内側からニュルリと漏れ出して来る。


 コイツはマズいぞぉー。コイツは神そのものだ!


 天を覆っていく灰色の禍々しいドロドロした何か、目を凝らせば無数に、あらゆる生物の首が浮き沈みを繰り返している。

 コイツはクトゥルフ神話に出てくる外世界のヒュドラだ!アストラル界に存在する小神で、幽体離脱をした人物を利用し現界し、その人物が出会ったものの首を狩り吸収する。吸収されたものは死なず首だけの状態で生きているという。正に化け物だ!

 異変を気にして空を見上げてしまった者達が次々に消滅していく。神を直接目にすることは出来ないのだ。何とかしないといけないが、余りにも巨大すぎて広範囲で事が起きている。これでは対処が間に合わない。


 こんなものが現れたなんて話は聞いてない。言い伝えるべき人が全て消滅したのだろうか?

 この時代には既にゼウスがいるので、彼が何とかしたのかもしれない。若しくはクロノスか……。


 ……いやいや、この場に居ない者をあてにしてる場合じゃない!何とかしないと世界が滅ぶぞ!


 仕方がない、干渉するのは避けたかったが、俺がやってやんよー!



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