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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
ヴァンチトーレ帝国の脅威
29/66

イクテュス防衛線

 王都ミーレスより南南東に位置する都市イクテュス、そこは港が近く貿易も盛んな賑わいある大都市だ。

 その都市に20万もの帝国兵が近付きつつあるという情報が齎される。

 騒然とする民達だが、朗報も同時に齎された。マルス皇太子率いる兵団が此方に向かっていると言うのだ。

 領主は民達に僅かばかりの希望(情報)を与え、イクテュス城より北側に避難を急がせた。

 領主にはイクテュスが帝国兵の攻めに耐えれるとは思えなかった、防衛のための私兵はその殆どを送り出した後なのだから。恐らくその兵達は帰ってこないだろう。

 攻め込まれれば城とて容易く落とされる。その為に城に避難させる訳にはいかなかったのだ。

 出来るだけ民達を危険から遠い場所へと移し時間を稼ぐ、最悪その間に降伏してしまえば、自身の首は落とされる事になっても民の命までは取られまいと踏んでの事だった。


 だが、当のディアマンは、


「いいか!王国の者は誰一人逃がすな!女子供だろうと容赦はするなっ!この戦いは、帝国の意地と誇りを賭けた戦ではない、この戦いは略奪と殺戮のただの憂さ晴らしだ!」


 ディアマンは声を高らかにして叫ぶ。


「貴様等ぁ————、憂さを晴らせぇ————!!!」

「「「おおおおおぉぉぉぉ————————!!!」」」


 ディアマンにとっては、この戦は婚約者を取り返すための戦いだ。婚約者を奪われた怒りや憎しみは大きく、たとえウェヌスを取り戻すことが出来たとしてもこの怒りは収まりはしない。恥をかかされた腹いせがしたかったのだ。


 イクテュスの眼前に迫った帝国兵の雄叫びが響き渡る。

 迫りくる帝国兵に恐怖を覚えるがイクテュスの民、同時に味方の雄叫びも聞こえ希望が見えた。


「イクテュスに入らせるな!何としても護り抜けぇ、総員突撃ぃ————!!!」

「「「おおおおおぉぉぉぉ————————!!!」」」


 ディアマンも叫ぶ。


「マルスは俺が殺る!誰も手を出すんじゃねぇぞぉ!」


 漸く現れた怨敵、自身の手で殺さねば気が晴れない。


 ぶつかり合う両兵団、大勢の兵士が初撃で命を落としていく。

 剣で斬りつけ四肢が飛び散り、槍で突かれ串刺しにされ、弓で射られる額に穴を開け、斧で割られ脳天を開く。前を走っていた兵士は次々と倒れ、後続が仇を討つ。

 両兵団はそんなことを繰り返していた。


「魔術部隊!放てぇ!」「バリスタ隊!てぇ!」など指示か飛び交い戦場は大混乱の真っ只中だ。

 炎や氷の塊が群れの後方へ放たれ、バリスタの巨大な矢が貫通力を持って前線に一筋の道を作り出す。


 数に勝る帝国兵には余裕があり、逆に王国兵には焦りがあった。


「殿下、このままでは数に押されます!魔術部隊を下がらせ極大魔術の準備を急がした方が宜しいかと存じます!」


 マルスの補佐官が言う。


「駄目だ!魔術部隊を動かせばそれこそ数の暴力に押し込まれ、前線は崩壊する。今は耐え相手の隙を作り押し込む、その後に魔術部隊を下がらせ極大魔術を使わせろ!」


 前線は辛うじて保てている。それは魔術の援護があるからだ。今、この援護射撃が無くなれば(たちま)ちに前線崩壊を招く事になるだろう。


「はっ!しかし、相手は隙をみせますか?このままでは隙を作る前に押されかねません!」

「私が出る!敵の指揮官を討つ。お前はこの場に残り、指揮官を討ち次第魔術師部隊に後退の指示を出せ。同時に伏兵を動かすんだ!」


 マルスは戦いに突入する前に伏兵の騎馬部隊を編成し、敵の横っ腹に痛打を与えられるように潜ませていた。


「な、殿下自ら出られるのですか————!成りません!もしもの事があればこの国の未来はありません」

「今勝たねば明日などない!出るぞ、功を欲する者は我に続けぇ————!!!」

「「「おおおおおぉぉぉぉ————————!!!」」」

「殿下ぁ————!」


 マルスは後ろに続く兵達を引き連れて前線に出てくる。敵の指揮官をディアマンだと分かっている故の行動だ。

 ディアマンならマルスの姿を確認し次第首を刎ねに来るに違いないと思っているからだ。

 案の定ディアマンを釣ることに成功する。


「卑怯者の分際で良く出てきたなぁ————!生皮剥いで、戦車に括って引きずり回してやるぞ!」

「下郎が、この地に眠るは貴様の方だ!」

「人の妻を奪っておいて良く言えるものだなぁ。コソ泥に相応しい死に方を用意してやるぞ」

「お前の妻ではない!ウェヌスは自らの意志で私を選んだのだ。貴様に奪わせはしない!」


 マルスは剣を抜く。戦場に出る前に父王に渡された国の宝剣だ。

 インペラートルには二つの宝が有る。それは神器アンキレー、もう一つが宝剣サングリエだ。

 サングリエの能力は前進する意志を力に変えるというもの。不屈の意志を持つ者に真の力を授ける宝剣なのだ。


 対するディアマンの持つ巨大な棍棒は貴重な魔鉱で出来た分厚い棍棒で名前は無い。能力的には【身体強化】【剛力】【破壊補助】の三つだ。


 二人の武器が打ち合う中、周りの兵達も互いの武器を振り回している。

 混戦の中、個人戦に持ち込んだマルス達は自身の周りには目もくれず、眼前の敵のみに意識を注ぐ。


「オラァ————、盗人風情がいつまでも王子気取りかぁ!王族の風上にも置けない奴が何時までも主人公気取ってんじゃねぇ————!」


 ディアマンの振るった棍棒を躱すマルス、躱された棍棒はそのまま大地を打つ。

 その力は凄まじく、まるで隕石でも落ちたのかと思える衝撃を伴い地盤を噴き上げていく。

 衝撃は十数mにも及び、衝撃圏内の兵士を敵味方関係なく吹き飛ばしていく。倒れた兵士の頭上から大量の土砂が降り注ぎ、逃げ遅れた者はそのまま生き埋めにされていく。


「がはははっ、見たか!貴様のひょろっこい細腕では逆立ちしても出せない力だろう!?」


 豪快に笑うディアマンだが、フと笑いを止め真剣な顔を作り言葉を続ける。


「おっとしまった、このやり方では生皮剥ぐ前に殺してしまうか?……ふん、これしきの事で死んでないだろうな、おい」


 本来なら敵将を打ち取ったと喜ぶところだが、ディアマンにはそんな素振りは微塵も無く、辺りを見渡しマルスの姿を捜す。

 生きていても人質を取る意味は無い、何故なら皆殺しにすることをこの男は決めているからだ。交渉する必要が無いのだ、力で上回ると信じているため劣勢に立つこともないと考えている。


「ちっ、死んじまったか?埋まってんのか?」


 抉られクレーターの様になった大地を蹴り付けるディアマン。


「ま、しょうがねぇか。奴の死体を掘り起こしてズタズタに斬り裂き、張り付け見せしめにしてやるか」


 と一人ごちるが、返る言葉があった。


「そんな事にはならない。私は生きている、お前を此処で仕留めるまでは死ぬことはない!」

「ぬ!」


 背後から斬り掛かるマルスの一撃を体を捻り何とか躱すディアマン。

 マルスはあの衝撃をいなし、巻き上がる土砂を隠れ蓑にして背後に回っていたのだ。


「背後からとは卑怯な奴だ。やはり貴様に皇女を娶る資格は無いわぁ!」


 怒気を孕み怒りを顕わにするディアマンに対しマルスは冷静に戦況を観察していた。

 ディアマンの力には対応できない、躱すしかない。速力においてはマルスの方が圧倒的に上だ。

 速度を活かし、あの岩のような身体を少しずつ斬り裂き、徐々に体力を奪い首を刎ねる。だが、一度でも棍を喰らえばその時点で終わるだろうことも考慮しなくてはならない。


 退くことは考えない、ただ前進あるのみだ、と自身に言い聞かせて突撃を繰り返す。

 ここは抉られたクレーターの底、外の様子が気になるがここからでは窺い知ることは出来ない。

 不安を押し殺しディアマンに突撃を繰り返す。近付き剣を振るい離れる、また近付き剣を振るうを繰り返し行う。


「貴様ぁ、やる気が有るのか!ちょこまかと鬱陶しいわぁ!……いや、コソ泥にはお似合いの戦術だなぁ!」


 マルスを挑発するディアマンの体には無数の切り傷があるが、どれも紙で指を切った程度の傷でしかない。

 マルスは考える、ディアマンを倒した後も戦いは続く、マナを消費する魔術は温存しておきたい。故に剣で倒す必要がある。この宝剣サングリエは前進する意思を力に変えてくれるものだ。なら、防御を無視して打ち合えばより強い力を授かれるのではないか?

 しかし、それは危険な賭けでもある。もし、力を貸してくれなければそこで終わってしまう。

 一か八かで試せる状況ではない、今はまだこのまま付かず離れず攻め続けようと考えてしまう。


 マルスは気付いてはいないが、状況は刻一刻と最悪の方向に向かっていた。

 王国兵が帝国兵の数に押され始めているのだ。まだ、致命的な打撃を受けた訳ではないが、時間の問題で、此処から逆転するには強力な援軍がなければ不可能な程だ。

 イクテュスに逃げ込み、籠城することで時間は稼げるが、反撃の見込みがなければ意味が無い。王国の増援は難しいだろう。帝国の増援が来れば籠城したところでいずれは敗れることとなる。


 ここは速攻でディアマンを倒して士気を上げる必要があるのだが、マルスには外の様子を窺い知ることは出来ない。

 今も尚ヒット・アンド・アウェイを続けていた。


「くそ、本当に鬱陶しい盗人だな!男らしく正面から戦いやがれっ!」


 ディアマンが出鱈目に棍棒を振り回して来る。力任せの勢いの乗った攻撃をサングリエで受ければ折れかねないと距離をとるマルス。

 だが、その瞬間に今までにない速度でディアマンが急接近してきた。咄嗟にサングリエで受け止めたが、衝撃を殺しきれず吹き飛ばされてしまう。


 カハッっと肺の酸素が大量に逃げ出すが、咄嗟に追撃を転がり躱すことに成功する。

 はぁはぁ、と肩で息を吐きながら立ち上がるマルスに、不敵な笑みをみせ振り返るディアマン。


「がはははっ、漸く止まったな!貴様の小賢しい策などお見通しよ!そろそろ皮を剝がさせてくれないか?フハハハッ!」


 上機嫌なディアマン。怨敵を前に優勢に立ち回れたことにご満悦のようだ。

 ここで漸くマルスが覚悟を決める。

 自身を強化するスキルをフル活用し、魔術で更に強化する。そして、護りの全てを捨てて真正面から攻めに出る。


「【身体強化】【魔力増強】【肉体強化】【俊足】!『パワー』『バウンシング』『アクセラレート』!」


 マルスが次々と強化系のスキルと魔術を掛けていく。


「漸く覚悟を決めたかコソ泥がっ!さっさと掛かって来やがれぇ————!」

「言われずとも行くさ!」


 【身体強化】【魔力増強】【俊足】『パワー』『アクセラレート』の効果、更にサングリエの効果が上乗せされ、これまでに見せたどの動きよりも鋭く、また、誰よりも速く動き回る。

 そんなマルスに、ディアマンは翻弄されることとなる。

 正面を向けば右に、右を向けば背後にと、マルスは常にディアマンの死角に入るように動き回り隙を狙う。


「くそっ、素早い奴だ!だが、これで終わりだぁ————!」


 ディアマンはその動きに対抗するために再び大地を爆ぜさせる為に棍棒を大きく振り上げた。

 マルスはこの隙を見逃さなかった!


「ああ、これで終わりにしよう!」


 マルスは己の限界に達する速度を捻り出し、ディアマンの背後を取る。


 ————振り抜かれる宝剣!


 中空を舞う————、ディアマンの首。


 クルクルと回転しながら舞う首は、放物線を描きながらどす黒い血を撒き散らし落下していった。


「や、やった……」


 無茶な強化を施した反動が、体を蝕む痛みとなって襲ってくる。

 片膝を突きながら肩で息をし、転がるディアマンの首を見る。


「斬られたことさえ気付かずに逝ったか」


 ディアマンのデスマスクには今にも喰いつきそうな獰猛な表情をしていた。

 ドサリと音を立て、ディアマンの体が倒れ伏した。


「はぁはぁ、早く敵将の首を持って敵の士気を挫かなくては……」


 出来ればあの危険な棍棒を奪うか破壊したいところだが、重く頑丈な棍棒はビクともせず諦めることにした。

 マルスは棍棒をその場に放置し、ディアマンの髪を鷲掴みにして持ち上げそのままクレーターを登っていく。


 これで戦況は変わる、少なくとも士気を挫くことは出来るだろう。


 クレーターを登り顔を外に出すとそこには想像にし難い光景が広がっていた。


 見渡す限り遺体の山、遥か彼方にまで続くその景色の先に……、炎上するイクテュスがあった。


「ば、馬鹿な————!既に落とされたというのかっ!?」

「殿下ぁ————、此方に居りましたか?」


 マルスの補佐官が馬を急がせマルスに近付いて来る。


「何があった!イクテュスは落とされたのか!?」

「まだですっ、まだ間に合います!殿下は急ぎお戻りください!伏兵の騎馬部隊には都市内の帝国兵の殲滅を命じてあります!残りの兵士にはこれ以上の侵入を防ぐように命じ、今は拮抗しています。殿下が戻れば押し返せます!さぁ、早くお乗りください!」

「分かった!」


 マルスは指揮官の差し出す手に掴まり騎乗する。二人乗りになり速度が出ないが走るよりかはマシだろう。


「すまぬ、私が敵将を打ち取ることに拘ったばかりに……」


 耳元を通り過ぎる風音で掻き消されたその呟きは、誰の耳にも届かなかった。







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