早すぎる登場
ミッシーナ海を北上する帝国兵達が少し東にズレ始めた。このままだと都市イクテュスに辿り着いてしまう。だが、南下していた第一、第二兵団が第三、第四兵団と別れこれの迎撃に向かったようだ。
第一、二兵団合わせて10万の兵を指揮しているのはマルス第一王子だ。対するイクテュスに向かった帝国兵は20万程だろうか、倍ぐらいの兵数を指揮するのはディアマンと呼ばれるウェヌス皇女の元婚約者。
第三、第四を指揮する人物は名前も知らない厳ついおっさん。
コダユーリオンとの国境線沿いに待機する第五、第六兵団を指揮する者はスクディアだ。
スクディアは動かず、マルスはディアマンの迎撃、名前も知らないおっさんはそのまま南下している。
そんでもって、団長さんやセシャト達は此方に向かっている。丁度マルスとディアマンが接触しそうな地点の真上を通過しそうな進路を飛んでいる。
「おお、なかなか派手な戦闘になりそうだな」
恐らく団長さんのことだ、このままマルスの助太刀をするに違いない。
彼女にはキララを付けてあるから問題ないだろうが、逆にやり過ぎないか疑問が残るんだ。
ぶっちゃけ、キララがその気になれば一人でディアマン軍を蹴散らすこのが可能だあろう。
キララには団長さん達の護衛に専念してくれ、と頼んであるが彼女は正義感が強いからなぁ。どうなるか予測できない。
いや、でもまぁ、戦闘に入るのは早くても数時間後だろう。それだけ時間があれば団長さん達は既に通過しているな。キララが戦闘に参加することもないだろう。
ところで、俺は暇な時間しかないのでテレビの改造に余念がない。
今では録画機能は勿論、マルチ画面で画素数も半端ない。
俺の目の前にはミッシーナ海と、ディアマンやマルスの団体、更に今いるこのミーレス城の全体像が映し出されている。拡大、縮小も自由自在だ。
改造した新指輪型テレビと、自立式虫型ロボットカメラを数百機をエナスに渡していたりする。取引の結果、必要経費として渡したものだ。
エナスはこのテレビを使ってコダユーリオンの情報を、差し合ったって黒騎士の情報を中心的に集めている。そしてその情報を俺にも流してもらうのが取引内容だ。
正直、この戦争は俺にとって対岸の火事的な感覚しかない。
無責任って言うなぁー!俺はこれでも神様だからな、下手に人間達に肩入れするのは望ましくないんだ。俺一人でパワーバランスを引くっり返すどころの話じゃなくなるんだからな!
だがしかぁし、関わってしまったからには少しは手伝ってやりたいと思うだろ?だからエナスにも情報収集の手段を与えたのだよ。
エナスは、「こんなのは国家機密級の宝具だ!」とボヤいていたが、長年追っていた仇敵の情報を得るために取引に乗ってきた。
今は、俺とエナスの牢との間の壁に穴を開け行き来出来るようにしている。その穴は看守に見つからない様にとエナスが魔術で偽の映像を映し、見た目は何の変哲の無い壁に見えている。
ん?何故魔術が使えるのかって?そう言や、この牢にはスキルや魔術を封じる結界が張ってあるんだっけ?
それは壊れているみたいだよ?恐らく、俺や燿子といった強力な存在に耐えられず、消し飛んでしまったんじゃないのかな。兎に角、スキルも魔術も使えるんだ。
ってなことで、俺達は互いに情報を集めていたんだ。そしたらお隣さんから声が掛かった。
「おい、どういう事だ?場内の映像が乱れてきたぞ!」
お?俺は城の全体像しか見ていなかったから気付かなかったが、映像を内部に切り替えると確かに虫食いの様に映像が途切れ、黒く塗りつぶされている箇所がある。しかも、それは入口から続き今も尚広がっている。
「何だこれ?故障か?……いや、カメラを破壊されているのか?」
「何、破壊だと?ソイツはあの虫をカメラだと分かっているのか?」
一見只の虫だからな。
俺のスキル【偽装隠蔽】をフル活用して作ってあるカメラだ、注意して見なきゃアレがメカだとは気付かれない筈なんだが?
「恐らく気付いてて破壊して回ってるんだろうな。……仕方がない、少し様子を見てくるからアンタはじっとしていてくれ。破壊されてるのは城内だけだから他所の映像に影響ない筈だ」
俺はそのままエナスに情報集めを続行させ、虫食いの先端部分に向かう事にした。虫が這った跡ように破壊されているので追うのは簡単だ。
だが、不味いな。犯人は真っ直ぐに玉座の間に向かっている。そこに国王がいることを俺は把握している。
どうやって居場所を突き止めたか知らんが、奴も王が狙いなのかもしれない。
そう考えると犯人はヴァンチトーレの実力者だろう。何故って?だって、誰にも気づかれずに城内に侵入して虫退治までしてんだからな。インペラートルの者ならわざわざ隠れて退治する必要ないだろ?
玉座の間へ行く前にセフィー達護衛対象の居場所を把握しておく。よし、玉座の間から離れた位置にいるし、セフィー親子には燿子、ユーノ親子にはヴィクトリアが護衛しているから問題ないな。
急いで玉座の間へ向かう。
スキルを使い誰にもバレる事無く進むことが出来た。
俺がコッソリと玉座の間へ入ると、そこには夥しい数の骸が転がっていた。死屍累々とはこのことだろう。
隠れながら玉座を窺う。視線の先には、この国の国王ユピテルと、金ピカ男が二人対峙していた。
あの金ピカ男、エナスが言っていた皇帝に特徴がクリソツなんだけど?
「久しいなユピテル殿、娘を取り返しに来た、というよりも国を貰い受けに来た。覚悟は出来ているな?」
「何を言う。やはりウェヌス皇女のことは口実であったか。国を貰い受けに来ただと。簡単に渡せるものでもなかろう。ジュピター陛下、何を思ってこの国を欲する!」
やっぱ、ジュピター皇帝だったか。
にしても早すぎる登場だろうが!まだ戦争は初戦を終えたばかりだぞ。何で総大将がここにおんねん!
「勿論、娘も返して貰うが、この国はとても重要な役割が出来たのだ」
「役目だと!?それは何だ!そんなものが多くの民たちの命を犠牲にしてでも成さねばならぬことなのか!?」
「ああ、それがそうなんだな。どれ程の犠牲を出そうとも、やらねばならないことだ。それはお前では到底不可能、俺がやるからその座を渡すんだ」
「ふざけるな!理由も知らされずに渡せる訳がなかろう」
「理由を言えば明け渡すのか?だったら話してやらんこともないぞ。俺とて出来れば兵を減らしたくないからな」
それにしても誰も国王を助けに来ないのが気になるな。そう思い探ってみるとこの部屋全域に結界のようなものが張られているのが分かった。
完全に現界と切り離された全く違う空。俺がテュポーンの欠片との戦いで見せたもの、いくらこの空間内を壊したところで現界には何の影響も出ない複製領域だ。
この複製領域を只の人間が作り出すことは不可能、よって奴は神か、或は強力な加護持ちということになる。おいおい、厄介な奴が出てきたなあ。
「どんな理由があろうと、この国をお前に渡す訳にはいかん!」
「では、力尽くで奪うとしよう」
ユピテルは大きな盾を眼前に翳し、剣を構え、対するジュピターは棒立ちだ。
まずい、どれ程の実力を持っているか知らんが、ユピテルではジュピターに勝てない。
「ほぉ、アンキレーの盾か?それはアレスの盾だったな。だが、それは模倣品が多く、本物だった場合精神を蝕むことに成りかねんぞ」
「なっ、何故貴様が我が国の秘宝のことを知っている!?」
そうだ!随分前の話で忘れてたけど、ハデスの奴が森の外にゼウスの分霊体が居るって言ってたわ。
アイツ、ゼウスかっ!
いやいや、時期が合わない。エナスの幼少期に出会ってんだから違うか?
……ノンノン、神に時間は関係なかった!
じゃあ、いくら神器アンキレーと言えどジュピターには通じない。ジュピターは全知全能の分霊体だ、たとえ随分と格を落として作られた分霊だろうと神は神だ、神器の能力は通用しない。
キララと燿子の二人掛でも勝てないだろうなぁ。どうしよう、俺でも勝てないかも?
「馬鹿な!アンキレーの支配が効かないだと!?」
「その盾を使いこなせる精神力には恐れ入ったが、そんな物では俺を支配することは出来ねぇよ」
仕方ない、最悪この肉体を捨てることになるが、助けに出るか!
その前に奴を鑑定……、やはりunknown。自分自身を鑑定出来る時点で俺に勝ち目はないか。
この肉体を捨てるのは惜しい。何故かと言うと、呪いが掛かっているからだ。
この呪い、いい感じに手加減が出来て実は結構気に入ってるんだよな。が、仕方がない、頼まれていないが国王を逃がすか。
俺は腰に刺さるヴァッテレソードを確認して飛び出す。
「そこまでにしてもらおうか、ジュピター皇帝陛下」
「「!!!」」
驚いている。ユピテルは分かるが、ジュピターが驚くのは変だ。気付いてなかったのか?
神に対し、スキルレベルでは通用しない。それは虫型ロボットを見抜かれたことでも証明されている。
なら何故、俺の存在に気付かなかったのか?俺はスキル【偽装隠蔽】で姿を隠していたに過ぎないんだが?
もしかすると予想が外れて奴はゼウスではない?いや、鑑定出来なかったしな。どうなってんだ?
「ほう、俺から隠れおおせるとは見事じゃねぇか」
「うっせーよ」
「お主、牢に入っていたのではないのか?それにその剣はスクディアの物、お主が何故持っている?」
「抜けだしてきたんだよ。この剣は取引の対価だ。妹達とその母を護ってくれってな」
二人ともこちらを向き動きを止めている。このまま近付き、さり気な~く国王を逃がそうと思う。
「はは~ん、お前兄貴の眷属か?微かに匂いがするな」
あ、ゼウス確定だ。ハデスのことを兄と呼べる者は二柱しかいない。末弟ゼウスと次男のポセイドンだけだ。腹違いのケイロンと、ゼウスの双子の兄弟ともいわれるちょっと訳ありな石は除外だ。
それにしてもエナスの野郎は、とんでもない奴に助けられたものだな。
「何でここにお前が居るんだ?森の外に出ちゃ駄目だろう」
俺はテュポーンの封印の監視が任務だ。その俺が森の外に出て来ているのが不思議なのだろう。
コイツは欠片の事を知っているのか?外に飛び出た欠片が、多くて六体いるんだけど?
「アンタは欠片と会ってないのか?アレは外にも出ているぞ」
「何、欠片だと?アイツの飛び散った力の破片のことか?」
「な、何を言ってるお前達!アイツとは誰だ!?森とは強狂怖のことか?」
ユピテルの疑問は分かるが、今は黙っていて貰いたい。この際、無視してしまおう。
「ああ、俺は森で一体倒したが、残り六体存在するぞ。こんな事している場合じゃないと思うんだけどな?」
「……いや、尚の事この地を支配する必要がある。……いや、待てよ……」
何やら考え込んでしまったジュピターくん。
今のうちに逃げろ、とユピテルに合図を送る。頷くユピテルはゆっくりとフェードアウトしていく。
【気殺】のスキルだろうか?徐々にユピテルの存在が薄くなり、最後には消えてしまった。
そして、ゴツンと音を立て複製領域の壁にぶち当たり姿を現す。不思議がりながら見えない壁をペタペタしているユピテル。いっけね、隔離されてるの忘れてた!
しゃぁないので、ユピテルとジュピターとの間に割って入る。
「アンタはそこでジッとしていろよ。後は俺が何とかするから」
「あ、ああ。だが、何故お主が俺を助ける?俺はお主を牢に入れた張本人だぞ!」
そこんところは気にしないで欲しい、説明するのが面倒臭いからな。
無視もアレなので適当に答えておこう。
「スクディアとの約束があるからな。団長さん達も死なせたくないしな。トップのアンタに死なれるのは困るんだよ」
我ながら適当すぎたかな?
「団長?ミネルヴァのことか?」
「そうだ」
団長さん達には、森から出してもらった恩がある。実際今の俺なら自力で脱出出来たと思うが、苦労はするだろうからな。
まだ何か言いたそうなユピテルだが、ジュピターが思考を終了させ此方をみた為に黙る。
「欠片を一つ倒したと言ったな。どんな奴だった?」
「強かったぞ。今のこの肉体では太刀打ち出来ないだろうな」
奴に勝てたのは、師匠との修行で肉体を鍛えまっくっていたからだ。当時の肉体は今の肉体と比べると何もかもが格上、この肉体はたとえ呪いが無かったとしても前の肉体には遠く及ばない。
だが、欠片は欠片でしかない。そのままでは意味が無く、何かに憑依して初めて脅威となる。憑依する前に回収したいものだ。
「ああ、そうそう、欠片の癖に神魂器を使ってたな。アレには苦労したよ」
神魂器ラードーン、コイツの所為で前肉体をオシャカにされたのだ。
「へぇ、神魂器をねぇえ。お前はソイツを倒したんだな?」
「ああ、一欠片分だが確かに倒した。それは間違いない」
「そうか、危なかったな。神魂器を使えるってことは、少なくともソイツは神の領域に踏み込んでいる。本来、神の欠片を取り込もうとも神魂器を扱うなど不可能だ。それが出来たってぇことは、ソイツが神に近しい存在だったか、或はアイツ本体と相当な繋がりが出来ていたんだろうな」
ジュピターが一旦言葉を止め俺を凝視してくる。
「もし、ソイツがもっと深く本体と繋がっていたなら、本来の体じゃねぇお前や俺じゃぁ勝てなかっただろうな」
「アンタでもか?」
「ああ、神魂器を無尽蔵に扱える程繋がりが深けりゃな」
は、早めに奴と出会えたのは幸運だったのか?時間が経てばそれだけ欠片と馴染んでしまうからな。
って、逆にあとの六体はヤバイんじゃないか!
「おい、尚の事こんな戦争してる場合じゃないだろうがっ!」
「ふむ、確かに時間の無駄だな。さっさと片付けるか」
コイツ、止める気は無いらしい。じゃぁ、俺もコイツに遠慮しない、全力で阻んでやるからな!
「ははっ、やる気か!面白れぇ、兄貴の眷属の力、見せて貰おうじゃねぇか!」
ユピテルが退くことは出来ない。
ジュピターの統治は悪くはないらしいが、そう簡単に国を明け渡すことなど出来ない。それは、戦地で戦う兵士への冒涜であり、民に対する裏切り行為に他ならないからだ。
俺としては、帝国の庇護下に入れるならそれでも良い気がする。だって、ジュピターがテュポーンの対処をしてくれるから。この間あったという瘴気駄々洩れ事件だってジュピターなら即対応してくれただろう。
う~ん、コイツ何の目的でこの戦争を始めたんだ?
コイツの正体がゼウスなら野心の為ってのは絶対にない。コイツは天空の支配者なんだからな。
娘を取り返しに?……違う、娘が自ら望んだことだ、それを戦争してまで取り戻しに来るだろうか?これは平和ボケした日本人の考え方か?そもそも、嫌なら止めてた筈だ、コイツが見逃す筈がないからな。
では、この地が封印を見張りやすいから?それも違う気がする。なんか理由として弱いんだよなぁ。コイツなら何処に居ようと何とかしそうだもん。
エナスが言っていたが、ユピテルの嫁さん狙い?んなアホな!まさか只単に戦いたかったってことはないよな!
単独でこの場まで乗り込んできた意味も分からんし。
早く戦争を終わらせたかった?いやいや、それなら端から一人で片した筈だ。
じゃあ、テュポーン対策の一環として配下の者に実戦を積ませたかった?只、勝利は確定させておきたかったとか。
うん、なんかそんな気がしてきたぞ。素直に聞いてみようか?
「なぁ、アンタは何故この戦争を始めたんだ?娘の為でも、この地が欲しい訳でもないだろ?」
「ん?何だ、そんなことが気になるのか?」
あたぼーだっつーの!
「ユピテルのカミさんはなぁ、このムルサン大陸南部一の美女なんだぞ。放っておくのは勿体ないだろうが」
「……、うそだろ」
「マジだ」
……そういやぁ、ゼウスってそういう奴だった。
コイツに遠慮はいらないらしい。全力でコイツの相手をしようじゃないか!




