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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
ヴァンチトーレ帝国の脅威
25/66

エナスの昔話

 俺はお隣さんのエナスから暇つぶしに話をよくするようになった。


 エナスの出生はインペラートル王国ではないらしい。生まれはヴァンチトーレ帝国の片田舎、名もない村だそうだ。

 土地は痩せ、井戸の水すら満足に飲むことの出来ない程貧しい村。そんな村が襲われたそうだ。




 俺が幼少期の頃、ある日の夜、貧しい村を盗賊が襲った。

 突然の出来事だった。その日俺は全てを失うことになったんだ。


 俺と姉は何時ものように空腹を堪えて眠っていた。そんな時、母に激しく揺さぶられ起こされた。

 目を覚ませば最初に耳に届く叫び声、窓の外を除けば視界に映る村を焼く赤い炎と黒い煙、そして地に伏し倒れる遺体から流れ出る真っ赤な血、どれも俺を恐怖させるには十分な威力を持っていた。

 餓死した遺体を見るのことはあったが、斬り殺された遺体を見るのは初めてだった。

 俺と姉は恐怖で動けずにいた、何故このような事になっているのか分からず混乱した。

 そんな俺達の手を取り物置に押し込む様にして母は言った。決して声を出すなと、ここから出てはならないと。俺達は頷くことしか出来なかった。当時の俺はまだ六歳の子供だ、姉は二つ上の八歳、そんな子供に何が出来ると言うのだ。


 父は勇敢にも農具を手にして盗賊共に立ち向かい、……あっけなく殺されてしまった。

 母は俺達を護ろうと立ち塞がったが、押し倒され、弄ばれ、最後には殺された。


 俺達は涙を堪え、嗚咽が漏れないよう口を塞ぐのがやっとだった。

 何も出来ないことが悔しくて、情けなくて、そして何よりも恐ろしかった。先にも後にも恐怖を覚えたのはこの時だけだ。


 そして、盗賊共は俺達の隠れる物置へとやって来た。俺はつい嗚咽が漏れてしまったのだ。その音を聞いた盗賊が来たのだろう。

 姉は俺を抱きしめ母と同じことを言い残し飛び出してしまった。決して声をだすな、この場を動くなと……。

 飛び出した姉は、涙を流しながら盗賊を罵倒し、手に噛みついたのだ。幼い少女に出来る唯一の抵抗だったのだろう。

 盗賊は怒り、姉を乱暴に振り回し剣を抜いて首を刎ねた。


 俺を護る為に命を張ってくれた姉の首が、目の前に転がってくる。

 倒れ伏せる父と母、転がる姉、そんな家族を放ってはおけなかった。

 俺は母と姉の言葉も忘れ、飛び出し姉の首を抱きしめ、泣いた。もう堪える必要もない、只、家族のもとに行けるのならそれでいいと思い全力で泣いた。

 盗賊は一瞬嫌そうな顔をして、剣を振り上げた。そして、飛び散る赤い血。


 俺の眼前には、家族と同じように倒れる首の無い盗賊共の遺体が転がっている。

 視線を上げるとそこには金の光に包まれた一人の男が立っていた。

 髪も金色なら瞳も金色、纏う衣服ですら金糸に塗れていた。

 この暗闇の中、炎の明かりだけが映し出す光源だ、その赤い炎の中でハッキリと見える金の輝きから目が離せなくなっていた。そんな俺に男は言った。


「あん?お前は家族が殺されても平気なくちか?」


 一瞬何を言っているのか理解できなかった。姉の首を抱き、泣きじゃくる俺に、この男は何をいっているのだ?と、思った。


「男は女を護らにゃぁならねぇ。お前は護られてばかりで何をしてたんだ?男なら振るえなくても剣をもて、勝てなくても立ち向かえ、殺されるとしても女を逃がせ!お前の父はそうしたんじゃねぇのか?」


 衝撃だった、確かにそうだ。俺は何をしてたんだ?


「そこに盗賊の使っていた剣が転がっている。ソレを持ち付いて来い!俺が男の何たるかを教えてやる!」


 そう言って男は外に向かって歩き出した。

 俺は決意を固め、姉の首を丁寧にその場に置き、剣を持つ。

 たとえ殺されることとなろうとも、家族が感じた苦しみを一片でも味合わせてやりたかったのだ。

 剣は重かった。あらゆる意味で俺には重く感じた。だが、父が見せてくれた背中を思い出し、重い鉄の剣を持ち上げる。そして、俺は男の後を追ったのだ。


 金色の男は凄かった。盗賊共は成す術無く斬られていった。気付けば盗賊共は全滅していた。

 僅かに生き残った村人達から、歓声が上がり、同時に涙と嗚咽が漏れる。

 俺の出番はまるで無かったが、それでも男は最後に「よくやった」と褒めてくれた。


 それから男は生き残った村人達を集め、付いて来るように言った。男は俺達を大きな都市へと連れて行ってくれたのだ。

 そこで知った。この男こそがこの国、ヴァンチトーレ帝国のジュピター皇帝陛下なのだと。

 陛下は俺達に安全で安心できる住まいを提供してくれた。そして、全員に仕事を与え、俺をある騎士に預け従騎士にしてくれたのだ。

 俺は必死に騎士の世話し修行に励んだ。助けてくれた陛下へ少しでも恩を返せるように。


 俺が姉の歳を越えた頃、騎士と共に海を渡りこの国インペラートル王国へとやって来た。帝国で悪さを働いた罪人を追ってのことだった。

 少数での捕縛作戦だった。俺を含め人数はたったの八人、他国に多数の騎士を派遣するのは危険だと判断された為だ。

 この頃の帝国と王国は和平を結ぶ前で、刺激するのは好ましくなかったのだ。


 罪人は何をしたのかだと?奴は貴族を殺害して財産を奪い逃走したのだ。

 討伐隊を悉く返り討ちにしたその人物の名は暗殺王ジャックと言った。

 凄腕の剣の使い手で、当時の騎士団の長よりも遥かに強かったという。

 そんな強者を何故俺達に捕縛、もしくは討伐する任に指名したのか?それは俺の仕える騎士が当時の帝国で最強の名を欲しいままにした猛者だからだ。

 この時、帝国では彼より強い者は皇帝のジュピター陛下しかいなかったのだ。

 彼は騎士達の中で最も実力があり、更に危機感知能力にも長けていた。その為抜擢されたのだ。


 俺達は森の中で野宿を繰り返しジャックの足取りを追った。

 俺達の中の一人が追跡能力に長けた者がいたのだ。そして、最初に狙われたのが彼だった。

 ジャックは深夜、俺達の大半が眠りに付いている時を狙った。三人を見張りとして、交代で番をしていたのだ。ジャックは追跡に長けた者が見張りの時に行動した。

 暗殺王と呼ばれるだけはあり、誰一人奴の接近に気付く者はいなかった。完璧な気殺(けさつ)だった。


 朝起きた時にはソイツは死んでいた。

 奇妙なことに、隣に座り見張っていた二人は無事、座ったまま眠る様に死んでいたソイツのことに気付いていなかった。

 自然死かとも思われたが、違った。ジャックの奴はソイツの背中にメッセージを残していた。奴を表すエンブレムを肌を削り描いていたのだ。ジャックの“J”の文字を捩ったエンブレムだ。


 俺の主、この隊の隊長である騎士の危機感知をすり抜けての暗殺に俺達は驚愕した。だが、任務を放棄する訳にはいかない。

 殺された追跡担当者を簡単に埋葬し、俺達は再び奴を追った。ここから先の追跡は困難を極めた。足取りが全く掴めなくなってしまったのだ。

 仕方なく俺達は町で情報収集することになった。

 俺達は酒場からスラムまで駆けまわって情報を集めた。しかし、それらしい情報は出てこなかった。

 結局その日は町で一拍し、翌日に別の町へ行き情報を求めることにして宿を取った。

 翌朝、遺体が一人分ベットに横たわっていた。その背中には例のエンブレムが。


 この近辺に奴はいる、そういって隊長の騎士と他の騎士とで探し回ったが、やはり奴は発見できなかった。

 こうなるともう打つ手が無く、探すのではなく誘い出すことに切り替えた。町を出て近くで野宿をするようにしたのだ。

 昼間は町で宿を取り眠り、夜は町の外で野宿するように全員で見張りを続けた。


 それから直ぐに奴は現れた。今度は三人も殺されたのだ。だが、今度は隊長が奴の姿を捉えた。

 以外にも奴は白かった。髪からつま先まで見事に白一色だった。只一つ、瞳の色だけが赤かった。

 そのまま戦闘に突入し三人を失った訳だ。

 その日、奴は退いたが、また何時やって来るか分からない。本国に一度戻り体勢を整えるべきだと進言したが駄目だった。騎士の誇りにかけて奴を捕えると言って聞かなかったのだ。

 次の日、俺を残して全員が死んでしまった。

 真正面からやって来た奴に隊長も、もう一人の騎士もまるで歯が立たなかったのだ。

 何故か俺だけが見逃された。俺は一人、殺された騎士達を地に埋めて、奴を必ず捕えると誓いを立てた。


 それから俺は本国に戻り陛下に全てを話した。

 陛下はそうか、と一言いい奴を捕える為に陛下直々に俺を鍛えてくれた。


 5年の歳月が流れ、俺は騎士になっていた。

 15で成人と認められるこの国で、俺は成人となりそして騎士となったのだ。この頃には俺の強さはBランクへとなっていた。


 陛下は俺にジャックの討伐任務を再び命じた。俺は喜びその命を受けた。

 一人海を渡り王国で情報を集める。

 調べてみると、奴はあれから誰一人殺めていないようだった。奴のエンブレムを知る者は誰も居ない。

 予想はしていたが情報が無い、奴の足取りは最早個人では掴めないだろう。

 なら、国家レベルの情報を得ればいいと、俺は王都へと向かった。


 王都に入っただけでは情報を得ることは出来ない。王族に近付かなくてはならない。国家レベルの情報を得るにはそれ位する必要があった。

 俺は一計を案じ、盗賊共に王族を襲わせたのだ。

 当時の王族は王と正室と側室の三人だけで、子供が居なかった。

 出来れば弱い者を狙わせたかったのだが、仕方がなく王の外出時を襲わせた。


 盗賊共に偽の情報を流し、美味しい獲物だと思わせ襲わせた。

 当時のユピテル陛下も強かった、盗賊共では相手にならぬ程だ。だが、それでも良かったのだ。近付く切っ掛けがあればいい。

 俺は必要のない助太刀をして陛下に近付き実力を見せつけた。当時の俺は15歳、成人したばかりの男が王を助ける為に盗賊共に立ち向かったのだ。いらぬ助っ人だとしても王の目には光る逸材に見えた筈だ。

 案の定、仕官の話が出た。俺はそれを受け入れインペラートルの騎士となり今に至るのだ。


 あれから25年、俺は騎士の頂点に立ったが、それでもジャックの情報を掴めず、ジュピター陛下に申し訳なく思う。と同時に、自分自身とこの国の情報収集能力の低さに嫌気がさしてくる。

 ジュピター陛下は何時でも戻って来いと仰られるが、それは出来ない。

 俺がこの国に居る為にジュピター陛下はユピテル陛下の和平に応じたのだ。その国に間者だったと疑われる訳にはいかない。帝国への反感を買ってしまう事になるからな。

 だが、今の状況なら帰っても問題にはらないだろう。故に俺は祖国に帰ろうとしたのだ。


 くくくっ、こんな状況を作り出したマルス殿下には感謝したいが、これもジュピター陛下の計算の内だとしたら怖いお人だ。


 そうそう、殿下で思い出したが、スクディア殿下がコダユーリオン王国の商隊を襲い積荷を奪ったのは、この国の為だ。

 コダユーリオンは魔道具造りに徳化している。これは豊富に魔鉱が取れる鉱山を保有しているからだ。

 そのコダユーリオンは、とんでもない巨大魔道具の製造を実施しようとしていた。

 これは、空高くに浮かせて砲撃を打ち出すものらしいのだが、威力が桁外れだと聞く。恐らくこの都市に張られている国壁の結界すら容易く突き破る威力だと予想される。

 スクディア殿下は万が一を考えて製造を阻止したかったのだろうよ。

 コダユーリオンは秘密裏に行っていた事だ、これを公にするわけにはいかない。故に殿下は未だに真相を誰にも話していないのだろう。暴露してしまえば、それこそ戦の火種になるからな。


 その部品、とても貴重な物らしく俺も殿下から奪おうと探ってみたが、隠し場所が分からんのだよ。恐らくこのミーレスではなく他の場所に隠したのだろうな。




 エナスは笑いながら陛下の土産にしたかった、と悔しがっている。

 こんな話を聞いてしまうと何だか憎めなくなるじゃないか!

 俺はインペラートルに力を貸す為にここに居るんじゃない、団長さんの友としてここに居る。別にヴァンチトーレが憎い訳じゃないんだよ。


「なぁ、結局ジャックは見つからないのか?」

「ああ、大体の予想は出来ているが確証がない。恐らくだが、奴はコダユーリオンの黒騎士と呼ばれる人物だと思われる」

「ん?真っ白い奴じゃなかったけ?」

「そうだ、奴はアルビノと呼ばれるものだ。だが、黒騎士は全身を黒い鎧で覆い隠している。中身は分からん」


 ふ~ん、黒騎士の暗殺王ね。ん、そうだ!


「なぁ、今でもジャックの奴を捕えたいと思ってるんだよな?」

「当たり前だ!奴は俺の仲間を皆殺しにしたんだぞ!」

「じゃぁ、……俺と取引しないか?」


 俺には情報収集に徳化したテレビがあるからな、これを利用しない手はない。


 ってなことで、俺はエナスとちょっとした悪巧みの相談をするのだった。






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