表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
ヴァンチトーレ帝国の脅威
23/66

ヴァラカス・バイカス

 視界を覆う極光の光、慌てて瞳を閉じたペテスタイだったが、それでも視界がチカチカと点滅していた。

 怪鳥騎士団が放つ魔術は視界を奪うものなのか?一向に痛みを感じないペテスタイが訝しる。


「ふぅ、何とか間に合いましたね、ペテスタイ殿。お怪我はありませんか?」


 声を掛けられ瞼を開くと、目の前には怪鳥騎士団(ティアマト・ナイツ)ではなく、純白の古竜に騎乗した赤い騎士が優雅に飛翔していた。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。ミネルヴァ殿、私は大丈夫だ、礼を言うよ。」


 本当にギリギリでした。私、ミネルヴァは陛下から真相を聴かされ、至急グリフォン騎士団の援護に向かえと命を受けたのです。勅命を受けた私は、直ぐに部下達と共に此方に向かった訳です。

 先程の極光の光はテルピュネの分子崩壊の息吹(ブレス)、怪鳥騎士団の大半を消し飛ばしたブレスは遥か彼方まで延びて行きました。今もセシャト達に追われ、その数を減らし続けています。


「な、何だと!何が起きたというのだ!」


 怪鳥騎士団の団長思しき人物が何やら叫んでいます。

 彼は部下達の執拗な攻めに逃げ惑うばかりです。


「ば、バカな!ミネルヴァ、貴様が何故此処にいる!自領での待機の命令だった筈だ!」


 エナスの怒鳴り声が聞こえてきます。どうやら彼は被害を免れたようですね。

 私がこの場に居るのは、それが今回の作戦だからです。エナスの裏切りは分かっていましたので、この戦で必ずヴァンチトーレ側に付く。その現場を押さえ捕えよと命を受けています。


「貴方こそ何故そちら側にいるのです?自国を裏切り帝国に付くとは恥をしりなさい」

「黙れ!貴様に何が分かる。丁度いい、この場でどちらが上か知らしめてやる!」


 激高したエナスが傷を負い弱っているグリフォンを操作し迫ってきます。

 彼からしたら勝利手前で逆転を許してしまったのですから当然と言えるかもしれません、が下策です。

 彼は退くべき、いえ、投降するべきでした。グリフォンは傷を負っており、その機動力が半減しているのですから空中戦を挑むなど愚かです。

 彼は果敢にも攻めてきますが、テルピュネの速度に付いてくることが出来ません。


「き、貴様、逃げるな!俺が怖いのか!?」


 何か言ってますね。ですが、貴方を許す訳には行きませんので、殺さずに捕えます。

 法に従い罰を受けなさい!


「ミネルヴァ様、私が!」


 トモエがエナスに向いピートゥリアを走らせます。


「任せました」

「貴方如き、ミネルヴァ様が相手をする価値すらありません!」

「ほざくなよ小娘がぁ————!」


 エナスはトモエに向かって果敢に攻め立てますが、そもそも空中戦で竜騎士に叶うはずがありません。

 トモエはピートゥリアの背から竜王長薙刀を巧みに操り、エナスの攻撃を捌くと同時に魔術を放ちます。


『パラライズ・ショット!』


 エナスを正面に捉えた麻痺効果のある魔術、トモエの掲げた手の先から放たれる紫電にも似た黄色い光が、グリフォン共々エナスを打ち抜き一声悲鳴を上げて海面目掛けて落下していきます。


「ミネルヴァ殿、奴は私が追おう。怪鳥騎士団の方は任せたよ」


 ペテスタイ殿が言うや早いかエナスを追って急降下していきます。

 彼なら問題ないと判断し、エナスの事は彼に任せます。


「ミネルヴァ様、怪鳥騎士団撤退していきます!追いますか?」


 深追いは避けた方が良いでしょう。私の加護、叡智は私を中心に半径20㎞の情報を完璧に把握できますが、範囲の外に伏兵が居ないとも限りません。やけにあっさりと退いたことが気になります。

 これだけ数を減らせば怪鳥騎士団の脅威は半減するので放置して問題ないでしょう。


「追撃はしません。それよりも補給部隊の方が気になる動きをしています。陛下の命はグリフォン騎士団の援護です。このまま補給部隊を潰しておくのも良いかもしれませんね」


 元々グリフォン騎士団は補給路の断絶が任務です。任務を続行するのなら、そのまま手を貸すのも良いでしょう。


「ミネルヴァさん、それは止めた方がいいかもしれないよ。ほら、あの女性が凄い形相でこっちを見てるから。……何か凄い自身有り気な顔だよ」


 彼女、キララ殿は、テルピュネに一緒に乗っており、私の背後から声を掛けてきました。

 キララ殿には遠見のスキルでもあるのでしょうか?確かにアルテミシアは此方を睨んでいます。

 エナス達は魔道具を用いて戦場を見ていましたが、彼女は何も持ってはいません。

 ここは高層雲が存在する海面から5㎞を越える上空です。

 私には叡智による超空間認識がある為に見て取れますが、彼女もそのようなスキルないし加護があるのかもしれません。


「そうですね、グリフォン騎士団もエナスを捕え退くようです。私達も退きましょう」


 どうやらヴァラカス殿とヤーナ嬢も無事仲間の下に合流出来たようですね。


「うん、そうしよう」


 私達が退く姿勢を見せると、アルテミシアに動きが見られました。

 私達よりも低空を飛行し撤退するグリフォン騎士団の最後尾に向かって魔術を放ち始めたのです。

 これに対してグリフォン騎士団は、一部の集団(エナスを捕えている者)を除き向きを反転させ反撃に出ました。


「不味いよ!相手の思惑にハマった!」

「私とセシャトで対応します。残りの者は退却するグリフォン騎士団の護衛をしつつ王都へ帰還しなさい。セシャト行けますね!」

「はい」


 元気のよい返事です。と、そこで不平が出ます。


「え~、私もぉ、残りたいよぉ」

「それ言うなら、あたいだって付いて行きたいに決まってんじゃん」

「それでしたら私も」


 今は言い争っている時間が惜しい。


「分かりました。それでは他の者達は撤退するグリフォン騎士団へ、私達はアルテミシアへ向かいグリフォン騎士団を後退させます。チェスカ、そちらの指揮は貴女に任せます。では、行きますよ」


 こうしている間にも、アルテミシアとグリフォン騎士団の魔術の応戦が始まっています。

 私は簡単に指示を与えて降下を始めます。


「出来れば二手に別れて欲しくなかったけど、護衛対象が別れちゃったら仕方がないかぁ」


 キララ殿が背後で喋っているのが聞こえます。が、答えてる暇はありません。

 眼下ではグリフォン騎士団の放つ魔術が、アルテミシアの乗船する戦列艦に幾つも着弾しています。ですが、戦列艦は傷一つ負わず、まるで新品の船のようです。

 戦列艦は横腹に数多く付いている大砲で応戦してきました。

 大砲はまるで追尾機能の付いた魔術の様に曲線を描き、軌道を複雑に変えてグリフォン騎士団を追います。魔道砲です。

 グリフォン騎士団はこれを魔術で迎撃し、或は大砲同士をぶつけ合い防いでいます。


 それにしても妙ですね。戦艦とは言え木造、魔術の一撃を受けて無傷なのは引っ掛かります。

 魔術によってコーティングされているのかも知れませんが、それにしても頑丈過ぎます。し、あれ程の大きさをカバーする魔術を張り続けるのは至難の業の筈、ソレを維持し続けるのは現実的では有りません。


 などと考えている間に、私達も戦列に加わります。


 セシャトの乗るキオナティの氷結の息吹(アイス・ブレス)

 マァートの乗るアギオスの火炎の息吹(ファイア・ブレス)

 ルナの乗るリェナの風刃の息吹(ウィンド・ブレス)

 トモエの乗るピートゥリアの雷撃の息吹である雷咆が放たれます。


 幾つもの艦隊がブレスの的となり、無視できないダメージを負うなか、やはりアルテミシアの艦だけは無傷です。

 私はそのブレスの隙間を縫って旗艦に接近し分子崩壊の息吹を放ちつつテルピュネの背から飛び降り乗艦します。

 まさか、テルピュネのブレスですら傷つけられないなんて。一体この戦列艦は何で出来ているのでしょう?


「キララ殿、テルピュネの事をお願いします!」

「え!ちょ、待ってよ!」


 彼女ならテルピュネの事を任せても大丈夫でしょう。短い付き合いですがそれ位のことは分かります。彼女はとても優しい心根の持ち主です。そんな彼女にテルピュネは従ってくれるでしょう。

 テルピュネはキララ殿を背に乗せたまま上空へと舞い上がって行きました。


 私の前には海神騎士団(ティアマト・ナイツ)が長、アルテミシア・ラファネス。

 ここまで来た以上、先ずはこの女性を何とかしなくてはなりません。


 長く黒い髪はバサバサとしており、相手を射抜く鋭い眼光は金に光り、冷酷さをイメージさせる。

 大きくスリットの入った皮のスカートを履き、肩がむき出しの皮の鎧を身に着けた魅惑的かつ妖艶な女性です。スラっとした長身に痩せた体、両手には二振りのカットラスが握られています。

 人並み外れた獰猛さと美しさを兼ね備え、ジュピター皇帝への忠誠心は誰よりも厚いと言われています。

 また、彼女は海上戦で不敗を誇り、敬意と畏怖を込め“戦場を駆ける女”と異名で呼ばれています。


 彼女の左後ろに寄り添う一人の若い男がいます。副官ででしょうか?

 ドレッドヘアーで肌が黒く、長身で細身ですが確りと筋肉は付いています。

 上司であるアルテミシアと同じく二振りのカットラスを所持しているようです。


 妙なのはこの艦にはこの二人しか乗っていないということです。叡智で探っても誰一人乗艦しているものは居ないのです。


「アルテミシア様、彼女の相手は私が致しましょう。貴女様の船に攻撃をした愚かさを教えて差し上げます」


 その若い男が一歩前へ歩み出てきます。


「やめろバッカイ、その女の相手は私だ。お前は他の雑魚共の相手でもしていろ」

「ですが————」

「私の命が聞けないのか?」

「わ、分かりました」


 若い男バッカイが渋々と元の位置に戻ると、今度はアルテミシアが一歩前へ出てきました。


「久しいなミネルヴァ、お前とは戦場で会いたくはなかったが、致し方ない」

「ええ、出来れば貴女とは争いたくはなかった」

「だが、そうも言っていられぬな。わた————」

「ガハハハハッ、お前がアルテミシアか?相手にとって不足なし、俺が相手をしてやるぞ!」


 アルテミシアとの会話に割って入る者が現れました。


「な、ヴァラカス殿!どうして此処へ?その傷では無茶です。ここは私に任せなさい!」


 ヴァラカス殿が空から乱入してきたのです。剣で刺された傷の血痕をべったりと付け、ですがとても元気に登場してきました。


「何を言う。この程度の傷など枷にならぬわ」

「チッ、興覚めだな。バッカイ、奴をやれ!」

「ハッ!」

「ミネルヴァ、勝負は暫しお預けだ」


 アルテミシアはそう言うと一人大きく下がったのです。

 代わりに再び前に出てきたバッカイにヴァラカス殿が声を上げる。


「ハッ、奴は俺が怖いと見える。良かろう、先ずは貴様から相手をしてやる、やるぞ貴様達!」


 ヴァラカス殿の指示を受け次々とグリフォン騎士団が降下し、そのままバッカイに向かって爪を立てます。


 一見して相手の実力を見抜くのは戦士として必須の能力です。この能力が無ければ生存確率は著しく低下する事でしょう。

 その能力がヴァラカス殿には備わっていないようです。


「待ちなさい!貴方達の敵う相手ではありません。ここは退きなさい!」


 私の声は届きません。あの青年は間違いなくヴァラカス殿よりも強いのです。たとえ束になって掛かったとしても勝てる相手ではありません。

 彼は見たところBランク下位と言ったところでしょう。

 グリフォン騎士団の面々は大概がDランク、ヴァラカス殿でCランクの中位です。要のヴァラカス殿が傷を負っている状態ではどう足掻いても勝てないでしょう。

 ここは私が————、


「無粋な真似をするなミネルヴァ。アイツも男気を見せようとしているんだ、邪魔をするのは野暮だぞ。騎士の誇りに賭けて邪魔をすることは許さん」


 そんようなこと言っている場合ではありません。このままではグリフォン騎士団が壊滅のする恐れがあります。見過ごすことなど出来ません!


「下がっておられよミネルヴァ殿、これは私の、いや、グリフォン騎士団の誇りを賭けた戦である!」


 くっ、何が誇りですか!ですが、本人に言われては引き下がるしかないようです。それに、アルテミシアが私から目を離しません。少しでも動けば襲ってくるでしょう。そうなればヴァラカス殿を助ける処ではなくなります。


 先ず、バッカイに向かって三騎のグリフォン騎士が爪で襲い掛かります。

 バッカイはヒラリと躱し、グリフォンが地に付いた瞬間に飛び上がりカットラスを振るいます。

 一度に二振りのカットラスが振るわれ、三人の騎士の首を跳ね飛ばしました。


 グリフォンの上から槍を突き出すヴァラカスですが、バッカイは綺麗に躱してグリフォンの頸目掛けてカットラスを振り上げます。


「ぬぉおぉ!」


 慌てて回避するヴァラカスに、バッカイはカットラスの切先を突き付けて動きを止めました。


「ちぃー、調子に乗るなよ青二才がぁ!」


 どちらかと言えば調子に乗ってるのはヴァラカス殿のほうです、バッカイは静かに佇み冷えた瞳で見返すだけです。

 そこへ二人のグリフォン騎士が襲い掛かります。


「「オオオオッ!!!」」

「ふん」


 バッカイは鼻を鳴らすと、目にも留まらぬ速さで一人のグリフォン騎士に近付き刃を滑らせます。

 ボトリと一体のグリフォンの首が落ち血をまき散らしています。


「チィ————!」


 騎獣を失い、それでも果敢に立ち向かう騎士にカットラスが迫ります。ですが、もう一人の騎士が槍を突きだし刃を受け止めました。

 見事、と思ったのも束の間、受け止めた槍を両断され返す刃で喉を斬り裂かれてしまいました。

 驚いたグリフォンが空へと舞い上がり、魔道砲に撃たれて海に落下していきます。

 残された騎士も瞬時に心臓を貫かれて事切れます。


「くっ」


 思わず漏れ出る苦悶にアルテミシアが声を掛けてきます。


「分かるかミネルヴァ、これが帝国兵と王国兵の力の差だ。見ての通り練度は帝国兵が遥かに上。だが、そなた等が勝つには兵が一人死ぬ間に、帝国兵を3人は殺す必要がある。……端から勝負になどならぬのだ」

「だから諦めろと?」

「私と来い!私とお前ならこの戦を終わらせることも可能だ」

「お断りします。私はインペラートルの騎士、ミネルヴァ・ニケ・スリアンヴォスなのです」

「チッ」


 アルテミシアが舌打ちをしたところで、騎士達が動き始めます。


 残りのグリフォン騎士達が一斉に襲い掛かったのです。

 バッカイは先頭の騎士を飛び越えると同時に一刀のもとに斬り裂く。続く騎士の槍の躱し、蹴りを放ち大きく後方に飛び退き、透かさず前進します。

 三人の騎士をすり抜け様に頸を跳ねる。これでバッカイはグリフォン騎士の中心地点に辿り着きます。


「今だぁ!やれぇーぃ!」

「「「ウオォォォォ————!!!」」」


 ヴァラカス殿の号令と共に一斉に襲い掛かる騎士達ですが、それでもバッカイを捉えられず全ての攻撃が空を斬ります。

 姿を見失い辺りを見渡す騎士達にヴァラカスの怒声が掛かります。


「何やっとるかぁ馬鹿どもがぁ。上だ、上ぇ!」


 一斉に上を見上げる騎士達の瞳には、バッカイが落下してくる様が見えた筈です。

 直後、一人の騎士の顔面にカットラスの切先が深々と突き刺さりました。

 悲鳴を上げることなくグリフォンの背から転がり落ちる騎士。

 バッカイは大きく飛び退き距離を取ります。


「何なんだコイツは!」「魔術も使わずに、こうも一方的に」「くそっ、速過ぎるぞ」と、声が聞こえます。空駆けるグリフォン騎士団が一瞬とはいえ制空権を奪われた形になり悔しいのでしょう。


 主を護ろうとグリフォンが空へと飛び立とうとしますが、騎士達が必死に止めます。空に上がれば魔道砲の餌食になるからです。

 その隙をバッカイは見逃してはくれません。一気に接近してカットラスを振ります。

 驚愕の表情を見せる騎士達ですが、バッカイを止める人物がいました、ヴァラカス殿です。


「ええぃ、お前達は下がれ、俺が殺る!」


 吠えるヴァラカス殿に煩いとばかりにバッカイが襲い掛かります。

 カットラスを躱す為に飛び上がるヴァラカス殿。しかし、バッカイは透かさず真下に移動してカットラスをグリフォンのがら空きになった胸へと投擲しました。

 視覚からの投擲に、躱すことも出来ずに深々と刃が突き刺さる。夥しい血を撒き散らしながら落下してしまいます。

 バッカイはカットラスを回収しようと手を伸ばしますが、その手にヴァラカス殿の剣が迫り、やむなく後退します。


「よくもやってくれたな若造が!額を地べたに擦り付け、惨めに死んでいけ!」


 怒りを顕わに突進するヴァラカス殿に危なさを感じながらも見守ることしか出来ません。彼本人の望みです。歯がゆく思いますがここは我慢です。いざと言う時に飛び込めるように体勢を整えておきましょう。


 突進したヴァラカス殿にバッカイは棒立ちで待ち受けています。

 二人は接触するや否や剣技の応酬を始め、飛び散る火花がその激しさを物語っています。


「ガハハハッ、どうした若造、防戦一方ではないか!そんな為体(ていたらく)では主の方もたかが知れると言うものだぁ!」

「それはアルテミシア様のことか?」

「他に誰がいる!」

「何も理解できぬ無能の分際で、我が主を侮辱することは許さん!」


 バッカイが剣の応酬をする中、強引に一歩前へ出ました。


「スキル【必中】【渾身】【速力倍化】!」


 バッカイのカットラスを振るう速度が急激に加速し、威力も上がりました。

 ヴァラカス殿はその一撃を辛うじて止めましたが、力に押し負け後方に吹き飛ばされてしまいます。

 大きな隙を作りましたが流石と言うべきか?グリフォン騎士団副団長の維持を見せるように、崩れた体勢から魔術を放ち追撃を牽制します。

 放たれた魔術は風の魔術、風圧で相手を吹き飛ばす魔術です。バッカイは追撃を諦め僅かに後退します。


 見事は術式展開速度でしたが、速射出来る魔術にはそれ程の威力がありません。ですが、体勢を立て直す時間稼ぎにはなったようです。


「どうした若造!その程度か————!」


 ヴァラカス殿が声を上げた時には既にバッカイは攻撃を放っていました。


「スキル【炎翔刃】!」


 離れた位置から振るわれたカットラスから、弧を描く炎の刃が飛翔します。大きさは丁度放った本人程の大きさです。速力倍化の影響か、凄まじい速度でヴァラカス殿に迫ります。


「チッ、『ニューマッティク・ブロー』!」


 対するヴァラカス殿は空気圧による弾丸で応戦します。

 炎の刃は空圧弾丸とぶつかり合い弾け、四方に派手な火花を撒き散らして消えました。

 ですが、二人は既に接近し再び剣技の応酬を始めています。


「ほぉ、私の予測を上回るとは……。あの男、思ったよりもやるではないか」


 アルテミシアです。確かに普段より強い。何故でしょうか?

 私の知る限り、ヴァラカス殿はこれ程の強さを持ち合わせてはいない筈です。正直なところ、数合打ち合うだけで敗北すると思っていました。これは叡智からの計算なので外れる筈はないのですが?


 私は疑問に思い、失礼ながら叡智でヴァラカス殿を鑑定させてもらいました。


《種族:人

 名前:ヴァラカス・バイカス

 ランク:C

 状態:潜在能力解放・呪(オドを秒間20消費することで潜在能力を開放する)

 魔力適性:風、地

 スキル:【忍耐】【偽装】【騎乗】【剣術】

 魔道具:黄泉の誘い(【潜在能力解放】*オドを引き換えにして潜在能力を開放する)》


 ————!!!

 彼は生命力を犠牲にして潜在能力を開放しているのです。

 これはハッキリ言って自殺行為です。人に宿るオドは少なく、回復するには時間経過しかありません。

 嘗ての燿子の様に地脈吸収スキルがあれば話は別ですが、彼にそのようなスキルはありません。そもそもここは海の上です。彼は正に命懸けで戦っているのです。


「ぐぁあああぁぁぁ————!!!」


 ヴァラカス殿の悲鳴が聞こえます。彼はカットラスの刃を受け、右腕を斬り飛ばされてしまったのです。


「ヴァラカス殿!」


 駆け出そうとする私の目の前にアルテミシアが立ちはだかります。

 邪魔ですね、一刻を争う時に邪魔をされるとは。


「見ろ!アレが男の生き様というものだ。邪魔をしてやるな」


 ヴァラカス殿は流れる血もそのままに、残った左腕のみで剣を振るっています。

 バッカイには届かないその剣は虚しく空を切りますが、ヴァラカス殿は構わず大きく片足を上げて踏み下ろします。

 同時に巻き起こる突風、バッカイを吹き飛ばしました。


 魔術に呪文は必要ありません。只、術式を展開してトリガーを引けばいいのです。

 恐らく先程の踏み抜きがトリガーになっていたのでしょう。言葉を封じられた場合に有効なので、誰でも一つは言葉に頼らない方法で発動するトリガーを設定しているものです。


「がはははっ、どうだ若造、この程度では俺は止まらん。腕をとばされようが、足を切り落とされようが、頭一つ残っておれば、俺はお前を食い殺してやるぞ!」

「往生際の悪い男だ。大人しくくたばってさえいれば楽なものを……【炎翔刃】!」

「まだまだ若造なんぞに負けるものか!……『ニューマッティク・ブロー』!」


 再びの衝突、火花が飛び散りますが、今度は先程と違いヴァラカス殿の方へと向かって飛び散っています。炎翔刃の威力が僅かに勝ったのでしょう。

 よろめきながら後退するヴァラカス殿にバッカイが迫ります。


「ちぃ————!」

「言葉通り、首だけになって私を食い殺してみせよ!」


 カットラスがヴァラカス殿の頸を半分ほど斬り裂きます。


「ちっ、浅かったか!」

「あ、……あま、いわ……わ……かぞう……がっ————!」


 残りの力を振り絞ったヴァラカス殿は、バッカイに抱き着き片腕だけで拘束、そのまま男の頸に嚙みつきました!


「がっ!しまっ」


 バッカイは首から夥しい血を流しながらも拘束を解こうと必死に藻掻きますが、ヴァラカス殿がそれを許しません。

 

「は、離せ!死にぞこないの分際で烏滸(おこ)がましいぞ!」


 渾身の力で拘束を振りほどいたバッカイですが、次の瞬間、ヴァラカス殿の剣が深々と心臓を貫きました。見事でしたヴァラカス殿。


「ア、ア……ルテ……ミ……シアさま……」


 バッカイはアルテミシアを一目見て、その場に倒れ息を引き取りました。黒き戦士の最後です。


「き、貴様等ぁ————!はぁはぁ……、これ、これより……、これより貴様等はミネルヴァ殿の指揮下に入れ!異議は認めん!」

「「「ふ、副団長ぉ————!」」」

「俺はこれまで!さ、さらばだ、お前達と戦えたこと、ほ、誇り、におも……う…………ぞ……」


 最後の力を振り絞った言葉でした。

 彼は立ったまま事切れています。


 彼は乱暴な言葉を使い、女性を下に見る傾向のある男で、私の部下達にも嫌われていました。ですが、エナスと共謀して裏切り者として汚名を着せられ、その実、己が信念を貫く忠義に厚い立派な騎士でした。

 出来れば、遺体を持ち帰り手厚く葬ってやりたいですが、彼女がそれを許してくれるでしょうか?


「アルテミシア、彼を————」

「構わん、退くがいい。私もバッカイを弔ってやりたい」


 アルテミシアはバッカイの遺体を抱き上げ奥へと下がっていきます。


 グリフォン騎士団の皆はヴァラカス殿の遺体に涙を流しています。早く戻り弔ってあげましょう。


 それにしても、まさか見逃されるとは思いませんでした。が、ありがたく甘えるとしましょう。

 私は残ったグリフォン騎士団と、今も補給船、護衛船を攻撃しているセシャト達を纏め撤退することにしました。


 こうして我々はミッシーナ海からの無事に撤退することが出来たのでした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ