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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
ヴァンチトーレ帝国の脅威
16/66

作戦会議

「困ったことになったぞ!陛下に何とご報告したら良いものやら————!」


 ここはインペラートル王国王都ミーレス。城内を初老の男が叫び声を上げながら回廊をひた走る姿が多くの侍女達に目撃されていた。

 走ってくる姿を見て慌てて脇に避難する侍女を尻目に、走り続ける男の名はセネスという。

 セネスは腐りきったこの王国の中でも、王が信の置ける数少ない人物であると認めた宰相を務める男だ。

 そのセネスが自らの限界に挑むかのような速度で王の執務室へと駆けこんだ。


 ダンダンダンダン————、と低く激しく鳴り響く扉に王は顔を顰める。

 地球では、ノックは礼儀を必要とする相手に対しては4回、親しい人に3回、トイレで2回が世界標準マナーだ。しかし、日本では通例3回で、回数よりも仕方にこだわる。


 この王国でのマナーとしては4回、だが、慌てているセネスは何度も返事が返るまで強いノックを続けてしまっている。


「何事だ、騒々しいぞ!」

「申し訳ございません、セネスで御座います。至急の知らせが御座います故、入室の許可を!」


 職務中の王であったが、筆を止めやけに慌てる男を部屋へ招き入れた。


 ユピテル国王は見た目40半ばの、しかし実年齢は60を過ぎた年老いた男である。しかし、筋骨逞しく、若々しい黒々と艶を持つ髪を伸ばし、無精髭も黒い。瞳は蒼く自信に満ち溢れ、纏う覇気は正に王の中の王。国民の誰一人としてこの国王の事を年寄り扱いする者は居ない。


「騒がしいぞセネス。お前がそこまで慌てるとは何事だ!?」


 セネスは70を少し過ぎた老人で、こちらは見た目と実年齢が一致する。

 彼は額の汗を拭きながら赤らめた顔で入室してくる。


「も、申し訳ありません。一大事故ご勘弁をっ」

「で、何があった」

「マルス王太子殿下が大変なので御座います」


 セネスは一旦言葉を切り、深呼吸を繰り返し頭の中を整理すると報告し始めた。


「ヴァンチトーレ帝国へ使者として赴いた筈の殿下が、あろうことかヴァンチトーレの第一皇女で在らせられるウェヌス殿下を攫い、妃に据えるとお連れしお戻りになりました」

「————は?……な、なんだと!」


 理解するのに一拍の間を必要とし、事の重大さに頭を痛めることとなる。


「ジュピター陛下はこれに激怒し、インペラートル王国に対して宣戦布告してきました!!!」


 貿易交渉の使者として海を渡りヴァンチトーレへと赴いた息子が、あろうことか交渉相手の国王の娘を誘拐同然に連れてきたことに、怒りとも呆れとも取れない感情を抱くユピテル。

 そんな国王陛下へ憐憫の想いを向けるセネスだが、フルフルと首を振り、他人事ではないのだと思い出す。


「陛下、兵は拙速を尊ぶと申します。急ぎミッシーナ海岸に対し防衛線を張りましょう。既に勝手ながらグリフォン騎士団の一部を各地へ飛ばし、兵の招集を呼び掛けております」

「でかしたぞ!急ぎ緊急会議を開く、それぞれの長を会議室へ呼べ!それと急ぎミネルヴァ達を帰還させよ。書状を認める暫し待て」

「はっ!」


 各地へと向かったのはグリフォン騎士団の半数をペテスタイが率いて向かった。残りの半数は更なる連絡の為に待機している。

 ミネルヴァへの連絡は、待機組のヴァラカス副団長が向かうこととなる。


 書状を携え来た時同様に慌てて走り去っていくセネスの背を、半ば呆然と見送るユピテルだが、気を引き締め自らも立ち上がる。


「ええい、次から次へと問題の多いことだな。愚痴っている場合でもないな。ユーノに話しておく必要があるか」


 ユーノ・フィーユ・インペラートル。

 ユピテルの正妃であるマルス王太子と第二王子であるスクディアの実母。

 現在50近い年齢だが、まるで二十歳の様に若々しい見た目をしている女性だ。

 真っ直ぐなプラチナブロンドの髪は腰まで延びフワリと踊る。何者にも屈する事のない強い意志は瞳に現れ、見る角度により色彩の変わる神秘的な虹色をしている。

 ウェヌスがゴンドーナ大陸一の美女なら、ユーノはムルサン大陸南部で一番の美女となる。


 ユピテルが妻の部屋を訪れればそこにはユーノ本人とその護衛であるヴィクトリア近衛団長、そして事の発端であるマルス王太子と攫われてきたウェヌス皇女が机を囲み呑気にお茶を啜っていた。


「な、な、何をしているお前達!マルス、貴様何をしたのか分かっているのか!」


 マルスは城に帰還するや否や父であるユピテルではなく、母ユーノの助力を求めた。

 それは忙しい父への気遣いではなく、父に何と報告して良いのか母に相談するためだった。


「父上!」

「この愚か者が!俺が頭を下げ屈辱に耐え忍び、苦労して成したヴァンチトーレとの和平をぶち壊すつもりかっ!」


 ユーノがはぁ、とため息をつきながら割ってはいる。


「あなた、余り興奮なさらずマルスの言い分を聴いて下さい」

「お前は黙っていろ!これは親子だけの問題ではない、二国間の問題なんだぞ」


 王妃を怒鳴りつける国王にウェヌスが声を上げる。


「お久しぶりです、ユピテル国王陛下。ウェヌスです。マルス殿下の事をあまり責めないでください。悪いのは全て私なのです。私は攫われたのではなく、自らの意志で付いてきたのです」

「ヴァンチトーレのウェヌスか」


 父のその言葉に即座にマルスが反応を示す。


「いえ、インペラートルのウェヌスです!」

「黙れマルスよ!……して、付いてきたとは何故?」

「マルス殿下との出会いは衝撃的で一目で恋に落ちたのです。これまでの私は成り行きに任せ、何事も他者の言葉通りに行動してきました。そこに自らの意志はありません。ですが、マルス殿下はあの恐ろしい父に対しても対等な態度を貫き、自らの意志を主張し一歩も引くことはありませんでした。私はそんなマルス殿下を愛してしまったのです」


 ウェヌスの言い分はおかしい。何故なら愛し合っているのなら婚約を結べばいいだけの話だ。お互いが王族なのだ、身分に問題はない。

 インペラートルからしたら大国との結びつきが強化され喜ばしい事だ。ヴァンチトーレからしても、嘗てより狙っていたコダユーリオンに大きく圧力を掛けられる。

 但し、正式に婚約出来ればの話だ。


「ならば何故、正式な婚約をしなかった。そのことで両国で戦となることは分かり切ったことだろう。ん、いや、確か既に婚約されていたか?」

「はい、私は近く別の方と結婚させられます。その方は戦で武功を上げ、褒美として私を指名したのです。父はそれを承諾してしまわれたのです」


 その男は、嘗て帝国が占領した元一国の国王だった。その年は今のユピテルと変わらないと言う。


「父上!私は彼女のことを愛しているのです!見す見す他の男に渡す気はありません!」

「若造が偉そうに愛などと口にするな!お前はこの俺の愛に唾を吐きかけたんだぞ!祖国への愛は何処にやった!滅びることになるんだぞ、お前の言う愛の為に!……ウェヌス皇女の為に戦は出来ん」


 怒りを顕わに怒鳴るユピテルにユーノが優しく諭すように言葉を掛ける。


「あなた、我が国には難攻不落と言われる国壁があります。如何な攻めを受けましょうとも国壁が防ぎ、如何な護りも騎士の剣が斬り裂き前進するでしょう。最後には必ずや神々が手を差し伸べてくれます」

「神が代わりに戦ってくれるのか?戦の指揮をしてくれるのか?いや、してはくれまい。神々は見守るだけだ」

「神々を侮ってはなりません。最後まで、信じて祈る者に神は手を差し伸べるのです。侮りを捨て、疑いを捨てて祈りましょう」


 どこか気落ちしたユピテルの手を優しく握り励ますユーノ。その瞳をジッと見つめるユピテルの気持ちが、不思議と落ち着いてくる。


「……分かった。これから会議が始まる、マルス、それにウェヌスも出席しなさい」


 そう言い残しユピテルは部屋を出て行ってしまった。


「マルス、今の貴方は非難されても仕方がありません。これから先、貴方は多くの者から忌避されるでしょう。ですが、挫けてはなりません、貴方はもう一人ではないのですから。護る者が出来たのなら、何があろうと全力で護りなさい。たとえその身が朽ち果てることになろうともウェヌスの事だけは護り通すのです。それが貴方のしてしまった事への責任です。いいですね?」


 諭すような母の言葉に目頭が熱くなる想いのマルス。


「母上!はい、たとえこの身が朽ち果てようとも、ウェヌスのことは私が護り通します!」


 強い決意を胸に力強く応えるマルスにもう一言だけ付け加えられる。


「私達を犠牲にしたとしても二人で生き延びなさい。貴方が幸せなら私達夫婦も幸せなのですから」


 知ってはいたが、母の深い愛情を再確認させられ思わず零れ落ちる涙の雫。思わず母を抱きしめ自らの決意を口にする。


「何を仰います母上、私が護る者はウェヌスだけではありません。母上や家族もそうなのですよ!この国の民たちだって一人だって死なせはしません」


 戦に於いて死者が出ないなど有り得ないことだと、分かってはいるマルスだが、誰一人死なせないという決意を言葉にしておきたく口にしたのだ。


「そしてウェヌス皇女、ここまで来てしまった以上後戻りは出来ないでしょう。貴女は両親や国を捨てる覚悟があるのですね」

「はい、私はマルス殿下と生き、戦って行きます」


 ユーノはマルスと離れ、今度はウェヌスと抱き合う。何かを確認するかのような抱擁、何かを確信したかのように二人は離れる。


「母上、そろそろ会議に行って参ります」

「はい、強者どもが揃います、決して後れを取られてはいけませんよ」

「はい、行ってきます」


 そしてマルスはウェヌスを伴い部屋を出ていく。


「宜しかったのですかユーノ様?ウェヌス皇女は帰すべきでは?」


 今まで黙っていたヴィクトリアが口を開く。


「ここまで来てしまった以上手遅れです。ヴァンチトーレは資源豊富なこの大陸そのものを欲しているのです」

「まさか、ヴァンチトーレ側の罠なのですか?ウェヌス皇女も?」

「いえ、彼女は本心でマルスに付いて来たのです。彼女は利用されているだけでしょう。……さて、貴女も会議に出席するのでしょう?私のことは構いませんので行ってください」

「分かりました。代わりの者を呼びますのでここで暫くお待ちください」


 ヴィクトリアが退出する。


「ふぅ」


 一人になったユーノの思わず漏れたため息だけが室内に響いた。


 そして、会議室にはぞろぞろと人が集まりだしていた。


「まったく我が国の王子達は揃いも揃って何をやっているのだか」

「エナス様、不敬に当たりますよ。お控えください」


 騎士総長のボヤキに彼の副官であるヤーナがやんわりと窘める。


「すまぬなエナスよ、我が息子が馬鹿をした」

「とんでもないです陛下!うちの団長が失礼を致しました。お許しください」


 ヤーナが代わりに非礼を詫びるが、エナス自身は知らん顔をして腕を組みソッポを向いて椅子に座っている。


「ほら、団長も詫びて下さい!」

「いらぬ、至らぬのはコチラだ。詫びる必要はない」


 この場に揃ったのは宰相セネス、騎士総長エナスとヤーナ、第一から第六までの兵団長が揃い、多くの貴族達も顔を出している。

 暫くするとマルス、ウェヌスが入室し、更にヴィクトリアに第二王子のスクディアも入ってきた。古竜騎士団、グリフォン騎士団からは不在の為に誰も出席出来ずにいた。


「さて、集まったな。では戦前会議を始める」

「陛下、戦前とは如何に?まだ戦になると決まった訳ではありますまい。ウェヌス皇女にお帰り願えれば戦は回避されましょう」


 貴族の一人が口を挟む。


「いや、既に開戦は決定された。ヴァンチトーレは宣戦を布告してきたのだからな」

「ですが————」


 尚も食って掛かかろうとする貴族に一人の兵団長が口を挟む。


「餓えた亡者が馳走を前に静かに待っていられるものか!奴等はケダモノだ、これまで幾つの国が呑み込まれていったと思っている。今更ウェヌス皇女を帰したところで何も変わらんのが分からんか!?」


 そこから始まる応酬は凄まじいものだった。それぞれの貴族と団長が話を纏める事も無く、思い思いの言葉で叫び続けた。終いには罵り合いにまで発展したその言い合いに流石に王が待ったを掛ける。


「静まれ————!これは戦前会議である、戦争は始まる、戦に対する会議の場だ!これより私語は慎め!」


 ユピテルの一喝により室内に静寂が訪れた。漸く黙ったかと腰を据え話始めるユピテル。


「では、先ず何時帝国兵が海を渡り、また、戦力差はいか程かだ。セネス、ヴァンチトーレは何時来て、どれ程の兵で海を渡る?」

「はっ、只今グリフォン騎士団に調査させておりますが、未だ分かってはおりません。ですが、海神騎士団(ティアマト・ナイツ)10万、地神騎兵団(イナンナ・ナイツ)5万、魔術兵団(エンキ・ナイツ)10万、歩兵の数だけでも40万は確実に海を渡ってくるでしょう」


 帝国はインペラートルとコダユーリオンの両国を相手取ることの出来る兵数を用意する筈だと続ける。


「ではエナス、今直ぐに動かせる我が兵はどれ程だ?」

「はっ、第一から第六の30万全て動かせます。只、古竜騎士団はいまだ帰らず不明です。数に数えないのが賢明でしょう」


 そこでセネスが口を挟む。


「只今ヴァラカス殿を向かわせております。ミネルヴァ殿なら直ぐにでも駆けつけてくれるでしょう」

「はんっ、高が40騎の古竜騎士団に何が出来ましょうか。帝国には空戦部隊が存在しない筈、制空権はグリフォン騎士団で十分でしょう」

「エナスよ、その認識は間違っているぞ。ミネルヴァ一人で一兵団に匹敵することは知っていよう」

「チッ」


 思わず舌打ちするエナス。エナスは国王のミネルヴァに対する評価が気に入らないのだ。本来ならば、その評価と信頼は、騎士総長たる自分に向けられるものだと考えているからだ。


 一瞬不快な顔を示すユピテルだが、構わずに話を続ける。


「それに帝国に空戦部隊が無いと断定するのは危険だ。奴等は狡猾だ、隠し持っていてもおかしくはあるまい」

「お言葉ですが陛下、戦ばかりの帝国が今までに空戦部隊を使わずに温存していたとは考えにくい。マルス殿下は帝国で見たことがありますか?」


 本来なら帝国の姫たるウェヌスに聴くべき内容だが、皆が皆ウェヌスを居ない者として扱っている。


「私は存じません。ウェヌス、知っているかい?」

「はい、空戦部隊は存在します。怪鳥騎士団、アンズー・ナイツは1000の部隊ですが、魔術を得意とし、空からの砲撃は脅威です。精度も高く、数以上の働きをすると見込まれている部隊です。確信は有りませんが、全員がCランクだと聞いたことがあります」


 …………。


 室内に嫌な空気が流れる。知りたくなかった情報だが、知らなければならない情報でもあった。

 インペラートルもコダユーリオンも騎士のランクはDが一般的だ。隊長クラスでもBランクに達していない者も存在する。


「コホン、祖国の機密を話してくれた皇女に感謝を……。さて、益々危機に瀕した状態だと分かったが、やりようはある筈だ。諸侯の皆はどうだ?何か案はあるか」


 そこで一人の貴族が声を上げる。


「陛下、籠城を提案致します。籠城なら海神騎士団は攻めては来れず、また、地神騎士団も足を封じられます。我々は国壁の内部から攻撃を仕掛け、少しずつ相手の数を減らすしかありません!」


 対してユピテルは否を示す。


「いや、国壁と言ってもこの首都ミーレスを囲うだけのものだ。他の都市や村はどうするのだ?見捨てるのか?……いや、見捨てる訳にはいかん」


 国壁は、強狂怖大森林に結界が張られるより以前、魔物の流出を防ぐために造られたと伝わっている。

 その為、首都は森とほぼ隣接した位置に存在し、流出した魔物を逸早く対処出来るように築かれた都市なのだ。都市より北には幾つかの砦があるだけだ。

 全ての都市や村はミーレスより南に存在し、籠城することはつまり、首都以外の全てを見捨てることと同義となる。


「ですが陛下、恐らく帝国はあの勇者マーズを出してきます。勇者に対抗出来るのは我が国ではミネルヴァ殿とヴィクトリア殿、それとエナス殿だけです。……ここは耐えて籠城することです。抵抗しなければ奴等とて無暗に虐殺などしないでしょう」


 知名度の高い勇者は何事に関しても厄介な存在だ。勇者が出てくるだけで自国の兵は士気が上がり、敵は戦意を削がれる。

 正直エナスでは勇者の相手は無理だと誰もが思ったが、口に出す者は一人もいなかった。


「……お前は甘いんじゃ、奴らの狙いは森の資源じゃろう。なら我等など、まして庶民など、どうとも思わんわ。先んじて出ねば人はみな殺され略奪されるじゃろう。ここは先手を打って出るしかあるまい」

「馬鹿な、それこそ奴等の思うつぼだ!壁から出れば数に押されて皆殺しにされるのがオチだ!」

「腑抜けたことを言うな!勇者などエナス殿が倒してくれるに違いない!」


 あーでもない、こーでもないと会議は一向に進まず、業を煮やしたスクディアが初めて口を開いた。


「エナスよ、コダユーリオンはどう動くと予想される。この戦の勝敗はかの国の介入で決まる。恐らく帝国はコダユーリオンの鉱山を第一に欲しているとみていい。なら奴等とて他人事ではない」

「おおっ、そうですとも、コダユーリオンと手を組めば宜しい。さすれば戦力は倍になりましょう」


 問われたエナスが答える。


「……予想では、コダユーリオンは漁夫の利を狙ってくるでしょう。わざわざ矢面に立つ必要が有らず、帝国の数が減ってから参戦すると思われます。特に勇者を抑えた後になるでしょうね。どこぞの誰かが強奪などしなければ、手を組むことも出来たでしょうに」


 嘗てスクディアはコダユーリオンの商隊を襲い積み荷を奪った過去がある。莫大な賠償金を払い事なきを得たが、未だに傷跡の残る出来事だ。

 何故そのような行為をしたのか、また奪った積み荷は何なのか、今まで誰にも話さず理由を知る者はいない。

 エナスの皮肉を無視し話を続けるスクディア。


「コダユーリオンが動かねば我等は負ける。そこで戦地をコダユーリオンの国土に持ち込めれば奴等も黙ってはいられまい。ミッシーナ海岸沿いから北西に移動しつつ後退する。それも敗戦を装いながらな、如何にも命からがら逃げ込んだ体で入国しなければならない」

「スクディア、それはいくら何でも問題だぞ」


 たまらず兄であるマルスが口を挟む。


「我等が国境を越えればその時点で敵と見なされますぞ」

「他国の民を犠牲にするのはどうなのですか?」


 と、非難の声を聞きながら話が続く。


「帝国を相手にするには両国が手を組まねば勝てないことぐらいコダユーリオンも分かっている。故に奴等は我等に対し致命的な攻撃は避けるだろう。そうでなければ明日は我が身だからな。次に狙われるのはコダユーリオンだ」

「そうだ、奴等は虎視眈々と時機を窺っているんだ!甘い蜜だけ吸わせるな!」

「手を組めないなら引きずり出せばいい!」


 「そうだそうだ」と続く者と、「非道な真似など出来ぬ」と否定する者とが半々で別れる形となった。

 結論の出ない議論に皆が国王へと視線を移し意見を求める。


「うむ、スクディアの言い分は分かった。マルスは反対か?」

「はい、無関係な者を巻き込みたくはありません」

「だが、それでは帝国には勝てまい、マルスには他に妙案でもあるのか?」

「……戦地を内陸部に移し、補給部隊を断つのはどうでしょうか?陸で敵を引き付け、海を渡る補給部隊をグリフォン騎士団に潰して貰うのです」


 兄の提案に対し異を唱える弟のスクディア。


「馬鹿が、数で負ける我々だ、陸地で敗れれば奴等は略奪することで失われた物資を補う。奴等とて人間だ、腹も減れば躍起になって奪うことだろう。そもそもグリフォン騎士団が怪鳥騎士団(アンズー・ナイツ)を抑え、補給部隊を潰せるのか疑問だ」


 グリフォン騎士団はその大半がDランク、副団長ヴァラカスがCランク、団長ペテスタイでBランクだ。


「怪鳥騎士団は、一兵卒からしてヴァラカスと同じだけの力を持っていると見ていい。なら当てるなら古竜騎士団しかないだろう。奴等はCランクで構成され、尚Bランク3人、Aランク2人と質では上回る」

「居ない者をどうしろと————」

「来たみたいだぞ」


 コンコンコンコン、「失礼します」と入室してきた者がユピテルに耳打ちし、一言二言話し退出していった。


「皆の者、そのミネルヴァが到着した。彼女の意見を聞こうじゃないか」


 こうしてプルートは、人の世の戦争に巻き込まれていくこととなる。

 別に神が人の戦に介入することは禁忌ではない。現にマウスターレ神国のレーネ神は人に力を貸し、自ら戦に参戦することで今の神国を建国したのだ。


 プルートを伴い入室するミネルヴァは、室内の大勢の視線に晒されても堂々としたものだった。


 だが、俺ことプルート、いや、今はフヅキだったな、俺は大勢の集まりはどちらかと言うと苦手だ。

 部屋の中の視線は一度団長さんに向けられ、次に俺に集中する。やだわぁ、見られてるわぁ。

 ん?気付けば視線の位置がおかしい、俺と言うよりも俺の胸付近に集中している。

 ああ、燿子を見てんのか。そうだった、燿子を連れて来てたんだった。


「魔物だ————!!!」「何故この場に化け物なんかがいる!」「捕えろ!魔物を取り押さえろ!」「魔物を持つアイツも捕えろ!」


 はぁ、これだから人混みは嫌いなんだよ!どうにかしてよ、もおぉ~。





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