勝利後の再開
ふぅ、無事何とかなった勝てたか。
俺は新たな体へと入れ替えを行い、ボロボロになった嘗ての俺を見下ろす。
酷い有様だ、一歩間違えれば負けていたのは自分かもしれなかった。
俺は自惚れていたようだ。戦いが始まる前には負けることなど有り得ないと思っていたが、思い違いも甚だしい、まだまだ未熟な証拠だな精進せねば!
『主、この体はどうするの?』
「ん、このまま放置はヤダから燃やすか」
抜け殻となった嘗ての体を燃やそうとするが、本体との接続が切れている為神気は使えないことに気づき接続を試みる。
ん?あれ、出来ない!
テュポーンの欠片とラードーンに受けた数多の呪いが邪魔をして本体との接続が上手く出来ない。
受けた呪いは万にも及ぶ数あり、一つ一つ解呪しなくちゃならない。だが、神の呪いは神でしか解けないからこの体からの解呪は不可能だ。
本体の方からアプローチをかけてチマチマと遠隔で解呪していくしかない。接続されていなくとも本体は俺なんだからそれぐらいは出来る。
ただ、遠隔のため全てを解呪するのは時間がかかるだろう。あと、この身体の繊細なデータ解析を後にでもしておかなくてはいかんな。
『……どうしたの?』
キララが心配をして声を掛けてくれる。
「いや、何でもない。そんじゃ燃やすか」
神気がダメなら魔力を使って燃やす。俺は魔力を練り上げ掌から黒炎を作り出し俺だったものを燃やす。
黒炎が元の体に触れると勢いよく燃え上がり、視界を覆い尽くす程の大きな炎となり、瞬く間に灰えと化していった。
ううぅ、修行の間ずっと使っていた体だけに物悲しい。ううぅ……。
少し離れた所にはテュポーンの欠片の遺体も横たわる。徐々に崩れていく欠片にも黒炎を放ち火葬しておく。
テュポーンの力の欠片は肉体を失い、本来の場所に戻ろうとするが、領域の結界に阻まれる。ここは隔離された複製領域にして神の結界で護られた場所、何人たりとも立ち入ることも脱出することも不可能だ。
複製領域から出ようとする力は力場を生じさせ、空間を歪ませ、中空に幾つもの波紋を立たせ、逃げ場を作り出そうとしている。その風景はとても幻想的で美しくはあったが、看過出来るものではなかった。
『この複製領域、解かなくていいの?』
このままでは空間の歪みは拡大していくだろう。だが、神の結界で護られたこの場所に出口は作れない。
永遠と歪みは拡張され、この場はとんでもない力場と化すことになる。
「そうだな、このままにしておけないな」
神能を使えない今の体では解けないので本体の方から解除して領域の結界を解くと、漸く出口を見つけたテュポーンの力の欠片が勢いよく飛んで行くのが分かった。
アレを追えば奴の本体の場所が分かるが、俺にはまだやることがあるんだ。
ふと視線をずらせば、こちらに駆け寄る五人の竜騎士達の姿と横たわる獣の姿が視界に入る。欠片に打ち抜かれた滅狐だ。
軽く騎士達に手を振り、滅狐の場所に歩み寄る。彼女は確かに生命力の値がゼロを示していた。しかし、今見る限りだとその数値は3を示している。生きているんだ。
彼女の持つ《鼈甲髪挿》に備わっているスキル【生命保険】が作用して助かったんだろう。
力を使い果たしたのか、装備品は消え失せ体は漆黒の毛皮に包まれた獣の姿に戻り、子ぎつね位に縮んでいる。
ふと見ると不安そうな騎士達の姿、当然か、滅狐は彼女達の敵でしかない。でも、俺はどうしても彼女のことが憎めないでいた。何でと言われると答えに困るが、初めて会った時から感じていたことだ。
どうしよう?助けてもいいものだろうか?
『助けるの?敵だったんだよ?』
キララの言う通りなんだが、どうにも放っておけないな。
「反対か?」
『そういう訳じゃないけど……』
ああそうか、滅狐はキララの生前倒した崩狐の進化した姿だ。崩狐との戦いで追った傷が元で劣化大蛇に後れを取り亡くなったんだ。俺と繋がっているキララには彼女の事が分かるんだな。気遣いが足りなかった。
「すまないな、キララには悪いと思ってるんだけど、俺は滅狐を助けたいと思っている。けど、どうしても抵抗があるようなら止めとくけど?」
『……、いいよ!主が助けたいなら私に異論はない。でも気を付けてね、彼女は強いよ。今の体で大丈夫なの?』
助けた後、襲い掛かられるか心配してくれている。
自分の思いに蓋をして俺の心配をしてくれるキララに嬉しく思い、同時に申し訳なくも思う。だが、滅狐はどうしても助けたい。そうしないといけない気がするんだ。
「ああ、大丈夫だ。キララもいてくれるしな。悪いけど、彼女に覚醒の実を使おうと思う。まだ、ペティ・シオンに植えた覚醒樹は実を付けてないけど、もうじき実りそうだしな。構わないか?」
『うん、仕方ないから、いいよ。力を取り戻すまでの間は、私が主を護ってあげる!』
「ありがと、キララ」
キララの気遣いに、ほっこりしていると騎士達が俺の所に辿り着きお礼を言い始めた。
「ありがとうございました。貴方のお掛けで誰一人犠牲になることはありませんでした」
「貴重な実まで頂いてしまって、本当に感謝の気持ちで一杯です。本当にありがとうございました」
「あんちゃんありがとな、お陰でミネルヴァ様も助かったよ。どうお礼したらいいかわからないな」
「ありがとぉ、皆無事でいられるのもお兄さんのお陰だよぉ。お礼に今度マァートの事抱いてもいいからね」「おい、ちょっと待て!」「へへへっ」
「ルナさん……、仲間が失礼致しました。誠に感謝申し上げます。この御礼は何れ必ず」
何やら魅惑的な……もとい、妙ちくりんな冗談が混じってたけど……、コホン。
どうしよう、彼女達の前で滅狐を助けるのは気が引けるが、今にも息絶えそうな滅狐を早く助けてやりたい。
「ああ、気にしないでくれ。それよりも滅狐を助けようと思っているんだけど、反対するかな?」
「!!!」
皆が揃って驚愕の表情を見せる。そりゃそうか、殺されそうになった相手だからな。
「すまない、君達には迷惑を掛けない様にするから見逃して欲しい」
「で、でもぉ、Sクラスの魔物だよぉ。大丈夫なのぉ?私は反対だけど……」
「おいおい、いくらあんちゃんでもそれは無茶じゃないのか?」
ルナと呼ばれた女性と、もう一人のマァートと呼ばれた女性が不安を前面に出した表情で訴えてきた。
「助けた後は別の場所に連れて行って教育するよ。直感だが、この娘は心強い味方になってくれる気がするんだ」
ダメなら神魂器にしてしまおうかと本気で思ってたりする。でも、出来ればそのままの状態で人生を謳歌して欲しい。
「貴方が滅狐を御することが可能であるのなら、私からは何も言えません」
「ミネルヴァ様いいのぉ?」
「構いません。彼がいなければどのみち我々の命はなかったのですから。我々に反対する権利などありません」
よし、団長さんからオッケーを貰ったし、やるか!
皆の見守る中、子ぎつねと化した滅狐の口を開けて最後の覚醒の実を放り込むみ、ゴクリと嚥下するのを確認する。
子ぎつねはパチリと瞳を開き、勢いよく立ち上がる。
キョロキョロと辺りを見渡し、やがてその視線は俺へと固定され飛び退いてしまう。子ぎつねの為、見た目は非常に可愛らしい。
もふもふのシッポに円らな瞳、足はスラリとし全身を覆う毛皮が柔らかそうだ。愛らしい挙動が又憎らしい!
人型の時は黒髪に黒目だったためか、一ヶ所も混じり気のない見事な黒狐だ。
「俺とおいで、悪いようにはしないから」
しゃがみ両手を前に出して、まるで野良猫を呼んでいるようだ。チッチッ、おいでおいで~。
思いが伝わったのか滅狐は俺の方に少しずつ近づいてくる。
いつまでも滅狐滅狐と種族名で呼ぶのも何なので名前でも付けるかな。
狐の妖怪と言えば玉藻の前だろうけどそれでは単純だから。
「よし、じゃぁ、君の名は『燿子』だ!」
「…………」
「あれ?ダメだった?」
「い、いえ、宜しいのではないですか」とか、「う、うん、い、いいんじゃないかなぁ」とか、「マジか、妖狐に燿子って……」とか、「安直です……」と色々言われたが無視する。
だってしょうがないじゃん。俺ネーミングセンスないもん。
『…………』
うわ~ん、キララまで呆れてるぅ~。
何てふざけていると、燿子の体が凄まじい光を放ち輝きだした!
あ、やっちゃったかも、名前付与は健在だった!因みにレベル概念付与も勿論健在です。
光が収まると、燿子の綺麗だった真っ黒な体毛は真逆の純白色へと変わり、一つだった尻尾は九つに増えていた。
やってもうた、九尾の狐になってもうた。
「な、また進化した!」「先程進化したばかりなのに!」「どうなってんだ、魔物ってのはこうも進化するもんだっけ?」
騒ぎ出す騎士達を尻目に燿子の名をを呼ぶ。
滅狐から九尾の狐へと進化した燿子は、勢いをつけ俺の胸へと飛び込んできた。嬉しかったのかな?
もしゃもしゃと体を触るととても気持ちがいい。これは病みつきになりかねない気持ちよさだ。
「あぁ、いいな、私も触ってみたいかもぉ」
「おいおい、あの滅狐だぞ。……にしてもよく懐いてるな」
「ミ、ミネルヴァ様、……あれは大丈夫なのですか?」
「滅狐から敵意は感じません。先程まで剣を交えていた相手同士とは思えませんね」
「あれは助けてくれたことを喜んでいるのでしょうか?」
騎士の皆様方がコソコソと何かを話しているが、俺の耳には入らない。
燿子が可愛いのでついついもしゃもしゃしてしまったけど、そう言えばチェスカ達のことを聴き忘れていた。
「ところで、チェスカ達とは合流できたの?」
「あ!」
あ?
「そ、そう言えば救助に来てくれていることを忘れていました」
「あぁ、そういやそうだったな。凄い戦いに見入ってて忘れてたわ!」
「あはははっ」
うおぉい。チェスカ達は命懸けで助けに来て忘れられてたんかい、ちょっと同情してしまう。
「少しお待ちを。【グラウクス】彼女達を呼んで来て下さい」
一羽の梟が暗くなり始めた空に飛んでいく。暫くすると飛竜に跨った竜の騎士達の姿が見えてきた。
「来ましたね。チェスカこちらです!……あの、ここでは何かと不便です。もしよろしければ我々の拠点に戻りゆっくりと話をしませんか?」
「ああ、うん、いいのか燿子もいるけど?」
聞けば「構いません」と答えてくれた。聞きたいことがあるとかで簡単に招いてくれた。
「「「ミネルヴァ様ぁ————!」」」
「ご無事で何よりですわ」
「貴女達も良くあの数の魔物の群れから生き延びてくれました。キヤーナ、貴女も無事で良かった。怪我はしていない?」
「はいっ、あの方のお陰で皆無事です!」
キヤーナが俺を見て言う。照れるからヤメテ!
「良かった。セシャトも無事で何よりだね」
「ありがとう。エルザ、貴方も無事で良かったわ」
皆が無事を確かめ合う様にハグをする。それぞれの瞳には夕日を赤く反射する雫が浮かび、それぞれが例外なく優しい笑顔で溢れている。
『ああいうの、いいね。主』
キララがしみじみと心の中に話しかけてくる。
そうだな、お互いの無事を喜びあえる関係ってのはいいもんだな。
駆けつけたチェスカ達に囲まれる団長さん達を見て、仲間っていいなぁと思うわたくしでした。




