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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
強狂怖大森林
12/66

VS テュポーンの欠片

「よう、さっきぶりだな!」

「ははっ、ハデスの奴に助けられたか。だが、今戻ってきたところでお前に何が出来る」

「試してみれば分かるさ。今までの俺とは違う、舐めてかかると死ぬぞお前」


 余裕綽々と言ってやる。奴は気付いているだろう、俺が先程とはまるで別人であると。だから奴は出し惜しみせず、膨大な神気を溢れ出させているんだ。


 神同士の戦いともなるとこの戦場は脆過ぎる。先ず最初に土台の強化をしなくてはならない。

 東京ドーム一個分でいいか?

 俺は約124万㎥の空間をそっくりそのままコピーして、それを二重になるように貼り付ける。これでどんなにこの空間を破壊しようと本来の空間には何らダメージはない。そして如何なる攻撃であろうとこのコピー空間から飛び出ないように神の力で封じ込める。

 今の俺は本体に接続して神の力をある程度引き出せるように調整してあるから可能なことだ。本体そのものでは問題があるための処置だ。

 神話では、人間の女性セメレはゼウスの本来の姿を直接視界に入れた為に焼け死んだという。酒神ディオニソスのおかあちゃんだな。

 てなわけで下手に本来の姿は出せない。そこで一時的に本体と繋がり力を引き出しているんだ。


「ほおぉ、少しは神能が使えるようになったじゃねぇーか!」


 テュポーンの欠片が空間を跳躍して目の前に現れる。そのまま奴は拳に神気を纏わせ殴りつけてくるが、俺はその拳を掌で受け止める。ただそれだけで空間が弾けたような大きな音が鳴った。


「マジでさっきとは比べ物にならねぇな。面白れぇ、それじゃあ俺も本気を出させてもらうかっ!」

「おいおい、今のも割と本気だったんじゃないのか?」

「はっ、言ってろよ!」


 テュポーンの欠片と言ってもその力は本物だ。並みの神では太刀打ち出来ない程の威力と速度で連撃を繰り返してくる。

 神の攻撃は複雑だ。現在は当然として、過去未来と時間を越えて攻撃を飛ばしてくる。だが、相手が同じ神ならば、そんな攻撃は防いで当たり前だ。神の戦いは相手の攻撃の防ぎ合い、如何に相手の裏をかくかが勝負の分かれ目になる。


 奴の蹴りは数百もの時間軸にも及び、奴の拳は空間を斬り裂く。時空を越える攻撃を相殺しながら眼前の攻撃を防ぎきる。

 お返しとばかりにレーヴァテイン(笑)を数千にも及ぶ時間軸に飛ばし、燭台切光忠を奴の頸めがけて振り被る。

 今のレーヴァテイン(笑)は、神として覚醒する前の状態とは桁外れに強力になっている。


《種:賢樹の枝

 名前:レーヴァテイン(笑) 愛称:レヴァン(+名呼嬉昇)*

 称号:ファーストウェポン(+不滅)

 レベル:999

 攻撃、防御、魔力、魔力抵抗:+1008000

 スキル:【不死殺し】【鳥類殺し】【大物喰い】【自我】【念話】【人化】【解析】【魔力破壊(マナ・ブレイカー)】【神打】【次元超越】【主人登録(只一人の主)

 (*愛称を呼ぶ度に全能力+1000)》


 今のステータス、ちょっと意味わかんないことになってます。見た目は使い古された木刀のよう。

 正直普段使いは諦め、人化してもらいキララの良い修行相手になってもらってます。


 そんなレヴァンを奴は涼しい顔して素手で受け止めている。曲がりなりにも神を相手取るにはレヴァンでも足りないからな。神を斬るには天文学的数値が必要になる。だが、幾ら数値が大きかろうとそれだけでは神は斬れない。斬るには使い手の腕が必要だからだ。

 いい例が団長さんの槍だ。アレはレヴァンを優に超える凄まじい数値だが、残念ながら団長さんの腕が付いていけていない。アレを俺や師匠が扱えば容易く奴を屠れるだろう。


 それと、当然か?光忠は防ぐまでもなく無視して敢て直撃させている。数値が低いため躱すまでもないんだ。

 光忠に名前は付けていないので強化されていないが、俺の神気を纏わせ強度を上げているので折れたり欠けたりすることはない。

 俺は尚も果敢に攻め続ける。奴は後退しながらもその全てを防ぎきっている。傍から見たら俺が押しているように見えるかも知れないが実はそうでもない。

 奴は細々とした攻撃をチマチマ仕掛け俺の隙を狙っているからだ。勿論全て防いでいるが非常に面倒くさい奴だ。


 ここまでは互角といったところか、勝負の行方は未だに分からない。負ける気はしないが、やはり強いなコイツ!

 だが、忘れてもらっては困る、俺には女神(おみながみ)流があり、キララもいてくれるのだ。出来れば使いたくはないが、場合によっては使わざるを得ないだろう。


「面白れぇ、面白れぇぞ!やはり勝負はこうでなくちゃならねぇ。命の削り合いこそ進化の糧となる、お前は良い糧になってくれそうじゃあねぇか!」

「うっせー、バトルジャンキーは黙ってろ!このまま押し切ってやるからよ」

「はははっ、やってみろ!」


 何なんだこのキチガイは、戦闘オタクなのか?すげぇ楽しんでるじゃん。


「今度は少し強くいくぞ!失望させんなよ小僧!」


 奴の拳は()()同じ時間軸に幾万と繰り出される。

 今まで過去、未来と飛ばしていた攻撃を一か所に集めたんだ。ほぼ同時に、だが、微かな時間差を生じさせた万に届く数の連撃となる。その衝撃は計り知れず、レヴァンで受け止めた拳は同時に幾万分もの衝撃を伴い俺を吹き飛ばす。ダメージはないが、衝撃を殺しきれなかった。


 神の攻撃は多次元に渡り多重に折り重ねることは当然で驚くべきことじゃない。俺の流派でも当たり前に存在している。しかし、奴は自らの攻撃全てに付加価値を上乗せし、拳故に打撃攻撃になるが、一つ一つにバットステータスの呪いを付与してくるのだ。毒に混乱、遅延に脱力、盲目に奪視、弱体に心魂搾取etc.……と多岐に渡る。

 俺は打撃を防ぐだけではなく、呪いまで打ち消さなければならないのだ。手数が倍になり防御をし損ねると均衡が崩れかねない。


 吹き飛んだ俺はすぐさま体制を立て直すが、既に背後に回った獣の蹴りが襲い掛かってくる。

 厄介である、確かに厄介ではあるのだが……、


「おい!本気を出すんじゃなかったのか?この程度で俺の護りを突破できると甘く見てるのか?俺をそこまで見くびってんなら勝者は俺の方になるぞ」


 パシリッと蹴りを受け止め、奴の両足を掴み小脇に抱え、ジャイアントスイングの要領で振り回して放り投げる。


「ちっ、何しやがる小僧ー!」


 奴は俺を舐めている。俺達にとって多重攻撃など当たり前で防ぐのは難しくはない。だが、事ここに至って多重攻撃に重きを置いたコイツは俺を舐めているとしか言えない。当たり前の攻撃で俺は倒せない、俺なら呪いだけではなく、防御に対する対抗策も織り交ぜ、更に多方向から攻める。何より神能に重きを置く。

 コイツは俺に神能を使えと言いながらも、俺の事を神だと認めていなと言う事だろう。

 やはりコイツはムカつく!


 宙をかっ飛ぶ欠片に、レヴァンを大上段に構え神気を多大に注ぎ込む。レヴァンは光の柱のように大きく輝きを放ち、全力で振り下ろすと光の柱はテュポーンの欠片を呑み込んでいった。

 多重、呪い、対抗に加え不可避に空間固定を、更に必中も付け加えた【大物喰い】の一撃、まともに光撃を喰らったテュポーンの欠片は更に後方に吹き飛んでいく。飛ばされた奴は複製領域の端に到達し見えない壁にぶつかり落下していく。


「……ちっ、やってくれるじゃねぇか」


 ドスの効いた低い声、奴は何事もなかったかのように立ち上がった。が、奴の額からは真っ赤な血が流れている。

 漸くダメージが通ったか、奴は若干ふらつきながらこちらに歩いて来る。互いの距離は可成りあるため歩いて来るのは回復時間を稼ぐためだ。

 瞬時に回復しないところを見ると付与した治癒妨害の呪いが機能しているのだろう。

 このまま俺の方から接近してもいいんだが、暫し待機して相手が回復する時間をくれてやる。


「よお、来ねぇのか?ビビッてんのか?それともまさかこの俺に余裕を見せてる訳じゃぁねぇよなぁ!」

「おいおい、わざわざ待っててやってる相手に言うセリフかよ。とっとと回復してこっち来いよ、それともビビッてんのか?」


 挑発に対し挑発で返す俺。ここからだ、これで奴は俺の事を敵だと認定したはずだ。奴も本当に本気を出してくるだろう。


「言ってくれるじゃねぇか、たかが眷属風情と思ったが認識を改めねぇといかんな。いいだろうお前に真の神の力ってのを見せてやる。刮目せよ!これが真の獸神の力だ!」


 案の定本気を出してきたようだ。今までとは比較にならない程奴の神気が増大していくのが分かる。

 予想以上の神気量だ、これはちょっと、しくったかも知れないな。やはり使わなくては勝てないか、女神(おみながみ)流を。


「いくぞ小僧!」


 速い!さっきとはまるで別人の動きだ!獣のように突進してくる奴の姿は、まるで光速で飛来する弾丸のように見えてくる。

 咄嗟に護りを固めて攻撃に備えると、真後ろから気配を感じとった、瞬間衝撃が後頭部を打ち据える。


「ちっ!」


 目がチカチカする。目の前から突貫してくる獣は見えている、更に背後にも獣がいる、奴の分霊体だろう。

 今の攻撃で幾つかの呪いを受けたが透かさず解呪し、前後の敵に集中する。と、今度は真横から殴り掛かられ慌てて回避する。これで奴は三人に増えたが、更に横から、更に後ろからとその数を増やしていく。

 最終的に奴の数は101にも及び一人で相手にするには少々骨が折れる。


 一人一人を相手にしてはいられない、まとめて削ってやる!


女神(おみながみ)流刀術————」


 確実に数十体は屠りたい。その為に大技を繰り出さなければならないだろう。


「死出の夜纏い!」


 この神技は刀を振るい、振るった軌跡に闇が生まれ、闇は広がり辺りを覆いつくす。広がりきった闇はやがて敵を巻き込みながら一気に収縮し点となり、最後に敵ごと消滅するというもの。

 この神技を破るには、闇に捕らわれる前に俺を殺さなければならない。正に初見殺しの神業なんだ。

 ハッキリ言って剣術の枠を大きく逸脱している。見る者が見れば邪道と言うかも知れないな。


 レヴァンを振るう軌跡には、まるで真っ黒くペンキで塗り固められたようだ。次に闇がそこから産み出されていく。レヴァンを振るう度に闇は広がり、結界の内部を覆っていく。


「なんだこの暗闇は!何も見えねぇ」「う、動けねぇ」「気配もつかめねぇぞ」「抵抗しろ!呑み込まれる」獣達が何やら騒ぎだしているがもう遅い。

 結界内を完全に覆いつくした闇は一気に収縮し始める。さあ、何人巻き添えを食うかな!


 野太い悲鳴を上げながら一点に圧縮されていく獣達、やがて闇は晴れその場に耐えきった獣だけがその場に立っていた。その数、只一人!


「お!思った以上の効果だったな。お前実はあんまり強くないんじゃないのか?」

「…………」


 だんまりかい、相当に堪えたらしいな。アイツが最初の一人だろうか?だが、一人だからと油断は出来ない。分霊とは神の魂に何ら影響なく自身を増やす行為だ。奴がやろうと思えばまた増えるだろう。

 しかし、アイツ増える気がないようだ。奴は神の力を持ってはいるが、正真正銘の神ではない。只力の欠片を植え付けられた別の生物だ。故に分霊は未完成品だったのかもしれない。力を分配した只の分身体だったのかもしれないな。分身は分霊と違い別ければ別ける程本体の力が減少していくし、本体には到底及ばない。だから死出の夜纏いに抵抗出来たのは本体のみだったんじゃないだろうか?


「まさかここまでやるとはな。死んでる間に何があったか知らんが、さっきとは別人じゃねぇか。認めるよ、ああ、認めてやるよ。テメェは強い、俺よりも強いのかもしれねぇ、だが、勝つのは俺だ!見せてやるよ、神のみに許された本当の神器を!」


 奴はそうまくし立てると両手を天に掲げ、ブツブツと何やら呟き始めた。


「ああ、ホントムカつくぜ。ハデスの眷属がここまで成長するとは思わないわな。だが、いい、許す。勝つのは俺だ、あのゼウスと比肩するこの俺の力が俺を勝たせる。そうだな、神を喰えば力が増すかもしれねぇな、コイツを喰えば俺を開放するだけの力が手に入るかもしれねぇ。そうだ、そうだよ、奴を喰おう。俺は獣の王だ、喰ったところで何も問題は無いはずだ。奴の力を取り込み封印を解く。よし、そうしようじゃねぇか!」


 聞こえてんだけど、気持ちわりぃんだけど、壊れたかコイツ?

 たとえ俺を喰ったところで力なんぞ手に入らんぞ。だってコレ只の創造したダミーの身体だもの、偽物だもの!

 喰って力が手に入るなら、それは本体の冥界を喰わないとならない。けど、そんなのは無理無理無理なのよぉ。だって、世界だもの、神だものぉ!

 って、アホなこと考えてないでコイツをどうにかしないとな。


 奴は微動だにせず両手を上げている。見ようによっては降参のポーズに見えなくもないんだけど、そんな訳はない。奴は段々と力を取り戻すかのように神気を高めていっている。何をするつもりだ?


「はっ、後悔しな、これが神だけが扱える真の神器だ!」


 テュポーンの欠片が上げていた両手を勢い良く振り下ろす。すると、奴の前の地面に複雑怪奇な文様が浮かび上がり、光を放ち始めた。


「来い!神魂器【ラードーン】!」


 !!!

 神魂器!ヤバイアレは現状を引っ繰り返すだけの力を秘めている。

 俺にも幾人かの神魂器が居るから分かる、アレは使用する神の力を増幅する装置でもあるんだ。

 生きた武具とでも言おうか、神魂器は成長するため、下手な神様よりも強くなる個体がいる程だ。

 修行中に幾つか集めたが、どれもこれも洒落にならない者達だらけだった。

 俺の持つ神魂器の中ではキララが一番の常識的な性能だが、彼女も修行を積んでどんどん強くなっている。

 そのキララを呼ぼうかどうか迷うところだ。ラードーンとやらの性能をみてから決めようかな。


 そのラードーンが魔法陣の中心部分から徐々にせり上がってきてその姿の全貌を露わにする。

 思ってたのと違う、てか、ちっさ!3m位の大きさの蛇だ。

 神話のラードーンは百の首を持つ黄金の林檎の守護獣の筈なんだけど、これは大き目な只の蛇に見えるな。

 いやいや、見た目に騙されてはいけない。只小さく収縮してるだけかもしれない。鑑定してもunknownとしか見て取れないのでテュポーンの欠片位の強さは有ると考えた方がよさそうだ。


「ああ、そうそう、見た目に騙されんなよ、コイツぁ俺のこの体と違って正真正銘神獣の肉体なんだからなぁ!そんじゃ、行くぜ相棒!」


 ラードーンの姿が光の粒子へとなり散り、テュポーンの欠片の両腕に絡みつく。絡みついた粒子がやがて形を持ち両手に握られる二つのメリケンサックへと変貌を遂げた。

 まさかメリケンサックに変身するとは思わなかった。守護獣のくせに武器に変身するとはね。

 取り敢えず俺の方はレヴァンで出来るとこまでやってみようと思う。キララは今はまだ神の相手をさせたくないし、他の娘達は規格外過ぎて扱うのが怖い。

 自らの意志で行動してもらう分には問題ないが、俺が扱うには危険が伴う。それはこの領域の結界ごと斬ってしまいかねないからだ。折角の名刀、名剣も制御出来なければ宝の持ち腐れにしてしまう、精進あるのみだ。

 ペティレア達を呼ぶ手もあるが、幾ら彼女達とて奴の相手は難しいだろうからやめておく。彼女達も修行を積み大分強くなったが、それでもunknownには届かないだろう。

 出来ればレヴァンも使いたくはないが、レヴァンには【不滅】スキルがあるため使用させてもらう。


「さあ、行くぞ、ハデスの眷属!」

「来な、獣の一欠片!」


 ぶつかり合う拳と木刀、一合打ち合わせると伝わる今までとは違う力と気合の度合い。

 あれ程多くの時間軸に飛ばしていた攻撃は只の一撃に込められ、余分な力みが無くなったその一撃は俺の力を大きく上回ってきた。


「かはっ」


 拳を受け止めたレヴァンは弾かれ続く拳は俺の腹部を撃ち軽々と俺を吹き飛ばす。

 肺から酸素が逃げ、酸欠で目の前が暗く視界がぼやける。


「くっ、速い」


 態勢を立て直す前には奴の攻撃が追加され、更に後方に吹き飛ばされていき、今度は俺が複製領域の壁にぶち当たる。

 壁を背にした俺に獣の猛攻が続き滅多打ちにされてしまう。


「はははっ!どうした、余裕がなくなってきたんじゃねぇのか!」


 神魂器を装備したことにより奴の全能力が跳ね上がり回避が間に合わない!

 右に左に、上に下にと続けざまに打ち込まれる殴打に蹴りは、後退し衝撃を逃がすことすら出来ず確実に俺を追い詰めている。


 このままでは肉体が持たない!


 俺は転移を使い距離を取ろうと空間に干渉すると、奴はその空間に拳をねじ込み俺の喉を掴むと再び壁へと押し付け殴打を再開する。

 肉体強度を超えた打撃に肌が裂け、骨が軋み、内臓にダメージが通り、激しく血が噴き出す。


 ち、調子に乗るんじゃねぇ————!


 加護による転移を使う。

 先程の転移はスキルによるもの、だが今度の転移は神能による力を利用したもので、奴にも阻止出来ない。いや、この加護を上乗せした神能の転移は、テュポーン本体でも阻止出来ない代物だ。


 神能とはつまり、全てにおいて優先される絶対の力だ。

 神の性格により得意とする神能に違いがある。例えば、剣神は“斬”だ。全てに優先され斬ることが出来る力。これを防ぐには、護りに特化した神能が必要になるだろう。正に矛盾が生じるんだなコレ。もしくは【虚無(カオス)】の神能である“無”だろうか。この神能は全てを無に帰してしまう力だ。

 水神は“水”を、風神は“風”、雷神は“雷”を得意とする。因みに全知全能は全ての神能を得意としている。


 では冥神はどうだろうか?

 冥神の神能とは即ち、“死”そのものだ。

 死を与える、死者の待遇、死からの生還、死者の掌握etc.、死に関するもの全てが冥神の神能だ。

 それだけではない、冥神にはその他の性格もある。それは地下の支配者故の力、豊穣神としての性格をも備えているんだ。

 だが、だがしかし、そんな神能を上回る力が存在する。それが冥王ハデスの固有能力である“絶対神力”だ。これは、全ての神能を上回る力で、使用者が絶対の立ち位置に存在するという良く分からない力だ。そんな力が加護として俺に宿っている。その絶対神力を豊穣神の神能の一つ“移”に上乗せした転移は誰にも阻めない。


 てなわけで、奴の遥か後方に転移を成功させた。


「ちっ、逃げてんじゃねぇよ!」


 透かさず位置を把握し迫ってくる奴は恐らく“移”を使っている。


 実は“死”の神能に絶対神力を上乗せすれば確実に奴を葬れる。だが、俺はそれを良しとしていない。

 この神能は生命に対する侮蔑に等しく、日本人として生きてきた俺としては、どうしても受け入れることが出来ず使用できないでいる。

 やはり敵とはいえ生きているものを倒すには真っ向勝負が一番。ってことで奴との打ち合いが始まる。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉ————————————!!!」

「はああああああああぁぁぁぁ————————————!!!」


 正に互いに防御を無視した殴り合いだ。お互いに数えきれない程の打撃をうけ、その数と同じ数の呪いを受ける。


 打ち合いは続く。

 果てしなく続く。

 そして睨み合い。


 どれだけ打ち合っただろう?お互い立っているのがやっとな程消耗しきっていた。


 神魂器を持つ奴は俺の身体能力を大きく上回り、神能の力が上回る俺は辛うじて奴に食い下がっていた。


「「はぁはぁはぁはぁはぁ……」」


 互いに息が上がり、もう腕を上げることすら出来なくなっていた。

 だが、互いの眼光だけは衰えを知らず、今にも互いの肉を貪り食う獣のように臨戦態勢を崩すことはない。

 この睨み合いの間に致命的な呪いだけを選別して解呪していく。

 特に治癒阻害の呪いは早いとこ消しておきたい。

 解呪に専念していると、奴が口を開いた。


「よお、ところでテメェの名前は何て言うんだ?」


 名前?名前なんて今更聞いてどうするんだ?と、思わなくまないが教えてやるか。


「神の名はプルートだ。だが、この肉体の名は女神(おみながみ)・文月と言う」


 女神(おみながみ)・文月は師匠から貰った名だ。


「そうか、知ってるだろうが、俺はテュポーンだ。この肉体の名前までは知らん」


 今更の自己紹介、何の意味があるんでしょうかね。


「そろそろ終わらせようかと思ってな、喰らう相手の名前位は知っておこうと思った訳だ」


 コイツ、勝利宣言のつもりか?勝つのは俺だから負けた俺を喰うってか。


「じゃ、悔いのないように全力で抗えよ、いくぞぉ!(ヘカトン)蛇頭(ケパレー)『ラードーン』!」

「!!!」


 しまった!肝心なことが頭から抜けていた!

 今まで奴は自前の神能しか使っていなかったんだ。

 奴は今、神魂器を身に着けている、神獣ラードーンを!

 神獣なら当然、ラードーンにも神能がある筈!


 テュポーンの欠片の背後に巨大な百頭蛇(ラードーン)の姿が現れる。

 百の首が鎌首を上げ、テュポーンの欠片の拳と共に俺に襲い掛かってくる。

 欠片の百の拳が迫り、同時に百の首が、二百の毒牙を引き連れて迫ってくる。


「ちぃ————————————!!!」


 確かにこれは全力で抗わなければならない。


女神(おみながみ)流刀術————」


 腰を落とし、抜刀術の構えをとる。


 一つ一つが死に直結しそうな攻撃。

 どんな神能が込められているかは分からないが一つでも喰らえば負けるのは俺だ!


「天漢無閃の太刀!」


 神の目に残光すら見せぬ一閃、それを天の川に輝く星々の如く無数に打ち出す神技。

 恐らくパワーで負ける、なら数で押すのみ!

 一瞬で無限にも思える数の斬撃を、攻撃を躱しながらひたすら繰り返し行う。

 レヴァンには鞘がないから形だけになり不利ではあるが、やるしかない。

 一つ一つに“斬”の神能を込めているため、防ぐには“斬”を凌ぐ護りの神能が必要になる。


「無駄な足掻きしてんじゃねぇ————!」


 更に込められる力と数。

 相殺できるか!


「おおおおおおおおおぉぉぉぉ————————————!!!」


 ふと気づく、ラードーンの奴は俺の剣気を喰ってないか?


 !!!


 そうか!恐らく奴の神能は“食”だ。奴は斬撃すら喰ってやがるんだ!

 なら、“移”を使い背後にも斬撃を飛ばす。喰いきれない程の数を飛ばしてやる!


 背後に飛ばした斬撃を百の首の半数が防ぎ、もう半分が俺に向かってくる。

 だが、向かってくる数がさっきの半分に減り分気が楽になる。あの数は圧迫感が凄いんだよ。


 治癒阻害を解呪し、豊穣神のもう一つの神能“癒”で身体を即回復させつつ抜刀術を放ち続ける。


「かぁ————、いい加減諦めろよ!往生際が悪いんだよ小僧がぁ」

「人の事言えんのかテメェー」


 このままではジリ貧だ。

 何とか打開しなくちゃならない。どうする?

 キララを呼ぶか?

 人型の今のキララの強さは大体(ペェリィシュ)(・フォックス)と同じくらいだろう。


 神魂器は、五段階の形状が存在する。


 第一段階は生前の姿をとった状態で、強さも生前のままだ。そこから経験を積むことで強さを増していくことは可能だ。

 これを精霊受肉と言う。

 第二段階は武具の姿をとった状態、この状態では神魂器は潜在能力を全開放でき、使用者に上乗せすることが出来る。

 これを神魂解放と言う。

 第三段階では、第二段階の状態のまま生前の姿を取り戻すことが出来る。つまり、第二段階の力を持つ者が二人になる。

 これを神魂分霊と言う。

 第四段階になると、二人は融合し、力は掛け合わされる。

 これを神魂融合と言う。

 そして第五段階になると、神の魂にすら収まりきらない力が溢れ出し具現化する。未だ嘗て誰も到達できなかった領域だ。

 これを神魂流出という。


 今のラードーンは第三段階の神魂分霊状態だ。

 そんな相手にキララを使うのは少し不安が残る。キララとはまだ第三段階に到達していないからだ。


 第二段階で第三段階の者を相手取るには、使用者が互角の場合、神魂器は相手を遥かに圧倒する潜在能力がなくてはならない。


 今のキララにラードーンを圧倒する力はない。

 やはりここはレヴァンと女神(おみながみ)流で凌ぐしかないだろうな。


「でも、きちゃった」


 は?


「来ちゃった」

「キ、キララ、何でいんの?」


 そこには呼ばないと結論を出した筈のキララが立っていた。


「だって、ピンチでしょ?私の助けが必要じゃない?」


 初めて会った頃とは違うフランクなじゃべり方は俺がそうしてくれと頼んだからだ。


「ああ、誰だテメェは?何時からそこにいた!」


 欠片が疑問に思うのも当然だ。奴は神魂器を召還する際に魔法陣を用いた。

 だが、キララはそんなものを使用していない。する必要がないからだ。

 神魂器とは使用者の魂と半ば融合しているようなものだ。本来は魔法陣を必要としない。

 常に傍にいるものだからだ。と言っても精霊受肉したキララは今の今までペティ・シオンにいたんだけどね。

 わざわざ魔法陣を使わないと召喚できない神魂器は、使用者との融合が甘い証拠でもある。

 融合がちゃんとしてないと100%の力を発揮出来ないし、剥がれ落ちる事が稀にあるそうだ。

 俺の神魂器達にはそんなことはないけどね。


「おいおい、って、来ちゃったんならしょうがないか!いいんだなキララ、可成り厳しいぞ!」

「勿論、大丈夫だよ。貴方と私がいれば無敵でしょ」

「ふっ、そうだな、じゃあいくぞ」


 すぐさまレヴァンと光忠をペティ・シオンに送り、キララを神魂解放する。

 天漢無閃の太刀を解いた今はひたすらに攻撃を躱すことに専念する。

 キララの解放姿は白魔の剣、純白の鞘と束を持ち白銀の刃の諸刃の美しい剣だ。


「いくぞ、キララ。女神(おみながみ)流剣術————」


 キララを鞘から抜き、正眼の構えを取る。


流星裂弾(メテオ・シェル・テア)!」


 放たれる剣戟、炸裂と破壊を伴い無数の斬撃が宙を舞う。


 さあ、そろそろ終わらせようじゃないか!




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