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プロローグ


 ~・~・~ ??? ~・~・~


 俺は地球生まれの日本育ちの男だ。……なんでだ?なんで俺はこんな森の中で寝ていたんだ?

 40年間少々、確かに日本で暮らしていた記憶が俺にはあるのに、何故か森の中にいた記憶が無い!

 気付いたらこんな森の中にいた。……俺、迷子!


 ~・~・~ ??? ~・~・~


 私は混沌を曾祖父に、世界を曾祖母(祖母)に、大地を父母に持ち神代の時代に産まれた。

 死者の国を統べる王。そう、俺は冥府の王冥王ハデスである。

 冥府とは、死者達の向かう死者の世界である。魂の浄化機関であり、転生までの間の居場所であり、また生前の罪を償う場でもある。


 しかし、今いるこの場所は冥界ではなく、神界ですらない。


 ここは戦場、普く(あまめく)宇宙に渡って繰り広げられる神々が争い合う戦場の一区画。神々は今、種族間で戦争をしているのだ。

 これまでに幾つもの宇宙が消し飛び、故に多くの星々が滅ぼされていった。

 宇宙とは、幾つもの多元に存在し折り重なり、並行し、或は縦列し、しかし、決して交わらないように平行して存在している。

 そんな宇宙が神々の争いの犠牲となった。宇宙にて育まれた命と共に……。

 何故争いが起きたのか?それは二つ理由がある。


 一つ目は、神はそれぞれ宇宙の管理権を持っている。自らの種族が作り上げた宇宙の管理の権利を賭け勝負をしているのだ。勝った神々は負けた神々の作った宇宙を好き勝手にカスタマイズ出来る訳だ。


 二つ目は、神々が作り上げた宇宙は神の手を離れ、己自らの力で発展出来るようになり、神々が暇になったからだ。要は暇潰しのために陣取りゲームをしているのだ。神以外の生物からしたら迷惑以外の何物でもないが、神々は真剣に陣取りをしている。


 本当に迷惑な話だ。断っておくが全ての神が乗気な訳ではない。迷惑を被っている神も多い。特に冥界を治める者にとっては仕事が激増するのだからな。

 だが、負ける訳にはいかないので、仕方がなく参戦せざるを得ない状況なのだ。

 察してくれ。いや、無理があるか。すまない、冥王の名において死した全ての魂をより良い世界に転生させることを誓おう。私は多くの冥神達の頂点に立つ神、冥王なのだから。


 この迷惑な争いは、全宇宙に渡り、全ての神々が参戦した戦争、【全域総神戦争】と安直な名前で呼ばれるようになっていた。

 苛烈を極めたこの戦争も、もう少しで終結を迎えるだろう。


 ~・~・~ ??? ~・~・~


 俺は全知全能にして神々の王、天王ゼウスだ。

 今いるこの宇宙は、K型第142宇宙と区分されている場所だ。

 俺たちギリシア神族の管理領域はA型1宇宙からB型第88宇宙までだ。思えば遠くまで来たものだな。因みに此処の管理神族は地球では存在していないが、俺たちの管理地でも名の知れた神族なのだ。

 相当強力な力を持った相手だが、我々の敵ではあるまい。何故なら俺達にはハデスが居るからだ。

 我が兄、冥王ハデス。その力は全知全能を遥かに超え、全ての神々の中でも兄に対抗出来る神は存在しまい。恐らく原初神ですら凌駕するだろう。


 我々は既に大半の神々を冥府に送っている。

 倒された、或は争いを嫌った神々は一時的に倒した側の冥界へと送られ大人しくしている。これは神には死が無く、消滅させたところで直に再誕するからだ。冥府に居てもらわないと決着がつかないからな。

 決着には、”相手方を全員冥府送りにする”というルールを作ったのだ。冥府に送られた神は戦線復帰出来ないものとしている。

 神は記憶、記録が欠片でもある限り復活する。そして、神に忘却は存在しない。つまり神は死なないのだ。神の死は自らが望まない限りありえないことを知っておいてほしい。

 だが、世の中には例外も存在する。ハデスだ。

 兄は唯一問答無用で神にも死を与えることの出来る存在なのだ。故にこの全域総神戦争で最も消極的な神の一柱だ。彼は優しく、命を刈り取ることを好まないのだ。


 まあ、ハデスのことはいいだろう。それよりも俺の目の前には今、この宇宙領域最強の戦神が立ち塞がっている。

 名を、ヌヤチーヤ神族戦神ロットユーシアと言う。

 終わりの近いこの戦争、最早俺達の勝利は揺るがないだろう。

 俺と奴との一騎討ちで全てが終わることになる。

 俺の金色の瞳と、奴の銀色の瞳が火花を散らす。さあ、ラストバトルといこうか!


 ~・~・~ ??? ~・~・~


 わたしの名前は、ミネルヴァ・ニケ・スリアンヴォスっていいます。もうすぐ6歳になります。

 スリアンヴォス公爵家の長女で、兄妹は3つ年上の兄、ウィルカヌス・ヴァッテレ・スリアンヴォスがいます。


 最近はお外の天気が何だか不安定で心配です。今もお外はどしゃ降りだよ。地震も多いし。

 神さまが喧嘩してるんだって、おとうさまがいってました。

 神さまでも喧嘩するんだね。みんな仲良くするのが一番なのにね。

 神さま、ケガしないといいんだけとなぁ。大丈夫かなぁ?


 雨ばかりで友達のヴィクトリアと遊べないよう。

 ヴィクトリアはルトエル侯爵家の令嬢で、わたしと同い年のおにいちゃんの婚約者なんだよ。わたしにはいないのになぁ。


 わたしもおにいちゃんも最近はもっぱら勉強ばかりしています。

 勉強を頑張るとおとうさまもおかあさまも喜んでくれるので好きです。

 今、魔法と魔術のお勉強中。先生はお城に勤めている偉い魔法師さま。名前はマイア。

 彼女は120歳のおばあちゃんなんだけど見た目は20代位で、おばあちゃんって呼ぶと怒るんだ。おばあちゃんなのにね。おねえちゃんと呼べっていつもいってるんだよ。おかしいね。

 それはそうと勉強ぉ勉強ぉっと。まずはオドとマナの違いから勉強しようっと。


 じゃあオドからね。

 オドは、お星さまや人、動物さんや虫さんにも宿っている生命力のことなんだよ。

 生きているものには備わっているんだって。お星さまも生きてるのかな?

 生物はオドが減るに連れて弱っていくんだって。なくなっちゃうと死んじゃうんだよ。怖いよね。

 まったく無くなっちゃうと回復できないけど、少しでも残っていたら時間が経てば回復するんだって。よかったよ。


 次はマナだね。

 マナは魔力のことだよ。魔術やスキルを使う時に必要な力なんだ。大気中に存在していて、人は……、違った生物全般はこのマナを自然と吸収して蓄えてるんだって。

 マナは無くなっても死んじゃうことはなくて、激しく疲労するだけなんだって。

 植物が大地から吸い取ったオドをマナに変換して大気に放出してくれてるから、世界からマナが無くなることはまずないんだよ。

 因みに、宇宙空間に漂っている力はエーテルって名前があるんだけど、詳しくはよく分かってないんだって。ダークエネルギーとも言うらしいよ。


 次に魔法と魔術の違いについてだよ。

 まずは魔法から。魔法は神さまの力を借りて行う奇跡のことなんだ。才能と素質、それと強い精神力と信仰心が必要で、神さまから認められないと魔法は使えないんだ。

 たまに生まれながらにして、神さまに気に入られている人がいるんだけど、ずるいよね。


 魔術はマナを消費して現象を引き起こすことなんだ。多くのマナを使えば大きな現象が起きるんだよ。


 魔法には型がなくて強く明確に想像することが大切なんだ。神さまに、どのようなお願いか明確にしないと神さまも何をしていいのか分からないからね。

 きれいな花を咲かせたいとか、喉が渇いたので水が欲しいとか、その場に適した奇跡を起こすのが魔法なんだよ。臨機応変っていうのかな?

 魔法を使うには信仰する神さまに祈りを捧げるの。神さまが応えてくれると、神気っていう特別な力を受け取ることができるんだって。この神気を使って奇跡は起きるの。強く強く願った想いが奇跡を起こすんだよ。

 敵対する相手が同じ神さまを信仰していた場合、神気を受け取れるのは神さま次第で、神さまの気持ち一つで変わってくるんだって。


 でも、魔術は違うんだよ。

 魔術は自前のマナだけを使って現象を起こすの。そのために大量のマナを消費しちゃうんだ。

 魔術を使うには術式を構築する必要があるんだよ。術式は魔術の設計図で、偉人さんや研究家の人たちが編み出したものを使うんだけど、覚えるのが大変、難しいのが沢山あるからね。

 魔術には人それぞれ適性属性があるんだ。適性がないと、術式を構築しづらいんだって。

 術式を構築出来たら、マナを巡らせていくの。

 術式にマナを籠めたら、発動のためのトリガーを引くんだけど、このトリガーは自分で予め設定する必要があるんだ。

 例えば、詠唱とか、印を組むとか、指パッチンって人もいるよ。

 多くの魔術師は名称を声に出して唱える、かな。”ファイアボール”とかね。

 トリガーを引けば術式に沿った効果が発揮されるよ。


 魔法と魔術の違いは、神さまの力か自分の力ってとこかな。

 ああ、そうそう。魔術よりも魔法の方が遥かに凄いんだって。だって神さまの力を借りてるんだもんね。

 魔術は科学で再現が可能なもので、魔法は摩訶不思議な力だから再現出来ないの。

 ええっと、魔法と魔術の違いの例を上げると、ロウソクに火を灯すとするとね。

 魔術ではロウソクの芯を急激に酸化させて燃焼させる行為。

 魔法では気付けば火が灯ってる感じかな。真空状態でも火は灯るんだって。酸素を必要としないんだよ。外的要因に関係なく、影響を受けない。それが魔法なんだよ。

 他にも、家が火事で炎が焚けっていたとすると、魔術だと水の魔術で消火したり、周りの酸素を奪って消したりするんだけど、魔法だと炎そのものを消し去っちゃたり、時間を巻き戻して火事が無かったことにしたりするんだって。初めから火事なんてなかったみたいに。

 だからかな?魔法師と魔術師だと、魔法師の方が上級職になるんだ。

 でも、魔法を使えるのはほんの一握りの天才だけなんだって。魔術師も数は少ないんだけど魔法師ほどじゃないんだ。マイアってやっぱり凄いんだ。


 さて、これで今日のお勉強はここまで、また明日ガンバルぞぉ!


~・~・~ ハデス ~・~・~


 全域総神戦争も終結し、大忙しだった冥王としての仕事も幾分落ち着いてきた。そう、戦争は我々ギリシア神族の勝利に終わった。

 冥府は捕らえた神々達で賑わっていたが、皆それぞれの管理領域に帰っていった。勿論、戦争によって消し飛んでしまった宇宙を、失われた命ごと復元した後にだ。

 復元を終え、皆が帰り少々寂しくなった冥府で一休み、と思いきや大慌てで伝令神ヘルメスがやってきた。

 彼は冥府の道先案内人でもあるため冥府の出入りは割と自由にしてある。

 ヘルメスが伝えたものは、ある惑星に封印されていた獣神テュポーンが戦争の余波を受け復活していたと言うものだった。

 テュポーンは嘗て(かつて)天王ゼウスを一度破ったことのある実力者だ。全ての神獣の王にしてゼウスに対抗出来うる一柱。

 神代の時代に神界の派遣を賭けてゼウスに挑み、一度勝利しているのだ。

 後に復活したゼウスが仲間の助けを得てテュポーンをある惑星に封印したのだ。が、先の戦争の余波を受けその封印が解けてしまったと言うのだ。

 やれやれ、一難去ってまた一難とはこのことだな。


 ~・~・~ ゼウス ~・~・~


 ――テュポーンが復活しただと!

 アレは不味い、アレは世に解き放ってはならない。アレに単体で対抗出来る神を俺は一柱しか知らない!

 大地大母神ガイアが全知全能たる俺に対抗するために産まれたのがテュポーンだ。

 サシで勝てるのは数多の神々の中でも、別格である兄のハデスだけだろう。

 ギリシア神族の中の俺達オリュンポス神族の長兄にして混沌のカオス、世界のガイア、この二柱の後継者でもある。

 兄は生まれながらにして唯一無二の力【絶対神力】を持ち、唯一一柱のみ神に完全なる死を与えられる存在である。神は祝福を与える者で、彼の祝福は【死の祝福】なのだから。

 そして、冥王たる兄は一度冥府を訪れた英霊を使役出来る。不死身の英雄の軍勢が出来上がるのだ。

 だが、それだけの力を持ちながら彼は優しすぎた。争いを嫌い、滅多なことでは冥府から出てこないのだ。その為、先の戦争時も俺達に危険が訪れた時のみ参戦した程度だったのだ。

 そんなハデスでもテュポーンには楽勝とはいかないだろう。

 俺だけで片を付けたいが、可能だろうか……、無理だろうな……。


 ~・~・~ ミネルヴァ ~・~・~


 私は今晩のヴィクトリアとのお茶会の前に、少しだけ勉強をしています。マイアは今も元気に教鞭を振るっています。

 私ももう16歳になりました。嘗て不安定だった天候は10年前に安定を取り戻しました。頻発していた地震も影を潜め、10年間一度も大きなものは有りません。


 私もヴィクトリアも結婚適齢期になりました。ヴィクトリアは兄の婚約者ですが、いまだ結婚には至っていません。

 何故なら彼女が騎士になったからです。そして、私も。

 決して結婚が嫌で騎士になったのではありませんよ。ヴィクトリアと兄と愛し合っており、よく二人でデートを重ねています。妹の私から見て羨むくらいです。

 では、何故騎士になったかというと、只々騎士に憧れてのことです。深い意味はありません。

 さて、そのことは置いておきましょう。

 今は勉強に集中しましょう。今日は加護とステータスとレベルの勉強です。


 先ずは加護からです。

 加護とは、神から与えられる祝福や守護のことです。あらゆる災いから護ってくれたり、人知を超えた力を賜ったりします。

 例を挙げると、ほんの一例ですが、知恵の神から【神域叡智】や【思想共有】、風神からは【嵐前之静】や【神風】、海神からは【海之獣王】や【海洋生物使役】等といったものがあります。

 そして、魔物や獣は種族として特有に加護を持っている種もあります。

 例えば、今、私の足元に戯れ(じゃれ)ついている古代竜、名をテルピュネと言いますが、この娘には生れ付き【風除け】の加護が神獣母神エキドナから賜っています。

 この加護は竜という種族全体に授けられたもので、テルピュネ個人にではありません。

 加護はあくまで神の力です。授けられたものの能力を大きく上回った効果を発揮してくれます。魔法を自然と使えるようなものですね。


 次にステータスです。

 これは社会的地位や状態を表す言葉ですが、我々人類はこれ等を可視化する鑑定魔術を開発しました。

 全能力値を統合しランク”F~A”、規格外として”S~SSS”で表すものです。

 全能力とは、【筋力】【知力】【速力】【肉体強度】【精神力】【魔力】【魔力抵抗】【運】の8つです。但し、加護やスキル等は加味されておらず、戦闘能力として目安程度にしかなりません。

 人間の上限が”B”と言われていますが、種族の壁を超えたものは”A”に届く者もいます。私やヴィクトリアがそうです。


 そして、武具や魔術等で強化されている場合、数値として表示されます。

 例えば、”攻撃+10”とか、”防御×2”などと表示されます。

 あとはその時の状態、健康や病、社会的地位に罪歴なども表示されます。そしてスキルも。


 スキル、今までコツコツと鍛え上げてきた技能、天性の素質また、後付けで魔法道具等で付け加えた技能も纏めてスキルと呼びます。


 鍛え上げられた技能は誰しもが努力次第で得られる技能【乗馬】だったり、【鍵開け】だったりしますね。

 天性の素質は、産まれながらに備わっているもの【耐性】であったり【怪力】であったりします。

 さらにスキルは突然に閃くことがあるそうです。神が世界のシステムに”業”を登録し、条件を満たしたものに授与していると言われています。幾ら努力しても、習得不能な技能だったりします。【飛翔】や【転移】だったりします。

 加護とは違い、神の力を借りるのではなく己自身の力を使うことからスキルに分類されています。


 最後はレベルです。

 レベルを語るにあたって、まず先に勇者と呼ばれる者について勉強しないといけません。

 勇者とは神が救世を謳い異世界から召喚する者達のことです。神敵への抑止力として存在する神兵です。

 勇者の称号を神から与えられ、この世で唯一レベルの概念を持つ者たちです。

 神は神兵である勇者達を逸早く成長させるために、召還時にある概念を植え付けます。それがレベルです。レベルは生物を殺め、オドを吸収することで上がります。レベルが上がるとステータスが飛躍的に上がり強くなります。上昇率は勇者の資質により異なるそうです。

 レベルがあるため、勇者はとても強力な存在になるのですが、その為か勇者はとても傲慢な者が多いと聞きます。会うことがあれば気を付けなければなりませんね。


 さて、勉強はここまでにしましょうか。

 ……あら?いつの間にかテルピュネが私の膝の上で寝ています。

 私の可愛いテルピュネ。家族のように共に過ごした掛け替えのない存在です。自由に体の大きさを変えることの出来る彼女は、常に私と一緒行動してきました。これからもよろしくね、テルピュネ。

 さて、もう少しでお茶会の時間です。


 ~・~・~ ハデス ~・~・~


 テュポーンは想像を絶する戦力を有している。

 私はテュポーン配下の者たちが外宇宙に飛び出さないように、管理領域の全ての宇宙領域に強力な結界を張らざるを得なかった。私の結界を破れる者は配下の中にはいまい。

 テュポーンの配下達はあらゆる管理宇宙全体で暴れ回っている。

 オリュンポス神族、ティターン神族のギリシア神は総出で討伐に出向いている。

 やれやれ、ティーターノマキアーの再来か?また忙しくなるな。


 ~・~・~ ゼウス ~・~・~


 俺は皆の協力を得て、テュポーンとの一騎討ちに持ち込めていた。

 皆がテュポーンの配下を抑えてくれているため、俺はコイツに集中できている。

 しかし参った。俺の力はテュポーンにダメージを与えているが、瞬く間に癒えてしまう。決定打を与えられないでいるのだ。封印を施しても直ぐに解いてしまう。

 苦戦した相手は数多いたがコイツはけた違いだ。俺も流石に疲れてきた。

 もう、いっその事一気に雷霆で消し飛ばすか?いや、それはできないな。

 雷霆は一度震えは全宇宙に行き渡り敵を滅する。その為非常に扱いが難しいのだ。

 一つ間違えると味方が大ダメージを受けかねない。それに、奴を消す程の雷霆を使えば折角元通りに再生したものまで消し飛びかねない。

 ふぅ、せめて娘のアテナが居てくれたら打開できるんだが……。


  ~・~・~ ミネルヴァ ~・~・~


 今日は、兄とヴィクトリアの結婚式です。二人は晴れて夫婦になりました。

 二人とも死してなお、幸せでありますように!

 ヴィクトリアは、ヴィクトリア・ティイ・スリアンヴォスになりました。

 旧姓ルトエルから我が家の姓、スリアンヴォスに変わったのです。少し恥ずかしくも、嬉しくもあります。

 兄、26歳、ヴィクトリア、23歳です。少し遅くなりましたが(ようや)く夫婦になりました。

 清楚で煌びやかな純白のウエディングドレス。風に吹かれ裾が舞い上がっている姿がとても美しく、良く似合っています。

 普段は勝気な彼女ですが、今はしおらしく穏やかな女性の表情になっています。

 周りを見渡せば、部下の騎士たちの瞳が潤んでいます。気持ちはよくわかります。テルピュネも二人を祝福していますよ。

 こんな時間が永久に続くといいのに、と思うのは贅沢でしょうか?

 ですが、災いとは突然にやってくるものです。


 ~・~・~ ハデス ~・~・~


 またも冥府に伝令神(ヘルメス)がやって来た。

 どうやらゼウスが敗れたらしい。

 テュポーンはゼウスをある惑星の一つに封印し、再び宇宙で暴れているという。

 俺にテュポーンを止めて欲しいと言われた。

 今は、戦女神アテナと、弟の海王ポセイドンが相手をしているそうだ。

 ゼウスは我々兄弟の末っ子のためか可愛いところがある。仕方がないこの重い腰を上げるととするか。

 愛する妻である冥府の女王ベルセフォネーの声援を背に受けて久方ぶりに冥府を出るのだった。


  ~・~・~ ゼウス ~・~・~


 俺は敗れたのか?

 身体は何一つ動かない。思考だけがハッキリとしている。

 そうだ!俺はテュポーンをあと一歩というところまで追い詰めたが、結果敗れ封印されてしまったのだ。

 こうなってしまっては仕方がない、後はハデスに委ねるだけだ。なんの心配もしていない。

 頑張ってくれ、健闘を祈るぞ兄貴。

 ん?他力本願?

 知らんな出来る者がやるのは当然だろ?


  ~・~・~ ミネルヴァ ~・~・~


 ほんの数分前まで祝福ムードだった結婚式場は、混乱を極めています。見渡す限り辺り一面瘴気が広がったからです。

 瘴気に覆われた世界は汚染され滅びを迎えることになります。

 濃密な瘴気からは魔物が産まれ、獣たちは魔獣と化し、植物は枯れ、人は正気を失います。

 これ程の密度を持った瘴気では、半日と待たずに魔物が産まれかねません。一体どうしてこのようなことに!

 瘴気を浄化するには魔法が手っ取り早いのですが、魔法師は数が少ない。魔術の浄化では範囲が狭く一朝一夕にはいきません。

 幸い私とヴィクトリアは魔法を使えますので難を逃れましたが、一般住民はそうはいきません。

 私はこの場をヴィクトリアに任せ、皆を残し一人城下へと足を急がせます。

 お城?城は大丈夫です。マイヤを筆頭に優秀な人材が揃っていますからね。


 城下町は神々を祭る神殿付近では浄化作用か働くので問題ありません。神殿は常に神聖なる浄化の力を放っているからです。

 問題は城から遠く、神殿が近くにない区画です。私は魔法を使い、浄化を施しながら問題の区画を目指します。

 瘴気を浄化しながら原因を探っていくと、王都の北に広がる広い森の奥から瘴気が広がってくることが確認出来ました。

 今すぐにでも森に入り原因追究したいところですが、今ここを離れる訳にはいきません。

 魔物が産まれそうな濃密な瘴気溜まりを重点的に浄化していると、不意に神聖な気が世界を覆い、その神気に触れた瘴気は瞬く間に浄化されていきました。

 これで安心ですが、一体何だったのでしょうか?この神聖な気は紛れもなく神の放ったもの。どちらの神様か分かりませんが感謝いたします。

 一安心ですが、取り敢えずは式場に戻る前に、一通り状況を見て行きましょう。

 

 ああ、神様、一体何が起きているのですか?


  ~・~・~ ハデス ~・~・~


 成る程な、ゼウスを倒すだけのことはあるな。

 テュポーンは強敵だった。

 その身体は巨大で、その質量は計り知れない。

 強大無比な力、神すら竦み上げる咆哮に猛毒、触れるものすべてを融解するブレス、何より何度消し飛ばしても立ち向かってくる不屈の精神と復元能力。

 並みの攻撃では鎧のような肉体を突破出来ず、巨体ゆえ広範囲攻撃でなければならない。

 つまり、必殺の一撃を広範囲に何度も打ち込む必要があるということ。

 然れども、そんな化物といえどゼウスとは紙一重の勝負だったのだろう。

 私は宇宙空間で、テュポーンを相手にゼウスの封印さてている惑星を探す余裕があった。其れはゼウスが与えたダメージが残っていたからではないだろうか?

 熾烈を極めたこの戦いは、星々を再び砕きながらも終焉に向かっていた。

 ゼウスを封印している惑星を見つけたのだ。封印を解く前にテュポーンを倒しておきたいが、神殺しの力(絶対神力)は自ら戒めている。どううする?禁を犯すか?

 いや、テュポーンを殺してしまってはガイアの怒りに触れかねないか。ガイアを敵に回すのはテュポーンよりも遥かに厄介だな。

 やはり封印するしかないか。


 私はゼウスとテュポーンの入れ替えを試みることにした。

 ゼウスを封印の外に、テュポーンを空いたゼウスのいた場所に封印するのだ。奴自身の封印の力に俺の封印を上乗せれば奴とて容易には解封出来まい。


  ~・~・~ ゼウス ~・~・~


 俺は今地中深くに封じられている。

 こうも動けないと退屈で仕方がない。ので、迎が来るまでの間、この世界の人々の暮らしを俯瞰し暇を潰すことにした。

 驚いたことにこの場所(深い森の中)には、高位魔族や数は少ないが神獣まで存在している。

 おいおい、暴れた神獣が相手では人類がいくら進化を遂げようとも太刀打ちできるものではない。

 本来神獣は神界にしかおらず、下界(四次元時空間のことを我々は下界と呼ぶ。因みに神界は26次元以上の時空間のことだ)にはいないはずだ。

 ふむ、よく見れば複製や分霊体のようだな。26次元以上の存在である神獣を4次元のものが目にしてしまえば、その時点で消滅してしまう。

 存在自体で世界を滅ぼしてしまうのが神なのだ。人の世に出る神は、次元を落とした複製や分霊体を使い被害を抑えている。

 そんな神獣が存在していればこの惑星に生き物はいなくなってしまう。

 だが、そんなことにはなっていない。それはこの森自体が強力な結界となって外に出ないように阻んでいるからだ。

 結界を張ったものは大したもんだな。

 だが、俺を結界内部に封じてしまった影響を受け、結界に歪みが生じてしまっている。

 早急に修復しなければ世界が大変なことになりかねない。内に溜まっていた瘴気が森の外に漏れ出ているのだ。

 出来るか?やるしかない!

 俺は封印されている状態から歪みを修復し、外に漏れだした瘴気を浄化するために神気を少し放出する。


 ……。何とかなったな。

 そんなことをしていたら迎が来たようだ。今の神気で気が付いたのか?

 修復したとはいえ俺の換わりにテュポーンが封印され、再び結界が歪まないか心配だ。

 封印の監視も兼ね、力を制御した分霊体を一柱おいていこう。

 分霊とは、神の霊魂に影響なく魂を分けることだ。いうなれば自分を量産する行為のことだ。

 神社仏閣はこれによりあちこちに存在出来ているのだ。

 ん?ハデスも?

 分かった。では俺の分霊体は結界の外に送り込もう。ハデスの分霊体……、え、違う?分霊ではなく眷属を送る?

 了解!兄貴の好きにしてくれてかまわないぞ。

 じゃ、ハデスの眷属は森の中で封印の監視だな。


 ふぅ~、それにしても、やはり迎えに来たのは兄貴だったか。


  ~・~・~ ミネルヴァ ~・~・~


 はぁ~、とんだ結婚式になってしまいましたね。

 兄とヴィクトリアには同情します。しかし、これでヴィクトリアは私の姉になったということです。

 そして、義姉と私は王城に呼び出しを命ぜられました。面倒なことにならなければいいのですが。

 仕方がないので王様に会いに行ってきます。


  ~・~・~ ??? ~・~・~


 マジで迷子?この年でか!

 自分が今森の中で突っ立ているのが不思議でならない。どうやってここまで来たのか記憶が無い。気付いたらここにいた。拉致られたかとも思ったが相手がいない。し、ここは恐らく地球じゃない。直感というか、肌で感じるというか兎に角地球じゃないことはわかる。


 この森は、木々達は背が高く乱立しているが、密集せず光り条件はいい。やたらと広い何かが通ったような獣道らしきものがあり、動く分には問題なさそう。が、至る所から生き物の気配を感じ危険だ。

 どうしよう。救助が来るわけないし、自分から動かなくちゃならない。

 熊のような危険な生物に出くわさないよう祈りながら、食料になりそうなものを探しながら森を抜けよう。

 こうして俺は、この森の大きさも知らずに歩き出したのだった。

 そして、この森で運命の出会いがあることを俺はまだ知らない。





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