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クロノセージ ”時の魔術師”  作者: 葛西シロム
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三章 二話 二つのアトン式

三章 二話 二つのアトン式



「アトン式の……正体?」

 誠司が自分の左腕を見つめながら問いかける。

「そうさ。この二つのアトン式は、ルティンが魔術を使った副産物と考えられる。偶然に授けられたもので、君はまだその正体すらつかめていないはずだ」

 ハドリアが誠司の腕を取り、二つの文章が目の前に浮かび上がった。

 文字は読めない。ただ、この二つの文章が、誠司の持つアトン式のようだった。

「この二つのアトン式というやつが、俺のものなんですか?」

「元々は、ルティンが作ったものだろう。かなり高度だ。そこらの人間には真似できない」

 高度なアトン式――ノエルは誠司の眼前で、高速で岩を飛ばして見せた。

 つまりアトン式というものには、色々な種類と使い道があるのだろう。すると自分の右腕にはどんな力が秘められているのか、誠司も気にならないわけではなかったが、

「……どうして、ですか?」

 ぶら提げられた人参に、馬のようには即座に喜んで食いつけやしない。

「どうして……? どうしてそこらの人間には真似できないかということかい?」

「違います。どうして俺なんですか? 他に優秀な人間なんて幾らでもいるでしょうに」

 あえて贅沢な報酬をぶら提げて、誠司を釣ろうとするハドリアの魂胆がわからなかった。

 ハドリアが他の人間にも手当たり次第に頼むとも思えず、なおのこと不審が募る。

 しかし、ハドリアは迷う素振りもなく、それが当然かのように言った。

「君の他に、誰に頼むんだい? 君が今一番ルティンと関りがあるように思えるが」

「それはハドリアさんだって、ただの偶然だと言ったじゃないですか。俺にはもうルティンの居場所も、目的もわからない。見つけても、捕まえる力だってないです」

「ルティンを捕まえる力だって? そんなもの、この国の誰も持ち合わせていないさ。彼は最高の知能と、精巧なアトン式を操ることのできる天才だ」

「だったら! 俺に払うお金なんて無駄金じゃないですか! なにを考えているんですか!」

 まるでバカにされているようだった。友人の犯した罪を雪ぐ、間接的な謝罪のつもりなのか。自分のようなどこにでもいる人間に、高額な報酬を与えるのはハドリアの驕りである。

 ただ、ハドリアは宥め賺すつもりもなく、至って冷静な口調のまま、

「なにも企んでなどいない。君はルティンを追いかけて、この村に一番に辿り着いた。私にしてみれば、理由はそれだけでいい」

「そんなもの、俺と同じ状況だったら百人が百人できますよ! それに俺は、ノエルという女の子の背中について回っただけだ。一人じゃここに辿りつけもしなかった。俺がやったことなんて、本当に誰にでもできることだけだ」

「誰にでもはできない。運命の賽は君の前に転がって来たんだ。君にしか振れない賽が、今ここにあるんだ。君は道で転んだ人に、手を差し伸べることくらいは誰でもできると言っている。たしかに、そうだろう。手を差し伸べることは誰にでもできる。行い事態は、そうかもしれない。だが、その場で手を差し伸べることのできる人間は、今は君だけなんだ。たとえ誰でもできることでも、君がこの場でやらなくてはいけなんだ」

「いっ……意味がわかりません!」

 誠司は大きく首を捻ってから、疲れたように溜息を吐いて項垂れてしまった。

 ノエルの手伝いでルティンを追うだけならまだしも、誰かに責任を負わされるのはまっぴらごめんである。

 ハドリアはそんな誠司の胸中を察したのか、無理には押し付けようとはしなかったが、

「嫌だというなら仕方ない。が、まあ……しかし、アトン式の正体は教えてあげよう」

 呆気なく言うと、二人を見守るように宙に浮いたままの赤い文字に触れた。

「この二つの文が、君には読めていないようだね?」

「えっ……? あっ、はい……」

 誠司は顔を上げて、二つの赤い文章に目を向けた。

 見たこともないような文字で構成されている。読めないのは当然かと思えたが、

「しかし、こうするとどうだろう? 途端に意味がわかるはずだ」

 ハドリアは席を立つと、誠司の指を取って赤い文字に触れさせた。それは機械に疎い人間に、隣で操作を教えるような振る舞いであった。

 なんのことかもわからないまま、誠司の指に合わせて赤い文字が動いたり、現れては消えたりを繰り返すと――やがて不思議なことが起こった。


 『自動翻訳(オー・マ・トラン)』 『限定的空間凍結(リム・クロノーズ)


 宙に浮かんでいた二つの文章の意味が、すっと頭に流れ込んでくる。

 文字は依然として覚えのない言語であるにも拘らず、その意味だけを頭が捉えた感覚だった。

 誠司は驚きのあまり一歩二歩と赤い文字から後退りして、わなわなと声を上げた。

「なんだ……!? 急に文字が、読めるようになりました!」

 再度近寄って、目を凝らして文字を眺めた。

「ルティンが呼び出した神魔(オーマ)と会話するために備えたアトン式だろう。たった今、文字まで読めるようになったのは、私が会話から文字にまで翻訳の範囲を広げたからだ」

「範囲……?」

「まあ、簡単に言えばアトン式は組み方によって範囲や対象を広げたり絞ったりできるということだね。完全に手動の場合もあれば、自動で作動する式もあるが……」

 ハドリアは友人からの手紙を読むように赤い文字に触れながら、唐突に笑い声を上げた。

「ハッハッハ! いやぁ、突然すまない。ルティンの研究者としてのこだわりに笑ってしまったんだよ。本来なら会話さえできれば問題ないはずなのに、サービス精神が旺盛なようだ」

 一頻り笑うと、ハドリアの目つきが優しく凛々しいものに変わった。

 誠司のアトン式では、彼の胸の内までを翻訳することはできなかったが、言葉はなくとも気配でなんとなしに伝わることもある。

 きっとハドリアには、誠司が偶然に与えられたルティンからのアトン式に、友人の現在の姿を覗くことができたのだろう。そしてその友人は、自分が知っている過去の人物と変わりなく、かつての想い出が心地よく脳裏に蘇る。

 ハドリアは過去に触発されるように、自分がアトン式のエリートであった頃を思い出して、誠司を自らの生徒として二つの式の扱いを熱心に教え始めた。

 誠司も当初の目的を忘れて、教鞭を執るハドリアに長時間付き合ってしまっていた。

 やがて日も傾いていく。白く輝いていた陽光が緋色に染まり始めた頃、誠司は我に返ったようにノエルのことを思い出した。

「ああっ……そうでした! 俺は知り合いの女の子と一緒にこの村に来たんだった!」

 日が暮れたら、落ち合う約束だったことをハドリアに伝えた。

 すでに教師のように誠司に接していたハドリアは、冷静に頷きながら状況を把握する。

「探せばすぐに見つかるだろう。彼女はどこに?」

「わかりません。あっちが俺を探してくれると……それだけ」

「なら、無理に探さないほうがいい。村役の私の家にいるほうが、彼女も見つけやすいはずだ」

「そっか。そうですよね」

 目立った場所にいるほうが、ノエルも探しやすいのは道理である。

 誠司もそう思って、傾いた日が暮れ落ちるまで、世間話でもしながらハドリアの家で世話になっていたが、いくら待てどもノエルは誠司を迎えに来なかった。

「ちょっと待っていてくれ。村の者に人を探している女性がいたら、私の家に来るよう伝えよう」

 ハドリアも不審に思ったのか、そのうち気を利かせて人使いをしてくれた。

 それでも日は落ちて、紫色だった空も段々と黒を滲ませていく。

 誠司は心配になって、部屋のなかを無意味に行ったり来たりしていたが、

「やっぱり俺も探しに出ます! ノエルがここに来たら、待っているよう言ってください!」

 ただ待っていることが辛くなって、薄暗くなった窓の外の景色を眺めて言った。

「私も行こう。留守は村の者に任せる」

 ハドリアも誠司に乗ると、二人して玄関先まで急ぎ足で向かった。

 無事ならいいが。そんな願いを胸に抱きながら、二人が玄関口を出たところで、丁度村の男とかち合った。

「ハドリアさん! あんた女の人を探しているんだって?」

「ああ、私の客人の連れなんだ。どこかで見かけましたか?」

「お客人!? そりゃあ、大変だ。早くこっちに来てくれ!」

 村の男が大慌てで先導して、街灯もない畦道を駆け出していた。

 その様相に何があったか訊ねる間もなく、誠司とハドリアも男の後を追いかけた。

 男は、ハドリアの家から四五百メートル離れた水田の傍で足を止めた。半周を木々に囲まれた、小さなため池の前であった。

 蛙や虫の声が騒めく、ため池の脇の草原のなかで、金色の髪を垂らしてうつ伏せに倒れている女がいた。誠司は遠目にも髪の色が目印となって、すぐにノエルだとわかった。

 一目散に駆け寄って、ノエルの肩を返して仰向けにしてから声をかけたが、

「ノエルッ! ノエルだよなっ!」

「ああぁ~ん? どちら様ですかぁ~?」

 ノエルの気だるそうな声が返って来て、誠司は嫌な予感がした。

 彼女の頬は全体的に朱に染まって、手には一升瓶を握っていた。口からは、独特な甘い息が漏れて誠司の鼻をついた。

「ノエル……、お前……」

 誠司はそれ以上を口にしなかったが、その場にいる誰もが状況を把握した。

「無事ならよかった。私の家の客室に運びましょう」

 ハドリアも苦笑いして、自分の家へと踵を返す。

 誠司も恥ずかしさに頬を染めながら、ノエルを肩に担いで立ち上がった。

「勘弁してくれよ……」

「あぁ~にがよぉ!」

「なにがって……痛てっ! なにすんだよ?」

 ハドリアの家まで戻ろうと一歩目を踏み出す前に、ノエルに後頭部を殴られた。

「どぉ~こ、行こうってのよぉ!」

「ハドリアさんの家だよ! ルティンにも詳しい人なんだ」

「ルーティーン? バカねぇ。今はそんなことより、こっちが大事でしょーがー!」

 ノエルは酔っているわりに力強く、ため池のほうへと誠司を引き寄せる。

「やめろ、そっちは池だよ! 溺れるぞ!?」

「池じゃない! 池じゃなーいの! その奥にいるの!」

「いるってなにがだよ! なにもいないぞ!?」

 所詮は酔っ払いの言うことだろう。誠司は無視してノエルを連れ帰ろうとしたが、案内をしてくれた村の男が口を挟んで誠司を止めた。

「いいや、兄ちゃん。なにかがいたのは間違いねえんだ。なにか大きな影が林の奥に見えて、俺はその嬢ちゃんに相談したんだ。旅行くフリーターなら、そこらの獣なら追っ払えるだろう?」

 男がため池の向こう、林のなかを指差して言った。

ハドリアも向き直って、村の男に訊ねる。

「大きな影というと……半神の類ですか?」

「それはどうだか……ただ、小さな獣には見えなかった。気のせいだったらすまねえけど」

「はっきりしないのなら、警戒しないわけにはいかないですね。あまりこちらまで半神が迷い込むことはないですが、村が襲われたら大変です。私が見張っておくので、村のみなさんには家から出ないことと、いざという時には戦える準備をしておくように伝えて回ってください」

「ああ、わかった! ハドリアさんも気をつけてくれや」

 村の男が立ち去って、誠司と酔っぱらったノエルと、ハドリアが残された。

 今のところ、ため池の奥に見える林は緩く木々が風に揺れるだけで怪しい様子はない。

「熊かなんかでしょうか……?」

 誠司が呑気に話しかけたが、ハドリアの双眸は冷酷な印象を与えるほど鋭くなっていた。

「ここらに熊は出ませんが……熊程度なら私一人でどうにかなります」

「熊程度……? 熊より恐ろしいものが、ここらに?」

「半神……。正しくは『半神半獣』と言いますが、アトンの濃度が非常に濃い神域の山中で生まれて溢れたものが、たまに山から下りては村々に被害を与えます。普通の半神はアトンの濃度が濃い神域を好みますが、稀に体質が弱い半神が縄張りを求めて村にやって来る。要は神域のなかでは居場所のない落ちこぼれですが、我々人間にとっては驚異的な害獣となるわけです」

 ハドリアの丁寧な説明に、誠司は大きく首を振って頷きながら、

「なるほど……もしそいつがいたら、ヤバいってことですね?」

「ヤバいってことです……」

 身の危険だけを強調して、気を引き締めた。

 しかし、日は沈んで林のなかは全体的に影が落ちている。

 その陰の黒の濃淡だけが景色を形作る要素となっていたが、耳に届く音は穏やかなままで、むしろ夏が奏でる自然の音色が心地よかった。

 平和な時間が流れていく。すべては村の男の、勘違いではないだろうか。

 そう誠司が油断して、そろそろ負担になってきたノエルを一旦肩から降ろそうとした時だった。

「ああぁ~~? 夜に紛れて、戻ってきたみたいねぇ。賢いじゃなぁい?」

 ノエルが項垂れていた頭を起こして、同時に左の腕から赤い光輪を宙に作り出した。

 誠司がその仕草に気がついたときには、ノエルは手に持っていた一升瓶を光輪に潜らせて、林のなかへと撃ち出した後であった。

 一升瓶が風を切り裂き、木にぶつかって割れる音が暗がりに響く。それを合図とするように、あれだけ静かだった林が地鳴りを上げて、まるで一つの生き物のように大きく揺れた。

 揺れそのもの、林そのものが押し寄せてくるようだった。

 直後には、林のなかから色々なものがため池のなかに雪崩れ込むと、高く跳ね上がった飛沫が誠司たちの頭上に雨を降らせた。

 雨が上がって、一瞬だけ霧のようだった視界が晴れる。

 そして誠司の目の前には――化け物がいた。

 闇夜にもわかる真っ赤な瞳を三人に向けて、黒々とした毛に覆われた身体を、逞しい四足で支えている。豚のような鼻の左右には、大木にも風穴を空けそうな半月のような牙が二つ生え揃っていた。

 その風貌はイノシシに近いものがあるが、身の丈は家の一軒と比べられるほどの大きさを誇る。

「あわわわわわわーーーーっ!」

 誠司はコミカルな表現で、これ以上ないほどの驚きの声を上げたまま固まってしまった。

 ため池からゆっくりと這い出たイノシシ型の半神は、恐れ戦く誠司にまず目をつけたのか、狙いを定めてすでに駆け出していた。

 たとえ牙が刺さらなくとも、誠司のちっぽけな命は圧し潰されて容易く絶えることが想像できる。

 終わった――。

 誠司の引き締めたはずの心が、覚悟を決める間もなく人生を諦観しかけていたが、

「よかった……。これくらいなら、どうにか追い払えそうです」

 ハドリアが誠司の前に割って入ると、半神の突進を身体で受け止めていた。

「ハ……ハドリアさん!?」

 いったいどこにそんな力が秘められているのか。

 ハドリアは相撲の廻しを取るように半神の牙を抱え込みながら、ノエルに叫んだ。

「お嬢さんっ、なにか攻撃手段はありますか!?」

 誠司の肩にもたれながら、ノエルは首をきょろきょろと動かしていた。

「うぅ~~ん……。なぁ~~にか、撃ち出せそうなものがねえ……」

 悠長に、大砲の玉となりえるものを探している。

 酔っているせいなのか、ノエルは慌てる様子もなく、状況の把握も曖昧なようだった。

 その間にも半神は興奮して、大きく左右に顔を振っている。ハドリアは牙を離さないままでいるものの、揺すぶられる身体ではまともな抵抗もできない。均衡は長く持ちそうになかった。

「ノエルっ! あれならどうだ!?」

 誠司は頭の回っていないノエルに代わって、近くに積まれていた丸太の山に目をつけた。それを急いで引き摺って運ぶと、ノエルの前に直立させた。

 彼女の頭よりも高く、道にくっきり引き摺った跡が残るほど重たい丈夫な丸太だった。

 これをノエルのアトン式で撃ち込めば、撃退することも可能なはずだと誠司は考えたが、

「ぐへぁっ……、しまっ……、しまったぁ!」

 誠司が視線を向けた先――半神が再度ため池に頭から突っ込んで、水飛沫を上げていた。

 半神の牙につかまっていたハドリアは、その予想外の行動に水の中で溺れかけると、自分だけ池のなかに取り残されてしまう。

 すぐに池から身体を上げた半神は、すでに誠司のもとへと駆け出している。

 ノエルはようやく赤い光輪を出現させたところで、今からその光輪に丸太を通して発射するような時間の余裕は皆無だった。

 迷う暇もなく、誠司は選択を迫られていた。

背を向けて逃げるべきか、一か八かハドリアのように立ち向かってみるか、別の手立てを考えるべきか。

 どの選択肢も過ちに思える。そんな混乱した迷える思考の最中、ハドリアの声が一直線の道を指し示すように、誠司の耳を貫いた。

「クロノ君っ! 『限定的空間凍結(リム・クロノーズ)』だ!」

 言葉と同時に、誠司は反射的に身体が反応した。

 刹那の時間が、ゆっくりと流れているように感じるほど意識が集中して研ぎ澄まされる。

 誠司は指先を走らせて、丸太の輪郭を空でなぞるように動かしていた。丸太は綺麗な四角形の淡く赤い光に包まれたが、すぐに霧のように光は消えてしまった。

「ルティンのアトン式……?」

 ノエルは驚きつつも、誠司の様子を窺いながら胸ポケットに忍ばせた手を抜いた。

 誠司はノエルの手を取り、直立する丸太からわずかに後退した。

その間にも半神の牙は眼前まで迫り、ついには鼻先が丸太に触れる。

「グオオォォ~~~ンッ!!」

 しかし、半神は普通な雄叫びと共に突撃を止めると、それどころか一身に反動を受けたように身体を仰け反らせた。

 誠司と半神の間にあるのは、一本の直立した丸太だけである。

 丸太は地面に埋めているわけでもなく、子供がそっと押すだけでも倒れてしまいそうな頼りのない存在であったが、現実はその丸太が半神の突進を止めて、撥ね返していた。

 まるで時が止まったかのように、丸太はぴくりとも動かず、傷の一つもついていない。

「ゴオオオォーーン! グオオオッ、グオウオ~~ン!」

 今一度、半神は長く轟く悲しげな鳴き声を飛ばしてから背中を向けた。

 ノエルがポケットから取り出した小さな玉のようなものを、赤い光輪から発射して半神に食らわせたための逃避行動であった。

 半神は自分が通ってきた道を引き返して、あっさりと山のなかへと帰っていく。

「フッフッフッ! これで、しばらくはこないでしょ!」

 ノエルは腰に手を当てながら胸を張ると、不敵な笑い声を上げていた。

 誠司は、驚きとも迷いともいえないような中途半端な表情で、

「……これは警告だ。神域を犯せば、再び戦は繰り返される……」

 そんな風に聞こえたような気がした、半神の鳴き声を胸のなかに受け止めていた。


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