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おねショタ

クラスメイトの私物を盗んだ疑いをかけられた私は王太子に婚約破棄され国外追放を命ぜられる〜ピンチを救ってくれたのは隣国の皇太子殿下でした・短編

作者: まほりろ

『耳で聴きたい物語』コンテスト一次選考通過致しました。ありがとうございます。



「リリー・ナウマン! なぜクラスメイトの私物が貴様の鞄から出て来た!」


私の机には大きな宝石のついた華美なアクセサリーが並べられていた。


ルビーの髪飾りにサファイアのネックレスにエメラルドイヤリングにアメジストの指輪に黒真珠のブローチ……どれも私の物ではない。


ダンスの授業のあと教室に戻るとクラスメイトの私物が一人に付き一つずつ無くなっていて、殿下がクラスメイトに鞄と机の物を机の上に出すように命じた。


そして私の鞄の中からクラスメイトの私物が見つかったのだ。


「存じません、殿下」


「貴様の鞄から出てきたのだ! 知らないわけがないだろ!」


殿下が私の机を叩く。


殿下が整った顔を歪め、殿下の赤い瞳が鋭く私を()めつける。


「ハインツ様、発言をよろしいですか?」


ザックス伯爵令嬢が挙手し発言を求める。


「ミア、発言を許可する」


ザックス伯爵令嬢が立ち上がると、彼女の桃色の長い髪がサラリと揺れた。


「先程のダンスの授業を休まれたのはリリー様だけです。

 これは私の推測ですがダンスの授業を休んだリリー様はお一人で教室に戻られ、教室に誰もいないのをよいことにクラスメイトの鞄や机の荷物を物色したのではないでしょうか」


クラスメイトの疑いの眼差しが私に集まる。


ザックス伯爵令嬢が私を見てクスリと笑う。


ザックス伯爵令嬢は誰もが見惚れる愛らしい顔立ちをしているのですが、今の私には彼女のほほ笑みが邪悪に見えます。


「違います。

 私は気分が悪くなったのでダンスの授業を休んだだけです。

 ダンスのレッスンをする部屋を出たあとは保健室へ向かいました」


「嘘をつくな!

 アリバイがないのは貴様だけだ!

 貴様が盗んだのだろう!

 貴様の鞄から盗まれた物が出てきたのがその証拠だ!」


王太子殿下がまた私の机を叩く。


「貴様のような盗人を王太子である俺の婚約者にしておくわけにはいかない!

 貴様との婚約を破棄する!」


王太子殿下が私を指差しそう宣言した。


殿下の発言を聞きザックス伯爵令嬢が口角を上げる。


「貴様を国外追放にする!

 すぐに荷物をまとめて教室からいや、この国から出ていけ!!」


クラスメイトが、

「泥棒令嬢」

「ろくでなし」

「いい気味」

と囁く声が耳に届いた。


担任教師が眼鏡を人差し指で押し上げながら「我がクラスの恥」と呟き私を睨めつけた。


誰も私の味方になってくれる人はいないのですね、先生でさえも……。


「アリバイがないだけで公爵家の令嬢を裁判にもかけず国外追放にするの?

 この国の法律ってどうなっているのかな?」


突然入口から声が聞こえ皆の視線がそちらに集まる。


「この国の王族はそれだけの権力を持ってるってことかな?

 それともただの横暴?

 王太子の権力を利用して弱いもの虐め?」


入口に目を向けると金色の髪に翡翠色の瞳の見目麗しい少年が立っていた。


少年の後ろには護衛が四人控えている、男が二人、女性が二人。


「なっ、誰だ貴様!

 勝手に教室に入ってきて無礼だぞ!」


「申し遅れました、僕の名はラルフ・ロイヒテン、ロイヒテン帝国の皇太子です」


突然クラスに現れた少年が隣国の皇太子殿下と分かり教室内がざわつく。


ロイヒテン帝国は我が国より大きく、政治力、軍事力、魔法学、全てにおいて我が国を上回っている。


「隣国の皇太子が何のようだ?」


隣国の皇太子殿下が自分より年下なのもあり、王太子は強気な態度を崩さない。


「明日からこの学園に通うので理事長に挨拶に参りました、ついでにクラスメイトの顔を見ておこうと思い教室を訪れたのです」


皇太子殿下の年齢は十三歳、私達の四つ年下。


皇太子殿下はこの学園に飛び級で留学してきた。


「それからそちらにいるナウマン公爵令嬢に、改めてお礼を伝えようと思いましてね」


「お礼だと?」


「ナウマン公爵令嬢とすれ違ったとき僕の身に付いていたブローチが落ちました。

 ナウマン公爵令嬢は僕の落としたブローチを拾って下さったのです。

 場所はダンスのレッスンをする部屋の前の廊下でしたね」


皇太子殿下の発言に教室内がざわつく。


「リリー、それは事実なのか?」


王太子は眉間にしわを寄せ私を見据える。


「はい、殿下」


「ナウマン公爵令嬢の顔色が悪かったので、心配になり保健室まで付き添ったのです。

 もちろん護衛と一緒に」


「なに……!」


王太子の顔に焦りの色が浮かぶ。


「保健室には先生がいませんでした。

 なのでナウマン公爵令嬢の気分が良くなるまで付き添っていたのです。

 女性の護衛も一緒にいましたので、やましいことは何もありませんよ」


皇太子殿下が王太子を見てにっこりとほほ笑んだ。


「お聞きになった通り、ナウマン公爵令嬢のアリバイは完璧です」


私のアリバイが証明され王太子が額に脂汗を浮かべる。


「だ、だがしかし……手下を使った可能性も」


「それはおかしくありませんか?

 手下を使って盗ませたのなら、そのまま持ち帰らせればいい。

 依頼主の鞄に盗んだ物を隠す間抜けはいませんよ」


「それは……」


「ナウマン公爵令嬢は僕が落としたブローチを拾って届けて下さいました。

 これは帝国の家紋入りで、かなり価値のある物なのですよ。

 ナウマン公爵令嬢が本当に手癖の悪い人間なら盗んで自分のものにしたはず。

 だけど彼女はブローチを拾って届けてくれた。

 このことからもナウマン公爵令嬢が他人の物を盗むような人ではないと、お分かりになりますよね?」


皇太子殿下が王太子を見つめニッコリとほほ笑む。


ニコニコと笑う皇太子殿下とは対象的に、王太子は爪が食い込むのではないかというぐらい拳を強く握り、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「だ、だが実際リリーの鞄からは盗まれたアクセサリーが見つかっている」


「それもおかしいですよね?

 なぜ皆さんはこんな高価な宝石のついたアクセサリーを学校に持ってきたのですか?」


皇太子殿下が私の机の上に並べたアクセサリーを眺める。


「ルビーの髪飾りにサファイアのネックレスにエメラルドイヤリングにアメジストの指輪に黒真珠のブローチ……なかなか値が張りそうですね。

 今日はこのあとパーティーでも開かれるのですか?」


皇太子殿下の言葉を聞き、クラスメイトが皇太子殿下から視線を逸らした。


「僕はこの学園の校則を知らなかったので高価なブローチを身に着けてきてしまいました。

 明日からは慎むようにと理事長に注意されましたよ」


皇太子殿下がブローチを見ながら苦笑いを浮かべる。


「きっ、貴族の令息や令嬢たるものいついかなるときでも身だしなみには気を使うだろう!」


「身だしなみとはまた別の話ですよね?

 校則では華美なアクセサリーの持ち込みは禁止されています。

 学校に用もなく高価なアクセサリーを持ち込むのはマナー違反です」


「ぐっ、そうかもしれないが……」


「それからずっと疑問に思っていたのですが、なぜ教室に鍵をかけなかったのですか?

 教室に鍵をかけていれば盗難事件は未然に防げましたよね?」


皇太子殿下が担任の先生に視線を向ける。


「この部屋はいつもこんなに不用心なのですか?」


「いつもは鍵をかけています、今日はたまたま……」


担任教師が皇太子殿下から目を逸らし、ボソボソと話す。


「つまりこういうことですね。

 たまたま担任教師が鍵をかけ忘れた日に、たまたまナウマン公爵令嬢の体調が悪くなり、たまたま保健室に先生がいなくて、たまたま盗難事件が起きたと……。

 偶然が四つも同じ日に重なるなんて奇妙ですね」


皇太子殿下が教師と王太子をジロリと見た、二人はさっと俯いたまま体を震わせていた。


「ナウマン公爵令嬢、お聞きしてよろしいですか?」


皇太子殿下が私に問う。幼いが怜悧(れいり)な青い瞳が真っ直ぐに私を見つめている。


「はい皇太子殿下、何なりとお尋ね下さい」


「どうしてダンスのレッスンを休まれたのですか?」


「急にめまいがしまして」


「めまいですか?

 めまいがする前に何かを飲んだり食べたり、何かの匂いを嗅いだりしませんでしたか?」


「そういえば王太子殿下からお茶を頂きました」


「へー、お茶をね」


皇太子殿下がチラリと王太子を見る、


「なっ、貴殿は私を疑っているのか?!」


王太子が大きな声を上げる。


「いえ別に」


「とにかくリリーの鞄から盗まれたアクセサリーが見つかったのだ!

 犯人はリリーで決まりだ!!

 国外追放にしたのだ!

 早くこの国を出ていけ!」


王太子がキッと私を睨む。


「ナウマン公爵令嬢、行くところがないのでしたら是非我が国にお越しください。

 あなたならいつでも大歓迎です」


皇太子殿下がニコニコしながら話す。


「ありがとうございます、皇太子殿下」


ユーベル王国を追われたらロイヒテン帝国に亡命します。


「その前にあなたの冤罪を晴らしましょう」


「えっ?」


私の冤罪を晴らす?


「なっ、冤罪だと……何を証拠に!?」


王太子が青い顔でがなる。


「実は我が国には記憶の魔法があるんですよ。

 その部屋の記憶を数時間だけ巻き戻して見ることができる、割とチートな魔法です」


皇太子殿下が教室内の生徒の顔を見て、ニコリと笑う。


王太子とクラスメイトの顔色が真っ青に変わる。


「待て! 我が国でその魔法を使うことは許可できな……」


「記憶の魔法よ、この部屋の二時間前の姿を見せておくれ」 


王太子の言葉を遮り、皇太子殿下が魔法を使った。


黒板に二時間前の教室の様子が映し出される。


算術の授業が終わり、私は王太子にエスコートされて教室を出て行く。


王太子が教室を振り返りクラスメイトに目で合図を送る。


教室にいた教師とクラスメイトが頷き、教師が教室の戸に内側から鍵をかけた。


それを合図にクラスメイトたちが自身の鞄からアクセサリーを取り出し私の鞄に入れた。


最後の一人が私の鞄にアクセサリーを入れ終えると、教師が扉の鍵を開けた。


クラスメイトが薄笑いを浮かべながら教室を出て行き、最後に教師が教室をあとにした。


そのときドアに鍵はかけられなかった。


思い返せば、今朝から違和感があった。


王太子の婚約者になってから殿下から贈り物を頂いたことも、パーティーでエスコートされたことも一度もなかった。


学園で挨拶をしても無視され、視線すら合わせて貰えなかった。


そんな王太子が家まで馬車で迎えに来てくださり、「たまには一緒の馬車で登校しよう」とおっしゃり、馬車を乗り降りするとき手を貸して下さった。


教室でもにこやかに話しかけてくださり、ダンスのレッスンをする部屋までエスコートして下さり、ダンスの授業の前には、

「体にいいお茶だよ、たくさん飲んで」

と言ってお茶をご馳走して下さった。


今日の殿下はとてもお優しい、いつもこうならいいのにと感動していた。


全部私に冤罪をかけ、婚約破棄し、国外追放するための策略だったのですね……そのことに気づかずに感動していた私はなんて愚かなのでしょう。


「なるほど。

 犯人はここにいるナウマン公爵令嬢を除く全員だったみたいですね」


皇太子殿下が担任とクラスメイトに鋭い視線を向ける。


皇太子殿下に睨まれ担任とクラスメイトの顔色が青から紫に変わる。


「我が国では記憶の魔法の存在が知られているから、犯罪の隠蔽(いんぺい)の仕方が巧妙でね……ユーベル王国の人間は単純で助かりました」


皇太子殿下が王太子を見据えくすりと笑う、皇太子殿下のお言葉には棘があった。

 

「む、無効だ! こんな映像、なんの証拠にもならない!!」


王太子が声を荒げる。


「なら裁判をしますか?

 僕はナウマン公爵令嬢のアリバイを証言します。

 王太子がナウマン公爵令嬢に飲ませたお茶の中身について調べ、王太子がなぜナウマン公爵令嬢を陥れようとしたのか厳しく追求しますが、それでもかまいませんか?」


皇太子殿下が鋭い目つきで王太子を睨めつける。


「いやっ、それは……」


皇太子殿下の迫力に王太子が狼狽える。


「ここにいる皆さんも同じですよ。

 我が国での記憶の魔法の信頼性はかなり高い。

 この映像を裁判で流せば、君たちの将来は暗い。

 有罪になれば家族に勘当されるのは確実、平民に落ちた君たちを待っているのは教会なんて生易しいところじゃない、良くて平民用の牢屋行き。

 悪ければ強制労働所に送られ一生過酷な現場で死と隣り合わせの生活を送ることになるよ」


皇太子殿下が淡々と告げる。


教室にいた私以外の全員が額から脂汗を流し、青い顔でカダガタと足を震わせている。


「おっ、王太子殿下の命で仕方なく……」

「私も言われたことに従っただけで……」

「言うとおりにしないと家を潰すと脅されて……」


気の弱いクラスメイトが皇太子殿下の威圧感に負け、口を割った。


「馬鹿! お前ら話すな! 殺されたいのか!!」


王太子が真実を話したクラスメイトの一人の胸ぐらを掴み怒鳴りつけた。


皇太子殿下の護衛が、王太子の手を掴み捻りあげる。


「ぐぁっ、何をする……!」


王太子が皇太子殿下に向かって吠える。


「彼は勇気を持って事実を話してくれました。

 こちら側の大事な証人です。

 これより僕の保護下に入ります、手荒な真似は止めていただけますか?」


「なっ、証人だと……!」


「そう大事な証人です。

 その他の皆さんはどうされますか?

 あらいざらい話して下さるなら証人として僕が保護しますよ」


クラスメイトたちはお互いに顔を見合わせていた。


おそらくどちらに付くのが得か考えているのだろう。


「私、証言します! これは全部王太子殿下とザックス伯爵令嬢が企てたことです!」

「私も全て話します! だから助けてください!」

「白状します! 王太子殿下に言われてナウマン公爵令嬢に嫌がらせしました! 本当はこんなことやりたくなかったんです!」


クラスメイトが次々に自白し、皇太子殿下側についた。


「ありがとう、君たちの勇気ある告白に感謝するよ」


皇太子殿下が自分の側についた人たちの顔を見て、ふわりと微笑む。


「くそー! 裏切り者どもめ!!」


王太子が額に青筋を浮かべがなり立てる。


「ちょっと何をするの!? なぜ私まで……!」


ザックス伯爵令嬢が皇太子殿下の護衛に拘束されていた。


「ザックス伯爵令嬢、あなたは王太子の共犯のようなので拘束させていただきます」


皇太子殿下は鋭い目つきでザックス伯爵令嬢を見据え、

「女性に手荒な真似はしたくないのですが、逃げられたら困りますからね」

と続けた。




☆☆☆☆☆




皇太子殿下が学園で起きたことを国王陛下に告げ、国王陛下が捜査に乗り出した。


その結果、王太子とザックス伯爵令嬢が私をはめようとした証拠が次々と出て来た。


盗難事件を起こし私をはめようと計画を企てたのは、クラスメイトの証言通りザックス伯爵令嬢でした。


王太子のハインツ様とザックス伯爵令嬢は愛し合っていて、ザックス伯爵令嬢が王太子と結婚するには、王太子の婚約者である私が邪魔だったようです。


王太子のハインツ様は廃嫡され、生涯北の塔に幽閉されることが決まりました。


北の塔は問題を起こした王族が入れられる場所。貴族の部屋と同じような豪華な部屋が与えられ、メイドが付き、三食ちゃんとした食事が出されます。


国王陛下と王妃殿下はハインツ様が可愛いのか、厳しい罰を下しませんでした。


代わりに王太子を(そそのか)したという理由で、ザックス伯爵令嬢が重い罰を受けました。


ミア様は伯爵家から勘当され、平民に落とされました。


ミア様は鞭打ち十回の末一般牢に入れられましたが、牢屋の中で反抗的な態度を繰り返したため、国で一番辛いと評判の強制労働所に送られました。


ハインツ様とミア様の罪に加担したことを正直に話したクラスメイトの処分ですが、皇太子殿下の計らいで男子生徒は一年間の懲役、女子生徒は一年間修道院で生活することで許されました。


その間、学園は休学扱いになるそうです。


担任教師はハインツ様の企みを知りながら理事長と国王陛下への報告を怠ったこと、王太子の行いを諌めるべき立場にありながら止めるどころか積極的に計画に加担したことを咎められ、実家から廃嫡、教員免許剥奪、鞭打ち十回の上、懲役十年の刑を言い渡されました。


最後まで罪を認めなかったクラスメイトたちは、退学処分になり、家から勘当され平民用の牢屋に入れられました。


刑期は三年と短いですが、貴族として生きてきた彼らが出所後、市井に出て生きていけるでしょうか?


私には蝶よ花よと育てられた彼らが苦労する未来しか見えません。


国王陛下は私とハインツ様の婚約を正式に破棄し、謝罪して下さいました。


国王陛下に他の王子様(ハインツ様の弟)との婚約を勧められましたが、お断りしました。


国王陛下はハインツ様だけでなく、息子全員の教育に失敗しているので、ユーベル王国の王族とは関わりたくありません。


「この国の王族に希望はない」と、宰相職に就く父も嘆いておりました。




☆☆☆☆☆




「ナウマン公爵令嬢、僕との婚約について考えてくれた?」


皇太子殿下がこの国に留学してから一年が経ちます。


私はこの一年皇太子殿下に毎日口説かれています。


皇太子殿下は初めてお会いした日、ブローチを拾った私に一目惚れしたらしいのです。


『留学する前からユーベル王国の王太子の婚約者は優秀だと聞いていました、ぜひ一度ゆっくり話をしてみたかった。こんな形でお話をする機会を得られて嬉しいです』


保健室で休んでいるとき、皇太子殿下がおっしゃった言葉です。


一年間同じクラスで学び、皇太子殿下がとても優秀で博識で努力家だと言うことが分かりました。


「私を公爵家ごとロイヒテン帝国で受け入れてくださるのなら、プロポーズをお受けします」


そう答えると皇太子殿下が破顔した。


皇太子殿下はこの一年で背が伸び、幼さが消え凛々しくなられました。


現在皇太子殿下は十四歳。


大人と子供の中間で、可愛さの中に時おり色気が見え隠れして、絶妙のアンバランスさがたまらないと、学園の女生徒に大人気です。


でも笑った顔は無邪気な少年のままで、時折私にだけ見せてくださる無垢な笑顔に惹かれているのは事実です。


現に今も胸がドキドキと音を立てています。


「いいよ、ナウマン公爵家の人間はみんな優秀だから大歓迎」


「一族の為に殿下を利用しようとしている打算的な女ですよ、よろしいのですか?」


「僕はそんなところも含めて君を愛しているから気にしないよ。

 むしろ皇太子妃になる女性は多少の打算が出来る方が好ましい」


皇太子殿下がそう言って優雅にほほ笑まれた。


「改めて申し込みます。

 ナウマン公爵令嬢いやリリー、僕と結婚して下さい。

 生涯あなただけを愛しぬくと誓います」


皇太子殿下が片膝を付き、私の右手を取る。


「よろしくお願いします、ラルフ様」


私は皇太子殿下に握られた右手に、自身の左手を重ねた。




☆☆☆☆☆




私の卒業と同時に皇太子殿下と婚約し、ナウマン公爵家は爵位を返上、一族でロイヒテン帝国に移住しました。


ナウマン公爵家の人間がいなくなり、ユーベル王国は仕事が回らないそうです。


国王が父に、

「私が悪かった! 息子達を厳しくしつけるから戻ってきてくれ!」

と泣きついて来ましたが父は無視しました。


一年前、ハインツ様が私に冤罪をかけようとしたとき国王はハインツ様に厳しい罰を下すべきでした。


私に冤罪をかけ国外追放しようとしたハインツ様と、そのハインツ様の処分を甘くした国王にナウマン家の人間は憤りを感じています。 


今更ユーベル王国の仕事が回らなくなるから行かないでくれと泣きつかれても、爪の先ほども気持ちは動きません。


ナウマン家はロイヒテン帝国で新たに公爵位を賜りました。


「優秀な人間にはそれなりの地位を与えないとね」と皇太子殿下は仰っていました。


父や親族も仕事の能力を買われ、難しい仕事を任されバリバリ働いております。


ナウマン家のロイヒテン帝国での評価は急上昇しております。


私も皇太子殿下の婚約者として、皇太子殿下を全力でサポートしております。


皇太子殿下はとても賢く決断力があり努力家ですから、仕事のサポートのしがいがあります。


ハインツ様の婚約者だったときは大変でした。 


ハインツ様は頭が悪く怠け者で横柄で乱暴な方でしたから、仕事を全部押し付けられ、手柄だけ横取りされ、ストレスがたまり、精神を病みそうでした。


皇太子殿下とはお互いに助け合い、良好な関係を築いております。


皇太子殿下は家臣と民に大変慕われています。


皇太子殿下が私を大切に扱ってくれるおかげで、ロイヒテン帝国の皇太子の婚約者として、すんなりと受け入れてもらえました。


一年の婚約期間を得て、私は皇太子殿下と結婚しました。


二年後子宝にも恵まれて幸せに暮らしております。





――終わり――





追記


皇太子の独り言

 

「ユーベル王国への通行税を上げたことはリリーには内緒。

 ユーベル王国は三方を高い山に囲まれているからロイヒテン帝国を通らないと他国と交易出来ない。

 ユーベル王国の物流は滞り、徐々に衰退していくだろう。

 リリーを傷つけたハインツを厳罰に処すことも出来ない国なんて、なくなってしまえばいいんだよ」





読んで下さりありがとうございます!

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【連載】「不治の病にかかった婚約者の為に危険を犯して不死鳥の葉を取ってきた辺境伯令嬢、枕元で王太子の手を握っていただけの公爵令嬢に負け婚約破棄される。王太子の病が再発したそうですが知りません」 https://ncode.syosetu.com/n5420ic/ #narou #narouN5420IC


【連載】「約束を覚えていたのは私だけでした〜婚約者に蔑ろにされた枯葉姫は隣国の皇太子に溺愛される」 https://ncode.syosetu.com/n4006ic/ #narou #narouN4006IC



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[一言] >この国の王族に希望はない 宰相に言われるとかどんだけ こんな雑な追放劇で後どうするんだと思ってたけど王が甘いのね ま、国に残らずに済む未来を選び取ったようです何より
[気になる点] 話を読むに、王子への罰の代わりに国王が王位を退いた訳じゃないよね? 廃位されたのに王位継承権は持っている意味が分からない。 そもそも廃位という言葉の使い方がおかしい。 廃位は君主(国王…
[良い点] 最初はハッピーな可愛い話かなと思ったが、 一族ごと亡命させてくれるなら。発言から、思ったより可愛くない話だった(笑) そうだよね。一人で亡命しても立場的にまた虐めは発生するだろうし。亡命す…
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