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第八話 砂上の果実


 湖を縁取る草花、実を付けた背の高い木、岩の上に立てられた建築物。

 砂漠のちょうど中心にあるオアシスには白いコートを着た作業着姿の人たちが大勢いた。


「石油採掘の作業員たちか。なんとなく油の臭いがする」


 乾いた空気にほのかに漂う油の臭いの中を進み、依頼人と落ち合う。


「おぉ、来てくれたか」


 数頭の四つこぶラクダに大量の荷物を乗せた一団。

 この人たちが今回の依頼人だ。


「我々は第三階層に物資を届けに行くのだがね、少々問題があってな」

「というと?」

「順路に魔物がうろついているんだ。大切なラクダが二頭も喰われた。お陰でオアシスで立ち往生さ。キミ達にはそいつを討伐してもらいたい」

「その魔物の名前は?」


 そう問うと彼は懐から一つの果実を取り出した。


「ハードプラントさ」


§


「砂漠に植物系の魔物がいるとはな、驚きだぜ」


 オアシスを出て砂丘を歩く中、バリーはそう言ってペットボトルに口を付ける。


「依頼人が言うには階層落ちらしい。第一階層から第二階層に移って環境に適応したとか」

「階層上がりの次は階層落ちかよ。魔物ってのはどうして自分の住処から出たがるんだか」

「どこにだって物好きはいる。それより気をつけてほうがいい」

「そうですね。階層落ちは通常の魔物より強いはずですし」


 生息域を出てより過酷な環境に身を置き、これに適応する。

 その過程で凶暴化したり、巨大化したり、逆に大人しくなったりと個体によって様々。

 今回の相手がどれに該当するかは定かじゃないけど、原種より強いはず。

 警戒するに越したことはない。


「それで? そのハードプラントって奴はどこにいるんだ? 見当たらないぞ、ツバサ」

「どうせ砂の下だ。歩いてればそのうち向こうから出てくる。けど、一応空から見渡してみるか」


 背中から翼を生やして飛翔する。

 羽根で空気を掴むように滞空し、周囲を見渡した。


「ど、どうですかー!」

「まだなにもー!」


 そう返事をして二人を見下ろすと、その周辺に異変を見る。

 砂上がうねるように波打ち、二人を囲むように流れていく。

 それを見てすぐに声を張り上げた。


「真下だ!」


 俺の言葉を受けて、二人が即座にその場から飛び退く。

 時を同じくして先ほどまで二人がいた地点から植物の蔓が突き上がった。

 その先端には刃物のように鋭く尖った鉤爪があり、うねって虚空を裂いている。


「危ねぇ! 助かった!」

「ありがとうございますっ」


 礼を言われつつも伸びた蔓から目は離さない。

 砂に紛れるためなのか、色合いは灰色に近い。

 それらは更に数を増やし、砂粒を巻き上げて無数に増える。

 これが階層落ち、ハードプラント。


「先手必勝だ!」


 魔力の爆弾が投げられ、大きな音を立てて爆ぜる。

 爆風が蔓を薙ぎ倒し、焼き尽くし、吹き飛ばす。

 一度の爆発で一網打尽のように見えたが、次の瞬間には新たな蔓が生えてくる。

 そしてバリーの爆弾に対抗するように更に蔓の数が増えた。


「こいつ! 何本、生えて来やがる!」


 バリーは迫り来る蔓を爆弾で迎撃し、セレナも鎌で斬り裂いていく。

 空を飛ぶこちらにも蔓は迫り、周囲を旋回するように飛んで回避した。


「再生してるのか」


 焼けたり、斬られたりした蔓の断面から、新しく生えてきている。

 この様子を見るに幾ら蔓を攻撃したところで意味がない。


「たしか……」


 迫る蔓の鉤爪を交わして思考を巡らせていると一つの案が浮かぶ。


「やってみるか」


 両翼を広げて滞空し、右手に炎鱗を纏う。

 手の平に開いた口から火球を放ち、迫ってきていた蔓を焼き払う。

 そして、ヒポグリフの翼を大きく羽ばたいて、ハードプラントの周囲に竜巻を起こす。

 砂を巻き上げて色付いたそれに火球を放つと、それは瞬く間に火災旋風となって燃え上がった。

 無数に伸びた蔓が、それによってすべて灰になっていく。

 だが、それでもハードプラント燃やし尽くすには足りないだろう。


「バリー!」


 名を叫び、火災旋風を解除する。


「砂を吹き飛ばしてくれ!」

「砂を? わかった!」


 バリーは靴底で小さな爆発を起こすことで高く飛び、火災旋風で焼け焦げた砂に爆弾を落とす。

 大きな音を立てて大量の砂が飛び散り、大きなクレーターが出来る。

 その中心にハードプラントの根っこが露出した。


「いいぞ、弱点だ!」


 ハードプラントの原種は根を断たない限り幾らでも再生する。

 第二階層の環境に適応して階層落ちとなっても、原種の弱点は引き継いでいるはず。

 その予想が当たり、弱点を掘り出せた。

 そこを燃やしてもいいけど、どこかが燃え残って再生するかも。

 自分の手で確実にいくか。


「セレナ!」

「はい!」


 鎌を構えたセレナが根へと向かい、俺も空中から急下降する。

 そうして弱点へと辿り着き、大鎌と甲殻剣で次々に根を断っていく。

 ハードプラントは焼けた蔓を必死に再生させたが、根を失ったことが響いて伸びた先から枯れていった。

 そうして最後の一本が断ち切れ、ハードプラントはボロボロに朽ち果てる。

 階層落ちは砂に還り、依頼は達成された。


「やったな、セレナ」

「はい!」


 砂漠に出きた大穴の真ん中でセレナとハイタッチを交わす。


「まぁ、俺がまとめて吹き飛ばしても良かったんだけどな」


 大穴の縁にバリーが立つ。


「それだと吹き飛んだ根からまた再生するかもだろ? 斬って仕留めたほうが確実だ」

「まぁ、そうかもな。でも、手っ取り早いだろ?」

「それはそう」


 バリーの元まで登り、二人でセレナを引き上げた。


「あれ? なにかありますよ」


 しゃがみ込んだセレナが拾い上げたのは果実だ。


「あぁ、ハードプラントの」

「ちょうど喉が渇いてたところだ。そいつを喰いながらオアシスに戻ろうぜ」


 投げ渡された果実を受け取り、バリーは一足先に果実を囓る。

 それに続いてセレナも口を付け、俺も口へと運んだ。

 水分を多く含んでいて瑞々しく、口の中が程よい甘みが広がった。

 悪くない。


§


 後日、体から鉤爪の蔓を生やせることに気がついた。

 どうやら植物系の魔物であっても、能力を獲得できるみたいだ。

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