第七話 第二階層へ
早朝から俺は単独で第一階層に潜っていた。
「バウッ」
火を纏う狼、ヘルハウンドが地を駆け、燃え盛る牙を剥き出しにする。
けれど、それがこの身に届く前に水球に捕らわれた。
藻掻き、苦しみ、火炎を出すも蒸発させるには火力が足りない。
あっという間に窒息し、その亡骸を捕食する。
「おっと、こうなるのか」
狼の毛皮を被ってベルセルクとなり、その毛並みが燃え上がる。
ヘルハウンドの能力として統合されたようだ。
「次か」
舞い落ちる木の葉が軌道を変えて流されていく。
風が吹く方へと目を向けるとヒポグリフが空を舞っていた。
鷲の上半身に馬の下半身。それは空を駆けるように急下降し、こちらに迫る。
それに対してこちらは右手を翳すように向け、炎鱗で覆う。
手の平に口が開いて火炎を食む。
解き放つのはサラマンダーの火球。
それが真っ直ぐに飛んでヒポグリフを直撃し、羽根を燃やして撃墜した。
「流石はサラマンダー」
炎鱗の右手を握り締め、焼け付いたヒポグリフの火炎を掻き消す。
これで炎上はしない。
ヘルハウンドも自分の住処を燃やさないように同じことが出来るのだとか。
生息域外に出ていたサラマンダーにその辺の配慮はなかったけれど。
「これでよし」
焼け落ちて横たわるヒポグリフにトドメを刺し、甲殻剣を引き抜く。
亡骸を百獣嚥下で捕食すると背中に一対の翼が生えた。
「飛べるか?」
背中の翼に神経を張り巡らせ、大きく羽ばたいて風を地面に叩き付ける。
それと同時に俺の体は天高く舞い上がり、枝葉の天井を突き抜けて森を見下ろした。
「ははっ! 最高!」
唐揚げやらチキン南蛮やらでは人体を飛ばせるだけの力はなかった。
けれど、ヒポグリフの翼ならこうして高く舞うことが出来る。
俺の名前に引けを取らない、いい翼を手に入れられた。
「お、あれは」
木々の隙間にバリーとセレナを見付けてそちらへと降りる。
両翼で落下速度を制御しつつ、二人の目の前に降り立った。
「うおっ!? な、なんだツバサか。脅かすなよな」
「び、びっくりしました」
「悪い悪い」
詫びをいれつつ、背中の両翼を仕舞う。
「しかし、便利だよな。ツバサの固有魔法」
「え?」
「ほら、ほら本当なら空を飛ぶのだって一つの魔法なんだぞ。それに加えて水も操れるし、体も変形できる。まるでスキルを幾つも持ってるみたいだ」
「そう言われてみれば、そうですね」
「ま、まぁ、スキルも使い方次第ってことだ。それより準備は出来てるか?」
誤魔化して、話題をすり替える。
「あぁ、昨日三人で買いに行ったからな。忘れるわけないぜ」
「わ、私も忘れずに持ってきました」
腰の雑嚢鞄からそれぞれ白いコートを取り出す。
それは第二階層に向けての備えとして、サラマンダーの素材を売って得た金で購入したもの。
俺も拡張の魔法陣が施された雑嚢鞄からコートを取り出して羽織る。
「水も食糧も十分持った。第二階層に行こう」
白いコートに身を包み、俺たちは第二階層へと続く道を歩く。
暫く進めば次第に緑が失せていき、土が砂へと変わる。
更に先へと進めばそこは見晴らしのいい広い空間へと繋がった。
「ここが……」
第二階層は波打つようにうねる砂の世界。
天井に露出した無数の輝く鉱石によって真昼と変わらない温度と湿度に保たれた階層。
緑で溢れた第一階層とは違い、第二階層には砂漠が広がっていた。
「熱い。けど、コートのお陰でかなりマシだぜ」
「そうですね。それに汗を掻いてもすぐに蒸発するので着心地もいいですよ」
購入した白いコートには魔法陣で耐熱と冷却の効果が備わっている。
「問題は靴に砂が入ることだな」
足の裏にざらざらとした感触を感じつつも砂漠を進んでいく。
「あの階層上がりのサラマンダー。ここを横断してきたってことだよな?」
「そうなるな、生息域は三から五階層だし。水もない、歩きづらい、日差しも強いって言うのに大したもんだよ」
「きっと第一階層まで辿り着いた時は天国に感じたでしょうね」
「あぁ、だろうな。で、俺たちにあって本当に天国に行っちまったって訳だ」
「一歩間違えれば俺たちが天国にいくはめになってたけどな」
倒せてよかった、本当に。
「あ、見えました! オアシスですよ」
「ホントだ」
砂丘から見渡した景色の中に、湖と緑を見る。
あのオアシスで依頼人が待っているはずだ。
「蜃気楼じゃないといいけどな」
「行けばわかる」
砂丘を滑るように降りて、オアシスへと足を進めた。
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