第四話 パーティー
冒険者試験が無事に終わり、合格者を集めたパーティーが開かれた。
ドレスコードを身に纏い、先輩冒険者や偉い人に挨拶をする。
ただこのパーティーはそれだけが目的の歓迎会ではない。
各ギルドによる新人争奪戦の場であり、新人たちがパーティーを組むための場でもある。
「はっはー、凄いぜ。俺たちモテモテだ」
「あぁ、色んなギルドからスカウトが来てる」
「なんてったって合格者一番目と二番目のコンビだ。どこもほっとかないぜ」
手元には名刺の束があってどれを選ぶもこちらの自由。
とりあえずギルド所属に苦労はしなさそうだった。
「あとはパーティーメンバーだ。三人目を見付けないと」
「だな。ギルドに所属してからでもいいが、出来ればこの場で優秀な奴を引っ張っておきたい」
「優秀って言えば」
視線を送るのは壁際に佇む一人の少女。
綺麗なブロンドの髪が生える真っ赤なドレスを纏う彼女の姿はとても大人びている。
けれど、彼女は終始俯いていて一人だった。
「三番目か。たしかに優秀だけど、あれを見ちまうとな」
「赤い死神だっけ? 誰が言ったんだか」
冒険者試験が終わるまで、彼女は血塗れだった。
それを恐れて付いたあだ名が赤い死神。
誰が言い出したかは定かじゃないが、俺たちがパーティー会場に来たころにはもう噂になっていた。
「しかもこれ見よがしに赤いドレスだぜ? スカウトは来てるみたいだけど、新人で近づこうとする奴は一人もいないぞ」
「だからチャンスなんだ。今ならすんなり引き入れられる」
「マジか?」
「マジ。一番目と二番目と三番目が組むんだ。向かうところ敵なし、だろ?」
「はっ! たしかに。じゃあ、行くとするか」
誰かが彼女を誘わないうちに二人で近づいた。
「やあ、ちょっといいか?」
「は、はいっ」
バリーが話しかけると彼女は驚いたように顔を上げる。
「俺はバリー、こっちがツバサ。二人でキミを誘いにきた」
「お、お誘い? 私を、パーティーに?」
「あぁ、キミの実力を見込んで」
バリーの言葉に彼女はそっと視線を逸らす。
「私なんて大した実力はないんです。試験の時はたまたま上手くいっただけで……パーティーに入っても、きっと足手まといになってしまいますよ?」
「そんなことない。キミが狩ったのは第一階層じゃ一番難易度が高い魔物だ」
ケルピー、ヘルハウンド、そしてヒポグリフ。
あの時の生首は、ヒポグリフのものだった。
「まぐれや偶然で狩れるような魔物じゃない。実力は本物だし、だから誘ってるんだ」
そう告げて、手を差し出す。
「パーティーに来てくれ」
彼女は差し出した手と俺たちの顔を交互に見て、遠慮がちに手を伸ばす。
それを掴み取るように握手を交わし、話は成立した。
「わ、私はセレナって言います。よろしくお願いします」
こうして新しくセレナが仲間に加わった。
§
ブロンドの長い髪が揺れて、禍々しい鎌が振るわれる。
鋭い一閃が舞い散る木の葉ごと魔物の首を刈り取り、その命を断つ。
セレナの固有魔法グリムリーパー。
刈り取られた首が、ごとりと落ちた。
「やるなぁ。俺も!」
セレナが魔物を狩るのを見てバリーも張り切り出す。
「エクスプロージョン!」
バリーの固有魔法は爆発。
触れたモノを爆弾に変え、周囲になにもなくても魔力を爆弾に変えられる。
拾い上げた幾つかの石ころを投げつけ、複数の魔物をまとめて吹き飛ばす。
爆発音はうるさいが相応の威力はあった。
近くの木の幹が焦げ付いている。
「どうだ、見たか? 今の」
「あぁ、凄い威力だ」
俺は俺で五指の触手で魔物を絡め取って絞め殺す。
捕食はせずに、その場に投げ捨てた。
「うわ、こうして見て見ると気持ち悪いな、それ」
「あぁ、自分でも最初はそう思ったよ」
うねる触手を見て、バリーは半歩下がる。
セレナは意外と平気そうだ。
「メタモルフォーゼ、だっけ? 固有魔法」
「あぁ」
百獣嚥下のことは今は秘密にしておくことにした。
下手に使ってヒエンの支持者にバレたら命を狙われるかも知れない。
いずれ時が来るまではメタモルフォーゼということにしておこう。
「さて、これで互いの固有魔法のお披露目は済んだわけだ」
「そのために第一階層まで来ましたから」
「あとはどのギルドに所属するかだな」
互いにもらった名刺を取り出してみる。
試験の成績上位者トップスリーとだけあって、大体の名刺が被っていた。
「有名どころは押さえておきたいよな」
「そう、ですね。せっかくギルドに入るんですから」
「んんん」
名刺の一つに見覚えのあるギルド名を見た。
ギルド、酒呑童子。
親父が所属していた所でトップクラスのギルドだ。
ただ名刺は二つしかなく、俺はもらっていない。
まぁ、ヒエンかその支援者が手を回したのだろう。
二人には悪いけど、ここはなしだな。
「だ、誰か助けて!」
不意に聞こえた助けを呼ぶ声。
顔を見あわせると直ぐに地面を蹴って移動した。
「なんだなんだ? 第一階層だぞ、ここ」
「け、怪我をしたのかも」
「とにかく助けが必要だ。先に行ってる」
ケルピーの能力で両足に水の靴を履き、水面を滑るように高速移動する。
二人を追い抜いて木々を避け、声がしたほうへと急いだ。
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