第二話 冒険者試験
この街は中央に空いた大穴であるダンジョンから資源を調達している。
食糧、飲み水、鉱石、木材、堆肥、石油と様々だ。
これらの回収およびダンジョンの開拓を担うのが冒険者と呼ばれる職業の者たち。
親父の先祖はこのダンジョン開拓で功を立てて名家になったのだとか。
ならば俺もそれに習い、冒険者として功を立てよう。
いつかあの家に舞い戻り、当主として返り咲くために。
「とりあえずは冒険者にならないとか」
家でやっていた事と言えば勉学と護身術の訓練くらい。
冒険者の資格など取らせてももらえなかったけど、今なら挑戦できるはず。
冒険者になって魔物を喰い、力を付けよう。
§
「手痛い出費だ」
俺が持ち出せた額はそんなに多くない。
それを切り崩して試験料を払い、試験を受けた。
妾の子とはいえ、教育はしっかり受けてきたので筆記試験は問題なし。
残すは実技試験のみとなった。
移動を終えてホバーカーから降りると目の前で木の葉が舞い落ちる。
ダンジョンの第一階層は、巨木が並び立つ森だった。
「ここはダンジョンの中で最も安全な階層です。ですが死人が出ない訳じゃありません。試験中に魔物の
餌になった人など数知れずですよ。それでもいいと言うのなら試験を始めましょう」
試験官の脅すような台詞に周囲の人たちの背筋が伸びる。
「事前に説明した通り、貴方たちには魔物を狩って来てもらいます。その際、証明として魔物の一部を持ち帰ることを忘れずに。言葉でいくら言い張った所で無駄ですからね」
淡々と説明が成されていく。
「討伐した魔物によって得たポイントが目標値に届けば合格とします。ポイントは討伐難易度や持ち帰るまでの時間も考慮すると言っておきましょう。質より量を取るもよし、量より質を取るもよし。まぁ、好きにするといいでしょう。では準備はいいですか?」
受験者たちに緊張が走る。
「始めてください」
そして冒険者試験が幕を開けた。
§
四肢を使って地面を駆けた狼の魔物が木の幹を経由して飛び掛かる。
鋭く尖った牙に向けて、こちらは右手を伸ばす。
五指をタコにして触手を伸ばし、魔物を絡め取って締め上げた。
「ギャウゥッ」
全身の骨を折って絞め殺し、そのまま百獣嚥下で捕食する。
口径摂取しなくて済むのも利点だ。
「さて、どうなるかな」
喰った魔物の能力を使ってみると、身に纏う魔力が形を成して毛皮となる。
それを羽織るように被ると体の奥底から力が湧き出てくるのを感じた。
「さながらベルセルクだな」
手袋のように両手を覆う毛皮には鋭い爪が生えていた。
「あ、いっけね。全部、喰っちまった」
証拠がなくなった。
「次からはちゃんと残さないとな」
反省しつつ魔物を捜して森を駆ける。
瞬間、踏み込んだ足が予想以上の脚力を生む。
「うおっ」
思った以上に勢いが付き、危うく木の幹に激突しそうになった。
寸前で躱して足を止める。
自分の両足と両手を見て、百獣嚥下の能力を実感した。
「これなら意外と早く会えそうだぞ、ミコト」
再び地面を蹴って森を駆ける。
今度は木の幹にぶつかりそうになることもなく、隙間を縫うように駆け抜けた。
それから同種の魔物を見かけるたびに肉薄し、命をかすめ取るように捕食する。
きちんと討伐の証拠となる一部も残しておいた。
「ふぅ、まとまった数になったな」
尻尾が五本ほどある。
「一旦戻ってポイントにしておくか」
これが合計して何ポイントになるかで合格までのラインが見えてくる。
ポイントの確定のためにも試験官のところに行こう。
そう踵を返した、その時だった。
「おっ?」
足下から水が湧き出したかと思えば、次の瞬間には渦を巻いて閉じ込められる。
渦は水球となって俺を閉じ込めて、シャボン玉のように宙へと浮かぶ。
抜け出そうとと爪で引っ掻くが、刻んだ傷はすぐに塞がってしまう。
「んんん」
藻掻いても無駄だとわかって大人しくすると、俺を閉じ込めた魔物が姿を見せる。
それは緑に濁ったような水で出来た一頭の馬だった。
飛沫のようなたてがみ、苔むした石のような蹄、海草のような尻尾。
昔に学んだことがある。
あいつは水を操る魔物、ケルピーだ。
「とりあえずエラ呼吸するか」
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