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第十話 第三階層にて


 第三階層は煮えたぎるマグマが間近に点在する灼熱の世界。


「あつぅー」


 気温は第二階層よりも高く、白いコートを着ていても汗ばむほど。

 各地にマグマ溜まりやマグマの滝があり、その光のお陰で周囲は明るい。

 地形は入り組んでいて、幾つもの空間に別れていた。


「第二階層が砂漠なのって、第三階層の熱で干上がったからじゃないのか?」

「新説登場だな」

「だって、熱すぎるぜ、ここ」


 間近に流れているマグマを一瞥して、そのままセレナに目を移す。

 頬に大粒の汗を流していた。


「平気か?」

「は、はい。なんとか、大丈夫です」

「なぁ、ツバサの魔法でどうにかできないか? ほら、水を使ってさ」

「そうだな。気休め程度に水でも巻いとくか」


 熱い地面に打ち水をしつつ移動し、依頼人がいる採掘場へと辿り着く。

 外観は鉄骨で補強された洞穴と言った印象を受けたが、中は驚くほど整備されていた。

 綺麗に四角く切り抜かれた通路に、柵で囲まれたマグマの滝。そのマグマ溜まりにはチューブが放り込まれており、汲み上げられている様子だった。

 燃料として利用しているのだろうか?


「見ろよ、ツバサ。デッカい重機!」

「こりゃ凄いな。図体がデカけりゃ、刃もデカい。これで切り出してるのか」

「二人とも重機が好きなんですか?」

「好きっていうか、なんというか。なぁ?」

「あぁ、見ていてこう、飽きないっていうか。なぁ?」

「んん?」


 ところどころに置かれている採掘機に目を取られつつも進む。

 しばらくすると作業員たちの拠点が見え、その中の一人が俺たちを迎えてくれた。


「あぁ、来たな。これでようやく仕事を再開できる」

「魔物はどこに?」

「こっちだ。案内する」


 手に持っていたヘルメットを被った彼と共に現場へと向かう。


「魔物はジュエルドレイクで間違いありませんか?」

「あぁ、そうだ。俺たちの飯の種をバリバリ喰ってやがる。重機で脅かしてみたが出て行く様子がなくってな」

「移動もしてない?」

「あぁ、どこにも行かせないように重機で出口を塞いである。ただ、いつ突破されても可笑しくなくてな。お前さんたちが来るまでひやひやしてたぜ」

「俺たちでどうにかしますから。安心して――」


 そこから先の言葉は、大きな音と震動によって遮られる。


「な、なんだ?」

「あぁ、不味いぞ。いまの音は」

「なんなんですか?」

「道を塞いでた重機が倒された。いまに出てくるぞ!」


 彼の言葉は事実で、すぐに足音が聞こえてくる。

 それは次第に大きくなり、震動を伴って近づいてきた。


「直ぐ逃げて! 従業員の避難を!」

「わ、わかった! ここは任せたぞ!」


 彼を先に逃がし、俺たち三人で待ち受ける。

 通路の奥底、仄暗い闇から這い出てくる煌びやかな宝石たち。

 蜥蜴のような、龍のような輪郭が浮かび、硬い爪が地面を抉る。


「アァアアァアァアァアァアアアッ!」


 轟いた咆哮が滑らかな壁や床によく反響する。


「あれがジュエルドレイクか」


 岩のように無骨な鱗に、コンクリートのような翼、鉄のような爪牙。

 尾は鉄骨を簡単に折り曲げるほど強靱で、骨格は金属製と言っても過言ではない。


「俺から仕掛けるぜ!」


 靴底で爆発を起こし、バリーが先陣を切る。

 飛び出した勢いのまま魔力の爆弾を握り締め、ジュエルドレイクへと投げつけた。

 それは岩鱗に直撃し、ゼロ距離で爆ぜる。

 大きな音と爆風が押し寄せ、採掘場全体が震えたように動く。


「バリー! 崩落するぞ! 威力は押さえろ!」

「あぁ、そうか。すまねぇ!」


 爆風が落ち着くと、当たり前のようにジュエルドレイクは無傷で立っていた。

 爆ぜた部分は赤く熱せられただけで、すぐに元の色に戻ってしまう。


「いまので効果なしかよ」


 眉間に皺を寄せたバリーに鉄の爪が振り下ろされる。

 靴底で爆発させた威力に乗って回避し、俺たちの側に戻ってきた。


「馬鹿みたいに硬いぞ、あいつ」

「見てればわかる。なら、サラマンダーの時と同じ方法で行こう」


 ジュエルドレイクが吼え、こちらへと迫る。


「いまの見ただろ? 爆発じゃ鱗は剥がせない」

「あぁ、だから一手間加えるんだよ。二人とも後に続け!」


 ヘルハウンドの能力で燃える毛皮を羽織り、右手に炎鱗を纏わせる。

 目と鼻の先まで迫った鉄の牙による食らいつきを躱して懐へと滑り込んだ。

 腹の下へと潜り込み、右手に開いた口から火球を放つ。

 突き上げられたジュエルドレイクは腹を赤熱させて横転した。


「バリー!」

「オッケー! そう言うことか!」


 赤熱した腹へと爆弾が投げ込まれ、派手に爆ぜる。

 それは溶けた岩鱗を吹き飛ばし、皮膚が露わとなった。


「私の、番!」


 そこへと踏み込んだセレナが露出した皮膚に鎌を振り下ろす。

 鋭い一閃が内部へと食い込み、大量の血が溢れて地面を濡らした。


「ギャアァアアァアアアアアッ!」


 体内に刺さった異物に悲鳴を上げたジュエルドレイクはその翼を力任せに羽ばたく。

 それによって生じた強烈な突風に煽られてその場に縫い付けられ、とうの本人は飛び上がる。


「広くない通路だってのによ!」


 こちらを見下ろすジュエルドレイクは腹部の負傷を塞ぐように岩鱗を生やす。

 その際、体表の宝石が一つ消費されるのを確認できた。

 あの宝石の中に、岩鱗を修復するための材料が詰まっている。


「どうする。爆弾を投げても風で帰って来ちまう」

「俺がなんとかしてくる」


 背中に翼を生やして飛び上がる。

 ジュエルドレイクと同じ目線に立つと、それが気に入らなかったのか注意が俺に向く。

 岩鱗が逆立ち、銃撃の掃射の如く放たれる。

 迫り来る弾幕を前に、直ぐさま回避動作をとった。


「マシンガンってか」


 俺の影を縫うように、壁や天井に岩鱗が突き刺さっていく。

 だが、その岩鱗も無尽蔵じゃない。放つたびに体表の宝石が減っている。


「このまま行けばっ」


 しかし、焦れたジュエルドレイクが体のほぼすべての岩鱗を全方位に向けて放った。

 逃げ場がなく、しようなく両翼で身を包んで防御の姿勢を取る。

 けれど、岩鱗は俺の元まで到達しなかった。


「……ゴースト」


 ハロウィンのマスコットのようなお化け。

 それが巨大化して俺をまるごと包み込み、岩鱗のすべてを受け止めていた。

 セレナに視線を送ると、同様の方法で自分とバリーを守っている。


「助かった。今ならっ!」


 すべての岩鱗を失ったジュエルドレイクだが、すでに複数の宝石を消費して再生し始めていた。

 再生が完了する前に仕掛けるため、両腕からハードプラントの蔓を幾つも生やす。

 それは壁や天井に入り込むと掘り進み、ジュエルドレイクの影から突き上がる。

 伸びた蔓が巨体を絡め取り、剥き出しの皮膚に鉤爪が食い込んだ。


「これで!」


 蔓を振り絞り、地面にまで引きずり下ろして縫い付ける。

 叩き付けられたジュエルドレイクは逃げだそうと藻掻き、翼を伸ばす。


「セレナ!」

「はい!」


 まだ岩鱗が生え揃っていない両翼を、セレナの鎌が切断する。

 二枚の羽根が宙を舞って落ち、それを目にして怒りの篭もった咆哮が通路に響く。


「悪いが、ここで終わりだ。トカゲ」


 音圧の中を駆けたバリーが大口に爆弾をねじ込み、口腔ないで破裂させる。

 連鎖するように首や胴でも爆発が起き、内側が容赦なく吹き飛ばされた。


「ギャァアァア……アァア……」


 目から鼻から耳から口から、黒煙を上げてジュエルドレイクは息絶える。

 ぐったりと首を垂らし、二度と動かなくなった。


「はぁ、はぁ……ははっ! やったぞ、二人とも! 俺たちで倒した! ははー!」


 トドメを刺したバリーが拳を突き上げて喜ぶ。

 これでまとまった金が手に入ると、いつにも増して喜んでいた。

 そこにセレナも合流し、俺もそちらへと降りる。


「おっとそうだ」


 降りる際に壁に刺さった岩鱗を幾つか回収して手の平の中で捕食した。

 これでジュエルドレイクの能力も得られる。


「やったな」


 三人でハイタッチを交わし、喜びを分かち合う。

 この三人ならなんでもできそうだ。


「早く報告に行こうぜ」

「そうですね。危険はなくなりましたから、安心してもらわないと」

「あぁ、行こう」


 意気揚々と歩くバリーの後ろを二人で付いていった。


§


 素材換金所の窓口にて、バリーは厚みのある茶封筒を受け取った。

 ジュエルドレイクに残っていた宝石部分に良い値が付いている。


「それで? 結局、何に使うんだ? その金」


 自動ドアを抜けて外に出る。


「それが恥ずかしい話なんだが、うちは貧乏でさ」


 夕日で茜色に染まる空の下を歩く。


「親には苦労を掛けてるし、弟や妹にはいつも我慢させてばっかりなんだ。だから、たまには贅沢させてやろうと思ってさ」

「あぁ、そう言えば今日は……」

「家族の日、ですね」


 俺には縁のなかった言葉だけに、今の今まで忘れていた。

 今日は誰もが家族と過ごす日。


「だから、金が必要だったのか」

「あぁ、これをぱーっと使って今日は贅沢三昧だぜ。ありがとな、二人とも。家族も喜ぶ」

「いいんだ。家族によろしく」

「幸せな日にしてください」

「あぁ!」


 俺には縁のない日でも、バリーにとっては違う。

 それがとても羨ましく思えたし、暖かい気持ちになれた。

 バリーにとって良い日になりますようにと祈りつつ、セレナと別れて帰路につく。


「ん?」


 道を歩いていると、ふと足下に何かが落ちてくる。

 視線を落とすとあるのは紙飛行機。

 手を伸ばして拾い上げると、それは自動的に一枚の紙まで巻き戻る。


「これ、ミコトからの……」


 出した手紙の返事だと思い、綴られた文字を読む。


「そうか……もうバレたか」


 直に刺客が送られてくる。

 対策を考えないとな。

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