あなたの見る景色
久しぶりの投稿です。
恋愛系でシリアス感が強めな短編小説ばかりになってしまってますが、お付き合いいただけたら幸いです。
窓の外は私の心とは裏腹に雲一つない青空が広がっている。
目の前にはさびれたベッドに横たわる愛する人。
「今日はあなたの好きなリンゴパイを焼いてきたの」
私はあなたの目の前に乗り出し話しかける。あなたはコクリと頷く。
口にリンゴパイを運んでやると食べてくれた。
「おいしい」
その言葉に私の顔は自然にほころぶ。
初めてリンゴパイを作ってあげたのは高校の時だった。付き合い始めて一年の記念に作ったもの。
あの頃の懐かしい思い出が私の中に蘇る。
「みてみて、虹色の蝶がいる。」
私はあなたの指さすほうを見る。が、太陽の光が窓から差し込んでいるだけ。
あなたの手を取り、きつく握る。彼には私には見えない世界が見える。
五年前の交通事故で脳に後遺症が残ってしまった。私のいる世界に彼はいない。
「あ、雨が降ってきたね。」
窓の外には太陽がまぶしいくらいに輝き、暗い部屋を照らしていた。
End.