出会い-8
目を開けると光に眩んだ。
悠真はついさっきまでいたはずの空間から脱出し、戻ってきたいつも通りの風景にぼんやりとする。
視覚がその見慣れた明るさに馴染むと、たくさん人がいる騒がしさも耳を叩き始め、それらが朦朧としていた意識に夢から醒めたような感覚を覚させる。
「戻って…きた?」
悠真はぽつりと呟き、未だ夢見ごごちの感覚に包まれながら、体は空間の暖かさに気付きだす。
「おーい!もしもーし!悠真ー?」
空間からの解放を自覚し始めたと同時に、耳元で響いた爆音が意識を完全に目覚めさせた。
「うわをっ!!って…陽葵?」
「はい、陽葵ですよ?どしたの?急にぼーっと突っ立っちゃって。」
爆音もとい突然の大声に驚き振り向くと、首を傾げ不思議そうに悠真を見る陽葵がそこにいた。
それを見た悠真は安堵感を混じえて、
「えっ…あぁ。なんだ夢だったのか…。」
「えっ?立って寝てたの!?天才!?いやいやいや、てかそれ病気とかじゃ無い!?」
「大丈夫大丈夫。きっとあれだよ、秋特有の季節病。」
「何それ怖い。えっ、でも本当に大丈夫なの?病院行こうか?」
「いや、本当に大丈夫だよ。元気いっぱいで仕方ない。ほら?クレープ行くんだろ?」
「おっ、おぅ…。行きます。」
悠真は真心で心配する陽葵を適当な言葉で誤魔化しつつ、本来の目的に目を向けさせ、食欲に弱過ぎる彼女は、見事なまでに心配そうな表情をもうしていない。
それはそうと、悠真はあの出来事をあっさりと夢だったと割り切っていた。
彼はあんな夢を立ったまま見るなんて、学生疲れかカツアゲストレスが原因であると決め込み、気乗りはしていなかったはずなのに、何故かやたらと楽しみしてしまっているクレープへと想いを馳せる。
そして、2人は軽い足取りで駅中にあるクレープ屋へ向かう。
中央改札を出てショッピングができるビルに入ると、土産屋に雑貨屋、本屋から惣菜屋まで色々と店が立ち並んでいる。
悠真自身は1人ではここにはあまり来ないため、全ての店に立ち寄りたい気持ちはあるが、時間は有限、それらの店はスルーしていく。
路線がある関係上、改札口を抜けて階位を移動しないと、このビルの階数は2階にあたる。
今2人がいるフロアも同様に同じ階にいるのだが、目指すべき場所は1階にあるため、エスカレーターを使って下の階へと下る。
1階フロアは食べ物屋がメインとなっており、2階が惣菜やケーキなど帰宅道中に持ち帰り用として購入する人向けであるのに対し、このエリアの店は中に入って食べるので、ここでその時の食事を済ませたい人向けである。
定食屋、ハンバーガー屋、パン屋、カフェ、チェーン店のうどん屋、地元の伝統有るうどん屋など、選択に困る程度には飲食店が並ぶ中、目的のクレープ屋はエリアの隅に構えていた。
「ふへぇー。ちょっと悠真!スイートポテトだよ!スイートポテト餡だよ!スイートポテト餡入りのモンブランクレープだよ!!!」
「はいそうですね。」
「私これ!これこれこれ!ヨシキタこれね!うわっほぉーい!」
「はい。」
あからさまに感情を失くした悠真に、陽葵がクレープとはまた別の話題で、やや小さな声で話しかけてきた。
「ふはぁー。悠真悠真。後ろのベンチの人すんごい美人だよ!」
「わかったわかった。僕もそれにしようかなと…。すみません、スイートポテトモンブランにバニラアイス付きで2つ下さい。」
「あっ!あとタピオカミルクティーも1つお願いします!」
「ありがとうございまーす。少々お待ちくださいませー。」
会計を済ませると、この人がクレープ屋!?という色黒の中年が、元気のある挨拶を無表情で声にし、手際よくクレープ作りへと取り掛かかる。
2人はその様子を見ながら、ライブキッチンを見るかのように食い入り、期待感を高かめてゆく。
「ねーねー悠真悠真。後ろの人見て見て!チラッとね、チラッと!」
再度、陽葵が悠真にコソコソと話しかける。
悠真は年頃ゆえの直情的なワクワク感というよりも、陽葵があまりにも勧めてくるものだから、どれ程の者なのかと気になり、立ち位置を少しずらし、隣に立つ陽葵に顔だけ向けて横目で例の美女を見る。
クレープ屋の前には輪状のベンチがあり、そこに座ってできたてのクレープをすぐに食べられる利用者に優しい設計だ。
そのベンチにちょこんと行儀良く座りながら、確かにクレープを食べながら行儀良さそうに座っている女性がいる。
ゆたりとした長めで濃紺色のスカートに同色の首丈が詰まったTシャツ、そこに緑灰色のシャツを装羽織っており、右手にクレープ、左手にタピオカドリンク、そして膝上に持ち帰り用クレープが入っているであろう袋を装備した優雨が、美味しそうにクレープをほおばっていた。