出会い-5
「ふむ。言われてみればそうだな。君には知る権利があるだろう、奴の正体を」
悠真は優雨の声に耳を傾けながらホームの端へと、いや、奴に見初められた場所へ向かって歩く。
悠真と並行してゆっくりと歩きながら、優雨は語りだす。
「まず、私みたくあれらの存在を知る者は、やつらを総称として、「想現の有」と呼んでいる。」
聞きなれない言葉に悠真は僅かばかり首をかしげ、オウム返しのようにその言葉を繰り返す。
「想現の…有?」
「ふむ。確かに、総称からは中々に理解し難い。では、例を出して簡単に述べよう。要は悪霊、怪物、悪魔から果ては神、世にも有名な英雄、偉人、罪人や神獣。御伽や伝承、歴史実などに現れ、そして語られる存在だ。」
悠真は奴の正体を予想などしていなかった。
というよりも、神や悪魔だのと出てきた時点でスケールが悠真のファンタジー範疇を超えている。
そのため、理解が追いつかない、追いついていけない、そんな彼を尻目に優雨は説明を続ける。
「想現の有は想いを持つ者の想いを起点にして生まれる存在だ。想われ願われ夢見られ、様々な権能を持って、様々な姿形を取って、様々な場所に現れる。現れ、そして我々の世界に有るもの。そこを省略し、彼等を「想現の有」と呼ぶ。」
悠真の頭の中には未だに?が詰め込まれている。
一般人の悠真にはにわかには信じられない事実、信じられないが、悠真はまさに今、絶賛体験中であり、それが信じられない気持ちとそれが本当の事実であることを認めてしまうのが半分ずつ。
結局、悠真は色々と考えている内に、目的の場所に着いてしまった。
聞きたいことはあるが、モヤモヤするのも致しかないと、とりあえず一度心の中にしまう。
「着きました。ここがその場所です」
「ふむ。これと言って特に目に付く物は無いな。やはり、取り込まれることになった原因は予想している通りで良いだろう。」
「じゃあ後解決しなきゃいけないのは、瞬間移動の条件だけですかね?」
「正直言ってしまうと、最終的な移動先が決まってるならば、既にそれは大きな問題ではない。」
そう、最終的に飛ばされる場所が分かっていれば、優雨がこの場所で奴を迎え討つだけという状況まで整った。
むしろこの空間から早く脱出したいならば、さっさとカウントダウンを受けてしまうのがベターとさえ言える。
それだけゴール地点が場所が分かったことは、事を有利に進めるのに重要なファクターだった。
「では。」
「ふむ?」
「さっきの「想現の有」について、聞いてもいいですか?」
「ああ、構わない。私の知識の範疇でよければ、だが。」
「とりあえず一番気になることを。奴が「想現の有」という存在であるのは分かりました。じゃあ奴はどんな思いがベースになってるんですか?」
「ふむ。分からないな。」
「ええ…。」
「正確には、だ。ただこちらも予測はしていてな。奴がここで殺した人達の関連性を辿っても特徴的な共通点が無いことから、恐らくただ「死」を与えることが目的だろう。」
「はあ…。「死」ですか。じゃあ誰かが誰かを殺したくて奴が生まれたとか?え?でも、それなら奴みたいなのを生み出せる人間がいるってことですか?」
「ふむ。確かに基になった「想い」は人間由来だろうが、個人である可能性はほぼ無いな。」
「…それは、無差別だからですか?」
即答で正解を返してくる悠真に、優雨は内心で感心する。
「その通り。個人の私怨なら対象は個人ないしは特定の共通点を持つはずだ。しかし、今回は無差別。つまり奴は複数人の「想い」により生み出されたはずだ。」
「成程。じゃあ僕は誰かに恨まれているからこんな目にあっている分けではなく、本当にただ運が悪かったということですか?」
「そうなるな。ふふ、その運が宝くじにでも当たれば良かったのにな。」
優雨はいたずらした様に笑いながら、冗談めいたことを言う。
それに対して悠真も、針千本の下りといい、優雨がよくよく冗談を言うタイプと思っていない彼は、その分だけ彼女の冗談にはつられて笑顔になる。
「本当ですよね。そしてらカツアゲなんてされても痛くも痒くも無かったのに。」
彼女は何て返すだろうか?続けて談笑してくれるだろうか?
暗闇の中の光。絶望の中の希望。
そんな彼女の返答に期待し、少し胸を躍らせながら会話を楽しむ悠真の心情は、マイナスを乗算してもまるで足りない程に、墜ちていく。
【ぜろ。おわり。】