表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オモイデバナシ  作者: 星河弘郎
第1章 ハジマリハジマリ
3/18

出会い-2

「え…?」 


不意に起きたこの現象に、悠真は呆然とする。

そして思考が回り出し、冷静になるほどに混乱へと陥っていく。


「なんだこれ…。」


ほぼパニックの状態でありながら、それでもとりあえずと、辺りを見回す。

薄暗い空間は視界が悪く、それでもはっきりと分かったことがあった。

まず、悠真が立っている位置。

先程、改札口を通った筈なのに、目の前には改札ゲートがある。

つまり悠真は知らずの内に駅構内へと戻っていたことになる。


そして、もう一つ気づいた。

改札ゲートの向こう側、そこに1つだけ人影があることに。

一人では無かったと、藁にもすがる思いで声を掛けようかとした時、喉元まで出かけた声は、空気だけ吐き出し、溶けて消えた。


この暗闇、そして少し離れた位置からならば、確かに人影のようにそれは見える。

しかし、実際のところ、それを人と呼ぶには、悠真の常識には無い範疇の姿成りをしていた。


左足と右腕が異常に太く、床に垂れるほどに長く、身体はこの暗闇よりも更に深い黒に染まり、身体の輪郭は滑らか。

黒いスライムが人に擬態しようとした、そう言うのが最も適切な表現かもしれないが、しかし、それが「人に擬態しようとした」という点、ここが悠真に声を出させなかった一番の要因だった。

身体がスライムというのは、そのネームバリューからもまだ馴染みがあるだろう。

RPGなどではおなじみのキャラクターとしてよくよく出現するのだから。

しかし、いかに見覚えのキャラクターでも、一部が異形ならばそれは化け物である。


それの首から上、そこには顔に顔が生え、さらに顔が生えていた。

正確に、そして詳細には、1段目に口だけの顔があり、その上から先に2段目の顔が生え、さらに2段目の目の上から、鼻と目しかない3段目の顔が、生えている。


口と鼻と目が2つに頭一つの造形、化け物と呼ぶに相応しいそれの目と、悠真の目が合う。


気づき、理解し、硬直し、悠真が狼狽え戸惑うその間に、化け物は体を引きずる音を立てながら、悠真へと歩み寄る。


「う、うわぁぁぁぁぉああっああぁあっ!うわっ!あああぁぁあっぁああ!」


悠真は喉が裂ける様な叫び声を上げる。

しかし、威勢が良いのは声量だけで、足腰は砕け、その場に座り込み、留まる。

その間にも化け物は少しずつ悠真に近づく。

悠真はすでに冷静ではなく、恐怖しか感じていない。

逃げたい気持ちが走り出し、近づく化け物を直視することができず、目を瞑り、そして再び目を開ける

と、目に映った景色は変化していた。



【あとよんかい】


声が頭の中に響く。

そして、変化した景色は、改札口に向かう途中で見た、ポスターが目の前あった。


「へ、、、?」


悠真は気の抜けた声を出す。

目紛しく変わる状況、この空間の重く苦しい雰囲気。

頭は更に混乱へと堕ちていき、それが高まり嘔吐感を覚える。

変化していく状況とそれを理解しようと励む脳。

それでも考えることはろくにできず、思考が騒ぎ立てているだけの中、理解したことがある。


化け物は依然、目の先にいた。


目視で確認できたそれは、さっき見たときよりも近く、

さらに悠真との距離を詰めようと、ズルズルとその垂れた腕を引きずりながら、ゆっくりと近づいている。


最早叫ぶこともできず、それの2段目の顔と目を合わせた悠真に、声が聞こえる。


【死にたい。死ね。死のう。死にたい。死ね。死のう。死にたい。死ね。死ね。】


低く、高く、突き抜ける様な、深く響く様な、様々な声が聞こえ、悠真の意識は自分の身体から少し離れ、宙に浮かぶような浮遊感を覚えながら、不思議な感覚でその場に釘付けになる。

更に化け物が近づくにつれ、声もより鮮明に聞こえる。


【死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。

死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね】


目の前にきた化け物が、恐らくそれを悠真に対して有言実行しようと、優しく緩やかな動作で両の腕を伸ばそうとしたその時、風を切る音が聞こえた。


ガンッ!

と、音を立て、悠真と化け物の間に何かが割って入った。

ハッと意識を取り戻した悠真は、目の前にあるそれを認識し、呟く。


「か、たな、、、?」


美しい波紋に、暗闇の中で輝く銀。

掬は無く、装飾の類も無い、1本の刀が目前の床に突き刺さっていた。


「ふむ。」


そして、後ろから声がした。

声を発したであろう、本人。

その人は悠真の横を通り過ぎ、刀を抜き、悠真の方を振り向いて第二声。


「命はあるな?少年。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ