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オモイデバナシ  作者: 星河弘郎
第1章 ハジマリハジマリ
2/18

出会い-1

日常は簡単に崩れるもの。


宝くじが当たったり、事故に当たったり、天災に巻き込まれたり。

そう、とある日に不良に絡まれたり。



「よう少年。ちょっとだけお兄さん達にお財布貸してくれないかな?」


「そうそう絶対間違えなく多分返すからさっ。」


時刻は午後の4時過ぎ頃。

空の青が少しばかり薄くなり始め、1日の終わりをどことなく感じさせるような雰囲気に、金髪、長髪、ピアス、サングラスに刺青と、私不良です!ヤンキーです!を前面に押し出した二人組の男性が、その少年に笑顔で話しかている。


少年と呼称されている青年、彼の名前は悠真。

青年、という年頃にしてはやや幼さの残る顔立ちで、身長は低いわけではないが、ひょろっとした身体付きの少年だ。

不良2人に対して、悠真は悠真で、私真面目です!生徒会とか入ってます!という印象を纏う。


それはそれとして、今この瞬間、そこは駅のホーム。

地方都市あるあるの、長い電車待ち時間に、この状況は成り立った。


そう、カツアゲである。

悠真は常日頃から電車の待ち時間を利用して、人気がないホームのほぼ端にあるようなベンチに座り、家から持参しているお茶などを飲みつつ読書をするのが習慣であり、今回はそれが見事に災いしてしまった。

不幸な事故である。


「えーとですね…今は、その、金欠でして。僕の財布には用事なんてないんじゃないのかなー…なんて。」


苦笑いしながらそう応え、同時に我ながら馬鹿だなと悠真は思った。

状況をしっかりと理解した上で、あえて抵抗の選択をした。

悠真は強烈な正義漢ではないが、少なくともモラルに反する様な出来事に嫌悪感を覚える感性は持ち合わせている。

だがもちろん、そんな思いをよそに、目の前の悪意がその行いを止めることなどはしない。


「ままま、そう言わずに抵抗はよしたまえ。正当防衛しちゃうぞー?」


「最初から無かったものだと思えば痛くも痒くも無いって。」


不良2人がそれぞれ好き勝手に言いながら、笑顔で悠真に詰め寄る。


自ら抵抗した割に、この時点で悠真の心境を大部分が恐怖を締めているが、ここで金銭を渡した場合、明日から自販機で飲み物一つも買えない惨めな姿を想像してしまい、

「あのー、、、勘弁してもらませんか?」

と、応えてしまい、案の定、不良の地雷を踏み抜いた。


「まずいいから早くしろや!こっちが下手に出てるからっていい気になんな!」


不良がベンチに座っていた悠真の胸ぐらを掴み、無理やり立たせ、

「こっちはテメェみてえな糞餓鬼に付き合ってられるほど暇じゃねえんだよ!」

鬼気迫る勢いで脅しにかかり、そしてその行為は悠真にとって効果的面だった。


悠真はこのタイミングで、暴力に走られたら抵抗するだけ損であり、さっさと望むものを渡してしまうのが身のためだという考えに至った。

ただし、諦めへと切り替えた後の悠真は冷静で、電子マネー類のカードはすぐに停止させ、駅員と警察へ連絡し、目の前のバカ2人の容姿をきちんと目に焼き付け、諦めたなりに思考を巡らせながら、肩に掛けていたカバンから財布を取り出そうとする。


その時、

「駅員さーん!こっちです!あそこでカツアゲしてまーす!!」


突然、大きな声がホームに響き渡る。

音の大きさととその内容に悠真と不良達は驚き、少しの間、思わず身を固める。


そして3人共がすぐ我に返り、

「くそ!」

「ちっ!覚えてろよ!」

そんな捨て台詞と共に、不良2人は颯爽と何処かへ去っていった。


覚えておくわけないだろ。

悠真はそんなことを呆然と思いながら、不良2人の遠ざかる背中を見ていると、ホームの柱の陰から見慣れた顔がひょこと現れた。


「やほー。ヒーロー参上ってね!ふふーんっ。」


肩より少し長い位に伸ばした栗色髪に健康的な肌色、そして大きな眼。

一目で活発と分かる位の笑顔が眩しい、幼馴染の陽葵がそこにいた。


「さっ!起きた起きた!さっきの嘘なんだから。怖い人たち戻って来て、本当に財布盗られちゃうよ?」


「あぁ、、、ありがとう。助かったよ陽葵。」


「はい!どーもいたしまして!」


独特な返礼だが、感謝せねばならない相手に、空気の読めない指摘を悠真はしない。

そして、2人はその場を後に、とりあえずとホームの階段へと向かって歩き出す。


「良かったねー。作戦大成功だよー!まさか本当に引っかかるとは思わなかったな。上手くいきすぎてドラマとか漫画みたいな体験しちゃった!」


自分の作戦が上手く成功した事と、人助けができて嬉しいのだろうか、陽葵は笑顔ではしゃぐ。


「本当に助かったよ。この間、支給されたばかりの小遣いだったから、取られてたら死にたくなってたかもしれない。」



『死にたい?』



「そうそう。母さんならきっと「何で大人しく渡すかねこの阿保!そんな奴は向こう3か月減給じゃ!」とか言いそうだからなぁ。」



『わかった』



「ん?何が分かったんだ?」


自分から振ったたとえ話とはいえ、どことなく嚙み合わない会話に、悠真は思わず陽葵に聞き返す。


「…え?何にも言ってないよ?隣のホームに電車来ててうるさかったから聞こえてなかった。ごめんね?」


2人とも目を合わせ、不思議そうな表情を作る。


「可哀そうに、、、。恐怖体験で幻聴がするんだね、、、。よしよしよし、お姉さんがクレープを奢られてあげようじゃないか。」


「さてと。とりあえず人気があるところに行こう。」


「ちょっとー!お小遣い全部無くなってたかもしれないんだよ?いーじゃんクレープくらいー。」


人気のあるところと言えば、中央改札口だろう。

そこならば駅員もいるだろうし安全は保証されると考え、2人は足早に歩いている。


「ねーねーねーねー。」


陽葵の声に悠真は反応しない。


「ねーねーねーねーねーってばー。」


「分かった分かった!奢りますよこの度はありがとうございましたお奢らせていただきます奢らせてくださいお願いします!」


陽葵の本気を冗談に格下げすることの出来なかった悠真は目を閉じ、観念した顔で敗北宣言をする。



【いち】



2人はホームの階段に到着し、階段を登りながらも会話は続く。


「やったね!私、期間限定のにするね!あとタピオカ!」


「ちょっと待て!タピオカは契約にないぞ!」


悠真が振り返り、少し下の段にいる陽葵に目をやれば、


「クレープにタピオカはつきものなんだよ、、、?」


クレープとタピオカは1セット。

そんなことは初めて聞いたが、その疑問を吹き飛ばす美少女の上目遣いである。

悠真も健全な年頃、勝てるはずもなく、更なる敗北を重ねる。


「カ、シ、コ、マ、リ、マ、シ、タ。」


「ロボットかて。」


他愛もないやり取りに笑顔がほころぶ。




【にぃ】




落ち着いてきたとはいえ、不良に与えられた恐怖はまだ心身に残っており、悠真の体を火照らす。

時期的にも秋の入り口に立った位で、気温も少し暖かく、早歩き程度の運動にも少し息を切らし、滲み出た額の汗を袖で拭う。

階段を登りきり、駅構内の廊下をよそよそしく歩き、中央改札口へと向かう。

周りを見ても先の不良達は見当たらない。

すでに他の改札口から出たのだろうと、ほっと胸を撫でおろし、一息つく。




【惨】




「良かったねー。さっきの人達、まだそこら辺にいたらどうしようかと思ってたよ。」


「本当だよ。今後しばらくの間は、電車待ちは駅中の本屋で過ごすよ。」


「しばらくの間、私にクレープを奢るって手もありますぜ旦那。」


「何キャラだよ。」


安心した気持ちからふざけたやり取りも弾み、思わず笑顔になる。

2人は足早を継続しながら、駅構内のポスターに目が行く。

この時期はやはり食欲の秋をテーマに企業は宣伝するのだろうか、紅葉やグルメツアーをテーマにした広告ポスターが多く、思わず興味を惹かれる。

観光に温泉にグルメなどなど。

想像と妄想をすることは無料だろうと、こんな時でも瞬間脳内旅行を楽しむ。




【し】




そうしている間に悠真達は中央改札口へとたどり着いた。

陽葵のリクエスト通り、クレープ屋に向かうための改札口を通過する。

定期券を改札にかざし、聴きなれた電子音と改札ゲートの開く音が重なり、そこを通る。

その時、




【【すたぁと】】





頭に響くように、独特で不愉快で奇妙で霞んだ声が聞こえた。

その声に意識を僅かに向けたその後、世界は薄暗く、静寂に包まれていた。

賑わいに満ちた喧騒が、陽葵が、悠真を残して消え去った。



「えっ?」



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