第98話 魔族の少女は椅子に粗相をする
『粗相』=『おもら〇』
-主人公ケイト視点-
「その代わりに私にキ、キスしなさいよね」
「えっ?」
どういうこと?
キスできるなら、それで伝授ができるんだよな。
でも、伝授はしないけどキスしたいって?
どういう意味?
伝授じゃないキスって…まさか好きだからしてってこと?
「ちょ、ちょっと待って」
「どうして待たないといけないの?」
「伝授じゃないキスなんだよね?」
「当たり前よ。とりあえずそこに座りなさい」
「うん」
やっぱりだ。
どうして?
シェリーは俺の事なんて好きじゃないはずなのに。
俺だって、シェリーの事なんか…
いつもマリーのために頑張って、俺も含めて色々フォローをしてくれているシェリー。
ちょっと口うるさいけど、冒険初心者の俺に色々教えてくれたよな。
トラップにかかって一度だけ二人っきりになったこともあったな。
その時も別にドキドキなんてしなかったし…ってそうか?
薄暗い中二人っきりになって、シェリーが幽霊が怖いって。
あんなに強いのに。
悲鳴を上げて抱きつかれた時…可愛いなって思った。
いや、外見的に十分可愛いんだよ。
性格もツンツンしてるけど、実はいい子だってわかってる。
どうして好きになれなかったんだろう?
そういえば、メイド姿で奉仕してくれたことってあったな。
カリナに強制されてたけど。
ホットケーキに書いた絵が上手だったな。
それ以前に、メイド服がよく似合ってたな。
また着てくれないかな?
カリナが『わらわ』とか『のじゃ』とか言わせてたけど、その時は外見が10歳児だったからな。
今の雰囲気だとそういうのよりも…委員長っぽい?
少し口うるさいところが委員長ぽくっ感じるのかな?
だから眼鏡とか似合いそうなんだよな。
この世界に眼鏡ってあるのかな?
そういえばあの時、シェリーの膀胱に入ったジュースをカリナとサフィに飲まされそうになったんだよな。
あれって飲んでいたらどんな味してたんだろ?
「いやあっ!」
え?
どうしてシェリーが俺の膝の上に居るの?!
-魔族シェリー視点-
「ちょ、ちょっと待って」
「どうして待たないといけないの?」
「伝授じゃないキスなんだよね?」
そう言ってるじゃないの。
マリー『ケイトを椅子に座らせて』
「当り前よ。とりあえず、そこに座りなさい」
「うん」
座らせてどうするのかしら?
マリー『私が幻影魔法でシェリーの偽物を作って姿を隠せるようにするから、こっそりケイトの膝に座りなさい。『無』の色魔法を使えば重さはほとんど無くせるから気づかれないはずよ』
何をさせたいのかしら?
私の幻影ができて、私の姿が消されたわ。
さすがマリー様。
私自身でも本物か偽物かわからないわよ。
それで無の色魔法を使ってからケイトの上に座るのね。
小声で『重力制御』を唱えて、ケイトの上に座ったわよ。
それでどうするの?
『ケイトはシェリーをツンツンしてるけど本当は気遣いができて可愛いと思っているにもかかわらず、どうして好きになれないかの質問については…』
何よこれ?!
これって、ケイトのスキル『神託の王座』だわ!
つまりケイトの考えていることの質問と答えが私に神託されているのね!
って、私のことそんなふうに思ってるの?
『シェリーに拒否されたことと、マリーがあまりしつこくケイトとシェリーにキスをさせようとしたので、無理強いしてはいけないとの思いから、自分がシェリーを好きになってもそれはキスしたいための言い訳に過ぎないと思い込んで、好きになるのをあきらめていたから』
なによそれ?!
それってつまり、普通にしていたらケイトが私を好きになっていたってこと?
『シェリーによく似合っていたメイド服を着てまた奉仕してくれるかどうかについては』
似合っていたって思ってくれていたのはちょっと嬉しいかな。
『今のままでは無理だが、ケイトの気持ちがわかった今後のシェリーであれば可能かもしれない』
ええっ?!
今後って?
私ってケイトの事どう思ってるの?
私もケイトみたいに色々あったから好きになるのをやめていたのかな…。
『シェリーは少し口うるさいところが『委員長』っぽいので眼鏡が似合いそうだが、そういうのをかけてくれるか?また、この世界に眼鏡はあるか?については…』
何その質問の出し方!
ケイトの心の中を見せすぎじゃないの?!
そもそも『委員長』って何?
『この世界にも眼鏡はあるが、視力の良い獣人が多いためほとんど出回っていない。眼鏡があったとしても、視力が良いシェリーが掛けるとしたら伊達メガネである』
眼鏡なんてかける必要ないもの。
そういえば、魔道具の眼鏡が異次元箱にあったわね。
『シェリーがメイドをしておもらしさせられそうになり、それを助けた時にコップに移したジュースの味については、ジュース部分のみの転移だがおしっ〇風味である。しかしあの世界の住人の体質の関係で臭いわけではない』
「いやあっ!」
な、何考えてるの?!
「えっ?どうしてシェリーが俺の膝の上に?あっ、あっちのシェリーが消えた?!」
私が声を上げたら姿が現れてしまって、代わりに幻影の私が消えたわね。
「ちょっと待って。頭の整理が追い付かない」
頭の整理が追い付かないのは私もよ。
とりあえず、さっき気になってた、眼鏡型の魔道具を出して…。
-主人公ケイト視点-
何?
どうしてこうなったの?
俺の『神託の王座』ってパッシブスキルだから、ずっと考えていたことの質問と答えがシェリーに神託されていたよね?
どこから聞いてたの?
何て答えが出てたの?
えっと、えーっと…。
あれ?
シェリーが眼鏡取り出してる。
さっき、委員長っぽいから眼鏡が似合うかもって思ったからかな。
でも…あっ、眼鏡をかけた。
「ケイト。『委員長』って何?口うるさいから嫌な奴なんでしょう?」
「そ、そんなことないよ」
「『束縛』!確認するわよ」
どうしてマリーもシェリーもこんな魔法の使い方するの?!
ああっ、こっち向きに座ってきた!
-魔族シェリー視点-
この眼鏡の魔道具の効果って忘れちゃったけど、役に立たないからしまい込んであったはずよ。
それよりも確認しないと。
「『委員長』って何?ケイトはそういう人の事をどう思っているの?」
こんな聞き方でいいかしら?
ケイトが頭の中で復唱したら私に神託が来るはずよね。
『ケイトが委員長のことをどう思っているかについては、委員長とはいつもは真面目で人に厳しい優等生だが、時折優しい一面を見せてくれる。そういう相手と恋ができて、自分だけに優しくしてくれたらいいなと思っている』
え゛?
それって、つまり…私が眼鏡をかけて委員長っぽくして、普段は口うるさくても、ケイトと二人っきりの時に優しくしてほしいってこと?
そうしたら好きになってくれるってことなの?
「ケイト。私の眼鏡ってこれで似合ってる?どういう眼鏡がケイトの好みか考えてみて」
『ケイト主観におけるシェリーに似合う眼鏡については、その眼鏡でもかなり似合っていると思っているが、もっと細いほうがクールな感じが強調されてケイトの好みである』
そう、かなり似合っているのね。
よかったわ。
「ケイトは私の事をどうしたら好きになれると思う?」
「ちょっとそんなこと聞かないで!」
『ケイトがシェリーをどうしたら好きになれるかは、すでに好きに近い感情は持っていたが押し殺していただけだから、あと一押しで本当に好きになる。ただ、シェリーがマリーに無理やりされているんじゃないかと気になっているだけ』
本当に馬鹿な男ね。
「マリー様に無理やりされていたのは本当よ。でも、私がケイトの事を敵視してたから、好きになっても好きになっても、ずっとその感情を押し殺していただけなのよ。男たちから助けてもらった時も本当は嬉しかったのよ」
「シェリー…」
「ケイト、私の事を本当に好きにさせてあげるわ。神託で『あと一押し』って言われたから」
ちゅ
…
…
むちゅ、くちゅ、ちゅぱ
…
…
んっ、
んんっ、
ちょっと、ファーストキスなのにどうしてこんなにするのよ。
やりすぎよケイト。
ううん、これって私がしてるんだわ。
でもなくて、二人でしてるのよね。
ケイトが私の気持ちにに応えてくれているのね!
「ケイト、私の事どう思う?」
「大好きになった」
「私は元々大好きだったのよ。ごめんね、気づかなくて」
呪文の伝授じゃないキスをもう少ししたいわ。
それと、あとで細い眼鏡を買いに行くのを忘れないようにしないと。
-元魔王ブラッディマリー視点-
うまくいったみたいね。
ところであんな眼鏡持っていたのね。
ここから鑑定してみようかしら?
『黒歴史再現眼鏡』
眼鏡をかけた者の黒歴史を再現する眼鏡。
何が起こるかはランダム。
それにより、過去に打ち勝ち精神を強くするために作られた魔道具。
…
…
これって、教えるべき?
それとも放っておいた方がいいかしら?
あの状況を邪魔する勇気は無いわね。
うん。
黒歴史は二人の愛で乗り越えてね。
今度こそ本当に邪魔はしないわよ。
でも、自分の部屋から魔法でこっそり覗いていましょう。
-主人公ケイト視点-
シェリーってこんなに積極的になるんだ。
両手で俺の顔を持って熱烈なキスをしてくるんだもの。
普段とのギャップがありすぎて、すごく可愛いな。
これ、質問っぽくしたら伝えられるかな?
『シェリーがすごく積極的で普段とのギャップが可愛いのはなぜ?』
なんてね。
…
あっ、顔が離れた。
「ケイトのばか」
ちゅっ…ちゅうっ…
何、今の。
真っ赤になって顔を背けて、またキスしてくるなんて、
超かわいいけど。
ところでこの眼鏡ってフレームの形が変わっていて魔道具っぽいけど、効果とかあるのかな?
「え?」
あっ、また止まった。
「や、いやあ!」
え?ええっ?!
これって?!
-魔族シェリー視点-
こんな座ったままでキスしたら、また変な質問されるかも。
でも、もっと聞きたい気がするわ。
『シェリーがすごく積極的で普段とのギャップが可愛いのはなぜかについては』
もう、ケイトったら…嬉しいけど。
『そもそもシェリーは可愛いのに、普段の行動でそれがわからなくなっているだけ』
そもそも可愛いって、これ本当に神託なの?
ケイトの主観じゃないの?
どっちでも嬉しいけど。
それにこの質問…ケイトったらわざと私に自分の気持ちがわかるようにしたのね。
そんなの、自分の口で言えばいいじゃないの。
「ケイトのばか」
ちゅっ…ちゅうっ…
もう、こんなに私を夢中にさせて。
絶対責任取らせるんだから。
『シェリーが掛けている眼鏡の効果について』
そんなことも気にしてたの?
見ただけで魔道具ってわかったのかしら?
『眼鏡をかけた者の黒歴史を再現する眼鏡で何が起こるかはランダムになっている。それにより過去に打ち勝ち精神を強くするために作られた魔道具。今作動している』
今作動している…黒歴史…まさか!
「や、いやあ!」
それってあれしかないわっ!
しゃあああああああ
「ケイト、ごめん、いやあ、だめ」
ああああ…これって、幻滅されたわよね。
『ケイトの今の気持ちについては』
ちょっと?!
聞きたくないわ!
立ち上がりたいけど、腰が抜けて動けない?!
『ケイトは少しも嫌がっていない。むしろシェリーと秘密を共有できたと喜んでいる。今からお風呂に一緒に入れないかなと考えているので束縛魔法を解除してほしい』
な、何よこれ?!
変態なの?!
ケイトって最低だわ!
こっちが幻滅したわ!
『今の状態をシェリーがどう思っているかについては』
え?待って、だめ!言わないで!
『シェリーはケイトにそう思ってもらえてすごく嬉しい。大好きな人の上でおもらしとかありえない行為に興奮している。お風呂にも一緒に入りたいけど、照れくさいのでとりあえずケイトが最低で幻滅したと思い込もうとしている』
いやあああっ!
神託ってひどすぎるわっ!
そうよ!
そうよっ!
「ちょっと嬉しいかもって思ったわよ!ケイトにかけちゃったけど、何だかすごくドキドキしたのよ!お風呂だって一緒に入ってキスの続きとかしたいって思っちゃったわよ!」
「シェリー、声に出てる」
ああっ?!
「ケイト…幻滅してないよね?」
「うん。あの、これはもう似た者同士でいいんじゃない?」
「私はそんな変態じゃないから!でも…あの、腰が抜けて立てないの。だから、魔法解除するから…お風呂に連れて行って」
初めてのお姫様抱っこがおもらしした状態でなんて…最悪なはずなのにすごくドキドキするのって、やっぱり私って変なのかな。
-元魔王ブラッディマリー視点-
何これ?
もしかして、私ったらシェリーに追い抜かれたのかしら?
邪魔すべき?
参加すべき?
ここは傍観にしましょう。
今さら入れないわ。
次の時は私の頭を洗うだけじゃ済まさないわよ、ケイト。
お読みいただきありがとうございます。
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次回と明日、2月20日18時更新です。




