第97話 椅子のおつかい『変身魔道具探し』
説明がちょっと多いかも。
-主人公ケイト視点-
『ヘンローダス』はごく標準的な異世界だ。
特徴と言えば、獣人の比率が多いということ。
それから獣人はみんな長毛で、体を体毛だけで隠している。
平たく言うと、全裸だ。
獣だからいいのかもしれないが、はっきり言って目の毒だ。
ちなみに発情期は色々なところが目立つので家にとじこもるか、獣人専用の服を着るらしい。
普段からそれを着ないのは『私は年中発情期です』というようなものだかららしい。
そしてこの世界の獣人の冒険者の目的物の多くが『変化の魔道具』だ。
それで人間の姿になり、人間の服を着るのが夢らしい。
これはAランクになると入ることが許されるダンジョンのボスのランダムドロップ品で、手に入れるのはなかなか難しい。
難しいというだけで、絶対に手に入らないわけではないし、2つ以上入手した獣人が売ることもあるので、店頭にもある。
ものすごく高価ではあるが。
実のところ、マリーたちは魔王を倒したことで多くの報奨金をもらっており、金そのものはどの世界でも通用するので、それを購入するくらいの財貨はある。
「クリス様のために自分でボスを倒したほうが格好いいわよ」
「そうですよね!」
「じゃあ、さっそく武術の稽古からね」
「え?」
「体力作りと同時に進めるわよ」
色魔法が使えても、やっぱり冒険者は最低限の強さが無いといけないらしい。
だから、体力づくりをして、ダンジョンで魔法を使い、多くの経験をして、宿に帰り休んで…その前に色魔法の伝授をしてもらっている。
そんな生活がもう90日続いた。
残りはあと6日。
ボスをソロで倒すなんてもちろん無理だけど、マリーとシェリーがお膳立てをしてくれるので、何とか中ボスにとどめをさせるくらいにはなってきた。
「ケイト、今よ!」
「『白色武器強化』『黒色武器強化』『青色武器強化』『赤色武器強化』『緑色武器強化』『黄色武器強化』『紫色武器強化』『橙色武器強化』『金色武器強化』『銀色武器強化』!たあっ!」
ザシュッ!
ズズウウン!
「やった!倒した!」
「よくやったわケイト!」
マリーも一緒に喜んでくれる。
ついに、中ボスにとどめを刺せる火力が出せたのだから。
今の俺が最大火力を出すために考えたのは『色魔法の武器強化を全色分載せること』だった。
しかし、性質の違う魔法を一つの武器に掛けることはできない。
だから『全色』という色魔法の呼び方は有っても、『全色』という名前の色魔法は存在しない。
白と黒、青と赤、緑と黄、紫と橙、金と銀はそれぞれが相反する性質で、同時に使用できず、同じものにかけると打ち消し合う。
また、金と銀<白と黒<青と赤<緑と黄<紫と橙<金と銀という得意不得意の関係もある。
だから『超越武器召喚』でそれを受け止められる武器を召喚した。
それがこの『多重薄刃剣』である。
実際のところこの武器は8代目である。
それまでにいくつか召喚したのだけど、重すぎたり、短すぎたり、魔法が干渉し合うなど、色々と使い勝手が悪かった。
そしてこれはうまくいきそうに感じた武器を徐々に改良していったものだ。
軽くて強く、剣としての長さもあり、10枚の刃は完全に独立しているため色魔法が干渉し合わない。
ヒントにしたのは〇枚刃とかの髭剃りだ。
ちなみに体質が変わったせいで、髪や髭は伸びなくなった。
ディアナによれば、髪は『伸ばしたい』と思うと徐々に伸びて来るらしいのだけど。
そしてこの刃は薄くて硬いが欠けたり割れたりすることがあるので、1枚ずつ交換可能になっており、フレームを開いて留め金を外した状態で取り外しができ、刀を振るって刃を飛ばすこともできる。
この武器をイメージして特級召喚するだけでもかなり失敗したものだ。
そしてこの武器にはもうひとつの『隠し要素』があるのだが今は使えない。
それを使わないでボスを倒せるといいんだけど…。
それ以前に1つずつ色魔法唱えるの不便だから、何とか纏める方法がほしいよな。
-魔族シェリー視点-
ケイトがたった90日で見違えるほど強くなった。
マリー様に鍛えられたから当然だし、強くなったと言っても一流冒険者にはまだ全然届かないレベルだわ。
でも、このままならいつかはマリー様の横に立てるほどに強くなるかもしれない。
何しろ、ケイトは努力家で研究熱心だもの
あんな武器とか普通は思いつかない。
そもそも10色の全てを使う魔法とか考えもしない。
『色魔法の同時使用は2色が限界』と言われ、干渉し合わない色同士を使うのが普通なのよ。
ただ…あの武器の刃は枠の中に10枚。
つまり10色の色魔法にのみ対応した武器なのよね。
『無』の色魔法はもうあきらめたのね。
そうよね。
私はこっちに来てから90日ずっとケイトに恩を返さないまま。
だって、好きでもない相手とキスなんてできないもの。
ただ…マリー様ったらひどいのよ。
音と姿と振動を消す結界を張ってくれるって言いながら、少しだけ音が漏れてるのよ。
あれは絶対わざとよ。
私がケイトとそういうことをしたくなるように仕向けているんだわ。
絶対にやらないから!
だって、ケイトの剣を見ればわかるじゃないの。
ケイトは『無』の色魔法が無くても戦える武器を選んだのよ!
-元魔王ブラッディマリー視点-
ケイトは強くなったわ。
でも、Aランクパーティでどうにか倒せるくらいのボスを倒せるほどじゃない。
お膳立てはしてあげるけど、とどめはケイトが刺さないとクリスさんに『倒してきました』と胸を張って言えないでしょうから。
「ケイト!とどめを!」
「…『紫色武器強化』『橙色武器強化』『金色武器強化』『銀色武器強化』!たあっ!」
ガキンッ!
やっぱり駄目だったわ。
魔法と剣の熟練度がもっと高ければいいかもしれないけど。
「撤収するわよ」
ボスは私がとどめを刺して帰るわ。
明日にはリポップするはずよ。
それで倒せたとして、運よく『変化の魔道具』が出るとは限らない。
やっぱり『無』の武器強化魔法も載せるべきなのよね。
でも、シェリーはいまだにケイトに心を許していないみたい。
毎晩、うっすらとエッチな声を聞かせているのに、効果は無いみたいね。
違う方法を考えようかしら?
無理強いじゃないのよ、本当はシェリーもケイトのこと好きなはずなんだから。
それに、もし今回駄目でも、また来ればいいのよ。
ケイトとまた100日くらい一緒に居られるなら、そっちのほうがいいわ。
-主人公ケイト視点-
このままじゃあ駄目か。
仕方ない、シェリーに頼むしかないか。
でも、今更受け入れてくれるだろうか?
「マリー。お願いがあるんだけど」
「何かしら?」
「しばらく、シェリーと二人きりにしてほしい」
「まあっ!…じゃあ、お邪魔虫は退散しますから、ごゆっくりー」
「マリー様、ちょっと?!」
嬉しそうに部屋から出て行くマリーには悪いけど、そういう話じゃないんだよな。
「ケイト、話って何?」
「実は、頼みがあるんだ」
-魔族シェリー視点-
ケイトと二人っきりにされてしまったけど、ドキドキなんてしないわよ。
それに、きっと『無』の武器強化呪文を教えてほしいって話だろうから。
残念ながら、もう教える気は無いのよ。
「今度のボスをどうしても倒したいんだ」
「そうよね。それで私に何をしてほしいの?」
「『無』の武器強化の魔法を…」
やっぱりね。
「教えないわよ」
「俺の武器にかけてほしい」
え?
シュン
ケイトが異次元箱から武器を取り出す。
「この武器は10枚の薄い刃とフレームでできているけど、このフレームは実は刃を支えるためだけにあるんじゃない」
ガチャン
刀の柄を操作すると、10枚の刃を支えているフレームが開いて刃が取り外し可能になったわ。
このまま刃の根元の留め具を外せば取り外したり飛ばしたりできるのよね。
「この状態ならフレームが10枚の刃から独立した刃になるんだ」
「え?まさか?」
「フレーム部分に『無』の色魔法が載せられるようにしてあるんだよ」
!!
開いたフレーム部分は鋭く、突いて攻撃できるようになっているわね。
無の属性魔法は他の色魔法全ての反作用。
だからどれとも同時に掛けられない。
でも、これなら10色の魔法を掛けた上に、無の色魔法も掛けられる。
そんな仕組みになっていたなんて…。
「この状態では全ての刃が不安定で『突き』しか使えないし、刺してから抜くときに折れる可能性もあるから、1度使ったらおしまいの技になるかもしれない。だけど『全』と『無』の合わさった『超』の武器強化ならきっと最高の威力が出せると思うんだ」
とんでも無いことを考えるのね。
というか…なによ。
『無』の色魔法のこと、全然あきらめてないんじゃないの。
「どうしてよ」
「ん?」
「どうして90日間、ずっと私の事を放っておいたのよ」
「放っておいたわけじゃないんだけどな」
「『無』の色魔法が覚えたいなら、もっと私にアプローチしてくれてもいいし、お願いしてくれても良かったじゃないの!」
これは私のただの言いがかりだ。
私だってずっと恩を返そうとしなかったのだから。
「だって、シェリーの事をどう考えたらいいかわからなくて」
え?
「色魔法を覚えるのにキスしか方法が無くて、お互い好きでもないのにそんなことをするわけにいかない。だからって、無理に好きになったりなってもらったりって言うのも違う気がするから」
そうなの。
でも、それって私に好きになるような魅力が無いってことよね?
自分でひどいこと言ってるってわかってるのかしら?
ぴろん
え?マリー様?
マリー『ごめん。全部聞いてた』
ええっ?!
マリー『こう言いなさい。『魔法は使ってあげるけど、その代わりにキスだけして』って』
どういうこと?
その言葉に何の意味があるの?
マリー『あとで『キスはやっぱりやめたって』言えばいいから』
マリー様の言葉を疑ったらいけないわ。
それにキスはする前に『やっぱりやめた』って言えばいいのよね。
「ケイト。じゃあ明日のボス戦で『無』の武器強化の魔法をかけてあげるわ」
「本当?!ありがとう!」
「その代わりに私にキ、キスしなさいよね」
「えっ?」
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