第94話 元魔王は椅子との絆を作る
魔王陥落
-王女クリステラ視点-
「ケイト」
「はい」
「刀はケイトの国の武器でしたわね」
「そうですね」
「色々な刀がありますの?」
「色々ありますけど、素人目にはあまり変わらないかもしれないですね。それでもすごくきれいなものだって聞きますよ」
そうですのね!
早く刀に触れてみたいですわ。
「刀を扱う時の服装は鎧ですの?」
「武士の格好って鎧かな?あれは甲冑だから…そうだ!クリス様ならきっと和装の剣士がお似合いです!」
勉強が終わってからケイトは女性の剣士が主人公のアニメを見せてくれましたわ。
それは美しい『着物』を身に纏い、長い髪を束ね、長い刀を背負い、魔物を退治する少女。
細身の少女が刀のひと振りで魔物を次々と両断していきますわ。
「こういう服装がいいですの!」
「あの世界の武具店には刀があるそうですから、きっとこういう着物も…あっ!」
急に驚いてますけど、どうしたのかしら?
-主人公ケイト視点-
しまった!
完全に失念していた!
クリス様たちってあの世界の人よりずっと背が低いから、服とかあんまり選べないかもしれないぞ。
刀も長過ぎると扱えないだろうし。
とりあえずクリス様にその事を話す。
「ケイトを見たときにも思いましたけど、この世界の人は他の世界の人よりも背が低いのですわね」
「だから後で武具屋の下見に行ってきます」
「すぐ戻れるのでしょう?今日の用事はあとお風呂と夕食だけですのよ」
「わかりました。すぐに行ってきます」
内蔵型スマホからマリーに連絡してと。
コンコンコン
来たみたいだな。
俺はディアナ様の領地に来たマリーと合流して異世界に転移する。
-元魔王ブラッディマリー視点-
ちょうどいいタイミングだったわ。
でも、武具店に行く前に少しは身を守れるようになるべきよね。
「あれ?いつもの転移場所じゃない?」
「ここは私の部屋よ。外に出る前に、色魔法を伝授した方がいいでしょう?」
「つまり例の方法だよね?」
「この伝授方法は知識でしか知らないけど、1つの色魔法を伝授するのに1分程度でいいはずよ」
「1分って長いなあ」
それって私と1分もキスしたくないってことかしら?
「息が続くかなあ?」
そういう意味なのね。
良かったわ。
「私は1時間くらい息を止めても平気よ」
「さすが元魔王。じゃあ俺が頑張って息を止めるよ。二人とも息が続かないなら、違うキスにしようかと思ったけど」
違うキス?
「どういうのかしら?」
「口を開けたままキスすれば息もできるからさ」
それって…
ぷしゅー
あああ。顔が熱くなるのがわかるわ。
知識では知ってるわよ。
濃厚なキスのことね。
「ケイトが息苦しいといけないから合わせるわね」
「マリー、1分くらいなら息を止められないこともないよ。マリーの好きなほうでいいから」
もう、そんな意地悪言って。
私に『そういうキスがしたい』って言わせたいの?
「私はケイトの好きなほうでいいわよ」
「それなら成り行きで」
「そうね」
ちゅ
最初は軽いキス。
時間が経ってケイトの息が苦しくなって口が開いたら…ちょっと、もう開いてるじゃないの。
ふふっ、仕方ないわね。
ちゅむ、ちゅう
ああ、全然違う。
触れるだけのキスとは別物ね。
「ちょっといい?」
え?
「まだ伝授中よ」
「いや、たぶん5分以上経ってるよ」
本当だわ!
ついキスに夢中になってたのね。恥ずかしいわ。
「それで、伝授されたってどうわかるの?」
「『天啓の儀式』のスキルみたいに魔法が頭に流れ込んで来ない?」
「全然来ないけど」
え?
どういうことなの?
-主人公ケイト視点-
もしかして、伝授がうまくいってない?
「ちょっと鑑定してみます」
この世界は上級鑑定しても会話できないから、うまくやらないといけないな。
「『上級鑑定』!マリーから俺への色魔法の伝授方法について!」
あれ?
魔晶石が消えない?
「『物事のやり方』は鑑定で調べることじゃないと思うわよ」
そうか!
いつもキャンティがやり方まで教えてくれたりしてたから、そういうものだと思ってたよ。
えっと…そうだ!
「『神託の王座』のスキルを使うよ」
これは『最高の椅子』の職業で与えられたスキルの1つ。
俺が椅子や台の上に座って『脚と背もたれがある椅子状態』になり、そこに座ってくれた人が神託を受けられるというスキルだ。
質問内容は俺が頭に浮かべればいいけど、結果は座っている人の頭の中にしか伝えられない。
簡単な質問なら短時間で教えてもらえるけど、難しければ長時間座らないといけない。
「じゃあマリー、ここに座って」
「わかったわ」
-元魔王ブラッディマリー視点-
体が大人に戻ってからケイトの上に座るのって初めてよね。
ちょっとドキドキするわ。
「ケイト、私って重くないかしら?」
「全然平気ですよ。じゃあスキル使いますね…パッシブスキルって口に出さなくてもいいんです?」
「普通のスキルでも言う必要のあるものだけしか言わないわよ。魔法は最低でも呪文名だけは言うわ」
「じゃあもうスキル使ってます」
どのくらいかかるのかしら?
あっ、来た!
『マリーからケイトへの色魔法の伝授は、種族の大きな違いにより大変時間がかかる。一度に色魔法そのものではなく、それに含まれる呪文1つずつであれば高速伝授30分で可能。低速伝授では不可能』
そうなの?!
全然伝授が進まないじゃないの!
「ケイト、高速伝授より早くできる方法がないか聞いて」
「はい」
『両者の交わりが深いほど早くなる。…をするときや…で…するなど』
ぼんっ!
あ、だめ。
こんなに赤面したら何を聞いたか気付かれてしまうわ。
でもケイトは私の頭の後ろだから見えてないわよね?
-主人公ケイト視点-
高速より早くできないかって、キスではだめってことか。
あれ?
マリーの耳が真っ赤になってる。
内蔵型スマホで正面から見て…あっ顔が真っ赤。
察し。
これはとんでもない方法を言われたな。
『みょぎりんこ』なやつか、それ以上のだな。
できる限界はカリナやサフィとしていた連続して『みょぎん』をすることくらいかな?
でもさすがにマリーにそれは頼めないよな。
-元魔王ブラッディマリー視点-
え?
まだ続きがあるの?
『体質により○○○などができなくても、『みょぎん』を繰り返せば数分で呪文1つの伝授が可能。短時間で連続して『みょぎん』になるほど早く行える』
そうなのね。
そんなことまで教えてくれるの?
『マリーがそういうことをしてくれないかについては、その心配はない。マリーは心の底からケイトに惚れて…』
「きゃああっ!」
思わず立ち上がってしまったわ。
なに今の?
まさか、ケイトが疑問に思ったことが全部神託されるの?
「この神託の内容ってケイトには聞こえてるの?」
「聞こえないよ」
「このスキルは危ないわ。ケイトが考えていることが全部神託されるのよ」
「ええっ!」
今度はケイトが真っ赤になったわ。
まさかもっと変なことも考えてた?
どすん
「マリー!だめだから!どいて!」
「『束縛』。動かないで」
私ったら何してるのかしら?
ケイトの脚に跨がるように向い合わせで座って…
『マリーがいい匂いがするのはケイトに気に入ってもらえそうなハーブを使ったシャンプーを使っているから。マリーのキスの味はケイトとのキスのために準備していたスカーレットレモンの皮から取ったオイルの味。マリーの…』
反対向きに座ってもスキルは作動するのね。
「ケイトったら、どれだけ私の事知りたいの?」
「うう」
「スリーサイズとかは知りたくないの?」
-主人公ケイト視点-
このスキル危険すぎるよ!
それにこんな体勢だと余計に色々頭に浮かんで…
心頭滅却
火災保険
一進一退
ああっ、うまく集中できない!
「ケイトったら、どれだけ私の事知りたいの?」
「うう」
「スリーサイズとかは知りたくないの?」
そ、それはっ!
「え?『聞かなくても内蔵品でわかる』って何?」
「あの世界の人は身体測定器を内蔵してるから…」
「それで測ってもいいのよ。いい機会だわ。ケイトが聞きたい私のこと、全部教えてあげる」
「ええっ?!」
-元魔王ブラッディマリー視点-
おかしいわ。
私ったら暴走してるみたい。
でも、ケイトの反応が面白くて…。
さあ、私の何が知りたいのかしら?
『マリーの格好いい稲妻型の角については、魔族の力を溜めておく場所である。形状は大変珍しいがいじめの対象にもなった』
そういうこともあったわね。
ん?格好いい角ってケイトの主観?
「ねえケイト。私の角ってどう思う?」
「稲妻みたいで格好いいなって。あと、燃えるような赤い髪の色に凄く似合ってるなって思うよ」
私はこの髪の色も角の形も好きじゃなかったけど、これからは好きになれそうだわ。
『マリーの過去については質問を絞ってください』
あら、そんなことも知りたいのかしら?
それとも、エッチな質問をしないようにしてる?
それじゃあ面白くないわ。
むにゅ
ちょっと胸をケイトの顔に押し付けるわよ。
「え、ちょっと!」
「もっと自分に正直な質問をしてほしいわ」
『どうしたらこの状況を抜け出せるのかについては、マリーを満足させないと無理。あるいはマリーが聞きたくない神託を想定して質問する』
こういう神託ってケイトに聞こえないから無意味よね。
「マリー」
「なに?」
「降りてくれない?」
「だーめ」
「それなら、ちょっとひどい事するから」
え?ひどい事って何?
『マリーの黒歴史その1。魔王になりたくなくて幼児化した晩におねしょをした。マリーの黒歴史その2…』
「いやあっ!」
しまった、立ち上がっちゃったわ。
その手があったのね。
神託を聞かなくても思い付くなんて、やるわねケイト。
「くすっ、ふふふふ。もう、ケイトったら本当に面白いわ」
「笑い事じゃないです。あんまり心の中を覗かないでほしいな」
「あんまり?」
「できればやめて」
「たまにはいいの?」
「ちょっとだけ楽しかった。たぶん、マリーだから」
きゅん
ケイト、そんなこと言ったらどうなるかわかってるのかしら?
ひょい
「え?」
私がケイトをお姫様だっこしてベッドに連れていくわ。
「待って!普通逆だから!」
「動けないでしょ?」
「そうだけど!動けるようにして!」
「ねえ、ケイト。伝授をするから『みょぎん』が連続でできる方法を教えなさいよ」
「やっぱりそれなのか!」
「とりあえず、橙魔法の呪文を1つ教えるわね。この色魔法は抵抗に関するものよ」
-主人公ケイト視点-
はあはあ。
下着姿で肘の裏同士を触れさせる方法で『みょぎん』は連発できるけど、精神が持たないよ。
『橙魔法【精神防御】の呪文を覚えました』
まさかこの魔法のチョイスって?
「覚えられたみたいね。その呪文を使って精神抵抗を上げてから続きをするわよ。それならもっと激しくしても大丈夫よね?」
そんなあ!
うう…男性だけど征服された気分…。
【精神防御】でももう限界。
一応色々と身を守れそうなのを中心に伝授してもらえたけど。
マリーはさすが魔王だな。
あれだけ『みょぎん』をしても全然平気みたいだ。
「ケイト、もしかして私が全然平気そうって思ってる?」
「そうじゃないの?」
「耐えることはできるけど、気持ちよさはそのままなのよ。だから、私はもう完全にケイト無しではいられない体になったから」
ええっ?!
「本当ならこのまま二人っきりでどこかに行きたいけど、それは諦めるわ。その代わり」
「その代わり?」
「ケイトの最初の恋人にして。ケイトってまだ正式な『恋人』って居ないわよね?」
そう聞かれて真っ先にサフィが思い浮かんじゃったよ。
「あら?」
じっとこっちを見つめてくるマリー。
気づかれた?
-元魔王ブラッディマリー視点-
今のって、『恋人』って言われて誰かを思い浮かべたわね。
また神託で聞き出そうかしら?
でも嫉妬深いって思われるのも嫌だわ。
「最初の恋人はもう居るのね。じゃあ、最初の愛人にするわ。これだけ濃密な時間を過ごせるのは恋人より愛人よね」
「マリー」
「なあにケイト?」
「マリーは俺にとっての『最初のヒロイン』じゃ駄目かな?」
!!
クリスさんはご主人様だからヒロインじゃないってことなの?
「いいの?」
「あの時、魔王であることに苦しんでいたマリーは本当にヒロインだったよ。だから救い出したくなったんだから」
きゅうんっ
今、本当の意味でケイトに堕とされたわ。
ケイトにかけた束縛をはずして。
「ケイト。武具屋に行きましょう」
「あ、うん。行こうか」
自分がケイトにとっての何かってわかったら、もう慌てることも焦ることも嫉妬することも無いわ。
私は勇者様の最初のヒロインなのだから。
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次回も明日、2月16日18時更新です。




