第93話 元魔王は椅子に色魔法を授けたい
椅子ってすごいな
-主人公ケイト視点-
昨日は…って冒険の世界での昨日だけど、トラブルがあったけど何とかなったな。
マリーには感謝しないと。
それに、夕べの件もね。
ぴろん
マリー『もう起きたかしら?ちょっといい?』
ケイト『カリナとサフィはまだ寝てるから、今から行くよ』
マリーとシェリーにも連絡用に文字でのやり取りだけできる内蔵品を渡してある。
それで夕べは、声が部屋の外に漏れない魔法をかけてもらえたんだ。
領地だと声とか漏れないけど、ここは普通に漏れるもんな。
夕べのやり取り。
マリー『ちょっと、声が聞こえてるわよ』
ケイト『あっ!ごめん、やめるよ』
マリー『大丈夫よ。消音の魔法を壁と床に掛けておくから』
ケイト『ありがとう』
マリー『その代わり、朝になったらちょっと相談に乗ってもらえる?』
ケイト『うん、いいよ』
マリーには迷惑かけちゃったものな。
コンコン
「いいよ、入って」
「マリー、夕べはごめん」
「うん、あれはひどかった。向こうの世界では声が聞こえないからいいのだろうけど、こっちの世界では気を付けてね」
「本当にごめん」
「それで、ケイト。色魔法を覚えてみない?」
「色魔法?」
それって、白魔法とか黒魔術みたいなもの?
「色魔法っていうのは伝授さえすれば使える魔法なのよ。それをケイトたちに教えてあげようと思うの」
「え?いいの?」
「いいに決まっているわ。もう、いい加減に私がどれほどあなたに感謝しているかをわかってほしいわ」
「そっか。ごめん」
「それでね、何の色を教えられるか調べたいのよ」
「え?今?」
「うん、今よ」
-元魔王ブラッディマリー視点-
夕べというか、まだちょっと明るい時間からあんな声出されてびっくりしたわ。
シェリーが居ない時で本当に良かったわ。
「それでね、何の色を教えられるか調べたいのよ」
「え?今?」
「うん、今よ」
クリスさんたちが居ない今がチャンスなのよ。
「ケイト、覚えられる色魔法は人によって決まっていて、覚え方にも特別な方法を使うの」
「そうなんだ」
「それでね、これを見て」
水晶玉をそこに置く。
「これに手を乗せて、光った色に適性があるってわかるわ」
「何色あるの?」
「白、黒、青、赤、緑、黄、紫、橙、金、銀の10色と無と全よ」
「無と全って何?」
「色は10色なんだけど、そのどれにも適性がないのが無、全ての色に適正があるのが全よ。だから誰でも使えるってことね」
ケイトが何色になるか、すごく興味があるわ。
ちなみに私は『全』。
だから『無』以外の全てを教えられるわ。
ケイトが『無』でなければいいのだけれど。
「もしかして紫かな?」
「どうして?」
「実は前に『完全透明水晶』って宝石があって…」
人によって違う色を示す水晶って、これにそっくりだわ。
でも、これと違って完全に透明らしいのよね。
それに、これは周りに星が飛んだりしないから全く別のアイテムみたいね。
「やってみて」
「わかった」
ケイトが水晶玉に手を載せると…色が出ない。
まさか『無』?!
そんなっ!
この色魔法を伝授するには二通りの方法があって『高速伝授』と『低速伝授』があるのよ。
『低速伝授』は1週間毎日1回1時間以上の時間をかける必要があって、やり方は体の一部どこでもいいから触れるだけ。
普通は手ね。
『高速伝授』は短時間かつ1回で終わるけど…唇で触れ合わないと駄目なのよ。
唇よりも強い接触でもいいけど、今の体質では無理だわ。
ケイトに『昨日みたいなことが無いように、早くみんなを守れる力を身に着けない?』って言うつもりだったのに。
これもケイトが悪いんだから。
私はゆっくり外堀を埋めるつもりだったのに、他の女の人とあんな声出して…。
本当は私の部屋の方だけ音を遮断しなかったのよ。
もう、お陰で『みょぎりんこ』がどんなものかを実際に体験しちゃったわ。
はしたないわ。
とにかく『無』ではどうしようもないのよ。
「ケイト。残念だけど私は『無』を教えられないのよ」
「え?そうなの?残念だな」
こっちも残念だったわ。
とりあえず、他の人に教える時は『高速伝授』のことは教えないようにしましょう。
だって、私はまだファーストキスもまだですもの。
「あれ?手が取れない?」
「うそ?」
ケイトが右手を持ち上げたらそれに水晶玉がくっついていく。
こんなの見たことないわ。
「どうなって…ああっ!左手もくっついた!」
「どうして?」
「あっ、駄目だよマリー!触ったら!」
ぺたぺた
私にはくっつかないわね。
魔道具が壊れた?
いえ、見る限り正常に動作しているわ。
じゃあいったい何?
ケイトの手にだけくっつくなんて。
「まさかずっとこのまま?」
「仕方ないから壊すわ」
「高いよね?」
「まあね。でも、仕方ないわ」
私の居た世界から持ってきたもので替えは無いけど、ケイトに迷惑はかけられないわ。
「ちょっと待って。もう少し引っ張ってみる」
「無理しないで」
「うん…あれ?動く?」
「動くって、何が?」
「ほら」
ガキュン!
変な音がして水晶玉が真球から立方体になったわ。
どういうことなの?!
-主人公ケイト視点-
何これ?
水晶玉を立方体にしちゃった。
「どういうこと?」
「私が聞きたいくらいよ。こんなの初めてだし、聞いたことも無いわ」
「それで、色魔法はどうなったの?」
「色が出ないから『無』だと思ったけど、違うかもしれないわね」
そもそも『椅子』だからおかしかったりして。
「『全』の場合はどうやって光るの?」
「虹のように10色の光が同時に出るのよ」
「2色の人とか居ないの?白黒とか金銀とか」
「まれに居るわよ。その場合は2色覚えられるわ」
「9色とかは?」
「聞いたことないわ。最高でも4色ね」
すると…
「『全』って、ステータスにもそう出る?『10色魔法』とか『全色魔法』とか出ない?」
「色魔法は別々に10個表示されるわ。『全色魔法』っていう魔法自体は無いのよ」
「それが本当の『全』とは限らなかったりして」
「まだ他に色があるってこと?」
「色じゃなくて、実は『形魔法』があったり」
「ええっ?!」
突拍子もない思い付きだけどね。
とりあえず、鑑定してみるか。
「『上級鑑定』!この水晶玉はどういう結果を表しているの?」
『色魔法鑑定水晶について』
色魔法の適性を調べられる水晶。
色魔法は10色及び無と全がある。
ごくごくまれに『無色』と『全色』の両方の適正を持っている人がおり、その場合の水晶玉はなぜか立方体になる。
その場合は『超色』の色魔法と呼ばれる。
また、立方体になった水晶玉は真球に戻すまで鑑定に仕えなくなる。
「あった!」
俺は鑑定結果を説明する。
「まだもう1つあったのね。でも困ったわ。『無』を持っているのってシェリーなのよ」
「伝授してくれそうにないんです?」
「そうね。キスとか嫌だろうし」
「キス?!」
どういうこと?!
「あっ。えっと、その、キスって言うのは特別な方法で、本当は手をつなげばいいのよ。でも、手をつなぐと1色ごとに毎日1時間ずつ1週間かかるのよ。ほら、昨日みたいなことが無いようにケイトはなるべく早く魔法とかで身を守れるようにした方がいいかなって。だから、その…」
あれ?
いつも冷静なマリーがあたふたしてるぞ。
-元魔王ブラッディマリー視点-
うっかりキスの事を言っちゃったわ!
ううん、言うつもりだったけど、タイミングが違うとこんなに焦っちゃうのね。
「だから、キスするとすぐに覚えられるの。その、だから、えっと、だけど、」
勇気を出してキスするつもりだったのに、急に勇気がしぼんじゃったわ。
「キスじゃなくて時間がかかる方法がいいよね?」
「時間をかけないほうがみんなを早く守れるようになるんだよね?」
えっ?
「そうよ。でも私なんかとキスしたくないわよね?」
「マリーが嫌ならやめるから」
何それ。
どうして急に積極的になったの?
みんなを守るためなら、私とのキスくらいしてもいいってことなのね。
私の気持ちは考えてくれないのかな?
…ちょっとそういうのは嫌かな。
「私は…」
「ごめん。嘘」
何だ、嘘なの。
でもちょっと複雑な気分ね。
「ごめん。本当はマリーってすごく綺麗だからキスしたくなっただけだから」
「ケイト」
「うん」
「あなたってひどい女たらしだわ」
「本当にごめん」
「だからもう面倒なのは無し。私はあなたに救われた時からあなたの事が好き。だからキスして。好きになってくれなくていいから、キスしたいの」
「俺の状況って知ってるよね?」
「知ってる。エッチでスケベで、たくさんの女の子といちゃいちゃしてる女たらしで…私の大好きな勇者様よ」
ちゅっ
あっ
どっちからかわからないけど、もうキスしてた。
「ケイト、急にキスしてきても伝授できないわよ」
「今のはマリーからしてきたんじゃないの?」
「違うわよ。ケイトから…んっ、ほら」
「俺は動いてないよ…ちゅ…あれ?」
「もう、どっちからでもいいわよ」
「そうだね」
ちゅ、ちゅっ
「それで伝授はいつするの?」
「それが時間切れなのよね」
「え?」
カリナとサフィが起きた気配がしたわ。
「シェリーにも相談しておくから、またあとで」
「うん」
-魔族シェリー視点-
ケイトたちが帰ってきて、入れ替わりで私が戻ったけど、マリー様の様子がおかしいわ。
「マリー様、どうしたんです?」
「…キスした」
「え?」
今なんて?
「ケイトとキスしたわ」
「ええええっ?!」
「キスって、あんなふうなものなのね…」
おのれ!許さないわケイト!
よくも神聖なるマリー様の唇を!(※魔族です)
「ねえ、シェリー」
「なんです?!それよりケイトの抹殺命令をください!」
「シェリーもキスしてみない?」
「え?!」
わ、私が?
マリー様と?
…いいのかしら?
どういうこと?
ケイトの口直し?
そうか、きっとケイトに無理やりキスされたのね!
「そういうことでしたら!でも、私は初めてですから…」
「初めてでも大丈夫よ。慣れているもの」
慣れてしまうくらいケイトとキスしたっていうの?!
これは私が徹底的に消毒してあげます!
「じゃあ目を閉じて」
「はい」
ちゅ
ああ、ついにマリー様と!
って、別にマリー様とこういうことをしたかったわけじゃないのよ。
でも、最初がマリー様ってのは嬉しいわ。
あっ、マリー様の口が離れてしまう。
ぱち
眼を開けると、目の前にケイトの顔があった。
「きゃああああああああああああ!!」
どうして?どうしてなの?!
「マリー様、どうして?」
「私がケイトとキスをしたから、シェリーもキスしないかって聞いて、いいと言われたから、ケイトとキスしてもらったのよ」
「そういう意味じゃないですっ!私はマリー様とキスするつもりで!」
「嫌だった?」
「嫌でした!あああああ、私の初めてが…」
「まだ未遂よ」
「え?」
シュンッ
ケイトの姿が消える。
「今のは幻影よ。感覚もあるけどケイトじゃないわ。もしかしたら嫌かと思って試してみたのよ」
「もしかしなくても嫌です!」
良かったわ!
「そっか。私は嬉しかったのだけど…。悪かったわ」
「もういいです。私は絶対にケイトを好きになんてなりませんから」
「どうしてそこまで嫌うの?」
「どうしてもです!」
マリー様を救ったのが私じゃなくてケイトだから…たぶんそれが嫌なのよ。
私の存在意義が無くなりそうだから。
マリー様が取られそうだから。
「じゃあキスはしなくていいから、『無』の色魔法の伝授だけ頼めないかしら?」
「ケイトは『無』だったんですか?!」
どうしてよりによってそれなの?
それなら私しか伝授できないわね。
でも手で触れるくらいなら我慢できるかしら。
「これを見て」
マリー様は机に箱のようなものを置いた。
「箱?石?え?まさか水晶?」
「しかもこれは『色魔法鑑定水晶』よ」
「うそっ!」
どうしたらこんな形になるのよ?!
「ケイトを鑑定したらこうなったのよ」
「あれは椅子だからよ。だからこんなふうになるのね!」
「そうかもしれない。でも、調べたところ『全』と『無』の両方の適性を持っているとこうなるらしい」
「ええっ?!」
『全』と『無』の両方持ちなんて聞いたことないわ!
「それで、『全』は私が伝授するから、『無』を伝授してやってほしい」
「『低速伝授』ですよね?」
「もちろんよ」
「マリー様も?」
「全色やるのに時間が無いから高速伝授しかないと思うのよ」
「そんなことでキスするとか駄目です!10色ずつ7日で70日だから、向こうの時間でも70時間ですよ。無理じゃないでしょう?」
「そうか。70日間ずっとケイトと一緒に居られるなら、そのほうがいいかな」
マリー様がすごく嬉しそうにしてる!
「やっぱりだめです!ちゃっちゃと終わらせましょう!」
「キスするけどいいの?」
「もうしたんですよね?ってどうしてキスしているのに伝授してないんです?!それとも一色だけ伝授したんです?」
「いや、まだ何もしてないわ」
どうしてよっ!
考えたくないけど…ケイトと恋仲になったってこと?
「まだ恋人じゃないけど、なんだかいい雰囲気になったのよ。それに『マリーってすごく綺麗だからキスしたくなった』なんて言ってくれたから」
「無理やりされたんですねっ?!」
「どっちからしたかわからなかった」
「どういう状況なんです?!」
「何回かしていたら、もうどっちからとかどうでも良くなって」
「1回だけじゃないんですかっ?!」
「邪魔が入らなければもう少し…いや、色魔法の伝授もできたのだけど」
駄目だわ。
マリー様は完全にケイトに堕とされたのね。
「わかりました。ではさっそく伝授するから、ケイトを連れてきてください」
「そう?助かるわ!」
これは本気でケイトと雌雄を決するときが来たようね。
ケイト!マリー様は絶対に渡さないわよ!
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