第88話 ドS王女様は冒険者になりたい
外伝として準備してあった『半畳領地のお姫様は〇〇恐怖症なので俺の△△△△に入って冒険します』を本編に持ち込みました。
-王女クリステラ視点-
コケコッコー
朝ですわ。
夕べはケイトと一緒に寝られて良かったですの。
気絶から覚めたケイトにベルトでさらにお仕置きしてから寝たせいかしら?
ケイトはまだ起きていないみたいですわね。
わたくしより起きるのが遅いなんて、下僕失格ですわ。
でも…ケイトが戻ってくると本当に嬉しいですの。
ほんの少しの間だけ居ないだけでも、こんなに胸が苦しくなるなんて。
これが前にキャンティが言っていた『哀』、失う悲しさなのですわね。
「ん?クリス様?あっ!寝過ごした!おはようございます!」
わたくしの下で座椅子状態のケイトが慌てて挨拶をしてくれますわ。
「いいですわ。わたくしも今起きたところですの」
今日は4月25日の土曜日ですわね。
28日がテストで、30日が舞闘会ですわ。
そろそろ舞闘会ですわね。
楽しみですわ!
「えっ?!舞闘会のルールの見直しですの?!」
「そうですわ。まさかあれほどの威力の技を出せるようになるとは思いませんでしたもの。モンスター相手ならともかく、人間相手では危険ですわ」
お母様の言うとおりですわね。
今まで領主は生身で参加していましたもの。
駒に乗り移れば倒されても復活できますけど、生身ですと大ケガしますわ。
「レベルの高くなった舞闘会用のルールがあるそうですの。それを確認してきますわ。あと、あの威力だと舞闘会の城壁が壊れかねませんの」
「そんなにですの?!」
「今月末の舞闘会は延期になるかもしれませんわ」
楽しみにしていましたのに残念ですわ。
ダンジョンも行けませんでしたし、ちょっと欲求不満ですの。
あのダンジョンにはもう潜れないかしら?
「キャンティ、あのダンジョンにはまだ潜れますの?」
「あれか。ダンジョンマスターであるシェリーが居なくなった時点でダンジョン内のモンスターは消えたそうだ」
「そうですの?!」
「もう今はただの洞窟だな」
もう冒険はできませんのね。
残念ですわ。
-主人公ケイト視点-
クリス様、なんとなく元気がないな。
舞闘会が延期になったからかな?
せめてあのダンジョンで冒険ができればなあ。
でも、元気なくてもきちんと勉強できるのはすごいよな。
「クリス様、お昼ご飯の支度をしておきますね」
「わたくしはその間にルビィアを見てきますわ」
さて、お昼ご飯は何にしようかな?
しゅううん
え?
え?
足元に魔法陣が?
まさか、またどこかに飛ばされる?!
「クリス様!」
叫んでも扉が閉まっていると向こうに声が聞こえない。
CHAINでみんなに連絡を…とにかく扉を開けて向こうに!
むにゅ
え?
扉の方に伸ばした手に、柔らかいものが触れた。
「ケ、ケイト。再会していきなりそんな事をするなんて、大胆ね」
マリー?!
「マリー様。だからケイトは変態だからやめておこうと言ったのです」
背後からシェリーの声がする。
どうして二人がここに居るの?!
-王女クリステラ視点-
わたくしの領地から見知らぬ女性が出てきて驚きましたわ。
ケイトが助けた魔王さんですのね。
マリーって人はものすごい美人さんですの。
背も170くらいあるかしら?
シェリーも大人っぽくなってましたのよ。
「それで、どうしてこちらに来たのかしら?」
共用室に全員集合して、二人に質問をしますの。
「実は、皆さんと冒険がしたくて」
「冒険?!」
-元魔王ブラッディマリー視点-
私は勇者パーティの一人として、この世界の魔王を倒した。
元魔王としては複雑な心境だけど、人々を苦しめていたのだから、魔王もいつか退治されるかもしれない覚悟はあったに違いないわ。
魔王とはそういうものなのだから。
「ありがとう、マリー。おかげでこの世界は救われた。それで…これからどうする?」
イケメンの勇者が笑顔で私のもとにやってくる。
「そうね…まだ考えていないわ」
「それなら俺と一緒に」
「ちょっと待った!」
「ちょっと待てっ!」
そう言って話に割り込んできたのは、パーティの壁役と罠師。
「マリーさん!俺と一緒に行きませんか?!」
「マリー!大切にするから!ぜひ俺と一緒になってくれ!」
「俺が先に話していたのにお前らが先に言うな!マリー!俺と結婚してくれ!」
勇者パーティは男性3人、女性3人。
うち2人が私とシェリー。
男子全員に告白されるとか想定外すぎ。
みんな見た目も性格もいい人たち。
きっと誰を選んでも私を幸せにしてくれるわね。
でも…
『マリーの髪の毛ってちょっと堅いかな?このシャンプーなら柔らかくなるかも』
『そう?…はうんっ』
『ごめん、角は触ったらいけなかったんだね』
『い、いいのよ。そのくらい』
最初に私の角を触った男性だからってわけじゃないけど…ケイトの事が思い出されるのはどうしてかしら?
ううん、わかってる。
私は勇者と結ばれるヒロインになりたかったけど、
『マリー、この世界は楽しい?違う世界に行ってもいいからな。まだしばらくは付き合えるから』
『ええ、大丈夫よ。魔王をやめられて本当に良かったわ』
私はもうヒロインになっていたんだ。
私を『魔王』という宿命から解き放ってくれた勇者のヒロインに。
「ごめんなさい。私はもう心に決めた人が居るの」
「そっか。うらやましいな、そいつ」
「くそっ!でも、もしそいつに振られたらいつでも来いよ!」
「ちくしょー!(脱兎)」
ふふっ。みんな本当にいい人ですわ。
でも、ごめんなさいね。
私は行くと決めましたの。
私の勇者の元へ。
「はあ、私ってせっかく大人っぽくなったのに、誰にも何も言われないわ」
「シェリー、あなたはどうするの?私は彼のところに行くわ」
「やっぱり?もちろんどこまでもついていきますわ」
シェリーったら気づいていたのね。
私の気持ちが彼に向いていることを。
でも、彼のところに行って彼の主人から彼を奪うような真似なんてしない。
私のことを良く知ってもらって、きっと振り向かせて見せるから。
それこそ、私は何番目の女でもいいから。
勇者はハーレムを持つのが普通ですものね。
「マリー様、私はケイトのことなんか何とも思ってませんから!マリー様についていくだけですからね!それより、本当にいいんですか?ケイトは子供だった私にも欲情した変態ですよ」
ケイトが子供に欲情とかするかしら?
例えそうだとしても、そんな事は些細なことですわ。
さあ、新しい世界でケイトと一緒に旅をする準備をしないと。
みんなが『楽しそうだから一緒に行きたい!』って思えるようにしておかないとね。
ケイト、もう少し待ってててね。
-王女クリステラ視点-
異世界で冒険ですの?!
ぜひ行きたいですわ!
「魔王を倒してからまた新しい世界に移って、先に冒険者登録をしてきたところですわ。最低のFランクスタートですけど、私たちの能力なら皆さんを守るくらいはできますわよ」
安全なら、なおさら行かない手は無いですわ!
「今度の世界は、そこでの1日がここの1時間ですから、1週間くらいの冒険でも日帰りで帰ってこれますわ」
それは素敵ですわね!
「ぜひ行きたいわ!」
「そうね!」
エメル姉さまもサフィ姉さまも乗り気ですの。
「そんなに軽い気持ちで行ってはいけませんわ」
お母様?!
「守ってもらえるとはいえ、絶対に無事な保証は無いのでしょう?」
「そうですが…死ぬダメージを受けても身代わりになるアイテムとかも揃えてありますので」
「それでも『絶対大丈夫』では無いのでしょう?」
「はい」
「そういうことですのよ」
お母様の言うとおりね。
絶対死なない舞闘会とは違うから…やっぱり行かせてもらえませんわね。
「だから、週に1度だけ行ってらっしゃい」
「え?」
「週に1度だけ、自分の勉強とか舞闘会とか、そういうやるべきことの合間に行きなさい」
お母様!嬉しいですわ!
「ケイト、その時は必ずあなたが付いていきなさい。娘たちを頼みましたよ」
「わかりました。でも、ディアナ様は?」
「わたくしはいいですわ。それに、ルビィアが居ますもの」
「それなら、ルビィアがもう少し大きくなったら、観光に行きませんか?」
「観光って何かしら?」
「おいしいものを食べに行ったり、面白いものを見に行くことです。ショッピングもできますよ!」
「それはいいですわね!」
お母様も行けるみたいで良かったですわ。
それにしても冒険ってすごくワクワクしますの!
アニメで見たような冒険がしてみたいですわ!
スライムとか実際に見たいですの!
-双子の妹マリナ視点-
またお兄ちゃんが異世界に連れていかれるの。
ううん、これからは行く人の組み合わせを替えて行くことにするらしいの。
だから、マリナも一緒に行けるの!
舞闘会用の駒で慣れているから、きっとエメル姉さまやサフィ姉さまやクリス様は戦士系なの。
だからマリナはみんなを癒す回復役になりたいの!
『いたたた』
『お兄ちゃん、大丈夫?マリナに任せて!『聖女の癒し』なの!』
『おおっ!もう痛くない!さすがマリナ!頼りになるな!』
『お兄ちゃん、なでなでだけじゃなくて…その』
『それは宿に戻ったらな。愛しい俺の聖女様』
『うん』
「マリナ」
「はわっ?!エメル姉さま?!」
「妄想は寝るときにしたらどうかしら?」
「べ、別に妄想なんて…」
「声に出ていたわよ」
「はわわっ?!」
うそっ!
どこまで言ってたの?!
「嘘よ。でも丸わかりよ」
「わかるのはきっとエメル姉さまやカリナだけなの」
エメル姉さまって鋭すぎるの。
カリナみたいに心が読めるレベルなの。
ううん、『直感』で心を読むカリナと違って、エメル姉さまは『洞察力』で心を読むタイプなの。
すごいの。尊敬するの。
でも、恥ずかしいからマリナにはしないでほしいの。
-双子の妹カリナ視点-
おにいと冒険に出られるです。
すごく楽しみ。
マリナはきっと回復役になるです。
おにいを癒して、褒めてもらいたいはずです。
だからカリナはおにいと一緒の職業にするです。
それで、二人で格好いい合体技を出すです!
合体…はうっ!
そんな不埒な意味ではないです!
そういえば、シェリーの世界に行ったとき、この世界での『体質』はそのままだったです。
『おな〇』も『うん〇』も出なくて、『みょぎりんこ』もあったです。
これって、もう治らないです?
ううん、きっとどこかに治す方法があるはずです。
魔王であったマリーをおにいが救ったみたいに、おにいにカリナの体を元に戻してもらって…
『おにい、ありがとう』
『カリナ、本当に俺たちの体って元に戻ったのかな?』
『わからないです』
『じゃあ、探求するか』
『そ、それしかないです。初めてだから優しくしてほしいです』
『まかせろ。俺の愛しいカリナ』
「カリナ様?」
「はうっ?!サフィ?!」
「勉強中にケイトとのいちゃいちゃを妄想しないでほしいけど」
「そんなことしてないです」
平静を装ってごまかすです。
「向こうの世界に行って元の体質に戻ることができたら、ケイトにそれを試してもらう『探求』をするのね」
「まさか声に出てたですっ?!」
「え?本当にそうだったの?」
「サフィ!鎌をかけたですね?!」
サフィにしてやられるなんて不覚です!
「だって、私も同じこと考えてたから…」
「…」
似た者同士だっただけです。
もし元の体質に戻って、サフィも『みょぎりんこ』が治ったら、いつもの探求みたいに3人で一緒に…。
-主人公ケイト視点-
すごいことになったな。
まさかここから冒険に出られるなんて。
冥曜日がテストだから、その翌日から順に冒険に出ることになったよ。
日曜日がエメル姉さま。
月曜日がサフィ姉さま。
火曜日がクリス様。
週3回で、俺は全部についていくことになる。
責任重大だな。
俺は何の役をやろうかな?
みんなを守りたいから、壁役、いや、もっとしっかり守れる役がいいな。
「ケイト。冒険に出る時、わたくしは何の役目がいいかしら?」
「クリス様は女戦士じゃないんですか?」
「やっぱりそうですわね!あの技をモンスター相手に使ってみたかったですの!」
いや、一撃で2回斬れる『十字斬』とか理論的に出せないと思うけど。
でも、向こうでスキルとかどうなるのかな?
俺の鑑定結果の最後にあった『●☆』も何かわかるかな?
俺の役割はそのスキル次第だな。
マリーたちとちょっとだけ一緒に旅したくらいでは、スキルらしいものは解放されなかったし。
そういえば、今回の件を聞いているはずのキャンティは何も言わないな。
「ねえ、キャンティ。こうやって自由に出入りしてもいいのか?」
「今更聞くのか?まったく、あたしの苦労も察してくれよな」
「苦労ですの?」
何だろ?
「お前たちが勝手に話を進めていたから、あたしが管理局に伺いを立てて『この王国のすることは見守るという方針』だって確認はしておいた」
「つまり、黙認ってことですの?」
「平たく言うとそうだが、実際のところ、この前のダンジョン騒動以来、ああいうことがあっても調査や対処ができる能力を持っている者がまったく居ないのは困るってことらしくってな。それで、何かあった時に管理局の手助けをしてほしいらしいのさ」
「そんなことでしたら、それをもっと早く言ってほしいですわ」
「まだ決まってないからな。管理局がそう考え始めているレベルってことだ。何しろ、実際このことがどういう結果を招くかわからないからな」
そういうことか。
でも、管理局が黙認してくれるのはありがたいな。
-王女クリステラ視点-
早く冒険に行きたいですの!
でも、わたくしが行けるのは火曜日ですの…あっ、ちょうど魔晶石下賜の日ですわ!
少しそれを持っていくといいですわね。
それならなおさら勉強を頑張りますわ!
「クリス様。すごく張り切っていません?」
「当然ですの!目的があると違うんですわ!」
ケイトと冒険に行けるって、すごく楽しみですの!
「ケイト、休憩は異世界冒険のアニメがいいですわ」
「はい」
事前の準備もしっかりしておきますの!
ああ、早く火曜日になってほしいですわ!
お読みいただきありがとうございます。
ブックマークとか感想とかいただけると励みになります(*^^*)
次回も明日、2月10日18時更新です。




