第85話 魔族の女の子は逆襲を試みる。
魔族の話はもう少し続きます
-主人公ケイト視点-
「「お帰りなさいませ、ご主人様」」
サフィ姉さまはともかく、シェリーまで?!
これって『教育』というより『調教』じゃないの?
「おにい、そこに座って」
テーブルの所に座らされる。
「さあ、教えた通り奉仕するです」
奉仕?
いったい何をさせる気なんだ?
まさかエッチなこと?!
なんてね。
テーブルに座らされて、服装がメイドだから、それこそメイド喫茶の真似事でもするんだろう。
「サフィが見本を見せます」
おっ、サフィ姉さまだ。
「ご主人様。ボクがご奉仕します」
あっ、ボクっ娘モードなんだ。
「『準備しておいた飲物を』!」
サフィ姉さま…サフィのほうがいいか。
サフィの手のひらにコップに入った飲物が出てくる。
「どうぞ」
すすっと流れるような動きでコップが置かれる。
カラフルな飲み物だけど、何だろ?
「これは何?」
「最近ランダム召喚で出した中で当たりだった『グレゾ・マッソ』です」
何それ?!
名前から味が想像つかないけど!
「じゃあいただくね」
「ご主人様お待ちください。飲む前においしくなる魔法をかけます」
あっ、これはわかる。
『萌え萌えきゅん!』だな。
「『卑しいメイドのサフィがご主人様を想って作ったエッチなジュースです。サフィだと思ってじっくり、ねぶるように味わってください』」
何その呪文っ?!
しかも胸に両手を当てて、じっと目を見つめてそんなこと言わないで!
いかん、シェリーがいなかったらキスしてたかも。
「あ、うん。ありがとう」
とりあえず飲もう。
飲まないとこっちが恥ずかしい。
ん…おお。表現できないけど何だかおいしい。
リンゴジュースをベースに、チーズっぽいコクと、酸味もあるな。
あと、五味(あまい・からい・すっぱい・にがい・しょっぱい)以外の何かがあるし。
ナニコレ?
「サフィ、おいしかったよ」
「ありがとうございます」
そう言って、サフィメイドは笑顔で後ろに下がった。
-魔族シェリー視点-
何あれ。
あんなことしないといけないのか?
いや、教わっているからわかってたけどさ。
でも、今まで多くの勇者を倒してきた我がどうしてそんなことを!
「シェリー。頭の中でも『わらわ』と『のじゃ』を使うです」
こいつ心が読めるっ?!
「カリナの事はカリナ様と言いなさい」
完全に読まれてるっ…のじゃ?!
ともかく、教わったことをさっさと終わらせるのじゃ。
「ご主人様。わらわがご奉仕するのじゃ」
こんな弱っちい冴えない男相手にどうして媚びねばならんのじゃ!
「『ホットケーキセットを!』」
わらわの手の上に、異次元箱にしまっておいた皿に載ったホットケーキが出てきたのじゃが…なんてうまそうなんじゃ。
わらわが食べたいのじゃ!
こんな男になぞやれるものか!
ジロッ
「『ご主人様、お召し上がりください』」
「ありがとう」
ああっ!カリナ様に見られると勝手に体がっ?!
「これも何かしてくれるの?」
「絵を描くのじゃ」
「絵?」
「わらわはずっとダンジョンの奥でひとりだったのじゃ。暇なときはいつも絵ばかり描いておったのじゃ。ほれ、何でもいいから言うのじゃ」
「『ほれ』です?」
「カリナ様っ?!何でもいいから、お申しつけくださいなのじゃ」
もうあのお仕置きは勘弁なのじゃ!
「じゃあ、猫とか」
「猫じゃな」
わらわはチョコペンでホットケーキの上に絵を描くのじゃ。
黒白茶色の3色のチョコペンで、ささささっと三毛猫を描くのじゃよ。
「できたのじゃ!」
「…」
な、何じゃ?黙りおって?
まさかわらわの絵がそんなに下手くそとでも?!
「すごい!シェリーってすごい絵がうまいんだ!」
「当然なのじゃ!ご主人様のために心を込めて描いたのじゃ」
心なんて込めてないのじゃが、誉められると嬉しいのじゃな。
今まで描いても、誰も褒めてくれなかったのじゃ。
たまに視察に来る魔王様の幹部も、わらわの描いた絵に見向きもしなかったのじゃ。
「食べるのがもったいないくらいだな」
「それならわらわが…いや、何でもないのじゃ」
「ねえ、一緒に食べない?」
「い、いいのかの?」
「シャリー。食べさせあいっこしなさい」
何じゃと?!
この男と?
しかし、このホットケーキを食べられるのであれば…やるのじゃ!
「あーん!」
わらわは男に向けて口を開けたのじゃ。
「ふふっ」
この男は何を笑っているんじゃ?
わらわが口を開けるのがそんなにおかしいのかの?
「はい」
「(ぱく)うまいのじゃっ!こんなおいしいもの、食べたことないのじゃ!」
ダンジョンの奥ではろくな食べ物が無いのじゃ。
ずっと人間の町とかに行って、おいしいものを食べてみたかったのじゃ!
「もう一口食べる?」
「いいのかの?それならいただくのじゃ!」
ぱく
ぱく
ぱくぱく
あっと言う間になくなったのじゃ。
「シェリー」
カリナ様が何か怒っておるのじゃ。
「おにいが満足しているみたいだからいいけど、本当は奉仕されるおにいが先に食べるはずです」
さっき笑ってたのはそのせいじゃったのか?!
「なあカリナ。シェリーがすごく可愛らしいしぐさや言葉になってるじゃないか」
「カリナが教育したから当然です」
「じゃあ、ご褒美上げてもいいかな?」
「キスするです?」
キス?!
何でいきなり?!
絶対嫌だぞ、こんな男と。
「違うよ。お菓子が好きみたいだからさ、もっと食べてほしいなって。サフィやカリナも一緒に食べるだろ」
「はい」
「はいです」
甘いものなんかでわらわの心は釣られないのじゃ!
…
…
おいしいのじゃ。
すごいのじゃ。
こんなものを毎日食べているなら、もう帰れなくてもいいのじゃ。
うう、でも魔王様が怒ってここに来るかもしれないのじゃ。
それなら、わらわがこいつらを倒して魔王様に許してもらうのじゃ!
「『出でよ!炎の剣よ!』(ぼんっ!)しまった!ここで武器は出せないのじゃった!」
「『動くな!』」
ああっ!サフィメイド長に命令されて動けないっ!
「愚かなことをしたですね?」
「つ、つい出来心で」
「お仕置きです。『飲物召喚』!シェリーの膀胱に体温くらいのスポーツドリンクを!」
たぷん
「はうっ!」
夕べも反抗した時に散々やられたお仕置き。
わらわの膀胱の中に飲物を召喚して、もれそうにさせられる…もらされるというものだ。
「何回耐えられるです?『飲物召喚』!同じ量だけ膀胱に!」
「ひあああああああっ!許してほしいのじゃっ!」
漏れる!漏れるっ!
こんな男の前で醜態をさらしたくないのじゃ!
「カリナ、待ってやってくれ!」
「待たないです。『飲物召喚』!同じだけ膀胱に!」
もう駄目…。
「『飲物召喚』!その飲物をこっちのコップに!」
しゅううっ、こぽぽぽぽぽ。
「た、助かったのじゃ」
「おにい。どうして水風船じゃなくてコップに?」
「とっさにだから。それに飲物召喚だったから、それでいいかなって」
「おにい、もしかしてそれを飲みたいです?」
-主人公ケイト視点-
カリナ、やりすぎだ!
「『飲物召喚』!その飲物をこっちのコップに!」
しゅううっ、こぽぽぽぽぽ。
「た、助かったのじゃ」
「おにい。どうして水風船じゃなくてコップに?」
「とっさにだから。それに飲物召喚だったから、それでいいかなって」
「おにい、もしかしてそれを飲みたいです?」
いくら何でも膀胱に入ったものとか飲まないから!
クリス様のなら飲めるけど…下僕としてやっちゃだめだよな。
「クリス様に命令されたら?」
「飲む…こらっ!心を読むな!」
どうしてカリナはこんなに読心術うまいんだ?
「サフィ」
「カリナ様、いいの?」
「ちょっと見たいです」
「『ケイト、そのジュースを飲んで』」
領主の命令?!
カリナ、なんてことをっ!
ジュースだけど、膀胱に入っていたから少しは…が混じってるよな。
可愛い子だけどさ…人としてこの一線を越えたらだめだから!
ああっ!でも勝手に手が動く!
口にコップが…
-魔族シェリー視点-
わらわの…に入っていたジュースを飲ませるじゃと?!
「恥ずかしいからやめるのじゃ!」
ああっ!あやつの口が!
飲まれるっ!
「『やめて』」
え?
「ふふ。ドキドキした?」
「カリナの命令だから、さすがに止めないかと思ったよ」
「ちょっと楽しかったでしょ?恥ずかしそうなシェリーの顔が見られて」
わらわが恥ずかしそうな顔をしていたじゃと?
それをこんな男に見られて…
「見ている余裕なんてなかったんだが」
ほっ、見られなかったか。
「カリナ。もしかして夕べも…いや、あえて聞かないけど、この子の尊厳を踏みにじるような教育は許さないぞ」
「屈服させないと駄目です」
「他に方法があるだろ?それに、俺はこの子がそんなに悪い子には思えないから」
この男、わらわをかばっているのか?
もしや…こやつロリコンか?
わらわのこの薄い胸に欲情しておるのじゃな!
シュイイン
「なんだ?!」
「魔法陣?!」
これは?!
わらわの足元に魔法陣が!
「わらわの魔王様の召喚魔法じゃ!」
「何だって?!」
「魔王様はわらわを見捨てなかったのじゃ!」
これで帰れるのじゃ!
「ついでに王女をいただいていくのじゃ!」
わらわはサフィメイド長の腕を掴む。
「『やめなさい』!え?魔法陣の上だと命令が効かない?!」
「サフィ!」
「サフィ!」
もうおそいのじゃ!
-魔王ダイナガイザー視点-
吾輩は魔王ダイナガイザー。
この大陸の半分を治める者。
そして人間の国を攻め滅ぼそうとしている者だ。
その人間の国との国境近くにある、シェリーに任せておいたダンジョンがまるごと消えた。
時空震があったからおそらく次元の狭間に落ちたか、異世界に転移してしまったかだろう。
たまにあることではあるが、シェリーは有能な配下であった。
このまま死なせるには惜しい。
「『時空召喚』。吾輩の元に戻れ、シェリー・サブルダークよ!」
目の前に魔法陣が浮かび、そこに人の姿が浮かぶ。
ん?二人?
「魔王様。召喚していただき、ありがとうございます」
「シェリー、無事だったか。しかし、その格好は何だ?それと同じ格好をした人間を連れているようだが?」
「はい。実はわらわのダンジョンが」
「わらわ?」
「は?!いえ、その」
「別に構わぬぞ」
「はい。わらわのダンジョンが異世界に飛ばされ、そこで現地の者と交戦いたしましたが…その」
「囚われたのだな?」
「申し訳ございません」
「いや、構わぬ。それでメイドにさせられていたのか」
するとその女はメイド仲間なのか?
「メイドをさせられていましたが、魔王様のおかげで帰ってこられました。それで、ついでにこの王女をさらってきた次第です」
王女?このメイドが?
しかし、吾輩は魔王。
どんな者であってもその正体を見抜けるのだ。
「…シュガーレイク王国第2王女か。なるほど。メイド服を着せて連れ出してきたのだな」
「は、はいっ!」
「良くやった。ちょうどいい。こやつはお前の奴隷とせよ」
「ははっ!」
「どころで、どうしてそんな『物』を持ち帰ってきた?」
「『物』?」
気づいておらぬのか?
「足元に転がっておるではないか。椅子が2脚あるだろう?」
-魔族シェリー視点-
無事に戻ってこられて、王女をさらってきたことでお褒めの言葉もいただけたのじゃ!
「どころで、どうしてそんな『物』を持ち帰ってきた?」
「『物』?」
何の事じゃ?
「足元に転がっておるではないか。椅子が2脚あるだろう?」
足元?
椅子?
あっ!
カリナ様とケイトとかいう男が!
付いてきたのじゃな!
「こ、こやつらは」
「こやつらとは?椅子ではないのか?」
「椅子?」
「吾輩の鑑定眼には『人間の形をした椅子』と出ておる。面白い。ひとつ置いていけ」
どういうことだかわからないが、とりあえず、男のほうを置いていくのじゃ。
「は、はいっ!それではこれにて」
「待て」
まさかカリナ様のほうが良かったと?!
「新しいダンジョンを今作っておる。それが完成するまで、魔王城の部屋を与えるからそこで待っておれ。そうだな、10日もあればできるであろう」
「ははーっ!」
良かったのじゃ。
ダンジョンマスターにも返り咲けるし、戻ってこられて良かったのじゃ。
でも、あのおいしいお菓子とはお別れじゃの。
いやいや、カリナ様とサフィメイド長が居れば大丈夫じゃ!
色々だしてもらうのじゃ!
しかし、いかん。
カリナとサフィと言いたいのに、つい、体が恐怖心からか、カリナ様とサフィメイド長と言ってしまうのじゃ。
これからはわらわが主人であることを教え込んで、立場を逆転するのじゃ!
-主人公ケイト視点-
これが魔王!
なんて恐ろしい姿なんだ。
ところで、俺って椅子扱いはともかく、人間としては見てもらってないの?
どういうこと?
あそこと違う世界だから?
以前に自分の世界に戻った時って、マリナとカリナに人間として見てもらってるよね?
がしっ
身長3mはありそうな魔王は俺を片手でつかむと、軽々と運んで行く。
どうなるんだろうか…まさかコレクションとして飾られるのか?
やってきたのはおそらく魔王の私室。
骸骨とか気味の悪いはく製とかが飾ってある恐ろしい部屋。
「『封印解除』!」
何をして…ああっ!
恐ろしい物が消えていって…女の子らしいファンシーな部屋に?!
まさか?!
「疲れたな。ふふふ。それにしても面白い物を手に入れたものだ」
そこに居たのは、6歳くらいの可愛らしい女の子だった。
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