第81話 ドS王女様はダンジョンに挑む(発生編)
新展開。
でもまったりエロー…スローライフのつもりです。
-王女クリステラ視点-
ふう。
やっと落ち着きましたわ。
ケイトお兄様のご褒美の耳掃除は強烈ですけど、またしていただきたいですわ。
「クリス、午前中の勉強の続きをしようか」
「はい」
ケイトお兄様と横に並んでお勉強。
お兄様は教え方がすごく上手。
何を聞きたいかわかってくれて、すごくわかりやすく説明してくれますの。
わたくしもこんなふうに教えるのが上手になりたいですわ。
「ねえ、お兄様」
「なんだい?」
「また、そのうち勉強会をしたいですの」
「そうだね」
「この前はすごく勉強がはかどりましたの。それに、姉さまたちに教えたりして、すごいって褒められたのがすごく嬉しかったですの」
「教えることはその事を良く知っていないとできないから、教える人にとっても勉強になるんだよ」
「そうなのですね」
「ああ。それにクリスは良くがんばっているしな」
なでなで
あっ、撫でられるとすごく心地いいですわ。
もっとお兄様に撫でられるように頑張りますの!
-『鑑定さん』キャンティ視点-
まったく、クリス様とケイトはもう恋人と変わらないだろ。
爆発しろっていうのはこういうことだな。
ドーン!
グラグラグラグラ!
「え?なんですの?!」
「クリス様?!」
い、今のはあたしのせいじゃないからな!
だよな?
今のはなんだ、管理局?
…『ダンジョンが出現した』だと?
何だそれ?
この世界にそんな名称の施設は存在しないぞ。
詳しくは?
何?魔晶石2000?
ちっ、魔晶石を消費しないと最低限の情報しか取れなくなったからな。
「クリス様、何か爆発したみたいですね」
「爆発って、破裂したり炎が吹き上がったりするのですわね?」
どんどんどん!
ドアが激しくノックされる。
ガラッ!
「ケイト!」
「おにい!」
「お兄ちゃん!」
一斉に押しかけてきたな。
「とりあえず、ディアナ様の所に行きましょう!」
さて、聞かれたら説明しないといけなさそうだが、言われなくても答えたほうがいいかもしれないな。
-主人公ケイト視点-
どうやらこんなことは初めてらしい。
すごい爆音と振動だったが、どこかが壊れたとかではないらしい。
でも、この大陸が、本当に小さな建物だった場合、『外』で何か起こった時とかどうなるのだろうか?
そういえば、天災とか台風とかあるんだろうか?
「ディアナ様、台風とか地震とかご存じですか?」
「何ですのそれは?」
やっぱり無いのか。
「俺たちの世界では、住むところが壊れたり吹き飛んだりすることがあるんです」
「災害でしたら、社会の教科書に、『今の世界の状態が作られたとき、あらゆる災害は無くなった』とありますわ」
知識で残っている程度なんだな。
「キャンティ、これって何かわかる?」
「ダンジョンができたらしい。しかし、詳細は魔晶石2000個な」
「2000個ですの?!」
クリス様がすごくビックリしている。
「キャンティ、危険はないのかな?それならさえ聞ければいいけど」
「危険は…魔晶石10個でいいぞ」
ディアナ様がキャンティに魔晶石を渡すと、説明してくれた。
「直接的な危険はないが、どうやら『ダンジョン』というものができたらしい。放っておけば問題ないそうだ」
放っておけば問題ない。
放っておかないこともできる。
それを知るには魔晶石2000個要るのか。
「ディアナ様。魔晶石2000個って、余裕ありますか?」
「この前、ケイトが誘拐された時の慰謝料が魔晶石3000個ですから、それを使うといいですわ」
「そんなにもらったの?!」
すごいな。
厳密には誘拐というより窃盗なんだろうけど。
「実は、ダンジョンというのは…」
俺は異世界の知識で、一般的なダンジョンの説明をする。
「モンスターという怪物が居ますの?!」
そう言って震えるクリス様。
「宝物が見つかるかもしれないの?!」
そう言って目を輝かせるサフィ様。
ダンジョンは無事に入って出られるなら、楽しいことのほうが多いと思う。
でも、こういう所に住んでいる人にとっては、危険のほうが多い気がする。
「ケイト、もっと良く知りたいのでしょう?キャンティ、何か教えてください」
俺の気持ちを察して、ディアナ様がキャンティに大量の魔晶石を渡す。
それはキャンティに触れる先から消費されていった。
「このダンジョンというのは本来この世界に無いものだ。それが何かのはずみでこの世界に現れた。だから、この世界のルールに則った施設ではない。今のところ危険は無いが、今後どうなるかは未知数だ。管理局はそこを調査する王国の募集を始めた。調査するのであれば、少なくとも『安全な出入り』だけは保証されるそうだ。『管理局特別扉』から『準備室』を経由して、『ダンジョン』に行くことになる」
一人ならすごく行ってみたいけど、別に俺はそういう異世界チートを持っているわけじゃないからなあ。
「キャンティ。そこって出入り以外の安全は無いんだな?」
「中が安全かどうかも含めての調査だ」
そうか。
「ケイト、無理に行く必要はありませんの。誰かが行きますわ」
「そうだよな」
ゴゴゴッ!
グラグラッ!
「あっ」
「きゃあ!」
また?
「揺れましたわ!」
「ケイト!」
抱き着いてくるエメル姉さま。
「キャンティ、王国に影響は無いのか?」
「今、ダンジョンを『隔離』しているところらしいが、しばらくは揺れたり大きな音がするそうだ。でも、数日で収まるらしい」
「なあ、キャンティ。それって、俺たちだからこうやってキャンティから知らせてもらえるけど、他の王国はどうしているんだ?」
「多くの王国は情報収集の手段を持たないため、管理局から直接国王や女王に連絡がいくだろう」
そっか。それならいいのかな。
「ケイト、怖いですの。こんな揺れがまだ続きますの?」
「クリス様、大丈夫です。俺が付いています」
ぎゅっとクリス様を抱きしめる。
クリス様も怖さで、妹モードはどっかへ飛んでしまったみたいだ。
「キャンティ。ダンジョンの調査をしてもらえる報酬は何です?」
カリナ?
「管理局によれば、最低でも魔晶石1万個。発見した内容によってはもっと多くの報酬を出すらしい」
「少ないです」
1万個だぞ?
「命を懸けてやるのです。それなら、魔晶石だけじゃなくて、『特別なもの』がほしいです」
「『特別なもの』?」
「『特別資格』です」
それかっ!
「………管理局は今回の件については非常に困っているようだ。だから、その申し出を受諾するそうだ」
「キャンティはそのまま管理局と話せますのね」
「そこのシステムの一部だからな」
「それなら、どれだけの成果を上げれば『特別資格』をもらえるか知りたいです」
「ダンジョンの1層ごとに1つ」
「やるです!」
「待て、カリナ!無茶だ!俺たちは異世界のチート転生者じゃないんだぞ」
「今のままでもそれなりのチートです。それに、危険なことをするつもりはないです」
どういうことだ?
「まず様子見をするです。舞闘会用駒で」
それがあったか!
「あれなら倒されても、こちらに戻ってくるだけのはずです。キャンティ、違うですか?」
「よく思いついたな。確かにそうだ。あれは領地の外どころか王国の外にも行けるから、ダンジョンにも行ける。だが、視界が効かないから、自分が乗り移れる駒を使うしかない。それに、小さいから、攻撃力は期待できないぞ」
「まずは偵察です。それに、攻撃力は何とかなるです」
カリナがすごく頼もしいこと言ってるんだが。
「それに、1層攻略ごとに『特別資格』が手に入るなら、おにいやカリナたちが参加できるようになるです」
「やりますわ!」
真っ先にそう言ったのはクリス様だった。
「ケイトが『追放刑』にされることなく『人』になるのであれば、わたくしがそのダンジョンを攻略して見せますの!」
「私もやります!」
「私もよ!」
サフィ姉さまとエメル姉さまもそれに続く。
「お前たちなあ…。わかったわかった。あたしもしっかりバックアップさせてもらう。だから、危険だと思ったらやめるんだぞ」
「わかっていますわ、キャンティ」
-王女クリステラ視点-
ケイトが『人』になれば、一緒にもっと色々なことができますの!
でも…椅子ではなくなるのかしら?
「クリス様。もし俺が『人』になっても、俺はずっとクリス様の下僕で椅子ですから」
「ケイト…当然ですわよ。ケイトはわたくしの自慢の、大切なの椅子ですもの!」
ケイト、わたくしの気持ちをわかってくれましたのね!
ますますやる気が出てきましたの。
それで、アニメ鑑賞ですの?
『ダンジョンのほのぼの冒険記』
これでダンジョンの基本的なことがわかりますの?
…
これがダンジョンですのね!
ああっ!何だか丸いものが出てきましたわ!
スライムっていうモンスターですの!
あら、意外と弱いですの。
剣で突き刺して倒しましたわ!
どんどんスライムが出てきますの!
魔法使いが炎で薙ぎ払いましたわ!
次はゴブリンとか言う怪物が来ましたわ!
…
…
…
すごかったですわ。
あれがダンジョンで、あんな戦いがありますのね。
「ケイト、何だかやれそうな気がしてきましたの」
「でも、駒に乗り移るなら、相手はすごく大きくなりますよ」
「それはカリナが言ったとおり、姉さまたちや他の駒と協力して戦いますのよ」
カリナの考えは、乗り移った駒以外に通常の駒も使用して、大勢で相手と戦うというものですの。
特に「戦士20体の必殺技」などは人間くらいの大きな相手でも通用しますのよ。
本来の舞闘会では不向きな戦法ですけど、こういう時には役立ちますの。
そして、お母様が魔道具の撮影機で、わたくしたちの様子をモニターして、何かあった時にケイトたちと対応してもらえますの。
さあ、まずは練習ですわ!
舞闘会用駒を戦士20体一組と魔法使い20体一組で準備しますの。
そして、わたくしは『疾風の女戦士スピカ』に乗り移って指揮をしますのよ。
-主人公ケイト視点-
クリス様は準備完了みたいだ。
「人間大の的を出しますね。『特級日用品召喚』!立てるタイプのサンドバッグ!」
どーん!
領地の半分くらいあるぞこれ。
「ケイト!大きすぎますわ!」
「ディアナ様の所を借りましょう。いえ、みんなで練習したいので、共用室を借りましょう」
共用室にはすでに駒に乗り移ったクリス様とサフィ姉さまとエメル姉さまがいる。
姉さまたちの専用の駒は初めて見たけど、格好いいデザインだな。
サフィ姉さまは『暁の聖騎士リズロット』、エメル姉さまは『剛腕の狩人クエーサー』だ。
…クエーサーって男性キャラなんだけど乗り移れるんだな。
胸の部分とか問題ないみたいだけど、クリス様だったらどうなったのやら。
それに剛腕の狩人って、クマを腕力で倒すような感じ?
「行きますわ!戦士隊!『必殺技』ですの!」
ノーマルの駒は必殺技の名前が無いからそれで発動するんだな。
「「「ヤーッ!」」」
ドゴンッ!
勇ましい声と共に激しい剣撃が宙を飛び、的であるサンドバッグを大きく揺らした。
でも激しく揺れただけだな。
すごい衝撃みたいだけど『切れ味』は無いんだ。
これ、くらったらどうなるか想像つかないな。
「連射ってどのくらいできます?」
「30秒は無理ですわ」
「それなら、6部隊居るから、5秒に1回は攻撃できますね」
心もとないな。
やっぱり乗り移っている駒にも強力な技が無いと。
「ケイト、心配そうね。でも『強化』の効果が使えるから大丈夫よ」
エメル姉さま?
そうか!親指のコマンドか!
…って、『強化』って乗り移っている状態で使えるの?
「見せてあげるわ。『強化』!」
おお、エメル姉さまの駒に光が集まっていく。
「『虎狩拳』!」
ばきいっ!
サンドバックなのに、高い音の命中音がして、当たったところに跡が付いている。
サンドバックが土台ごと動いたけど、これってさっきの戦士10体の必殺技以上じゃないか。
「クリスも試してみなさい」
「わかりましたわ、エメル姉さま。『強化』!」
おお、クリス様も!
「『十字斬撃』!」
バシュッ!
あっ、サンドバックの表面が切れた。
しまった!砂が出てきたらクリス様が埋まる!
え?布?
布切れが出てきた。
中を見るとスポンジとか入ってるみたいだ。
そっか、サンドバッグって名前だけど本当に砂が入っているんじゃないのか。
砂がつまっていたらとてつもなく重くなるし、叩いた手が痛いよな。
「とりあえず直そう。『日用品修繕』!」
しゅううん。
サンドバッグは元通りになった。
はみ出たものも収納されるんだな。
特級召喚したものでも、初級魔法で治るんだ。
「おにい、もし倒せても血しぶきとかをかわすのが大変です」
そういうのも考えないといけないのか!
すぐにダンジョン攻略とはいかないようだ。
お読みいただきありがとうございます。
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次回も明日、2月3日18時更新です。




