第57話 ドS王女様は兄妹ごっこをする
デレじゃないです。
お遊びなのです。
令和2年1月17日
誤字修正。
-主人公ケイト視点-
コケコッコー!
朝だ。
そして、俺の上ではクリス様が寝ている。
「ケイト、おはよう。やっぱりケイトの上は最高ですわ!」
「それは良かったです」
「ぐっすり休めて、自分で起きられますのよ」
時々反対を向いて抱き着いてくるから、こっちはあんまりぐっすり休めないんですけど。
「食事の前に、お母様の様子を見に行きたいから、着替えておきなさい。洗面所はわたくしが先に使いますわよ」
「はい」
…
…
身支度を済ませて出てきたクリス様は、ツインテールだった。
「クリス様、それって?」
「似合うかしら?」
「はい!最高です!あっ、いつもの縦ロールもいいですけど、すごくお似合いです」
「ふふ。ありがとう」
あれ?少し雰囲気が違う?
「ねえ、ケイト」
口調も違う?!
「わたくし、面白い遊びを思いつきましたの」
「なんでしょうか」
「そこに座って」
座って?
座りなさいじゃなくて?
「はい」
正座をする。
「じゃなくて、いつもわたくしが座る時みたいに、お布団や座椅子っぽくね。ふちに寄って」
「はい」
すとん
その横にクリス様が座ってくる。
「ケイト、あのね。わたくし、ケイトのこと見なおしましたのよ。お母様を慰めてあげて、わたくしの妹まで生まれさせてくれましたの」
「あ、はい」
「だから、ケイトはわたくしの下僕ですけど、お父様みたいな存在でもありますの」
「そういえば、そうなるかな」
「これからわたくしは時々この髪型にしますの。その時のわたくしはケイトの主人ではなく」
まさか娘になるの?!
「妹になりますの!」
そっちかっ!
「ふふっ、ケイトお兄様」
こつん
やさしくクリス様がもたれ掛かってくる。
え?
な、な、なんだこれ?!
いったいどうしてこうなったの?!
-王女クリステラ視点-
事の始まりは、夕べ、ルビィアが生まれてから、わたくしが授乳にチャレンジした時のことですわ。
わたくしも母乳をあげてみたいですの。
子供を産まないと出ないはずでも、わたしの胸からミルクが出るのは確認済みですのよ。
「さあ、お飲みなさい…吸い付きませんわね?」
「クリス、もうおなかがいっぱいだと思いますわ」
「ルビィア、飲んで。ほら」
ぱく
「あっ」
はう。
く、くすぐったいですわ。
ちゅうう
「ん、んんっ。け、結構強く吸いますの!」
「…ん…ふぎゃああ、ふぎゃああ」
「泣き出しましたわ!」
「出なかったのね。クリス、あきらめなさい」
「うう、無念ですわ」
仕方なくお母様にルビィアを返しますわ。
ちゅーちゅー
「うらやましいですわ」
「クリスも子供を…いえ、それよりクリス」
「なんですの、お母様?」
「あなた、ケイトのことをいつも下僕として扱っているわよね」
「もちろんですわ」
でも、ひどい扱いはしていませんのよ。
ちょっとお仕置きしますけど、それは主従のコミュニケーションですの。
「クリスはわたくしの娘よね」
「そうですわ」
「ルビィアもわたくしの娘ですのよ」
「もちろんですわ」
「クリスとルビィアの関係は何かしら?」
さっきから何の質問ですの?
「姉妹ですわ」
「それでしたら、ルビィアの父親であるケイトは、クリスの何かしら?」
「それは…」
はっ?!
「ケイトはわたくしのお父さんになりますわ!」
「そうですわね」
「そんな、わたくしはお父さんを下僕にしていますの?!」
そ、そんなことなんて…。
「クリス、あなたは間違っていませんわ」
「え?でも…」
「いいこと?ケイトはクリスの父親みたいな存在になりましたわ。でも、クリスの下僕であることには変わりありませんわ」
「でも、それならどう接したらいいかわかりませんの!」
「ふふっ、簡単ですわ。自分を切り替えるようにしますのよ」
「切り替える?」
「この前わたくしが倒れた時、クリスは珍しい髪形にしていましたわね」
「あのツインテールは、ケイトが教えてくれましたの」
「そうですの。とても似合っていましたわ」
あの時、せっかく素敵な髪型にしたのに、ケイトはずっとお母様と一緒で、あんまり見てもらえませんでしたの。
「これから、ツインテールにしたときだけ、うんとケイトに甘えなさい」
「『お父様』って甘えるんですの?」
「ケイトは年齢的にお父様って雰囲気ではありませんわよ。『お兄様』にして甘えたらどうかしら?」
「『お兄様』?」
わたくしの『お兄様』。
ケイトがわたくしの『お兄様』。
ケイトがわたくしを『甘やかしてくれるお兄様』。
「わかりましたわ!さっそく明日から試してみますの!」
「ええ、がんばりなさい」
「がんばるって何をですの?甘えることを?」
「ふふ、色々ですわ」
何かわからないけど、がんばりますわ!
そんなことがありましたの。
「ふふっ、ケイトお兄様」
こつん
ケイトお兄様と同じ位置に座って、頭をもたれさせて、そのお顔を見つめますの。
「ク、クリス様」
「お兄様、クリスはクリスですのよ」
「クリス…」
ケイトお兄様がそっと肩に手を回してくれましたわ。
すごい!
胸がポカポカしますの!
これが『兄妹愛』というものですのね!
「クリスさ…クリス、横に座るなら、座布団出そうか」
「はい!お兄様が作ってくれたものに座りますわ!」
わたくしは毛糸の座布団を出し、ケイトお兄様は向こうの世界から持ってきた座布団を出して、並んで座りますの。
きゅっ
ケイトお兄様の腰に手を回して、もっとたくさんくっつきますの。
「クリス、そんなにくっつかなくても」
「兄妹だからですわ…だからです。ああ、もう。妹の口調はよくわかりませんの」
「無理に変えなくてもいいから」
「可愛らしい妹になりたいですの!」
「クリスはもう充分可愛いです。その、ほら」
わたくしの手をケイトお兄様の胸に持っていきましたわ。
「こんなに心臓がどきどきしているから」
うれしいですわ!
わたくしを可愛いって思ってくれて、こんなにどきどきしてもらえるなんて!
-主人公ケイト視点-
新しい『遊び』なら、下僕としてそれに付き合うだけだ。
それにしても、クリス様は可憐すぎます。
ああ、卒倒しそうなくらい可愛いよ。
クリス様の手を俺の胸に当ててもらう。
「こんなに心臓がどきどきしているから」
わかってくれたかな?
クリス様は本当に可愛らしくて、素敵なんです!
「わたくしもですのよ」
「え?」
手を掴まれて、クリス様の胸にあてられた。
むにゅん
…
…
…
「どうですの?」
「ちょ、ちょっとわかりにくいかも」
胸大きいと鼓動が遠いのかな?
むしろ鼓動より柔らかさが気になってるしっ!
「こうですわね!」
ぐいっ、たぷうん。
俺の手が、クリスの胸の間に飲まれていく。
「わ、わわっ」
「どうかしら?」
「うん、どきどき言ってる」
むしろ何もしなくても俺の鼓動が聞こえるくらいにね!
「お兄様、朝食の準備をお願いしてもいいかしら?」
「ん?いいけど、どうしたの?」
「少し勉強してきますの」
そう言って、クリス様は『共用扉』から『共用室』へ出て行った。
朝食前に勉強?
共用室って誰と?
-王女クリステラ視点-
よくわかりませんけど、何かが足りませんの。
きっと姉に甘えるのと兄に甘えるのとでは、やり方が違うのですわ。
「『内線通話』!お姉さまたちと話したいですの!」
「朝からなあに?」
「どうしたの、クリス?」
「マリナとカリナを少しだけお借りしたいですの。共用室に来させてもらえるかしら?」
「わかったわ」
「いいわよ」
共用室にマリナとカリナが来ましたわ。
「クリス様、何の御用ですか?」
「おにいのこと?」
「あなたたちが普段、ケイトにどうやって接していたか教えてほしいのですわ」
-双子の妹マリナ視点-
え?どうやって接していたかって…。
「いつも一緒に居て、遊んだり、勉強教えてもらったり」
「食事の食べさせあいっことか」
「え?それは最近では」
ぴこん
あれ横に居るのにカリナからCHAIN?
カリナ『ここでただの兄妹ではないってアピールしておくのです』
マリナ『どうして?』
カリナ『カリナたちがおにいといちゃいちゃしていても、自然なことと思わせるのです』
マリナ『わかったの!』
「あと、嬉しいときは、お礼にほっぺにキスしたり」
「他には…」
やっていたことだけじゃなくて、マリナやカリナがしたかったことも含めて教えたの。
というか、カリナはちょっと言い過ぎなの。
「兄妹ってそんなふうですのね!」
「もうずっと小さいころからだから、恥ずかしがるなんてなかったの」
「それが自然なことだったです」
-双子の妹カリナ視点-
カリナたちとおにいの関係がどんなのか興味があるなら、ここで全部言ってしまえば、それを実行しても『兄妹だから当然ですわ!』と、おにいを止めたりしないはず。
チャンスですの!
「あと、おにいに服を選んでもらったときとか嬉しかった」
「うん。お兄ちゃんの選んでくれた服、この世界にも持ってきてるんだよ」
「まあ、そうですの」
「そのうち見せるです」
「楽しみにしていますわ!」
クリス様はすっくと立ちあがると、共用扉のほうに向かいます。
「参考になりましたの!これでケイトお兄様にどうやって甘えたらいいかわかりましたわ!」
ぴしゃっ
目の前で扉が閉められました。
「カリナ、今、クリス様って」
「うん。『ケイトお兄様』って言ってたです」
「マリナたち、もしかして、とんでもないこと教えたの?」
「後悔しても仕方ないです。それより、カリナたちも何かできることを考えるです」
「そうね!クリス様に負けられないわ!」
「そうです!」
-主人公ケイト視点-
「戻りましたわ、お兄様」
すとんと俺の横に来てもたれてくるクリス様。
ツインテだけでも可愛いのに、さらにこの距離感。
萌え死にそう。
「まあ!朝ごはんも定食ですのね!」
「うん。朝だから軽めだけどね」
ぱく
「おいしいですの!」
「そう、良かった」
ふう、どうにかいつも通りになりそうだ。
「はい、お兄様」
「えっ?」
俺の口の前にクリス様の箸がある。
もちろん、その先にはごはんが載っている。
「え、えっと」
「熱いですわね。ふーふー。はい、お兄様」
いかん、もっと熱くなるから!
俺、オーバーヒートするから!
ぱく
「ありがとう、クリス」
「ふふっ、わたくしにも食べさせてくださいな」
「うん。ふーふー。はい」
ぱく
「おいしいですの!」
ああっなんて最高の笑顔!
もう今日は内蔵スマホの写真撮りまくりだ。
ぴこん
あれ?
CHAIN?
カリナ『おにい、クリス様に兄妹の在り方を教えたので、覚悟して従うです』
マリナ『写真撮って送ってね!エッチなのは要らないから、可愛いの!』
これはおまえらのせいかっ!
-王女クリステラ視点-
楽しいですの!
すごく楽しいですの!
「あれ?クリス」
「はい?」
「口の横にご飯粒が」
ぽい、ぱくっ。
わたくしに付いたご飯粒を取って食べてくれましたわ!
「は、はうっ。あ、ありがとう、ケイトお兄様」
な、な、な、なんですの?
こ、これはすごく、ドキドキしますわ!
兄妹って、いつもこんなにドキドキしていられるものなのですわね!
「お兄様、食事がすんだらお願いがありますの」
「なんでしょうか?」
「お兄様、妹に敬語はだめですのよ」
「何をお願いしたいのかな?」
そう、そんな感じでいいですの!
「妹らしい、可愛らしい服がほしいですの!」
「可愛らしい服…そうだな、今の髪型に似合う服とか出してみようか」
「ありがとう、お兄様!」
ちゅっ
「あ?ああっ?!」
「ああっ?!」
わ、わたくしったら無意識にケイトのほっぺにキスをしてしまいましたわ!
いえ、でも、今は兄妹ですの。
ちっとも嫌な気分ではありませんのよ。
でも、ケイトお兄様もびっくりしているみたいですわ。
「い、嫌でしたの?」
「ううん、びっくりしただけ。大丈夫。マリナやカリナもよくしてきたから」
やっぱりそうですのね!
兄妹でほっぺにキスはコミュニケーションの一種ですのね!
それに、お兄様がどんな素敵な服を選んでくれるか、すごくわくわくしますわ!
あとで姉さまたちにも自慢しますの!
お読みいただき、ありがとうございました。
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次回も明日、1月14日18時更新です。




