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第53話 女王様は献上された椅子に慰められる

女王様可愛い

-王女エメラルディ視点-


お母様にケイトを貸したクリスの後ろ姿が何だか寂しそうね。


私は緊急扉を戻っていこうとするクリスに声をかけることにしたわ。


「クリス、このまま私の所へ来なさい」

「えっ?どうしてですの?」

「ケイトが居ないと寂しいんじゃなくて?」

「全然平気ですのよ!」


強がってまあ。


「クリスのおかげで私も最高の椅子マリナを手に入れられたのよ。そのお礼もしたいのよ」

「お礼なら、指令環コマンドリングの情報で足りましたわ」


もう、素直じゃないのね。


いいえ、素直じゃないのは私のほうだわ。


もっと正面からぶつかりましょう。


「クリスと一緒に1日過ごしたいから、私の所に来なさい」

「え?ええっ?!わたくしと一緒に?い、いいんですの?」

「もちろんよ。歓迎するわ」

「それなら、お邪魔しますわ!情報交換とか、色々有益なことがありそうですもの」


ふふっ、まだ素直じゃないんだから。


ほんとにクリスは可愛いわ。



-女王視点-


これはっ!


わたくしの目の前に並んでいるのは、ケイトが召喚した朝ごはんですわ。


わたくしが普段食べているものを聞いて、病み上がりのわたくしにふさわしい朝食を用意してくれましたの。


それがまさか『おかゆ』なんて!


ただのおかゆならわかりますの。

でも、これは全然違いますわ。


何か黒いとろっとしているものがかかっていて、薬味も何種類か付いていますの。


しかもおかゆなのに上級の朝食召喚魔法なんて、どんなごちそうなのかしら?


それに上級の朝食召喚をたやすく成功させるなんて、なんて凄い人形いす)ですの!


「熱いから、お気を付けください」


そんなことまで気を使ってくれるのね。


「冷ましてくれたりするといいのですけど、そこまでは望みすぎですわね」

「できますよ」


えっ?!




テーブルを足の高いものに入れ替えて、ケイトが座椅子のようになって、その上に座らされましたわ。


この状態もすごくいい座り心地ですわ。

全身でもたれられて、安らげる感じですわね。


そしてケイトがおかゆをすくって、


ふーふー


冷ましてくれていますわ!


「どうぞ」

「いただくわね」


ぱく


「はうんっ!」


なにこれっ?!


この黒いとろっとしたものは、何かのエキスですわ!

それが程よい固さのおかゆと相まって、お口の中にうまみが広がりますの!


薬味を入れると、またそれぞれ違った風味になって、ちっとも食べ飽きませんわ!


はふはふ

ぱくぱく

ああああ


クリスったら、毎日こんな幸せを感じていましたの?


それに…娘たちに領地を与えた頃から夫は長期の仕事とか言って帰ってこない日が増えていったわ。


一人で食べる食事は寂しかったですの。


いいえ、そもそもこの世界ではみんなそうですのよ。


でも、でも、結婚しても独りで待っているだけとか、寂しすぎましたの。


「どうぞ」

「ありがとう」


ぱく。


ああ、心が満たされていくわ。


「ありがとう、ケイト」


ぎゅうっ!


人形でもいい、今はこうやって、わたくしをなぐさめてくれれば。



-主人公ケイト視点-


はわわわわ


急に抱きしめられた。


それに、クリス様のお母様の、女王様の胸って、どうしてこんなに柔らかいの?


クリス様はもっと弾力があるのに、女王様の胸はそこに溶けていきそうな柔らかさ。


精神統一…あれ?


女王様、泣いてる?


そうか、寂しいんだな。


不埒な考えをしている場合じゃないや。



-女王視点-


この人形、どうしてこんなに暖かいんですの?

人形そのものの暖かさだけじゃなくて、心の温かさを感じますの。


本当に人間みたいですわ!


ぽんぽん


えっ?


なでなで


わたくしの頭をなでてくれていますの?

わたくしを、慰めてくれていますの?!


クリスが手放したくなくなるわけですわ。


こんな素晴らしいもの、見たことありませんもの。


それを貸してくれるなんて、魔晶石30個どころか100個でも良かったくらいですわ。


「お願い、ケイトの胸で泣かせて」

「はい」

「娘たちには内緒にしてね」

「はい」


なでなで


う、ううっ


うわああああああああああああああああああん!!



-主人公ケイト視点-


おかゆ、完全に冷めちゃったな。


でも、女王様も落ち着かれたみたいだし。


「さっきは着替えだけしてきましたから、髪の毛とかを整えてきますわ」


そう言って洗面所に行ってしまわれた。


よし、俺も今のうちにトイレを済まそう。

水玉風船を出して。


「『円形召喚』!おしっこ!」


たぷん。


「『ゴミ箱へ』!」


しゅっ。


これでよしと。

便利だなこれ。


引きこもりなら最高だったろうな。


「戻りましたわ」


あれ?

なんとなく女王様の顔色が悪い?


「女王様、体調は大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。まだ本調子じゃないみたいですけど、なんか元気にはなってきているの」

「顔色悪いですから、もう少し寝たほうがいいですよ」

「わかりましたわ」


って、どうして布団に俺を引っ張っていくんです?


寂しいから、横で見ていてほしいんですね。


手ぐらい握っていようかな。


「ここに寝て」


え゛?


そ、添い寝?


うそお



クリス様、すみませんすみませんすみません。


でも、何もおかしなことはしないです。

誓ってしないです。

絶対にしないです。


でも、でも、でも、

添い寝どころか抱き枕にされるのは地獄です!


いや、天国だから。


じゃなくて、やっぱり地獄。


胸だけじゃなくて、絡めてきている太ももとか全部柔らかすぎます。

吐息も感じて、なんていうか、もう何?!


人妻だぞ。

いや、未亡人…じゃない、なんて言うんだ?

シングルマザーか。


「すごいですわ。ケイトに抱き着いていると、すごく落ち着きますの」


こっちは落ち着けません!


寝てなんて言った俺のせいですよね!

でも、元気になってもらうためなら、何でもしてあげないと!


クリス様、俺、頑張ります。


「うっ、ううっ、うわああああんっ」


また泣いてる。


精神的に弱っているせいなんだな。


これって魔法で治せないかな?


ううん、むしろ魔法に頼ったらいけない気がする。


慰めてあげることしかできないけど、


さすさす


優しく背中をさすってあげよう。



-女王視点-


いつの間にか寝ていましたわ。


あら?

人形ケイトも寝ていますのね。


でも、いっぱい泣いて、いっぱい慰めてもらって、少し元気出たかしら?


ふふっ、わたくしの旦那様がケイトなら良かったですのに。


旦那様が…


ケイトの唇、ちょっと上に行けば届くかしら?


ケイトは『物』ですから、別に何をしても大丈夫ですわよね?


クリスの物を汚すわけじゃありませんのよ。


ちょっと、唇に触れてみたいだけですの。


ずりずり


可愛い寝顔ですわね。


12歳で結婚した時のあの人がこのくらいの年だったかしら?


わたくしももう31なのね。


新しい人生は無理でも、娘たちを見守ることならできますわ。


ぴと


人差し指で唇に触れますの。

やわらかいですわ。

本当に人間みたいですの。


このケイトが本物の人間だったら、どんなに良かったか。


でも、クリスから奪う気はありませんのよ。


たまに、ほんのたまに、こうやって優しくしてくれれば。


クリスがお嫁に行くときはきっとケイトはいらなくなるわよね。


その時は、わたくしがもらおうかしら?



-主人公ケイト視点-


ん?

しまった、寝てしまった!


あれ?居ない?


「ケイト、起きましたの?」


あっ、女王様!起きているんだ!


俺は慌てて飛び起きて、布団の横に正座する。


「ご命令を」

「ふふっ、いいのよ。何か思いついたら頼むわ」


テーブルで何かの仕事をしているみたいだ。


そういえば、女王様はこの大陸アパートの管理をしているんだったな。


「ケイト、あれを見てごらんなさい」


指さしたところには数字が並んでいる。


『1』

『2』

『1』

『0』


「それが領地ごとの人員を表しているのよ。トイレとか共用の場所に行くと0になりますのよ」


そうなんだ。


「『2』になっているのはエメルの部屋ね。この部屋から出るときにクリスと一緒に出て行ったから、きっと今日は一緒に過ごすのね」

「そうか、良かった。それなら寂しくないですね」

「ふふっ、人形なのにクリスの事を心配していたのね」

「はい、クリス様は大切なご主人様ですから」

「クリスがうらやましいわ」


すごく優しそうな、慈しむような表情の女王様。


金髪縦ロールで、巨乳(爆乳?)で、クリス様と似ていて、もっと大人な美人で。


クリス様もきっと女王様みたいにもっともっときれいになるんだろうな。




お昼ご飯は元気が出るようにと『とろろご飯』にした。

女王様はすごく喜んでくれた。


そしていつの間にか夕方。


「お風呂の時間ね」

「はい」


まさか一緒にとかは無いよね。

人形だもの。


「まだ少しフラフラして、一人で入れる自信がありませんの」


待って


「ケイト、助けてくれるかしら?」

「はい、喜んで」


居酒屋みたいに脊髄反射で答える俺。




結局、脱衣場で待機して、少し空いている風呂場の声をうかがうだけだった。



そりゃあ、人形はお風呂に入れないよな。

服とかどうするんだって話だし。


「ケイト、もう大丈夫、出ますわ」

「じゃあ、戻ってますね」


良かった、何もなかった。



「ああ、いいお風呂でしたわ」

「…」

「どうしましたの?ケイト?」

「…」


クリス様すみません。


俺は、ここで死ぬかもしれません。


どうしてですか?

どうしてなんですか?


女王様はお風呂を出たら、どうして『裸族』なんですかっ!


「いつもお風呂を出てすぐに寝間着を切ると汗をかくから、こうしているのよ」

「…」

「ふふっ、あなたが男の子なら恥ずかしいけど、人形でよかったわ」

「…」


リアクションが思い浮かばない。


「夕食を食べたらネグリジェを着ますのよ」


ああ、良かった。

そういえば起きた時はそうだったな。


「そういえば、またあのおかゆが食べたいわ」

「じゃあ、出しますね」




「どうぞ」

「また冷まして食べさせてくれるかしら?」

「…」

「さあ、座椅子になりなさい」


クリス様、クリス様、クリス様。


もう椅子りせいが壊れそうです。


助けてください。

もう、俺が人間って言ってもいいですか?



-女王視点-


人形なのに、ちょっとドキドキしますわね。


「女王様」


わたくしから目線をそらしたままケイトが声をかけてきますわ。


お風呂を出てからずっとそうですわね。


人形なのに、照れるのかしら?

優しいし、本当に人間みたいね。

人員が「0」でなければ本物の人間と思う所ですわ。


「女王様、いくら暑くても熱があったのにその格好は駄目です」


そうなのかしら?


「『上級日用品召喚』!女王様のサイズに合ったガーゼのパジャマ!」


ケイトの右手にピンク色の可愛いパジャマが出てきましたわ!


「これは汗を吸う寝間着です。ぜひ着てください」

「わかりましたわ」



-主人公ケイト視点-


しゅるっ


どうして目の前で着替え始めるの?!


せめて後ろを向いて着替えて!!


いや、俺が後ろを向けばいいんだ。


「すごくいい着心地ですわ!」


そこにはようやくエッチじゃない格好の女王様が居た。


ああ良かった。



そしてその晩、結局抱き枕にされるのは一緒だった。


ガーゼのパジャマ越しでも破壊力は十分でした。

お読みいただきありがとうございました。

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次回も明日、1月10日18時更新です。

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