第51話 ドS王女様は女王様の看病をする
ついに母親にまで。
令和2年2月17日
誤字修正しました。
-王女クリステラ視点-
「『共用扉召喚』!お母様の部屋に緊急でつないでほしいですの!」
扉が出ましたわ!
「クリス様!何かあったときはタブレットで聞いてください!俺は自分用のタブレットをもう一つ召喚しておきます!」
ケイトはそういう所に気が付くから頼もしいですわ。
「頼みますわ」
「はい!」
扉を開けて中に入ると、そこには布団で寝ているお母様の姿が。
寝坊…じゃないわよね。
すぐにエメル姉さまとサフィ姉さまも来ましたわ。
「お母様!…すごい熱!」
「でも、病気なら朝になれば治るはずよ!」
「サフィ、朝にかかった病気は駄目なのよ」
「でもどうして?」
こんな時こそタブレットでケイトと連絡…というか、緊急扉から顔を出したほうが早くありませんの?
いえ、もしお母様が目を覚ましたら、ケイトとの会話が聞こえてしまいますわ。
ケイトのことを教えるのは最終手段ですのよ。
クリス『ケイト、お母様がすごい熱ですわ!』
ケイト『上級鑑定で病状を診たらどうでしょう?』
そうですわね!
「『上級鑑定!』お母様の病気を教えてほしいですわ!」
「えっ?鑑定?」
「クリス、鑑定は人を対象には使えませんのよ」
『女王様の病気』
クリス様とケイトが人相手の鑑定が使えることは、ケイトの妹たちが居るからいつか知ることになっただろうけど、もう教えることになるとはな。
「『鑑定さん』!お母様は大丈夫ですの?!」
「ちょっと、クリス、誰と話しているの?」
「『鑑定さん』って、クリスは鑑定魔法と会話できるの?」
「姉さまたちも『上級鑑定』を対象なしで使ってほしいですわ!」
「わかったわ。『上級鑑定』!」
「何かしら?『上級鑑定』!」
(鑑定の続き)
聞こえるか?
「聞こえますわよ」
「え?何も聞こえないわよ」
「聞こえないわ。クリス、どういうこと?」
「『鑑定さん』、どういうことですの?」
(鑑定の続き)
すまん、俺も試すまで確信できなかった。
でも、クリス様とケイトしか俺と会話できないってのは確定だな。
「そうですのね」
「クリス、ちょっと説明して」
姉さまたちに『鑑定さん』の説明をしますの。
「どうしてクリスだけ?」
「それでもいいから、早くお母様の病状を聞いて!」
「『鑑定さん』お願い!」
(鑑定の続き)
これは精神からくる病気だな。
心配事が重なったんだろ。
そういうのは寝ても治らないからな。
しばらくそばで看病してやれば、落ち着いてきて治ると思うぞ。
あと、魔晶石追加な。
「わかりましたの!『上級鑑定』魔晶石マシマシですわ!」
5ついっぺんに使いますわよ。
「クリス、説明しながらにして!」
『鑑定さん』の言うことを口にしながら話を続けますわ。
「何日くらいで治るのかしら?」
(鑑定の続き)
さあ?
心配事がなくなれば早いだろうけどな。
「心配事ってなんですの?」
(鑑定の続き)
それは鑑定魔法で言えることじゃない。
意識が戻ったら聞いてみるんだな。
「わかりましたわ。あと、どうすれば楽になりますの?」
(鑑定の続き)
とりあえず今は頭痛と熱があるから頭を冷やしてやれ。
意識が戻ったら、消化に良くて栄養価の高いものを食べさせればいいだろ。
あと、魔法とか召喚したもので少し回復を早められるけど、それは俺からは教えられないから自分たちで考えろ。
「…ということですわ、姉さまたち」
「便利なものね。クリスにその特殊な魔法が使えてよかったわ」
「エメル姉さまの言うとおりね。こんな時になんだけど、ちょっとうらやましいわ」
「お父様にも連絡しないと」
「エメル姉さま、連絡先わかる?」
「わからないわ。お母様の『内線通話』があれば…」
「あれは外にも掛けられるのよね?」
「おそらく異次元箱の中ね」
他人の異次元箱の中身は出せませんわ。
…本当に出せないのかしら?
この前ケイトが、自分の異次元箱にあるものから教科書の写真をタブレットに移していましたわね。
もしかすると、ケイトならできるかもしれないわ。
「姉さまたち、ちょっと耳を貸してほしいですわ」
「何?」
「小声で言うこと?」
「(小声で)ケイトなら、異次元箱の中身を召喚できるかもしれませんの」
「(小声で)本当?でも、ここに連れて来るのはまずいわよ」
「(小声で)領地に入っていればいいはずですわ。だから、そこの隅でこっそりとさせますの」
お母様たちの部屋はL字ですのよ。だから、今寝ている布団をくるっと回して、緊急扉と反対の端のほうに頭を持っていけば、ケイトが来ても見えませんわ。
「(小声で)声はどうするのよ?」
「(小声で)小さい声ならわかりませんわよ」
「(小声で)じゃあ、やるわよ」
わたくしたちはお母様の頭と足の部分の布団を持ち上げて、くるりと回しますの。
そして、共用扉からケイトを呼びに行きますわ。
-主人公ケイト視点-
「えっ?高熱?!」
「お父様に連絡しようにも、お母様の『内線通話』が出せないのよ。それで、ケイトなら出せるかもしれませんわ」
「やってみます。でも、もし目が覚めたら…」
「見えないようにしてあるから大丈夫ですわ。その代わり、小声でしなさい」
「わかりました」
責任重大だな。
俺は緊急扉からお母様のいる領地に移動する。
「クリス、頼んだわよ」
エメル姉さまは手に氷の入った袋を持っているみたいだ。
俺はサフィ姉さまを手招いて、タブレットの文字を見せる。
『俺の妹たちに、解熱剤を出してもらってください』
「解熱剤?」
そうか、朝には治るから、薬を飲む習慣も無いんだな。
『言えばわかります。熱を下げる効果のあるものです』
「もしかして『薬』?あれは特級召喚しか無いわよ」
え?そうなの?
「でも、頼んでみるわ」
サフィ姉さまは自分の領地へ戻っていった。
さあ、俺は俺ができることをしないと。
「(小声で)『内線通話』って特級魔道具ですよね?」
「そうですわ」
上級より上か。
できるかな。
いや、やらないと!
「(小声で)『特級魔道具召喚』。女王様の異次元箱の中にある『内線通話』」
しーん
「出ませんわ」
「(小声で)何度か試します」
…
…
…
駄目か…。
みし
「え?」
「え?」
何かきしんだ音が聞こえたような?
「(小声で)『特級魔道具召喚』。女王様の異次元箱の中にある『内線通話』」
ぴし
ごとん
俺の右手からではなく、空中から『内線通話』が転がり落ちてきた。
ついでにいろんなものも一緒に。
良く見ると空間がひび割れている。
しゅううう
そしてその穴はゆっくりとふさがっていった。
「もしかして、異次元箱に穴を開けましたの?」
「あなたの椅子、無茶苦茶するわね」
「でも、出てきましたわ!これでお父様に連絡できますの!」
エメル姉さまがさっそく『内線通話』を操作する。
慣れているのか、特別なボタンを使いこなしているみたいだ。
「『外線通話』!お父様を呼び出して!」
ピー
「これ、何の音?」
「初めて聞きますの」
「(小声で)『上級鑑定』あの音の正体を」
「わたくしも聞きたいですわ!『上級鑑定』!」
『あの音の正体』
何でも聞けばいいってものじゃないけど、まあそんなに秘密の事でもないから教えるか。
あれは、通話先が『無い』場合だ。
「無いって何ですの?」
(鑑定の続き)
もう通話できないってことだ。
「もしかして、お父様にも何かありましたの?!」
「ちょっと、クリス!これ見て!」
エメル姉さまが落ちていた紙を見せてくれますの。
さっきケイトが『内線通話』と一緒に出してしまった紙ですわ。
『離婚届受理通知』
そこにはそう書いてあった。
-王女クリステラ視点-
『離婚届受理通知』
…が提出した離婚届を受理したことを通知する。
これ、もう2か月も前ですわ!
「クリス、これも!」
もう1枚の紙には、『離婚調停』と書いてあるわ。
…そんな…お父様が浮気?!
「それで私たちに打ち明けられずにずっと一人で悩んでいたのね」
「お母様…全然気づけなくてごめんなさい」
「エメル姉さま!クリス!解熱剤は出せるけど、飲ませられないから、体に直接触れて召喚したらどうだって!」
サフィ姉さまがそう言いながら駆け込んできましたわ。
「特級召喚なら、わたくしの椅子がするべきですわ」
こういう言い方ならバレませんわね。
「クリス、頼むわよ。サフィ、ちょっと大事な話があるのよ」
サフィ姉さまに説明は任せて、ケイトをお母様の布団の所に連れていきますの。
見えないように体をかがめて、お母様の足に触ってもらって召喚してもらうわ。
「『特級薬品召喚』今の症状に効く解熱剤を体内に直接入れても問題ない濃度で」
さすがケイトですわね。
わたくしには何のことやらさっぱりわかりませんのよ。
「ん…」
お母様?!
すごい!もう効いてきましたの?!
「ええっ?!離婚っ?!」
サフィ姉さま、声が大きいですわっ!
「違うのよっ!わたくしはっ!」
がばっ!
「あ」
「あ」
さ、最悪ですわ。
起き上がったお母様とケイトが鉢合わせしましたの。
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次回も明日、1月8日更新です。




