第28話 ドS王女様は見送る
このまま終わるわけありませんよー。
令和2年1月5日
言い回し等の微修正。
-王女クリステラ視点-
扉の音がして、ケイトが入ってきましたわね。
「クリス様、もう正面を向いてもいいですよ」
「わかりましたわ」
今日の目隠しはきちんとできているはずですわ。
ケイトも「あれ?」とか言いませんもの。
「じゃあ、洗いますね」
「お願いしますわ」
ばしゃばしゃ
髪を濡らすのも上手ですのね。
顔にかかりませんもの。
ぴちゃぴちゃ
昨日と同じ「シャンプー」ですわね。
わしゃわしゃわしゃ
そうそう、これで頭の辺りを洗われているときがすごく気持ちいいですわ。
わしゃわしゃわしゃ
わしゃわしゃわしゃ
…
あら?
手が止まっていますわよ。
「ケイト?」
「…」
ケイト?
-主人公ケイト視点-
クリス様…
もし、戻ってこれなかったら、どうしよう?
その時は、絶対に魔法を覚えて、クリス様の所に、自力で戻ってみせる!
ううん、そうじゃなくて、クリス様が召喚してくれたら、それで戻らないと!
「…?」
でも、戻れなかったら…
「ケイト!」
ぎゅうっ!
急にクリス様が振り向いて抱きしめてきた!
「心配なのは、わたくしも同じですわ!でも、絶対に大丈夫ですの!わたくしは、魔法の天才ですのよ!」
「はい!」
「絶対にわたくしが召喚してみますの!」
「はい!」
クリス様は抱きしめていた体を離すと、元のように後ろを向きます。
「寒いわ。お湯をかけなさい」
「はい、ただいま!」
肩から、腰から、クリス様が冷えないように。
でも、なんでだろう。
本当なら、すごくエッチなことをされたはずなのに、どうして、
クリス様のぬくもりだけを素直に感じられたんだろう?
「終わりました」
「ご苦労様ですわ。昨日と同じように、順番に入りますわよ」
-王女クリステラ視点-
いい湯加減ですわ。
それにしても…無意識にケイトを抱きしめていましたわ。
これって本当はすごくエッチなことよね。
目隠ししているから恥ずかしくないとは言っても、実際に触れるのは別ですわ。
でも、どうしてかしら。
本当なら、すごくエッチなことをしたはずなのに、どうして、
ケイトに対する優しい気持ちしか湧かなかったのかしら。
-主人公ケイト視点-
お風呂から出て、クリス様はネグリジェ。
俺はここに来たときの制服、つまりカッターシャツ。
そして俺は領地の隅に居る。
クリス様も反対の隅に立っている。
これから元の世界に帰るからだ。
「クリス様、昨日の約束は、帰ってきてからでいいですか?」
「昨日の約束?」
「クリス様が喜びそうなものを出すって」
「ええ、待っていますわ」
さあ、帰り支度だ。
まず、古い魔法の教科書、サフィ姉さまのだけど、それを借りて行こう。
異次元箱は向こうの世界にないから、入れ物がいるな。
「『上級日用品召喚』!荷物がたくさん入るリュック!」
よし!成功だ!
今の俺は、何でも成功する気がする。
だって、クリス様のためだから!
「準備はおわりましたの?」
「いえ、最後にこれだけ」
俺は魔晶石を握りしめて、
「『上級魔道具召喚』!二人を繋ぐ魔道具を!」
出た!
えっ?
この魔道具は、いつもみたいに右手に現れなかった。
左手に握られている指輪と、
左手の薬指にはまっている指輪。
どちらも石のないシンプルな指輪。
でも、きっとこれがクリス様と俺を繋いでくれる。
「クリス様、これを持っていてください」
「はめなさい」
「えっ?」
「あなたと同じように、わたくしの左手の薬指にはめなさい」
-王女クリステラ視点-
いよいよ行ってしまいますのね。
一晩経てば会えるはず。
でも、もしかして…
いえ、そんなことはないはずですわ。
それでも万が一…
「『上級魔道具召喚』!二人を繋ぐ魔道具を!」
ケイトの声で我に返る。
そう、それがわたくしたちを繋いでくれるのね。
「クリス様、これを持っていてください」
そうじゃありませんわよ。
「わたくしの指にはめなさい」
「えっ?」
「ケイトと同じように、わたくしの左手の薬指にはめなさい」
すっ
ケイトがわたくしの手を取り、指輪をはめてくれましたわ。
まるで何かの誓いのようですの。
「クリス様、それでは…行ってきます。ここが、俺の帰ってくる場所です」
「そうね、行ってらっしゃい。呼んでも帰らなかったらお仕置きですわよ」
わたくしは、魔晶石を手に握り、ケイトの手を握る。
元の場所に送り返す呪文『送還』。
召喚呪文を失敗して、「誰かの持ち物」を返す時に使う呪文。
「『送還』!ケイト、さ…」
別れの言葉は出なかったわ。
だって、別れじゃないもの。
ここに帰ってくるって言いましたもの。
でも、もしかして、
『送還』の呪文が、持ち主に返す呪文なら、
ケイトはわたくしのものですから、
わたくしの所に現れてもいいじゃないですの!
領地内を見回しても、ケイトはいないわ。
ケイトは、ケイトは、わたくしのものだと思っていましたのに。
いいえ、たった2日だけの主従関係ですわ。
次こそ、次こそは『送還』の呪文でも元の世界に帰られないように、
本当にわたくしのものにしてみせますわ!
寝ましょう。
寝れるかしら?
早く朝になって…
-主人公ケイト視点-
視界が切り替わると、そこは俺の家だった。
狭い、汚いアパートの一室。
それでも四畳半よりは広いが。
でも、何かおかしい。
ただでさえ少なかった家具が、1つも無い。
家具の跡があるから、持ち出した後?
もしかして、引っ越した?
いや、待て。
まず、『送還』の呪文は『持ち主の元』に行く呪文らしい。
それであれば、俺は呼び出された教室ではなく、家に、親元に帰ってくるのは間違っていない。
引っ越ししたなら、引っ越し先に帰るはず。
だから、ここが家で間違いないはずだ。
家の中を見て回ると、俺と妹たちの部屋にポーチが落ちていた。
これ、マリナとカリナの…この破れの補修はマリナのだよな。
手がかりが欲しいと思って中を開けると、小物に交じって、折りたたまれた新聞があった。
『高校生蒸発?忽然と教室から消える』
○○年4月10日。○○高校3年生の○○ケイトさん(18)が、行方不明となった。
教室に居た友人たちの話によると、一緒に遊んでいたところ、不意に姿が見えなくなり、カバンなどの荷物を残したまま居なくなったという。
警察では事故と事件両方の…
友人、遊んでいた…か。
はあ。
魔法を勉強して、持っている魔晶石で豚王Pに復讐してもいいけど、もうそんな過去のことなんてどうでもいいや。
えっと、今の日付は…何もないからわからないな。
時間もわからな…あっ、お昼の12時か。
『体内時計』が使えるってことは、やっぱり魔法とか使えるみたいだな。
とにかく誰かに無事を知らせないと…いや待て。
無事を知らせて、また失踪するのか?
もしかして、今のままでも、みんな幸せかもしれない。
「やっぱり黙って帰るか」
ぼそっと独り言をつぶやいたその時、
「「ええっ?!」」
背後から声がして振り返った。
そこに立っていたのは、双子の妹、マリナとカリナだった。
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次回も明日、12月16日18時更新です。




