第27話 ドS王女様の下僕であることに誇りを持って
シリアスは続かない…。
令和2年1月5日
言い回し等の微修正。
-王女クリステラ視点-
ケイトが泣いていますわ。
笑っていますけど、涙がこぼれていますの。
王女として、主人として、下僕の涙は見過ごせませんわ!
「ケイト、どうしましたの?何かありましたの?」
「クリス様…今が幸せで、」
幸せで泣いていたですわね。
うれし泣きってありますもの。
「それで、残してきた家族が、俺が急にいなくなってて、心配していると思うけど、俺だけ、こんなにクリス様のおかげで幸せで、だからっ」
ああ、そうでしたの。
すっ
わたくしはケイトの頭にそっと手を置いて、なでてやりますわ。
そうですわ、急にこんなところに呼び出して。
ケイトに今を幸せって言ってもらえるのは嬉しいですわ。
でも、やっぱりケイトは…ここに居るべきではないのかもしれませんわね。
ぽたっ
え?
「クリス様?どうして泣いて?」
え?
うそ?
だって、
たったの2日しか、
いいえ、もっと短いのよ。
ほんの少ししか一緒にいなかったのに、
ケイトを元の世界に戻そうって思ったら、
どうして、
どうしてこんなに悲しいの…。
わからない、この気持ちはなんなの?!
そうですわ!
こういう時こそ!
わたくしは、魔晶石を取り出して、魔法を唱えますの。
「『上級鑑定』!わたくしのこの気持ちは何なの?!」
『クリス様の気持ち』
ステータスとか見られないようになっているのに、自分の感情を鑑定するとか、クリス様は信じられないことするな。
「『鑑定さん』!お願い!わたくしのこの気持ちを教えて!」
(鑑定の続き)
普通は人間相手の鑑定はダメなんだが、まあ『気持ち』だから物扱いにしてやるよ。
「『鑑定さん』!うれしいですわ!」
「クリス様、一体なんの会話を?」
(鑑定の続き)
それはな、うーん、まあ平たく言えば「アイ」だな。
「『アイ』?わたくしのこの気持ちは『アイ』ですの?!」
「『愛』?ってまさか?!」
(鑑定の続き)
そうだ。それは感情の喜怒哀楽のひとつ「哀」だ。
喪失を伴う悲しさを感じた時の特別な悲しみ、それが「哀」なんだぜ。
「わたくしがケイトを失いたくないから…」
「クリス様が俺のことを…」
(鑑定の続き)
でも心配はいらない。
呼び出した『物』を送り返す『送還』の魔法を使おうか悩んでいるようだが、もうクリス様の心には『ケイトという最高の椅子』が刻み込まれているだろ?
「そうですわ!ケイトのことはしっかりとわたくしの心に刻まれていますの!」
「そんな、主従関係だと思っていたのに…」
(鑑定の続き)
おい、ケイト。おい、ケイト!
やっぱり聞こえないか。
ちょっと勘違いしている奴がいるわ。
クリス様、ケイトにも『上級鑑定』使ってもらいな。
「え?はい。ケイト、あなたも『上級鑑定』を使いなさい」
「あ、はい。『上級鑑定』!って何を?」
(鑑定の続き)
別に何も対象にしなくていいからな!
「ケイト、聞こえまして?」
「はい!俺にも聞こえます!」
(鑑定の続き)
そもそも、鑑定の魔法と会話できるのって、お前らだけだからな。
「え?」
「え?」
(鑑定の続き)
どうしてこうなったかわからんが、とりあえずわかっていることを教えてやる。
まず、ケイト。
この『アイ』は喜怒哀楽の『哀』で、喪失感を伴う悲しさのことだからな。
「あっ、で、ですよねー。うん。納得」
ケイトが何かほっとしたような、残念そうな複雑な表情をしていますわ。
(鑑定の続き)
それで、『送還』の魔法であればケイトを元の所に送り返せる。
それから、『日用品召喚』でまた呼び出せばいいだけだ。
「そんなことができますの?」
(鑑定の続き)
だから、召喚はイメージが大事なんだよ。
ケイトのことがしっかり心に刻みつけられているなら大丈夫だ。
「そうですわね!」
「あっ、さっきの言葉はそういう意味か」
(鑑定の続き)
まあ、念のため上級召喚も試した方がいいかもな。
魔法の成功率をアップさせるケイトが居ないから失敗するかもしれないから、何度か挑戦しな。
「何度でもやりますわ!ケイトが戻ってくれるなら魔晶石なんて惜しくありませんの!」
「クリス様…」
「だって、ケイトはわたくしの最高の下僕ですもの!」
「はいっ!」
(鑑定の続き)
よしよし。
じゃあ、急いだ方がいいぜ。
何しろ、こっちと向こうの世界は進む速さが違うからな。
「え?」
「そうなの?」
(鑑定の続き)
1日が
「あら?」
「え?」
急に聞こえなくなりましたわ。
-主人公ケイト視点-
愛じゃなくて哀?!
うわあ!恥ずかしい!
クリス様にバレなくて良かった!
それよりも話の続きを!
「クリス様、おそらく、魔法が切れたのでは?」
「それでしたら、あとから使ったケイトは聞こえるはずですわよ」
「同時に使うと効果が混じるのかもしれません」
「それなら、もう一度やるわよ。はい、魔晶石よ」
「「『『上級鑑定』』」」
(鑑定の続き)
おう、気づいたな。
話していられる時間がどのくらいかは、教える内容が高度なほど短くなるみたいだな。
それでな、ここの1日は向こうの1ヶ月だ。
「すごいですわね」
「そんなに違うんです?!」
(鑑定の続き)
今なら、向こうでは1ヶ月ちょっと経っているだろうな。
「ケイト、早く戻った方がいいわね」
「はい。でも、きっと戻ってきます!」
(鑑定の続き)
あちらで1ヶ月過ごしても、こっちでは1日だから、戻ってから慌てる必要はないぞ。
「いえ、家族と話だけしたら、俺はすぐに戻ります!俺はクリス様の下僕ですから!」
(鑑定の続き)
わかった。
じゃあ、そうだな…あっ、『上級鑑定』を魔晶石マシマシで頼む。
「マシマシってなんですの?」
「たぶん、大目に使うってことです」
俺とクリス様は5個ずつ魔晶石を握って『上級鑑定』を唱える。
(鑑定の続き)
よし、これなら教えらえるな。
「そんなに重要な話なの?」
(鑑定の続き)
そうだ。魔晶石な、それは向こうの世界にも持って行けるからな。
「本当に?!」
俺は驚く。
驚くしかない。
じゃあ、向こうでも魔法が使えるのか!
(鑑定の続き)
魔法の教科書と魔晶石を持って行って、向こうで必死に覚えて帰ってこい。
万が一呼び戻せなくても、向こうとこちらの連絡方法を見つけられるかもしれん。
俺が詳しい方法を教えると魔晶石100個あっても足りないから、自分で探せよ。
さて、そろそろ時間だな。
あばよ!
「『鑑定さん』!ありがとうございます!」
「良かったですわね、ケイト」
-王女クリステラ視点-
良かったわ。
これでケイトは家に戻って、家族に無事だって告げられるわね。
でも、またここに来てもらえるかしら?
「ケイト、もし家族がここへ行かないでって言ったらどうしますの?」
「どこに行くか分かっていれば、俺が死んだかもなんて心配はされませんから、」
ぎゅっと、ケイトはわたくしの手を握ってきましたわ。
「俺はクリス様に一生を捧げます。俺が役に立たなくなるまで使って下さい」
「ケイト…わかりましたわ。それで、いつ召喚すればいいかしら?」
「今夜、寝る前に送り出してください。それで、朝起きたら俺を召喚してください」
わたくしをさびしくさせないように、寝ている間に行く気なのね。
向こうでは10日くらいしか居られないでしょうに。
でも…
「わかりましたわ。ケイト、必ず帰ってきますのよ」
「はい!クリス様の下僕は俺だけです!絶対帰ってきます!」
-主人公ケイト視点-
食事も済んで、昨日と同じようにお風呂。
夜に帰るって言ったのは、クリス様の髪を洗っていきたかったから。
決してやましい気持ちは…たぶんない。
ないんだって。
でも、たった二日だけど、こんなに濃密な時間を過ごせたから。
元の世界の10日くらいで、それが消えたりなんかしないからな!
「ケイト!入ってきなさい!」
「はい!」
俺は脱衣所に向かう。
そして服を脱いで、風呂場の扉を…
ちょい待ち。
「クリス様、今どっち向いています?」
「昨日、向きが違うって言われたから、その時に言われた向きですわ」
えっと、すると風呂桶が左手にあって、クリス様は正面に居て、体が右向きで座っているはずだな。
このまま入ると、クリス様の爆弾が見えるから、ひとまず入口に背を向けてもらおう。
「クリス様!左を向いていてください」
「わかりましたわ!…いいですわよ!」
ぎいっ
…
声を飲み込んだ俺を褒めたい。
こちらから見てクリス様は
体は右向きのままで、顔だけ向こうに向けていた。
左を向くってそういう意味じゃないからっ!
体ごとですっ!
クリス様はやっぱり桃色だった。
お読みいただきありがとうございました。
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次回も明日、12月15日18時更新です。




