第2話 ドS王女様が食べ残したハンバーガーを
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令和2年1月4日。
執筆初期でクリステラの言い回しが現在と違うので修正。
内容は変わりません。
―主人公ケイト視点―
俺は王女クリステラの下僕になった。
配下よりも奴隷に近い扱いらしい。
でも、今までよりはずっといい。
そして俺はここで何が出来るか知ることにした。
「クリステラ様」
「初めての下僕ですもの、特別に許すわ。私をクリス様と呼びなさい」
「はい、クリス様。この世界のことをいろいろ教えてください。例えば、食事とか」
本当は一番に聞きたかったのはトイレのことだった。
でも、いきなりそんなこと聞けないよな。
「ケイトの居た世界では食事はどうしておりましたの?」
体勢的につらいが、顔を上げ、クリス様を見ながら話す。
「テーブルに料理が並べられて、椅子に座って食べていました」
その言葉に驚くクリス様。
「テーブルですって?!あ、あなたはどこかの王族?いえ、皇帝?テーブルを置ける領地がある王族なんて、この大陸には居ませんわよ!」
ん?今、大陸ってニュアンスでアパートって言ったぞ?
ということはお隣の王国があって、それぞれこのくらいの広さってわけか。
「俺はただの平民ですよ。ただ、やたら広いだけですから」
「うらやましいですわ。そこならわたくしも…いえ、手の届かないものを望むのは王族の恥。それより、ここの食事を教えてあげますわ…魔晶石よ!」
そう言って、クリス様はどこからともなく、宝石を取り出した。
異世界ものの小説を読んでいればわかる。
異次元空間の倉庫から、魔力を溜めてある石を出したんだな。
「これを使って、『昼食召喚』!サンドイッチを所望しますわ!」
そして、クリス様の手の中に、直にサンドイッチが現れた。
皿も包み紙もない。
「このように、テーブルが無い領地では、なるべく手の中に食べられる物を召喚しますのよ」
そしてサンドイッチを食べ始めるクリス様。
ぐー
転移前に昼ごはん前だったせいで、俺のお腹が鳴った。
いや、仮に昼休みあとだとしても、弁当を持っていない俺は食事なんて食べられないけど。
「ケイト、お腹がすいているのですわね?下僕に俸禄を支払うのは王族の務め。この椅子の働きとして、魔晶石を遣わすわ」
そう言われて初めて俺は左手を浮かせることが出来た。
そしてクリス様から魔晶石を受けとる。
「これが魔晶石…」
「さあ、好きな食べ物を召喚なさい。床の上だからお皿が有ってもよろしいですわよ」
つまり四つん這いのまま食べろと?
クリス様を乗せたまま食べろと?
何てことだ!
何て…あれ?これって不幸なのか?
今まで昼ごはんの時間も豚王の椅子の役目をしているだけだった。
食べられるだけでも幸せじゃないか。
しかも、この状態で食べることを喜んでいる俺が居る。
いやいや、俺はそんな変態じゃない。
王女様の下僕として、当然の行為だ。
半畳領地だから、仕方なくやっているんだ。
立ち上がったら、きっとあの爆乳に押しつぶされるから駄目なんだ。
だから俺はこのままでいいんだ。
とりあえず俺は魔晶石を握って、クリス様の真似をした。
「『昼食召喚』!ハンバーガー!」
しまった。
せめてチーズバーガーと言うべきだった。
俺の手の平に現れたのは、CMでみるのと比べると半分くらいの厚さの、ノーマルなハンバーガー。
せっかくならもっといいものを召喚すれば良かった!
じゅるり
ん?
何か変な音が?
見上げると、クリス様が物欲しそうな目で俺のハンバーガーを見ている。
もしかして、ここってハンバーガーが無い世界なのか?
-王女クリステラ視点-
ケイトは魔法を成功させ、何かを召喚したみたいですわ。
あちらの世界でも魔法を使ったことがあるのかしら?
迷いのない、良い召喚ですわ。
しかし、あれは何かしら?
パンに何か挟まっている?
あのようなものは初めて見ますわ。
そして、とても良いにおいがしますの。
「ケイトよ、それをわたくしに献上しなさい」
きょとんとした表情のケイト。
「クリス様、俺にはこれひとつしかありませんので、クリス様のものと交換していただけるなら」
ケイトが見ているのはわたくしが食べかけていたサンドイッチ。
こんなレタスとハムしか入っていないサンドイッチ半分と交換してくれるとは、何という主人想いの下僕かしら。
しかし、わたくしはケイトに意地悪をしてみたくなりましたの。
「下僕に半分もやれませんわ(もぐ)はい、これで十分ですわよ」
私はサンドイッチを食べてさらに半分にして、ケイトの『はんばーがー』というものと交換しましたわ。
「温かい?(もぐ)これは…なんと!この柔らかい肉とソースは!なんというおいしさですの!」
わたくしは下品にも『はんばーがー』を一気に食べてしまい、足元に最後の一口を落としてしまいまったわ。
「あっ」
「あっ」
異次元箱のように『ごみ箱』という異空間への捨て場がありますが、そこに捨てるにはもったいなさすぎるわ。
でも、わたくしが拾って食べるなんて、王女として許されませんわ。
畳は常に清潔なのでわたくし一人だけなら拾ったかもしれないけど、人前ではできませんわね。
「ケイト、あなたがそれを食べなさい」
「はいっ!」
嬉しそうにそれを食べるケイト。
そんなに嬉しいの?
そうですわね。
わたくしのような天才美少女から下賜されたものなら、なんでも喜ぶわよね。
ふふふ、ケイトは従順で良い下僕だわ。
―主人公ケイト視点―
食べかけのサンドイッチ。
クリス様の歯形がついている。
これ、関節技だよな。
うん、サブミッション。
違う、間接キスだ。
クリス様は気にしないのかな?
そうか、こういう世界では普通なのか。
とりあえず、サンドイッチを食べてみた。
ハムだけど、久しぶりの肉の味。
それにパンそのものもやわらかくておいしい。
ずっとパンの耳ともやしの生活だったからな。
すごくおいしい。
それに、クリス様の食べかけ。
何だか、すごく幸福感がある。
すると、目の前にハンバーガーが降ってきた。
あと一口分くらいだ。
「ケイト、それはあなたが食べなさい」
クリス王女は俺の食べ物が少ないからと、恵んでくださったのか。
なんてお優しいんだ。
しかも、これにも王女様の歯形がくっきりとついている。
いいのかな?いいんだよね。
だって、そういう世界なんだし。
俺は半年ぶりに食べるハンバーガーをじっくり味わった。
クリス様の食べかけのハンバーガーはなんだか特別な味がした。
お読みいただきありがとうございました!
次回11月20日水曜日18時更新です。