第144話 ドS王女様は悪魔を退治する
戦闘シーン?いや、いつものやり方です。
『追記』
しばらく多忙につき、更新できそうにありません。
お許しください。
-ケイトたちの居る王国の城下町のとある民家にて-
「あなた!たまには子供の面倒見てよ!」
「…」
「あなた!聞いてるの?!」
「…うるせえババアだな。てめーこそ子供を放り出して遊んでばかりじゃねーかよ!」
「何を言うの?!痛い目に遭いたいの?」
「へっ、やってみやがれ」
夫の体から黒い靄が立ち込める。
「何これ?いやっ、体の中に入ってくるっ!」
「おとなしく受け入れろよ。まあお前みたいに性格の悪い女ならすぐに染まるさ」
「ママ?」
「ミリちゃん、逃げて…」
声を聞きつけて出てきた娘を部屋の外に押し出そうとする妻。
がしっ
「え?ミリちゃん?」
「ママ、これを受け入れると楽になれるよ。何でもできるようになるから」
「まさかミリちゃん…」
「さあ、家族みんなで『悪魔』になろう」
「いやあああああっ!」
-主人公ケイト視点-
今日はマリーとクリス様と一緒に食材を買い出しに来ている。
もちろんクリス様はリュックの中だ。
いゃぁぁぁぁ
あれ?
「マリー、何か声が聞こえなかった?」
「聞こえたわね。あの家かしら?」
『ケイト、すぐに向かいなさい』
リュックの中からクリス様がそう命じてくれる。
「わかりました」
この街で平屋の一戸建と言えば貴族ではないがそこそこ裕福な家庭だ。
そこから悲鳴のような声が聞こえたからって、ただ転んだだけとか夫婦喧嘩とかあるかもしれない。
でも、何か気になってしまったんだ。
「ケイト、念のために遠隔視の魔法を使うわ」
「頼むよマリー」
家の前に着いてドアを叩こうとしたところでマリーにその手を抑えられる。
ぴろん
マリー『中の人は普通にしているけど、何かおかしいわ』
ケイト『具体的には?』
マリー『遠隔視の魔法がぼやけてるのよ。よほど強い魔力を持っている人が近くに居る場合とか…』
ケイト『一般人の家だよね?冒険者とか?』
マリー『そんな見た目じゃなかったわ』
ケイト『とりあえず声をかけてみよう』
どんどんどん
「誰か居ますか!何か悲鳴が聞こえたんですけど!」
がちゃ
「あら?外まで声が聞こえたかしら?」
顔を出したのは30歳くらいの女性。
「何かあったかと思いまして」
「衛兵でもない人に気にしてくれるなんて優しいのね。でも大丈夫よ。ちょっと転びかけただけだから」
表情からは嘘かどうかまったく読み取れない。
「大丈夫ならいいです。失礼しました」
ここは追求せずにすぐに引き下がる。
もし悪魔が憑りついているなら、俺たちが何かに感づいたと思われて、その情報を流される方が困るからだ。
「ケイト、どうするの?」
マリーもかなり怪しんでいるけど、確証が無いなら無理はできない。
いや、今すぐに確認する方法はあるけど準備が必要だ。
「どのくらいこの王国内に、いや、この街の中に悪魔が来ているかわからないから、魔術師ギルドに行こうか」
「え?どうして?」
「とりあえずついてきて」
魔術師ギルドは魔術師が所属するギルドで、冒険者ギルドとも連携している。
だからここにわざわざ来るのは魔術師自身か魔術師に直接何かを頼みたい人だけだ。
「レイスとか精神系の魔物を封印できる道具とかありませんか?」
「さすがにレイスは無理だけど、ゴーストやポルターガイストくらいなら封印できる宝珠はあるよ」
「いくつくらいありますか?」
「いくつって…結構高いぞ」
「1万個くらいほしいんですけど」
「ぶっ!」
受付のお兄さんが盛大に噴出して、ギルド内の注目が集まる。
「何に使うんですか?」
「実はとある墓地で大量にゴーストやレイスが出て、単に消滅させてもいいのですけど英霊とかが混じってるので消滅させないでくれって言われてるんです」
「それで封印するってわけか」
「教会ならその状態で何とかしてくれるって聞きましたので」
「まあ暴れないようになれば教会の連中でも大丈夫だろうな。でも1万個か…あるにはあるけどお金はあるのか?」
「これで」
どんっと革袋を置くとそれをのぞき込む受付のお兄さん。
「十分だな。よし、4番の部屋に持っていくから受け取ってくれ。大きい異次元箱はあるんだよな?」
「大きいの?」
「封印宝珠の大きさは拳くらいだが、さすがに1万個だからな」
「大丈夫ですよ」
そして俺とマリーは4番と書かれた部屋に入る。
もちろん、リュックにはクリス様が待機している。
「防音室ね。もしかして、何か話があるかも」
「さすがにおかしな話と思うでしょうけど…たぶんそれだけじゃないですよ」
「どういうこと?」
ぴろん
内蔵品のCHAINでマリーとクリス様に『思いついたこと』を伝える。
マリー『わかったわ』
クリス『何かあったらわたくしがフォローしますわ』
こういう時のクリス様って頼もしいな。
「待たせたわね。私がこの魔術師ギルドのマスター、シンディよ」
見た目は20代の美女だけど、雰囲気がもっと長年生きているような感じだな。
魔術で年齢とか調整しているのかも。
「1万個の封印宝珠が要るような墓場の話は聞いてないのだけど、どこの話かしら?」
「依頼先の情報を教えるわけにはいかないので」
「だからこういう部屋に呼んだのよ。売る代わりにそれを『正しいことに使う』という証拠を見せてもらえるかしら?」
「わかりました。じゃあ、少しだけ商品を先に見せてもらえませんか?」
「いいわよ」
既に準備してあったのか、部屋を出てすぐにギルドマスターは宝珠を持って戻ってきた。
「これよ」
「失礼します」
ぴろん
マリー『本物よ』
「どうやって使うんですか?」
「精神体のゴーストに押し付ければ自然に吸い込むのよ。コントロールに自信があるなら投げつけてもいいわ。」
「便利ですね。じゃあ使う場所を教えるので、これは先にもらいますね」
バラバラバラと背負い袋に放り込む。
「ちょっと!勝手なことしないで!」
「だって、受付で代金は払ってますよ。むしろおつりがまだですけど」
「場所を聞いてからよ!」
「じゃあ教えますね。それは…ここです」
「ここ?…はうっ?!」
ギルドマスターは白目を剥いて体を痙攣させ、机に突っ伏した。
「やっぱりね」
「ケイトってばすごいのね。私でも気づかなかったわ」
-王女クリステラ視点-
上から封印宝珠が降ってきましたわ。
ギルドの職員は全部で20人居ないらしいですからこれで足りますわね。
床に魔晶石の山と封印宝珠の山を作ってそれぞれ手を乗せますの。
「憑依している知性は『えーあい』ってものだってケイトに教わりましたわ。そしてこの宝珠はそれを保管できる『保存ばいたい』っていうものらしいですわね。だからこれで召喚できるはずですの!『特級日用品召喚』!このギルド内の悪魔の『えーあい』をこの『保存ばいたい』に入れなさい!」
手を置いた山積みの魔晶石がぐんと減って、もう片方の封印宝珠が一気に光りましたわ!
ぴろん
ケイト『もう出てきていいですよ』
封印宝珠を持ってリュックから出てみると、ギルドマスターらしい女性が机に伏せていますわ。
「どうでした?」
「封印宝珠に入ったのは14人分ですわ」
「ここのギルドの職員の人だけかな?それともたまたま来ていた人も含むのかな?」
「それより、彼女を起こすわよ」
マリーさんがギルドマスターをゆすって起こしても目を覚まさないから『覚醒』の魔術をかけていますわね。
「うっ…これは?あなたたちはいったい?」
「記憶はありませんか?あなたは悪魔に憑かれていたのですよ」
「う…なんとなく覚えているわ。そう、あなたたちが助けてくれたのね」
「隣の国が悪魔に征服された話は聞いてますよね?」
「ええ、冒険者ギルドから聞いたわ」
「悪魔は人に憑依する。そしてここのギルドの人も大勢憑依されていたんです」
「何てこと…」
「でも、もう大丈夫です。今からこの国に居る悪魔を全て封印しますから」
「そんなことできるの?!」
「わたくしでもできましたもの、ケイトなら楽勝ですわ!」
「す、すごいのね」
「とりあえず、ここに1万個の封印宝珠を持ってきてください。あっ、俺も手伝います」
「わかったわ」
俺はギルドマスターと一緒に部屋を出る。
「そこに積んであるわ。異次元箱に入れて持って行ってもらえるかしら?」
「わかりました」
俺は山積みの封印宝珠に手を触れると…
どすっ!
背中に刃が突き刺さったのを感じた。
胸からも刃が突き出している。
そして赤い液体がしたたり落ちる。
「ふふっ、馬鹿な子ね。私は自分の意思で悪魔を宿していたのよ。せっかく研究がはかどり始めたところで邪魔するなんて許されないわよ」
「やっぱりそうですか。って、あんまり自信なかったんで一応隙を見せてみたんですけど」
「なっ?心臓を貫いたはずよ!」
「魔術師だから剣には不慣れなんですね。心臓をそんなに簡単に貫けませんよ。ほら」
ぷにょんと小剣を背中から押し返す。
その小剣には赤いプルプルしたゼリー状のものが付いている。
「スライム?!あなたスライム人間なの?!」
「今だけね。最初はクリス様のために使うつもりだったのに、まさか他の人相手に使うことになるなんてね」
「くっ!ならば火炎魔法で!」
「させないよ」
俺はシンディに覆いかぶさり、体の中に彼女を取り込んでいく。
「いや、がぼっ、おぼっ」
息を詰まらせたらおとなしくなるかと思ったら、指先に魔力が集まるのを感じる。
さすが魔術師ギルドのマスター。
無詠唱でも魔術は使えるんだろうな。
じゃあ精神集中を邪魔すればいいかな。
くにっ
「ひゃぐっ」
むに、くちゅ、くりっ
「あぶっ、ひっ、あがが…」
体を痙攣させて気を失うシンディ。
スライムの体液を肺に吸い込んでるから、それだけは出してやろう。
「ケイト、それはさすがにひどいわ」
いつの間にか来たマリーがジト目で俺を見る。
「どうやって無力化するか思いつかなかったので、とりあえず色々と…」
「クリスに言えないような方法でやったのね」
「まあね」
「ねえ、これ私にもしてもらえるかしら?息はできるようにしてね」
「あ、えっと、うん。その代わり」
「大丈夫。誰にも教えないから」
特にクリス様に知られたら何を命じられるかわかったものじゃないからな。
…バレたらその時にお仕置きついでにすればいいだけだし。
とりあえず気を失ったシンディを縛って魔法封じの魔道具も付けて、封印宝珠と一緒に部屋に持ち帰る。
「じゃあ始めようか」
俺は机の上に大量の封印宝珠と魔晶石を置く。
「この王国内から全ての悪魔を根絶やしにする!」
「ケイト!ヴィヴィと一緒に居るリーナまで封印したらだめですわよ!」
「あっ…」
「そんな大事なことを忘れてどうしますの!後でお仕置きですわ!」
ああっ、クリス様!せっかく格好良くキメてたのに!
でも、教えてもらって助かった!
お読みいただきありがとうございます。
ブックマークとか感想とかいただけると嬉しいです。
次回の更新予定は多忙につき未定とさせていただきます。
何卒ご容赦くださいm(__)m




