第116話 ドS王女様は地下街のショッピングを楽しむ
地下街は東京駅地下の雰囲気でもっと人が少ないのを想像してもらえれば。
-王女クリステラ視点-
この世界に来て今日で40日。
あっと言う間でしたわ。
姉さまたちも異世界冒険のための準備が十分にできたみたいですの。
「クリス様。帰るまで時間があるから、この前言ってた『地下街のショッピング』に行きませんか?」
本当は約束をした翌朝に行くつもりでしたけど、朝にケイトで色々(・・)していたら、すっかり忘れてダンジョンに行ってしまいましたの。
なぜかケイトも忘れていたみたいで下僕失格ですわね。
でも、ここから帰るまでに行こうって話にしてありましたのよ。
「そうですわね。行きたいですわ」
「じゃあ、クリス様。さっそく行きましょう!」
「着替えますから待っていなさい」
「はい」
ケイトが部屋を出て行ってからわたくしの『お気に入り』の服に着替えますわ。
-主人公ケイト視点-
クリス様と二人っきりでショッピング。
デートじゃないよ。
お供だよ。
でも、すごくドキドキワクワクするな。
コンコンコン
「入りますわよ」
え?クリス様がこっちに来てくれたの?
ギイ
ドアが開くと、そこにはセーラー服を着た超絶美少女が立っていた。
そして髪の毛はツインテール。
これって、前にクリス様が『初めてのショッピング』という名目で、実際に色々試着してから召喚した服じゃないか!
『変化の魔道具』で身長も服も大人サイズになって、セーラー服なのに可愛さだけじゃなくて色気がある。
胸が大きすぎるせいだよな。
「ケイト?」
「すみません。あんまり綺麗なので息が止まってました」
「そ、そう?それは良かったわ」
あれ?
いつもなら
『当然ですわ!』
って言うのに?
ツインテールだからもしかして妹仕様?
「ねえ、ケイト」
「はい」
「その地下街はケイトの居た世界に似ているのですわね?」
「はい。でも、別の世界ですけど」
同じ世界だともうずっと年月が経っているけど、万が一身内に会うと困るからな。
「マリナやカリナに聞いたら、わたくしの見た目や言葉づかいでは目立つって言われましたの」
「でもその世界は言葉は通じますし、金髪も普通に居ますよ」
「それでも王族は普通は来ないのですわね?それなら、なるべく王族っぽくふるまわないようにしますわ」
クリス様なりに色々考えてくれていたんだ。
「ありがとうございます」
「ケイト、今から敬語は無しよ。わたくしも…クリスも話し方を変えるから。たまに間違うかもしれないけど、許してよね」
ん?
「べ、別にケイトのことなんか下僕とか思わないんだからね!」
「クリス様。誰にその口調教わりました?」
「カリナよ」
またかーっ!
「おかしいかしら?」
「いえ、大丈夫です。むしろいいと思います」
「それなら良かったわ。じゃあ、ケイト行きましょう」
「はい、クリス様」
「クリスでいいのよ」
「はい、クリス。行こうか」
「うんっ」
腕に抱きついてくるクリス様。
その破壊的な胸に左腕が包まれる。
もうこういうのは慣れたはずなのに、やっぱりドキドキするな。
クリス様だからだな。
異世界転移完了。
ここは地球の平行世界みたいな所。
国名は『日本』だし、見た目も現代日本。
でも明らかに異世界だってわかるのが『魔法』の存在。
現代日本に魔法を融合させた国造りとか、良くやれたものだなあ。
「ケイト。ここはどこですの?地下街までは遠いですの?」
「もう地下街の中ですよ」
『異世界転移』は高度な技術があれば、転移先の細かな指定や確認ができる。
そこで、人目の無いところを確認して転移してきた。
「すごいですわ!色々なお店がありますの!」
都心の地下街では人混みがすごいので、あえてあまり人が多くない地下街を選んである。
それでもいろいろ買い物するには十分だ。
「怖くないですか?」
「このくらいなら平気ですわ、平気よ!」
口調直そうと頑張ってるなあ。
別にいいのに。
だって、周りを見たらわかるけど、クリス様って綺麗すぎて目立つから。
王女とか関係なく人目引き過ぎるって。
「じゃあ行きましょう!ねえ、あの店からにしたいわ!」
アクセサリーの店を指さすクリス様。
「いいですよ」
この世界のお金は前もって準備してあるから問題ない。
もちろんとんでもない金額の買い物はしないけど。
…しないというだけで、できるんだなこれが。
だって、クリス様が本当に欲しいなら、買ってあげたいから。
「ケイト!これ!これがほしいですわ!えっと、待って、こっちもいいですの!」
ほら、夢中で口調が元に戻ってる。
「ケイト、いくつ買えますの?」
「まだ最初の店だから控えめにして、帰る時にやっぱりほしいものがあったら戻りましょう」
「控えめってわかりませんわ…わからないの」
「じゃあ3つで」
「そんなにいいんですの?!」
クリス様が選んだのは可愛らしいけどそんなに高くないアクセサリー。
まあ、そういう店だし。
「ケイト!あのお店は靴がたくさんありますの!」
そもそも室内ばかりで舞闘会以外では靴を履くことがなかったから、こういう店がすごく気になるみたいだな。
「クリス。せっかくだから全身着替えない?買ったものに着替えながら行くとか楽しそうだよ」
「いいですわね!」
さっそく服屋さんに入って、服を吟味。
クリス様が気に入ったお店で上下をそろえて、購入してそのまま着替えさせてもらう。
「ケイト、さあ行きましょう」
「あ、うん」
セーラー服も魅力的だったけど、大人の女性っぽい感じの服がすごく似合う。
顔は幼い感じだけど、プロポーションがいいせいだろうな。
ほら、みんなこっち見てるし。
一部妬ましそうに見てるけどお供だからね!
「次はこの服に合う靴を買いましょう」
普通っぽい言葉遣いも慣れてきたなあ。
-王女クリステラ視点-
素敵な靴がたくさんありますの!
そしてお店に飾ってある写真を見ると、この女性はかかとの高い靴を履いていますわ。
「こういうのがが履きたいわ」
「ハイヒールって初めてですよね」
「初めてだと何か困るかしら?」
「歩きにくいかもしれませんね」
「お客様」
店員さんが来ましたわ。
「ハイヒールが初めてのお客さまには、この『マジックインソール』をサービスでお付けします。これでハイヒールの歩きにくさは解消されます」
「マジックインソールって魔法のアイテムですの?」
「はい。魔法を掛けてあるインソールで、これを靴底に貼っていただくだけで、約半年間ハイヒールで歩くのをサポートしてくれて、効果が切れる頃にはハイヒールで歩くのに慣れるようになっています」
すごいですわ!
さっそく色々な靴を試しますの!
「お客様ならこういうブーツもお似合いです」
どちらもいいですわね!
「クリス。悩むならハイヒールとブーツは両方買うよ」
「いいの?!」
ブーツも買って、ハイヒールを履いていきますの。
ハイヒールで少しケイトの顔が近くなりましたわね。
「ケイト、次はどこにします?」
「ひとまずお昼ご飯にしましょうか?」
「それなら『ハンバーガーショップ』に行きたいわ!」
『ワイルドバイト』
これがこの世界のこの国で一番有名なハンバーガーのお店ですのね!
「ご注文をどうぞ」
店員さんの目の前に映像が出ましたわ!
これって幻影魔法?
立体に見えるから、商品がわかりやすいですの。
「ケイト。これって色々付いてるから定食ですのね」
「こういうのは『セット』って言うんですよ」
「くすっ」
あら、店員さんに笑われてしまいましたわ。
ぱく、もぐ
「どうです?」
「ん…おいしいわ!ジビエ肉の野性味溢れる旨味が噛むほどに口の中に広がって、歯応えのあるバンズがそれをしっかり受け止めていますの。野菜も肉の癖を消すだけじゃなく旨味を引き出すために甘味が出る調理方法にしてありますのね!」
パチパチパチパチ
なぜか回りから拍手が起こりましたの。
それにしても楽しいですわ!
「おおっと!」
あら?
ケイトの横を通ろうとした男性が急に躓いて転び…
ひょい、すとん。
…ませんでしたわ。
ケイトがすごい速さでその人とプレートを受け止めて元に戻しましたの。
「え?なんで元に?」
「おい、何してるんだよ」
「助けられた…」
「そうじゃないだろ。おいおいおい、俺のダチが蹴つまずいたじゃねーかよ!」
あら?これってもしかして『言いがかり』って奴かしら?
「怖い思いさせておいて、何も言わないつもりかよ?!」
「勝手につまずいたんですよね?」
人相が悪くて頭も悪そうな男二人なら、ケイトに任せておけば大丈夫そうですわ。
「はあ?!ふざけたこと言うんじゃねーよ!」
「そうだ、その女をよこしな!それでチャラにしてやるぜ!」
「お断りします」
「へへっ、俺たちは『Dランク勇者』なんだぜ。悪い奴を見つけ次第成敗する『誅悪許可証』があるんだぜ」
「そうですか。確かそれって『誅悪許可証』を無くしたりすると無効になるんですよね?」
「何?」
ケイトがひらひらと何かのケースを見せていますわ。
「俺の『誅悪許可証』の入ったケースが?!いつの間に?!」
「スられた?!それとも魔法で盗み出したのか?」
「ケースには対抗魔法が掛けられているから無理だ!」
「いや、ランクが上の相手なら…まさか」
ケイトが異次元箱から似たようなケースを取り出しましたわ。
この男たちは緑色ですけど、ケイトのケースは銀色ですの。
「Aランク勇者だと?!」
「これって悪い奴を見つけ次第成敗できるんだったな?」
「逃げろ!」
「馬鹿、置いていくな!」
すごい勢いで逃げて行きましたわね。
「ケイトも同じものを持っていましたのね」
「何度か下見に来てますからね。ついでですよ」
ついででAランクの資格が取れると思いませんわ。
きっとわたくしのために準備してくれていましたのね。
「ケイト、追いかけませんの?きっとまた悪さをしますわよ」
「大丈夫ですよ。『マーカー』は付けましたから。食事が終わってから『成敗』しに行きましょう」
ケイトがすごく頼もしいですわ!
-Dランク勇者『躓いた男』視点-
何でこんなところに『Aランク勇者』がいやがるんだよ!
しかもハンバーガーショップにあんな美人を連れて来るとか頭おかしいんじゃねーか?
「おい、もう帰るか?」
「馬鹿言うな。あんな美人見たことないぞ。仲間を呼んで一斉にかかれば…」
「あいつ、只者じゃないぞ」
「数で勝つさ。もう呼んだからな」
「はえーな」
集まったのは15人。
「これで全員だね?」
「そうだ…って、てめー?!」
さっきの男がいつの間にか隣に居やがる!
「仲間ってことは、普段からさっきみたいなことをしている奴らってことだな」
「くっ。おい!こいつだ!すげえ美人を連れてた奴だ!」
「ぶっ倒して、近くに居るはずのその女をもらっていくぞ!」
「それって、わたくしのことですの?」
物陰から出てきたのはさっきの女?!
「うわすげー美人だ!」
「俺が一番な!」
「うっせー!俺だ!」
「それよりこいつを早くぶっ倒そうぜ」
仲間はそれぞれ得意とする武器を取り出す。
そして俺は魔法を唱え始める。
「…かの者の動きを封じる枷となれ『束縛』!」
Aランク勇者なら抵抗できるかもしれないが、一瞬でも動きが鈍ればその間に滅多打ちだぜ!
ドガッ!
一瞬で仲間が3人宙を舞った。
「魔法が全く効かねえだと?!」
「そんなんじゃあ弱すぎるよ。このくらいしないとね『集団束縛』」
「あ?」
「が?」
「ざ?」
「だ?」
「な゛?」
一気に5人が固まっちまった?!
無詠唱でこの威力だと?!
「くそっ、こうなったら女を人質に」
俺は女の所に駆け寄った。
しかし全然怖がっていやがらねえ。
ん?なんだあの構えは?
腰の刀を抜くような?
素手だぞ?
「はっ!」
ビシュッ!
「はがっ!」
強い衝撃を眉間に受けて…俺の意識は途絶えた。
-主人公ケイト視点-
「クリス、すごいね!今のは素手だけど刀術士のスキル?」
「これは『無手抜刀』よ。素早い手刀で空を割いて、相手に脳震盪を起こさせるの。弱い相手なら十分に使えますわ」
「とりあえずこいつらはここの警備員に突き出すが…『日用品召喚』全員の『誅悪許可証』!」
「使えなくしておくのね。わたくしに任せて。はっ!」
クリス様が異次元箱から刀を取り出すなり、全ての『誅悪許可証』を真っ二つに斬る。
「すっきりしましたわ!」
「あっ、警備員が来ましたね。さっさと引き渡して買い物の続きをしましょう」
「そうね」
-王女クリステラ視点-
いっぱい買い物ができて、『テンプレ』みたいなこともありましたし、すごく楽しかったですの!
「ただいまですわ!」
「え?クリス?ケイトと出かけてたの?」
あら、サフィ姉さま。
「ええ。買い物に付き合ってもらいましたわ。ケイトはエメル姉さまの所に行きましたわよ」
「買い物ってデートじゃないよね?」
「デート?」
デートって、恋人同士が一緒に遊びに行くことですわよね。
「主人と下僕ですから、デートではありませんわ」
「そっか」
何だかホッとしていますわね。
もしかしてわたくしのことを心配してくれたのかしら?
「サフィ姉さま。ケイトはわたくしに不埒なことをしたりはしませんですわ」
「だよな。ケイトだもんな。うん。ならいいんだ」
一体何ですの?
-王女サファイラ視点-
クリス、すごく楽しそうに帰ってきてたな。
それに、あの服とかアクセサリーって全部買ってもらったんだろうな。
デートじゃないのはわかってる。
だって、クリスにその気が無いから。
でも、ケイトはどうなの?
本当にケイトはクリスの事を愛してないの?
主人として見ていられるの?
コンコンコン
「はい」
「サフィ、ただいま」
「ケイト!…うん、おかえり」
「はい、これ。お土産」
手渡されたのは可愛らしいウサギのぬいぐるみ。
「え?どうして?」
「どうしてって、買い物に行っていいものを見つけたからさ。一応、みんなそれぞれにお土産を買ってきたんだ。サフィはこういうの好きだよね?」
「ケイトはデートなのに他の女性のお土産を買うの?」
「デートじゃないから買ったんだよ」
「じゃあ、今度ボクと一緒に出掛ける時は?」
「別にお土産は買わないけど」
ボクの馬鹿。
嫉妬なんかして恥ずかしいじゃない。
「ケイト、お土産ありがとう!」
「じゃあ、向こうの世界に戻るから集まって」
「うん」
元の世界に戻る時にクリスがケイトと手をつないでいたけど、ボクはもらったぬいぐるみをケイトと思って抱きしめていた。
それでも、ケイトとのつながりはクリスに負けてないって思えたから。
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