第114話 銃鍛冶師王女は錯乱して記憶を失う
エメル姉さまは真面目だけど
-王女エメラルディ視点-
銃鍛冶師はすごく面白い職業ね。
火薬を使った物理的な銃や魔法を使った銃、そして大砲のようなものすら作れる。
知識は全部頭の中にあるのだけど、理解するのとは別。
まるで読んでいない本が頭の中に並んでいる感じで、調べたいとか理解したいと思うと知識が広がってくる感じ。
まずは一番シンプルな銃を作ってみることにしたわ。
マリナは家具職人に弟子入りしたらしいけど、私はあえて自分の感性で作ろうと思うの。
「どう?」
私の作業を横で見てくれているのはケイト。
材料を買ってきたり特殊な部品を召喚してくれたりしてくれているけど、何よりありがたいのが『失敗した時の防御魔法』をかけてくれていること。
一応『爆粛』という暴発を鎮める魔法を銃鍛冶師は覚えているのだけど、いきなりどれほどの効果が期待できるかがわからないからあてには出来ないわ。
結局黒魔術は覚えられなかったし、色魔法はまだ適性を見てもらってないから、ケイトに頼ることになったの。
マリーさんやシェリーさんも含めて3人で、私とサフィとクリスをローテーションして安全の確保をしてもらっているわ。
マリナやカリナは家事をしてくれているけど、普通に料理もできるのよね。
むしろマリーさんがあんなに料理が上手とは思わなかったけど。
「ケイト、こんな感じかしら?」
設計図どおりに作り上げた銃をケイトに手渡す。
「設計図通りじゃないのかな?」
「それはわかるのよ。銃としてどうかしら?」
「俺の世界には銃は有っても手に入らないものだったけど、別の世界で見たものと比べれば、かなりいい出来じゃないかなと思うよ」
そう言ってもらえると嬉しいわね。
「ケイト、銃は持ってないの?」
「あるけど、いいの?独自性を出したいから習わないし、資料も見ないんだろ?」
「そうよね。ねえ、ケイト。あなたならどんな銃を使いたいかしら?」
「純粋に強い銃と、応用の効く銃かな」
「どうして?」
「一撃の威力はすごく大事だから、それに特化した銃があるとボス戦とかに役立つと思う。それと、初見の相手でも対応できる応用力のある魔法の銃はいいよね」
もっともな意見ね。
「でも、本当にほしいのは…うーん、あんまり具体的に言うとエメル姉さまのオリジナルが作りにくくなるかも」
「本当にほしいものがあるなら聞いておきたいわ」
「銃は攻撃に特化しているけど、みんなを守れるような銃がほしいなって」
「それは難しいわね」
「だよね」
「でも、すごく面白そうだわ。それでこそ私のオリジナルが出来そうね」
何だか、具体的な目的ができてワクワクしてきたわ。
「じゃあ次は魔法を使った銃を作るわね」
「休憩しない?おやつ出そうか?」
「作業していたいから、ケイト兄ちゃんが食べさせて」
「わかったよエメル」
-主人公ケイト視点-
夜になったけど作業が終わるまで寝たくないっていうから、エメル姉さまの付き添いで今夜はずっとそばに居ることになった。
「どうして魔力回路の導線がつながらないのかしら?」
難しいことやっているみたいで、俺の知識では手助けできないんだよな。
「うーん、駄目。もう限界。ケイト、手伝って」
「そういうのはわからないよ」
「違うわよ。『神託の王座』を使わせて。最低限のことだけ調べるわ」
俺が椅子に腰かけると、エメル姉さまは普通に俺に背を向けて腰かけてくれる。
最近、みんな向かい合わせに座ってばかりだもんな。
「ケイト、この回路と銃を見て。それから『魔力回路の導線がつながらない理由』を聞いてみて」
「わかったよ」
「…うん、ええ。まあ、そうなのね」
うまくいったかな?
今は夜9時か。
いつもならとっくに寝ている時間だな。
エメル姉さまのためなら別に徹夜でも付き合うけどね。
そういえばお風呂を忘れていたな。
他のみんなは入ったみたいだけど。
これは朝にシャワーを浴びることになるかな?
おっと疑問形にしないようにしないと、『神託の王座』でエメル姉さまに神託されるから気を付けよう。
-王女エメラルディ視点-
原因はわかったし、直し方も教わったからこれでうまくいきそうね。
『お風呂に入っていないから朝にシャワーを浴びることになるかについては』
シャワーって何かしら?
『シャワーを何か知りたいエメルが入ることになるが、二人っきりは恥ずかしいので一緒に入ろうとはしない』
まあ。
ケイトったら何を期待していたのかしら?
でも実際そうよね。
ケイトが幼くなった時に一緒に入ったけど、それはマリナやお母様が一緒だったのよね。
それに私と二人っきりとか、ケイトはどう思うかしら?
「…ねえ、ケイト」
「はい」
「私の事好き?」
ああっ?!いきなり何を聞いてるの?!
「え?」
「じゃなくて、そう!私の事好きにしてもいいって言われたら、何をしたい?」
「ええっ?!」
ああっ?!ごまかすつもりがもっとおかしなことを聞いちゃったわ!
『ケイトがエメルのことをどうしたいかについては』
ひょい。
ケイトに椅子から降ろされたわ。
「危なかった」
「ケイト。危なかったって、何を考えたの?」
「内緒で」
「駄目。教えて」
「嫌われたくないからいいです」
「嫌わないから教えて」
「駄目です」
「エッチなことね?」
「どちらかと言えば…」
やっぱりだわ。
「絶対に嫌いにならないって約束するから教えて」
「…それをしてもいいなら教えるけど、駄目なら教えないから」
ええっ?
そんなこと…でも、どうせ『みょぎりんこ』であまり変なことはできないのよね。
「裸になること?」
「ならないです」
「『みょぎりんこ』にならない?」
「なりません」
すると性的なことではないってことかしら?
ケイトが何をそんなに教えたくないか、それでもやってみたいか興味があるわ。
「いいわ。言って。王女の名に誓って、それをしてあげるわ」
「じゃあ…」
場所が無いから、椅子を横に並べて座ってからケイトのほうを向く。
「本当にそんなことするのね?」
「やっぱりやめてもいいよ」
「王女の名に誓ったから、やめないわよ」
「じゃあ」
ちゅぷ
ケイトが私の口に指をつっこんでくる。
そして、私の口の中で指を動かして…
ぺろ
私の唾液の付いた指を舐めたわ!
やることを聞いてはいたけど、実際にされると衝撃的ね。
ちゅぷ、くちゅくちゅ
指を口の中でかき回して、私の唾液を付けようとしているみたいね。
ちょっとだけ舌で手助けしてあげようかしら。
れろ
「あっ」
れろれろ、ぺちゅ
いっぱい唾液のついた指を私の前で舐めてる…。
何だか変な気分になってきたわ。
「エメル姉さま、これってどう感じる?」
「変な気分だわ」
「嫌?」
「変態的ね」
「やっぱり普通はそう思うよなあ」
え?何その言い回し?
じゃあ、ケイトが誰かにそうされているってこと?
………あっ!
「ケイト。クリスにされたのね?」
「あ、えっと」
「大丈夫、絶対内緒にするから」
「うん。寝ている間にこっそりとね」
ああ、もう。
クリスったら恋愛対象でもない下僕相手に何してるのよ?
「俺は下僕で椅子だからクリス様が何をしてもかまわないけど、実際どうなのかなって考えることがあって…それでエメル姉さまが何をしてもいいって言うからつい…」
「ケイト。そういうときはお姉ちゃんに頼りなさい」
「いいの?」
「可愛い弟のためですもの」
「じゃあ、その先の事もいい?」
「いいわよ」
「あのね」
え?
ええっ?
ちょっと待って、まさかそんなことまで?
「やっぱり駄目だよね?」
「さ、さすがにそれは」
「ごめんね、お姉ちゃん」
「!」
ぎゅっとケイトを抱き寄せて言うわ。
「お姉ちゃんとして弟の悩みは解決してあげるわ!さあ、やりなさい!」
「ありがとう。じゃあ。『飲物召喚』!お姉ちゃんの口の中にお姉ちゃんの唾液を!」
とぷん
はうっ
「じゃあ、いくね」
ちゅ、ちゅううう
ああっ、ケイトに吸われてる…
こくっ、こくっ
ケイトが私の唾液を、音を立てて飲んでるわ。
ぶるっ
何だか身震いしちゃったわ。
嫌な感じとかじゃなくて、これは歓喜に近いかしら?
まさか私も変態だったの?
「どう?」
「むしろケイトはどうなのよ?私の唾液なのよ」
「おいしかったかも」
きゅううんっ
「ケイト、交代よ!同じことをさせて!」
「え?でも?」
「ケイトお兄ちゃん、お願い。エメルにお兄ちゃんの唾液をちょうだい」
-主人公ケイト視点-
何だろう。
エメル姉さまの唾液を飲むと、すごくドキドキする。
クリス様もそんな気分なのかな?
「ケイト、交代よ!同じことをさせて!」
「え?でも?」
「ケイトお兄ちゃん、お願い。エメルにお兄ちゃんの唾液をちょうだい」
じっと見つめてくるエメル姉さま。ううん、今は妹のエメル。
「わかったよ、エメル」
口を開けると、そこにエメルが指を入れてくる。
ちゅく、ぺちょ
「ねえ、クリスがしている時は指を舐めたりしないわよね?」
「起きていないふりをしてるから」
「じゃあ、今は指を舐めて」
「わかった」
ぺろ、くちゅ、ぺちょ、ちゅぱ
「…あっ、だめ、『みょぎりんこ』になっちゃった。やっぱり舐めないで」
ちゅぷ、くちゅ
そして抜いた指を舐めるエメル。
「クリスったら、こんなことして…ああ。そっか。何だかわかってきたわ」
「わかるの?」
「すごくドキドキして気持ちいいわ。すごくいけないことをしている気分がたまらないのよ」
クリス様もそれで気持ち良く感じているのかな?
「じゃあ次をしましょう。『飲物召喚』!ケイトの口にケイトの唾液を!」
とぷん
ちゅっ、ちゅううう、ちゅうう、ごく、ごく
「んっ…そうね。きっとクリスはケイトの唾液を舐めて高揚するうちに、唾液そのものに執着するようになったのね。少しわかるわ。だってほら」
俺の手を取って、胸に当ててくるエメル。
「こんなにドキドキしてる」
「そうなんだ」
「でもね、やっぱりこれは変態的な行為だわ。私はもうやめておくけど、クリスがする分には下僕として受け入れなさい」
「はい」
やっぱりエメル姉さまでもやりたくないようなことなんだな。
「…ねえ、ケイトお兄ちゃん」
お兄ちゃん?
「クリスに負けたくないから、もっとエッチなことしよっ」
え?ちょっと?
どうしてそんなに目が潤んで顔が赤くなってるの?
もうやめるんじゃなかったの?
「あ、だめ。待って。おかしいわ。やめるはずなのに。違うの、もっとぉ」
え?意識が混濁してる?
何か変なことになった?!
そうだ!
俺はエメル姉さまを抱き上げて、床に座椅子状態で座る『聖女の椅子』の体勢になって、そこに座らせる。
これで『状態異常』とかは直るはずだ。
「ん?え?あっ、何だか頭がすっきりしてきたわ」
「やっぱり何かおかしかったのか」
「ケイトありがとう。私、とんでもないことをするところだったわ」
「何?教えて?」
「内緒よ」
「嫌いにならないからさ」
「お願い、忘れさせて」
それなら仕方ないな。
「原因究明だけしておかない?」
「そうね。ケイトの唾液であんな効果があるとかおかしいもの」
新ためて『神託の王座』の体勢になって向かい合わせにエメル姉さまが座る。
「何で向かい合わせに?」
「なんとなくよ」
それならいいけど。
-王女エメラルディ視点-
危なかったわ。
ケイトの体中に…とか…とかするところだったわ。
もう忘れましょう。
それより、どうしてこうなったか調べないと。
『エメルが錯乱状態にあった件については』
錯乱状態だったのね、あれ。
『黒魔術を極めつつあるケイトの体から出る体液はわずかに媚薬的効果があり、大量摂取するとその影響を受ける。なお、クリスは黒魔術を使えるのでケイトの体液を摂取しても媚薬的効果は得られない』
そういうことだったのね。
ちょっと恥ずかしいけど、ケイトにそのまま伝えるわ。
「困ったな」
「何が困るの?」
『ケイトがこの媚薬的効果のある唾液のせいでこれからエメルとキスできないかについては』
そんなこと考えていたの?!
『普通にキスするくらいの唾液では少し気分が良くなる程度である』
良かったわ。
…って私も心配してたのね。
「ケイト、普通にキスするくらいなら大丈夫って」
「そう、良かった。でも普通ってどのくらいだろ?」
「試す?」
「え?」
「心配性な弟のために、お姉ちゃんが確かめてあげる」
ちゅ、ちゅう、ちゅぱ
んっ、やっぱりちょっとだけ気分が良くなるみたいね。
はあ、はう。
「ケイトお兄ちゃん。もっとぉ」
「さすがに1時間もキスしていたら駄目か」
「ふふっ、一緒にお風呂入ろっ」
「もう一度『聖女の椅子』で正気に戻すよ」
「私は正気よ」
「え?」
「ケイトお兄ちゃんの事が大好きだから一緒に入りたいの。ね、お願い」
ううっ、そんな言い方をされると!
かぽーん
-王女エメラルディ視点-
…朝だわ。
夕べの記憶って全部残っているのね。
何だか色々とんでもないことをしたみたいだわ。
触ると『みょぎりんこ』になるからって、ケイトの前で服をどんどん見せつけるように脱いでいって、
『私を見て楽しんでほしいの』
なんて言って…
私って歯止めが効かなくなるとあんな発想しちゃうのね。
ああもう、どうしましょう。
ケイトも全部覚えているわよね?
ちなみに今は寝袋で一緒に寝ているのよ。
ケイトはまだ起きてないけど…寝たふりかもしれないわね。
「ケイト、起きてるわよね?」
「うん」
「夕べはごめんね」
「やっぱり正気じゃなかったんだね」
「そう思ったなら止めてくれれば良かったのに」
「止めたかったけど、止めたくなかったから」
「何よそれ」
「いつもエメル姉さまはぎりぎりのところで理性で踏みとどまっているから、その先を見たくて」
そんなふうに思われていたのね。
まあ、確かにそうなんだけど。
「まさかストリップまでするとは思わなかったけど」
「ストリップって何かしら?」
「平たく言うと、服を脱いでいく様子で男性にアピールすることかな」
あんな恥ずかしい行為にも名称があるのね。
「ねえ、ケイト」
「ん?」
「ケイトって、いつもの私と、錯乱した私と、どっちの私が好き?」
「どっちも大好きだよ」
そんなのずるいわっ!
「今後どっちかの私にしかなれないなら?」
「うーん…でも、俺にとってはお堅い王女様で、優しいお姉ちゃんで、可愛い妹で、ちょっとエッチな子で」
そっか。
そういう色々な面を見せられるのも、いいかもしれないわね。
「すごくエッチな子で、とてつもなくエッチな子で…」
え゛?
「ねえ、夕べのわたしってもしかして記憶にないようなこともしてた?!」
「内緒」
「教えてよ!」
ぬるっ
え?
寝袋から手を出したら、何か白いものが腕に付いてる?
胸元からのぞき込むと、下着姿の全身にそれが?!
「ケイト、これって?」
「生クリームだよ」
ぺろ
本当だわ。
「どうして生クリームにまみれて寝ているの?」
「聞かないほうがいいよ」
ええっ?!
私って、一体何をしていたの!
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