第109話 ドS王女様は椅子が勝った時のご褒美を約束する
エロなし戦闘回
-主人公ケイト視点-
まずは小手調べ。
中型の楯で刀の攻撃を受け止めつつ接近して、電撃を付加した剣で動きを止める!
え?
俺がゆっくり近づいていくけど、まだクリス様は動かない。
居合の構えだから基本はカウンターなんだろうな。
そうすると、攻撃を受け止めつつってわけにはいかないのか。
でも、そのまま進むだけだ。
スッ
クリス様が地面をすべるように一瞬で間合いを詰めてきた!
シュパッ!
え?ええっ?
そのまま居合で攻撃された!
とっさにかわしたけど、脇腹が深く切られてる!
「ケイト!大丈夫ですの?!」
「練習だから気にしないでください!それよりも今のって?」
「相手が仕掛けてこない時は、こちらから移動することで相手を相対的に動かしてカウンターを取りますの…って自分でもあまり意味が分かりませんわ」
スキルのせいで知識が増えてるけど、まだ理解が追い付いていないんだな。
それにしても、自分からカウンター取りに行くなんて…あっ、そういえばアニメの居合にもカウンターじゃないのがあったじゃないか。
五右○門とか。
しかも刀の長さよりずっと長いものを斬ってたよな。
なんてことを考えながら間合いを取って
「『上位回復』!」
本当は魔晶石を使った『日用品修繕』のほうが楽に直せるけど、魔晶石がもったいないのと、取り出す手間もあるのでそれはしない。
俺は椅子だけど、回復については生物扱いでもあるらしいから回復魔法が効く。
「ケイト」
「はい」
「もしかして、手を抜いてますの?」
「とりあえず小手調べからと思ったので」
「そうですの。それなら本気を出さないと次は一瞬で終わりですわよ」
再び構えたクリス様。
その目は今までに見たことが無いくらい真剣だ。
いかん、これは本気を出さないとやられる!
「『二色魔法矢』!」
炎と雷の魔法の矢を撃って牽制…
シュバッ!
クリス様がその間を抜けて一瞬で踏み込んできて斬られた!いや、受けた!
楯に大きな傷がついてる。
何て威力だ。
2本くらいの矢では無意味ってことか。
「『魔法矢斉射』!『魔法矢斉射』!『魔法矢斉射』!」
1回の『魔法矢斉射』で雷の矢を6本、3回で18本。
これなら隙間を抜けられないはず!
シュッ!
シュシュッ!
超高速で迂回?!
でも楯側なら受けられる!
シュバッ!
ザグッ!
あっ…一瞬意識が飛んだ。
練習場の魔法掲示板に『赤プレイヤー 勝利』の文字が出てる。
もう元に戻ってるけど、楯ごと真っ二つにされたみたいだ。
「そんな大きな傷のついた楯を使い続けるとか、何を考えていますの?」
「まさか、傷に合わせて斬ったんですか?!」
「驚くほどではないですわ。それよりケイト。わたくしを失望させないでほしいですわ」
ううっ。
そこまで言われたら…本当の本気を出さないと!
「クリス様」
「何かしら?」
「やっぱり主君であるクリス様に本気は出せません」
「これは命令ですわよ」
「それでもです。だから…俺が勝ったらご褒美をください」
-王女クリステラ視点-
ケイトの動きは最初よりずっと良くなってるけど、殺気が全然感じられませんわ。
これでは練習になりませんわよ。
「クリス様」
「何かしら?」
「やっぱり主君であるクリス様に本気は出せません」
「これは命令ですわよ」
「それでもです。だから…俺が勝ったらご褒美をください」
褒美?
ふふっ、それなら本気を出せるということですのね。
「いいですわ。わたくしが満足するような勝ち方をしたらケイトの好きな褒美を差し上げますわ」
「それならこれで行きます。『武装変換』!」
ケイトの武具が全部入れ替わりましたわ。
皮の鎧から鎖かたびらに。
いえ、あの鎖帷子は細かい鎖の上に大きな鎖も付いていますの。
きっと刀でも簡単には斬れませんわ。
でも、頭ががら空きですのよ。
そして武器は鋭い大きな爪の付いた籠手ですわね。
もしかすると、あの籠手でわたくしの刀を受け止める気かもしれませんわ。
そして姿勢を低くして、両手を掲げて構えていますわ。
ゾクッ
これですわ!
こういう勝負がしたかったのですわ!
「行きます!」
ケイトが一気に突っ込んできましたわ!
でも、わたくしなら太い鎖でも同じところに2回当てれば断ち切れますの!
「たあっ!」
ケイトの手が伸びてきても、わたくしに届くまでに2閃できますわ!
ヒュッ
籠手を飛ばしてきた?!
かわせる?
いいえ、その後ろに籠手につながる鎖が見えてますの!
この籠手は鎖で操れる可能性があるからかわさずに打ち落としますわ!
ガシッ!
籠手が刀身を掴みましたわ!
遠隔で握らせることができますの?!
-主人公ケイト視点-
この籠手は『万力籠手』。
強力なバネが入っていて、掴んだものを握りつぶす。
つぶせなくてもそれを離さない。
開閉には魔力を消費するけど、鎖を付けて飛ばすことで相手の武器を封じることもできる。
その鎖は鎖帷子の周りに巻き付けてあった太い鎖だ。
最初から籠手につながる鎖をぶら下げていると警戒されるから、防具の一部に見えるようにしてあり、この巻き付け方は引っ張るだけで簡単にほどけて伸ばすことができる。
ガシッ!
籠手が刀身を掴んだ!
これでクリス様の武器は封じた!
こちらに武器を引き寄せて!
ドシュッ
意識がまた飛んだ…。
練習場の魔法掲示板に『赤プレイヤー 勝利 2勝目』の文字が出てる。
今、クリス様の刀を引き寄せた瞬間に、クリス様がそれに合わせて突進し、その刀の先をこちらに向けてきたからとっさに鎖を動かしてそれを払いのけようとしたけど…
左手で抜いた鞘の先で目を貫かれた。
なんて技を!
「クリス様!すごいです!」
「本当は刀をもう一本刺しておくべきですわね。でも、先のとがった鞘でも急所なら一撃で仕留められますわよ」
あんな攻撃にまったく躊躇が無い。
クリス様って戦闘になると豹変するんだな。
そうか。
だから広所恐怖症なのに、戦っている時だけはその事に集中して平気になるんだ。
籠手に魔力を流し、刀をはずしてから仕切り直し。
「ケイト。もうその籠手は通用しませんわよ」
「いえ、通じます」
俺はまだクリス様の事を軽んじていた。
刀を止めれば大丈夫などと甘い考えをしてた。
それなら!
「二色高機動化!」
これでクリス様に負けない速さ!
「二色防具強化!」
鎖帷子に防御魔法!
「たあっ!」
そして両手の籠手を投げつけて、クリス様がかわしている隙に『多重薄刃剣』を取り出す!
「『超色武器強化』!」
毎日の訓練で、今では11色の魔法を一息で唱えられるようになった!
間合いは…斬るより突く俺のほうが速い!
ドッ
シュッ
二つの音が交錯して意識が飛んだ…
練習場の魔法掲示板に『相打ち 赤プレイヤー1勝1分』の文字が出た。
「ケイト、素晴らしいですわ!」
「クリス様、今のは?」
「『牙突』ですわ。超高速の突きですの」
それがあったか!
そもそも『刀術士』だから、居合に限ったことじゃないのはわかっていたけど、刀ごと貫くつもりで出した攻撃を、わずかにかわして俺の心臓に一撃を入れていた。
防御魔法がまったく無意味なほどの威力で。
クリス様ってなんてすごいんだ!
-王女クリステラ視点-
ケイトと引き分けてしまいましたわ。
あの剣の攻撃は思ったよりも広範囲でかわしきれませんでしたの。
「ケイト。まだわたくしに勝てる方法はありますの?」
「もちろんです!絶対にご褒美をいただきます!」
すごいやる気ですわ!
でも、そう簡単には勝たせませんわよ!
「『模擬刀出なさい!』」
ケイトに出してもらった模擬刀を腰に差して、仕切り直しですわ。
あっ…
意識が途切れましたわ。
練習場の魔法掲示板に『相打ち 赤プレイヤー11勝3分』の文字が出てますわね。
「ケイト。そろそろ貸し切りの時間が終わりますから、次で最後ですわよ」
「最後はこうです!」
もわーっ
ケイトが煙幕を張って姿を隠しましたわ!
そしてどんどん煙幕が広がりますの。
でも、刀術士のスキルには『心眼』があるから無意味ですわよ。
右前方?でも、何か妙な気配ですわ。
でも斬り伏せれば同じですの!
ザシュッ!
手ごたえありですわ!
この太さ、胴をひと薙ぎですの!
煙幕が晴れてきて、中から飛び出してきたのは大きな両手!
わたくしの両腕がそれに掴まれましたわ!
「やっと捕まえました」
姿を現したのは、身長5mくらいになったケイト。
まさか『変形の魔道具』で巨人になりましたの?!
さっき切り裂いたのはケイトの左足ですわね!
両手を完全に掴まれてしまって、ケイトが頭突きでわたくしの頭を叩き潰したらおしまいですわ。
見事ですの。
…ケイト?
どうして攻撃してきませんの?
「駄目です。クリス様のお顔をつぶすなんてできません」
ケイト…。
「いいですわ。今のはケイトの勝ちにしますわ。でも、本当の戦いでそうやって相手に憐れみをかけても、相手が降参するとは限りませんわよ」
「はい」
ケイトの姿が元に戻り、練習場の効果で怪我も元通りになってますわ。
「よくやりましたわ、ケイト。あとでご褒美をさしあげますの」
「でも1度しか勝ててません」
「わたくしが満足するような勝ち方をすれば好きな褒美を差し上げると言ったのですわ」
「はい!ありがとうございます!」
…
…
落ち着いたら、わたくしってなんて賭けをしてしまいましたの?!
舞闘会で姉さまたちと賭けをしなれているせいで、ついあんなことを言ってしまいましたの!
ケイトの好きな褒美ってまさか…ああっ、今は考えませんわ!
「ケイト、帰るからリュックを!」
「はい」
異次元リュックの中にすぐに逃げ込みますわ!
こんな真っ赤になった顔を椅子には見せられませんの!
-魔族シェリー視点-
何よこれ。
ものすごい戦いだったわ。
息を止めていたみたいに、集中して見入ってしまったもの。
ディアナ女王といい、あの世界の人たちって死ぬこととか全然恐れないのね。
舞闘会で死に慣れているせいかしら。
それにしても…ケイトはクリス様にどんなご褒美をもらうつもりかしら?
下僕で望める範囲のものにするのかしら?
それとも…やっぱりエッチなことかしら?
お読みいただきありがとうございます。
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次回も明日、3月1日18時更新です。




