第105話 元魔王は椅子と永遠を生きたい
半畳に戻るのはもう少し先です。
-元魔王ブラッディマリー視点-
そろそろケイトたちが帰ってくる頃かしら?
ぴろん
ケイト『あと1時間くらいで帰ります』
マリー『それなら、夕食の支度をしておくわね』
ケイト『ありがとう』
本当にこの内蔵品のメール機能って便利よね。
「ディアナ女王。ケイトが帰ってくるそうね」
「あら、そうなの?」
えっ?
ディアナ王女には連絡してないの?
「何だか私の方にだけ連絡来てたけど、たぶんうっかり忘れたかなにかじゃないかしら」
「マリーさんったら優しいのね。違うわよ。今夜のケイトはマリーさんと二人で過ごすつもりだからケイトなりに気を使ったのよ」
そういうことなの?
私との夜を楽しみにしてくれてるのね。
もう、張り切っちゃうじゃないの。
私は家事全般は苦手だけど、料理だけは得意なのよ。
「マリーさん、私にも料理を教えてほしいですわ」
「あの世界って料理の概念がないのよね」
「飲み物を作るくらいですわ。でも、ケイトのために覚えたいですの」
「わかったわ。それなら一緒に作りましょう」
「嬉しいですわ!」
「ふんふんふふーん」
「ふんふんふふーん」
ディアナ女王ったら、鼻歌まで真似るのね。
「これで完成よ!」
「やりましたわ!」
「ただいま」
丁度帰ってきたわ!
「ケイト、お帰りなさい」
「マリー、ただいま。あっ、エプロン姿なんだ」
「ディアナ女王もよ。あら?」
ディアナ女王が居ないわ。
そうか、私にケイトのお迎えさせてくれたのね。
何だか新妻みたいで、ちょっとドキドキするわ。
「私は先に上がるわよ」
え?どうしてケイトは玄関から上がらないの?
「マリー、その…ひとつ頼んでもいいかな?」
「何を?」
もしかして、お帰りのキスかしら?
「こう言ってほしいんだけど」
ぴろん
ケイト『お帰りなさい。お風呂にする?食事にする?それとも、わ・た・し?』
なっ、なによこれ!
すごく恥ずかしいわっ!
ケイト『俺の世界の新妻の定番のセリフだけど、いいかな?』
それなら駄目なわけないわよ!
ドキドキするけど、言ってあげるわ!
「ねえ、ケイト。お風呂でする?食事でする?それともわ・た・し?」
「…」
あら?ケイトったら固まってるわ。
嬉しいのかしら、それとも何か変だったかしら?
「マリー、体質が元のままだったら絶対やばかったぞ」
どういうこと?
…ああっ!
『で』と『に』を間違えてるわ!
それじゃあ全然違う意味になるじゃないの!
「じゃあ、マリーで」
「えっ?!」
ぎゅっ
「あっ」
ちゅっ、ちゅぱ、ちゅう
「ま、待って、あ、はう」
食事が冷めちゃう…
-女王ディアナ視点-
「なかなか来ないですわ」
「つまりマリー様とケイトが玄関で何かしてるのよね」
食事が冷めるから、ひとまず仕舞いますわ。
「ディアナ女王の異次元箱も時間凍結して温度を維持できるんですか?」
「わたくしたちの世界ではそれが普通ですわ」
「他の世界では時間が流れる方が一般的だと思います。私もそうですから。その代わり、出すものが何かを言わなくても取り出せたり、中身の把握とかができますの」
「でも、シェリーさんもわたくしたちの世界に来たから、同じ異次元箱が使えるようになっているはずですわ」
「ええ。異次元箱が増えて2つになりました。でも、時間を止める方はあんまり容量が無いみたいで」
異次元箱の容量は人それぞれですわ。
ケイトのはものすごく大きいみたいですけど、わたくしも自分の領地(2畳分)くらいはありますのよ。
「容量が増やせると便利なのに」
「そういう時の『神託の王座』じゃないかしら?きっと増やす方法を教えてもらえますわ」
「危険とかが無いときはあれを頼りすぎたくないって思って。何だか楽ばかりすると自分が成長できないって思うのよ」
シェリーさんは真面目ですわね。
わたくしはうんとケイトに頼りたいですわ。
夫婦ですもの!
10分くらいしてケイトとマリーさんが来たから、改めて食事ですわ。
「おおっ!これは俺の大好きな闇シチューじゃないか!」
「ディアナ女王と二人で作ったのよ」
「そっか。二人ともありがとう!さっそくいただくよ!」
-主人公ケイト視点-
闇シチューは闇鍋みたいな名前だけど、実際は魔物の肉や魔物的な植物(野菜)で作ったシチューだ。
灰汁抜きや毒抜きや呪い抜きやトゲ抜きとか、とにかく下ごしらえが大変な食材ばかりだけど、黒魔術にはそういう処理ができるものがあるらしい。
それにこれを食べると色々な効果もあるらしいんだよな。
疲労回復とか快眠とか食材によっては能力上昇とか。
俺がこんなに早く強くなれたのは、こういう料理のお陰もあるんだよな。
「うん、うまいっ!」
お肉が柔らかいだけじゃなくて、噛み締めて肉汁が出て…うまく言えないけどとにかく美味しいなあ。
そういえばクリス様ってどうしてあんなにグルメタレントみたいに食事の感想が上手なんだろ?
「シチューだからパンも出そうか?」
「ケイトの世界のパンなの?何てパンかしら?」
「シチューに合うパンって言ってお任せにしてみるよ」
そういう召喚魔法って他の世界ではあり得ないらしいけど便利だよな。
「『夕食召喚』!このシチューに合う俺の居た世界のパンを4人分!」
適当に握った魔晶石が2つ消えて、触れている皿の上に輪切りのフランスパンが並ぶ。
「にんにくの香りがするわ!ガーリックトーストね!」
「わたくしも食べたことありますわ」
「私は初めてよ」
シェリー以外は知ってるんだな。
ニンニクってどの世界にもあるもんな。
「でも、このパンは初めてね。固そうだわ…(はむっ)ああっ、美味しいわ!」
「本当ですわ!」
「この食感がたまらないわ!」
フランスパンが喜ばれたみたいで良かったな。
で、俺はパンをシチューに浸して食べる。
「うんっ!おいしいっ!」
「そんな食べ方するの?…ああっ!これはいいわね!」
「シチューを吸って柔らかくなって、ああっ、凄いですわ!」
「ケイト、パンが足りなくなるから出して」
「はいはい」
食いしん坊のシェリーのために出してあげないとね。
「ねえ、ケイト」
「ん?マリーもパンのおかわり?」
「違うわよ。はい、あーん」
シチューを浸したパンを差し出してくるマリー。
ぱく、ぺろ
ついでに指まで舐めておく。
「うん、美味しいよ。ありがとう」
「もう、食べ方がエッチよ」
「わたくしからも、はい」
ディアナ様ってパンをほとんど指で隠してるけど、それって指を舐められること前提だよね?
「ありがとう(ぱく、ぺろ)」
「あん。ほら、シェリーさんも」
「わ、私は別にケイトになんか」
「シェリーからもほしいな」
「仕方ないわね。はい」
その縁だけ持つ持ち方は舐められないようにだな。
だからこそ!
ぱくぅ、ちゅぱっ
「ひゃっ!ばかっ!舐めないでっ!」
「シェリー、私にもちょうだい」
「はい、マリー様(ぱく、ぺろ)きゃあっ!ま、マリー様まで!」
「ふふっ、シェリーったら可愛いわね」
こういう食事って楽しいな。
マリーが魔王をやめたから、こんなふうにしてられるんだよな。
あの時マリーを助けられて良かったな。
クリス様とも早くこうやって異世界で楽しく過ごしたいな…もちろん下僕として奉仕するんだけどね。
-元魔王ブラッディマリー視点-
この後はケイトと二人っきりっでお風呂。
今は自分の部屋でディアナ女王やシェリーがお風呂を出るのを待っているのよ。
ケイトとはもう何度も一緒に入ってるし、中でキスくらいするだろうけど、玄関で『お風呂でする?』なんて言っちゃったから、何だかすごくドキドキするわ。
肘の裏を合わせる『みょぎん』は下着姿で寝ていないとできないから、他にお風呂でケイトとできることってあるかしら?
『神託の王座』で聞きたいっつ言うのも恥ずかしいし…。
そうだわ、覚えたばかりの召喚魔法で何か参考になるものを出してみましょう。
教科書は召喚が難しくてなかなか出せないらしいから、エッチなことの説明書みたいなのってないかしら?
「『日用品召喚』ケイトの世界にある、お風呂で仲良くするための説明書とか」
『とか』って言っちゃったけど、ちゃんと本が出るのね。
魔王はどの世界の言葉でも理解できるスキルがあるから便利よね。
えっと『コミック イエロー』?
コミックって何かしら?
『家でのエッチに特化した家エロ専用コミック』って、なによこれ!挿し絵だけの本なの?!
すごく分かりやすいけど、いやらしすぎるわ!
嫌だわっ、お風呂でこんなにいやらしいことを!
ケイトの世界ってこんな本があるからケイトってエッチで変態なのね。
…
…
…
ああっ、つい読みふけってしまったわ!
コンコンコン
「マリー」
「ひゃい?!」
ケイト?!
ドアの向こうから呼んだのね。
見られたかと思って変な声が出ちゃったわよ。
「大丈夫?」
「何でもないわ。お風呂ならすぐ行くから先に入ってて」
とりあえずこの本は異次元箱に仕舞っておくわ。
-主人公ケイト視点-
玄関であんなこと言われたからせいでドキドキするけど、体質的に変なことはできないよな。
ちょっと残念かも。
「お待たせ」
いつものようにタオルを巻いてマリーが入ってくる。
とは言っても、洗うときとかいろんな時に少し見えるけどね。
紳士として凝視はしないけど、マリーって本当に綺麗だよな。
「ケイト、背中流すわね」
「ありがとう」
あわあわあわ
にゅるん
え?
泡立ってる柔らかいものが背中をこすってる。
あわあわあわ
にゅるるん
「ま、マリー。これってまさか?」
「もしかして気持ち悪い?」
いや、良すぎます。
だってさっきから『みょぎりんこ』が止まらないから。
『みょぎりんこ』はすごく不快だけど、あまりの衝撃にそれを乗り越えてしまった気がする。
そもそも自分の胸で背中を洗うとか、どこで覚えてきたの?!
「すごくいいかも」
「でも『みょぎりんこ』で気分悪いわよね?私がそうだもの」
「うん、だけど嬉しいから平気」
「私もよ。ケイトだから大丈夫なの。あんっ!」
あっ、『みょぎん』が混じったんだな。
「こ、こういう感じだといいかも。あ、あん、やん」
コツを見つけたみたいだな。
『みょぎん』が連発っぽい。
「私ばっかり良くなって、ケイトは『みょぎん』じゃないわよね?」
「マリーがいいならそれでいいよ」
「良くないわ。じゃあ前のほうをするわ」
それはだめっ!
「抵抗しても駄目よ!『束縛』!…え?わ、私が動けない?まさか『反射』のカウンターマジックを掛けてあったの?!」
「いつもいいようにされているからね」
-元魔王ブラッディマリー視点-
こんな手に引っ掛かるなんて不覚だわ!
自分の魔法だから抵抗無視して全く動けないし、これってしばらく解けないわよ!
「ケイト、どうしよう」
「自業自得だよね」
「そうだけど、今夜はずっとこうよ」
「え?」
シェリーを呼べば早いけど、せっかく二人っきりなんだからそれは嫌だわ。
こうなったら開き直るしかないわね。
「ケイト。私を洗って、お風呂に入れて、体を拭いて、それから服を着させてね」
「シェリーを呼ぼうか?」
「嫌よ」
「本当にいいんだね?」
「う、うん。だって、私はとっくに身も心もケイトのものなのよ」
きゃあっ!言っちゃった!
「そこまで言うなら」
ああっ、私の全部を知られてしまったわ。
もうケイトのお嫁さんになるしかないわよ。
「ケイト、あの」
「責任は取るよ。だからずっと一緒にいてくれる?」
「うん、私もずっと一緒に居たいの。でも、ケイトはクリスの下僕なんだから、ずっとじゃなくてもいいから」
「ごめんね」
「ううん、それでもそう言ってくれてすごく嬉しいのよ」
でも、私は魔王の一族だから、何千年でも生きられるのよね。
「ケイトって人間よね。50年くらいしか生きられないなら魔族にならない?気に入った他種族を魔族にして延命させる秘術があるのよ」
「それって椅子にも効くのかな?」
そういえばそうだったわね。
「『神託の王座』で聞いてみたいわ」
「じゃあ、俺がマリーを支えるね」
ベッドに座ったケイトの上に座らせてもらって…あっ!
そういえばケイトの『聖母の椅子』ならどんな状態異常も解除できたはずよ!
きっとお風呂場であんなことしたから、ケイトも忘れていたのね。
でももっと甘えたいから黙っているわ。
『ケイトに魔族化の秘術が効くかについては、椅子なので効かない』
やっぱりそうなのね!
「ケイト、駄目みたいよ」
「じゃあ他の方法を聞いてみるよ」
『ケイトがマリーくらいの寿命を持つには、家具職人に定期的なメンテナンスをしてもらえば良い』
それってどういうこと?
『椅子であるケイトは老朽化はしても老化はしない。そして生きているため細胞は常に新しくなるため、体のほとんどが老朽化することもない』
ええっ?!
「マリー、どうだった?」
「待って」
『歯など細胞が生まれ変わりにくい場所は熟達した家具職人のスキルで修復が可能』
家具職人ってマリナだわ。
これって運命なのかしら?
きっとマリナはこの事を聞いたら喜ぶわよね。
頑張って熟達した家具職人になってもらえるように教えておかないと。
「ケイトはそもそもかなり長生きできるらしいわ。家具職人に定期的なメンテナンスをしてもらえばだけど」
とりあえず聞いたことを説明するわ。
「そうか。でもクリス様とかは…」
「ケイト、長く生きたいかどうかは人それぞれの考え次第だし、普通は寿命は変えられないのよ。でも、もしクリスたちが望めば私が秘術を使ってあげるわ。そうでないなら、その一生を見守るのもあなたの勤めよ」
何て綺麗事言ってるけど、本当はずっとケイトと一緒に居られそうで、ものすごく嬉しいのよ!
もし私よりケイトの方が長生きできるなら、私が椅子になってでもずっと一緒に居たいわ。
「マリー、ありがとう。そうなったときは頼むよ」
「ええ」
そうだわ!
せっかくだからあの事も聞きましょう!
「ケイト。この体質を直すとか、『みょぎりんこ』を何とかすることができないか聞いてみて」
「うん」
『あの世界に行くことで変えられた体質を元に戻せるかについては禁則事項』
『神託の王座』でも教えられないことがあるの?!
『『みょぎりんこ』についてはあの世界以外であれば一時的に解除可能。その他の体質についても同様』
一時的ならできるのね!
『その方法については禁則事項』
ああっ、でも教えてもらえないわ!
ケイトに聞いたことを伝えるけど、残念だわ。
「じゃあヒントだけでも聞けないかな?」
『一時的解除の仕方のヒントについては、色々な方法があるとだけしか言えない』
「色々な方法があるそうよ」
「それなら地道に探すか」
「時間はあるものね」
「エッチなマリーのために探すよ」
「私もエッチなケイトのために探すわ」
その晩は動けない私をケイトが優しく抱きしめて寝てくれたの。
あとで気づいたけど、色魔法の伝授を忘れていたわ。
でも、動けなくてあれをやったら『みょぎん』が連続してきつくなっても逃げられなくて気絶するかも。
でも、一度くらい試そうかしら?
ケイトなら優しく介抱してくれそうだもの。
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次回も明日、2月26日18時更新です。




