第103話 女王様は初めてのダンジョンで無双する
女王様だから鞭を使わせたかったけど、むしろクリス様向きなので、ちょっと変わった武器にしました。
-魔族シェリー視点-
朝。
すごく仲睦まじくケイトとディアナ女王がリビングに来たわ。
きっと夕べはお愉しみだったのね。
体質でやれることに制限のある中で何をやってたのかしら?
「シェリー。もしかして、ケイトたちが夕べなにをしたか気になってる?」
「べ、別にそんなことありませんから」
「ふふっ」
ああ、完全にバレてるわね。
これというのもケイトのせいだわ。
今日もしっかり鍛えてやるわよ。
「マリー。わたくしが色魔法を使えるかどうか調べてほしいですわ」
「使えるのはどれでも使えますが、調べる道具が壊れているので」
「大丈夫ですわ。ケイト、頼みますわよ」
「はい。マリー、貸してもらえる?」
あれを直せるのかしら?
ケイトが立方体になった色魔法鑑定水晶に手を触れて…
「『特級日用品修繕』!色魔法鑑定水晶を元の形に!」
……
直ってないわよ!
期待させておいて直らないとか信じられないわ!
「あっ、駄目だった」
「もう一回試す?」
「いえ、特級で駄目なら超越ですから魔晶石がもったいないので、ここは違う方法で行きます」
まだ方法があるの?
「『上級円形召喚』!真球の色魔法鑑定水晶!」
ぽんっ!
ケイトの手のひらの魔晶石が消えて、代わりに水晶玉が出てきたわ!
少し小さいけど、色魔法鑑定の水晶玉だわ!
「ケイト、これって上級召喚なんかで出せるの?」
「円形召喚は丸いものに特化していて、近くに材料があるならそれを利用して簡単に出せるんです」
「えっ?!」
私はテーブルの上の立方体の水晶を持ち上げ…軽いわっ!
良く見ると、立方体の水晶の中が丸く透けて見えるわ。
くり貫いたってことなの?
「マリー、小さくなったけど使えるかな?」
「試してみるわ」
マリー様が手のひらで水晶玉を握ると、指の隙間から10色の光が漏れ出してきたわ。
「ちゃんと使えるわね」
「ちなみに無色ってどうなるの?シェリー、やってくれる?」
「どうって、どうにもならないわよ」
面倒だけど、ケイトに聞かれたからやるだけなんだから。
ぎゅっ
ほら、何も光らないわよ。
だから『無』なのよ。
「見てもわからないでしょう?はい、ディアナ女王」
王女に水晶玉を手渡すわ。
「ありがとう…きゃっ!」
急に水晶玉からまばゆい光がほとばしり、ディアナ女王が水晶玉を取り落としたわ!
ぱしっ
眩しかったけど、うまくキャッチできて良かったわ。
「シェリーさん、すみませんでしたわ」
「すごく眩しかったけど、黄色だったわね」
「白く見えなかった?」
「2色かもしれないわね。テーブルに置いて、もう一度試してみましょう」
-女王ディアナ視点-
2色も魔法が使えたら嬉しいですわ。
テーブルに置いた水晶玉に触れると、白色と黄色の2条の光がほとばしりましたの。
眩しくて思わず手を離しますわ。
「やっぱりディアナ様は2色でしたね。でも、眩しいのとかって何かあるの?」
「光の色が強いほどその魔法が熟達しやすいと聞いてますわ。それでも最終的な強さは本人の魔力や精神力によるのよ」
すると早く魔法が上手になれるってことですわね!
「それで、この2色はどんな魔法ですの?」
「白は生命に関する魔法で回復とかがメインよ。黄色は動物に関する魔法で…そういえばディア女王は『騎乗調教師』だったわね。動物を操ったり、近寄れなくしたり、小動物を使役できるのよ。『騎乗調教師』とすごく相性がいい魔法よ」
それなら小さな動物も大きな動物も仲良しになれるのね!
「マリーさん。いつでもいいから魔法を教えてほしいですわ」
「そうね。低速伝授は1色あたり毎日1時間で7日かかるから2色で14日かかるから、今日からやりましょうか」
14日なら十分時間がありますわ。
「魔法がうまくなって身を守れるようになるまではここで待っていますわ」
「一戸建ての借家とはいえ、ディアナを一人っきりにしたら、気になって出かけられないよ」
まあ!ケイトったらわたくしを心配してくれますのね!
「ディアナ女王と初心者向けのダンジョンに行ってくるから、シェリーはケイトを頼むわよ」
「私がケイトと二人で?」
「そうよ。それなら私たちが先に戻ってきても、色魔法の伝授をして待っていられるもの」
「わかったわよ」
シェリーさんったら、ふてくされたように言ってるけど、本当はケイトと二人っきりになれるから嬉しいのよね。
わたくしも早くケイトと一緒に行けるように頑張らないと。
朝食を食べてケイトたちが先に出かけたけど、わたくしたちはまだかしら?
「『身代わりの護符』とか『冒険者の護符』は必ず身に着けておいてください」
『身代わりの護符』は死ぬほどのダメージを受けても身代わりになってくれる護符で、『冒険者の護符』はごく小さな虫や擦り傷程度の些細な怪我を常時防いでくれる護符だそうですわ。
「それと、出かける前に聞きたいことがあるのよ」
「何かしら?」
「夕べはケイトとどんなことしました?」
!!
「教えられないならいいですけど…私たちにもできることならしてみたいなって。体質のせいであまりいろんなことできないから」
そうなのよね。
ちょっと恥ずかしいけど教えてあげましょう。
でも、実際にやれるかしら?
…
「自分のミルクを口に…そ、それはちょっと私たちにはまだ早いですっ!」
やっぱりですわ。
ふふっ、しばらくはケイトとわたくしだけの楽しみですわね。
-主人公ケイト視点-
今日はシェリーと二人きりか。
気のせいかすごくシェリーが張り切っているなあ。
マリー様に任されたからかな?
「さあケイト!まずボスのところまでなるべく一人で戦うのよ。そして武器と魔法の選択はなるべく最良のものにしなさい」
おお、委員長っぽく眼鏡に手を当てて指示を出してくれてる。
「はいっ!」
ダンジョンに入って敵を把握し、素早く適した武器を取り換えながら戦う。
攻撃魔法はまだわずかしか覚えていないので、主に防御魔法を使う。
「『2色防御壁』!」
シェリーに飛んで行った流れ弾もきちんと受け止める。
「私は守らなくてもいいのよ」
「いえ、クリス様たちと来たとき練習としてやらせてください」
「そう」
あっ、不機嫌そうになった。
二人っきりなのに他の女性の代わりみたいに言ったらだめだったかな。
しまったなあ。
どこかでフォロー入れないと。
「そろそろ休憩しましょう」
「そうですね」
ここはダンジョン内の安全地帯とされる場所だ。
異次元箱から椅子を出して軽く食事をする。
この次の階層は毎日『ランダム』でモンスターの種類が変わるところだから、気を引き締めて行かないと。
「ケイト。私と二人っきりなんてつまらないでしょ?」
「うん。いつでもキスできそうだから我慢するのが大変だからね」
「やっぱりつまらな…ええっ?!馬鹿っ!エッチっ!」
あっ、赤くなって椅子ごと向こうを向いちゃった。
…でも内蔵型スマホの自撮りモードで正面から撮影できるんだよな。
カシャカシャ
照れてるシェリーって可愛いっ!
-魔族シェリー視点-
ケイトったらエッチなことばかり考えているのね。
二人っきりだといつでもキスしたいって…すればいいじゃないのよ。
休憩終わっちゃうわよ。
…って、何考えてるのよ!
ここって、他人に丸見えのエリアなのよ!
「ケイト!次に行くわよ!」
さっさと行って、どこか人目につかないところでちょっとだけ…。
「おおっ!これは初めてのモンスターだ!」
「初めて?」
何かしら?
「ミギャアア!」
「ムガアアア!」
ゾ、ゾンビっ!
「ゾンビって声出せるんだな」
「あ、う、うん」
「アンデッドの多くは聖別した武器や打撃武器が有効だけど、ゾンビは飛び散るから焼くに限る、だったね。『5連魔法矢』!」
何かやってるみたいだけど、聞こえないし見えないわ!
私、アンデッドは苦手なのよ!
自分のダンジョンでもアンデッドだけは生成しないように設定していたもの!
「シェリー、終わったよ。あれ?」
「そ、そう。私は後ろからついていくから」
「そういえばシェリーは幽霊とか怖いものが駄目だったけど、ゾンビも駄目なんだな」
「そ、そんなことないわよ」
「あっ、後ろにレイス!」
「ひゃうっ!来ないでっ!…ってケイトのうそつきっ!」
まんまとだまされたわ!
「シェリー、そろそろ行こうか」
「行けばいいじゃないの」
「そんなにしがみついていると動けないんだけどな」
「ケ、ケイトが悪いのよ。もうどこから何が出てくるかわからなくて怖くなっちゃったわよ!」
「じゃあ、これを使おうか」
ケイトは背負い袋からさらに小さな背負い袋を取り出したわ。
これって、広所恐怖症のクリスが入る異次元リュックよね?
空間系のアイテムは異次元箱に保管できないから、荷物として持っていたのね。
「はい、入って」
「だ、大丈夫よ」
「この階層なら一人でも大丈夫だから」
「私はマリー様にケイトを守るように頼まれたのよ」
「俺がシェリーを守りたいんだ」
え?
どっどっど
な、何かっこつけてるのよ!
心臓がおかしくなったわよ!
「じゃあ、頼むわよ!困ったらすぐ出てくるからね!」
リュックの中に入って、顔も全身も真っ赤になったのを隠して冷まそうとする私。
あんなこと言われたら、ドキドキするに決まってるじゃないの。
これから私ってずっとケイトと一緒に居られるのかな?
ケイトが誰かと結婚したら、私はまた一人ぼっちになるのかしら?
エッチなケイトの事だから、きっとハーレムでも作るに違いないわ。
マリー様が入りたがるだろうから、仕方なく私も入ってあげるしかないわね。
マリー様のために仕方なくケイトのハーレムに入るだけなんだから。
-主人公ケイト視点-
やっと次の階層に付いたな。
ここはいつも通りのモンスターだから、シェリーに出てきてもらおう。
「シェリー、もう大丈夫だよ」
異次元リュックを下ろして、かかっている布をめくって覗き込むとシェリーの顔がでてきて
ちゅっ
「え?」
「あっ」
すすすっ
また入って行っちゃった。
『ケイト!何するのよ!』
リュックの中から声がしてる。
「今のはシェリーからだよね?」
『違うわよ!馬鹿!ケイトのエッチ!』
絶対そうだと思うんだけどな。
ここはこっちが折れよう。
「ごめん。シェリーがあんまり可愛いからキスしちゃったんだ」
『うそつき!私からキスしたのに!あっ!』
せっかく折れてあげたのに、どうして自爆するのかな?
『この階層も一人で行きなさいっ!』
「はーい」
まあ、あと3階層くらい余裕かな。
敵が多いときは高機動魔法でさっさと逃げるからね。
クリス様を背負って戦うこともあるだろうから、その練習と思ってリュックをしっかり守りながら戦おうっと。
-元魔王ブラッディマリー視点-
ディアナ女王は『騎乗調教師』だから、騎乗して戦う長柄の武器は異次元箱に入れておいて、普段は扱いやすい小剣とかにしたかったのだけど、思った以上に力があるのよね。
あの大きな胸を垂れさせないように、毎日腕立てや腹筋をしているって。
彼女が結局選んだ武器が『三節棍』っていうすごくマイナーな武器なのよ。
武器屋のおやじさんが、1時間くらい使い方を指導していたけど…
「えいっ!」
ぐしゃっ!
「たあっ!」
めしっ!
「来たわねっ!」
ガシッ!
「逃がさないわよ!」
ドシュッ!
攻撃、防御、追い打ちまできちんとこなしているわ。
それにしても三節棍って便利ね。
折りたためば近くに攻撃できて、伸ばして遠くにも攻撃できる。
両手で少し離れた位置の強い攻撃を受け止めて、騎乗している動物の頭とかを守ることもできるから、すごく『騎乗調教師』に向いているのよね。
それに、すごく彼女は『眼』がいいのよ。
何よ、あの動き。
最低限の動きで攻撃をかわしているわ。
いくら初級のダンジョンとはいえ、初めてで怪我ひとつ負ってないなんて凄いわね。
「ディアナ女王って、何だか戦い慣れてません?」
「わたくしの世界では『舞闘会』って試合があるから、それで慣れているのですわ」
ディアナ女王って結婚前はその舞闘会の大陸間大会で優勝するくらいの実力って…なにそれ。
道理で洗練された動きなわけだわ。
もちろん私が負けるほどではないわよ。
でも、これは本当にすごいわ。
もしかして、クリスたちもこうなのかしら?
あっ!あの位置の敵はさすがに届かないわね。
私が魔法で…
「マリーさん、弓と矢持っているかしら?」
「えっ?」
異次元箱から出してディアナ様に渡すわ。
「久しぶりね」
ヒュンッ
外れたわね。
そう簡単には
ヒュンッ!ザクッ!
どすっ
簡単に当たるのね…。
「ディアナ女王は弓もうまいのね」
「剣と槍と弓と、あとは投擲武器とか、結構色々使っていたわ。大きな舞闘会では相手によって使い分けないと勝てなかったのよ」
この女王様ってスペック高すぎだわ。
外見だけでもオーバースペックなのに、しかも強いとかどうなってるのよ。
「今日はここまでにして、帰って魔法の伝授をしましょうか」
「そうですわね。ああ、楽しかったですわ!」
初めてのダンジョンが楽しいとか、胆力も相当なものね。
罠もかなり見抜いてましたもの。
「舞闘会は自分の領地に罠をかけるたりもするから、ちょっとした罠ならわかりますわ」
その舞闘会っていうのを一度見てみたいわね。
ケイトたちは今頃ボスかしら?
それとも、さっさと済ませて、どこかで二人仲良くしてたりして。
今夜は私がケイトと二人で過ごせるから、ちょっとくらいは我慢してあげるわよ。
-主人公ケイト視点-
「はあ、はあんっ」
「シェリー。もうそろそろ帰らないか?」
「どうして?せっかく二人きりなんだから、もっと、ね」
「仕方ないな。マリーには内緒だぞ」
「わかってるわよ。ああんっ!」
「だから、変な声を上げるなって!」
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